神はサイコロを振らないの2ndフルアルバム「心海」がリリースされた。
「心海」にはTBS系ドラマ「ラストマンー全盲の捜査官ー」の挿入歌「修羅の巷」やNintendo SwitchのアクションRPG「FREDERICA(フレデリカ)」の主題歌「Division」、Rin音とのコラボレーション曲「六畳の電波塔」、asmiを迎えた「朝靄に溶ける」など全13曲を収録。アルバム1枚を通して喜怒哀楽の移り変わりが表現されており、神サイの真骨頂と言えるハードなロックサウンドにとどまらない多彩なサウンドアプローチがなされている。
「心海」の制作を経て成長を実感したという神サイ。この1年間で表現に対する葛藤があったという彼らは、このアルバムでどんな感情と対峙したのか、4人に率直な思いを語ってもらった。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 梁瀬玉実
ヘアメイク / 荒木美穂スタイリスト / 石黒亮一(ota office)
すごいものができていた
──2ndフルアルバム「心海」は、イントロ的な1曲目「Into the deep」から2曲目「What's a Pop?」に至る冒頭の流れから一気に引き込まれる作品で、フルアルバムというフォーマットの音楽作品が持ちうる豊かさや深さを強く感じました。前作「事象の地平線」の20曲入り2枚組というサイズに比べれば今作はコンパクトですが(参照:神はサイコロを振らないインタビュー|7年間を凝縮したメジャー1stフルアルバムを携え、誰も見たことのない地平へ)、音楽的な幅の広さは前作以上に感じる作品です。まずは「心海」を作り上げた今の手応えを、お一人ずつ教えてください。
黒川亮介(Dr) 間違いなく、前作を超えたと思います。このアルバムを作る中で、ミュージシャンとしても人間としても成長できたなと思っていて。例えば「スピリタス・レイク」では今までにないドラムのアプローチをしているし、これまでの自分なら「これ、アウトなんじゃないか?」というところまで踏み込めましたね。
桐木岳貢(B) 僕も、めっちゃいい作品ができたと思います。作り終えた今、「悔いなくできた」という思いが強いです。これまでの作品は「もっとできたんじゃないか?」と思うことの積み重ねで、悔しい部分があったりもしたんですよ。でも、今回はそれがない。自分なりに突き詰めることができたんじゃないかと思います。とにかく「いいものにしたい」という一心で作りました。
吉田喜一(G) 今思うと、前作には「アルバムを作った」という感覚があまりなかったんですよね。あくまでも積み重ねてきたものが形になったという感じで、ベスト盤的、集大成的な作品だった。でも、今回は「アルバムを作ったな」という感覚がしっかりとあるし、「新しく前に進むことができた」と思えています。音楽的にもチャレンジの幅が広がっているし、自分たちの表現の底知れなさを感じることができる、いいアルバムになったと思います。
柳田周作(Vo) おっしゃっていただいたように、フルアルバムらしいアルバムになったと思うし、1曲目のインストから2曲目「What's a Pop?」の流れがこのアルバムの核になっているなと思います。2曲目で歌っている「ポップスとはなんぞや?」という問いの、ここでいう“ポップス”って、ジャンルとしての話ではなく“人に伝えること”そのものについてなんです。前作を出してからは「自分が生きてきたこと、それを表現したものを多くの人に伝えるにはどうしたらいいか?」と、もがき続けていたんですよね。とにかく、自分との戦いだった。エゴもあるし、「自分たちは音楽を生業にしていかなければいけない」という使命感もある……その葛藤がかつてないくらい大きくて。
──そこから生まれたものが、今作「心海」には刻まれていると言えますか?
柳田 そうですね。今回のアルバムを作って、改めて自分はどこまでも“感情”を歌っているんだなと思いました。大枠で言うと、このアルバムは心情が4つに分かれて変化していく流れになっていて。1曲目から3曲目「カラー・リリィの恋文」までが喜怒哀楽でいうところの“喜”。4曲目「Division」から6曲目「修羅の巷」までが“怒”。7曲目「僕にあって君にないもの」から9曲目「朝靄に溶ける」までが“哀”。10曲目「Popcorn 'n' Magic!」から12曲目「夜間飛行」までが“楽”。そして、最後の13曲目「告白」は、あとがきというか、ここまでの12曲を作った自分を俯瞰から見て書いてみた、みたいな曲で。
──そうした喜怒哀楽の流れをアルバム全体で描くということは、事前に考えられていたのでしょうか?
柳田 いや、アルバムができていくうちに自然とそうなっていきました。出そろった曲を並べて曲順を決めたら、結果的にきれいにピースがハマって。正直、曲作りにがむしゃらすぎて、どこからこの「心海」というアルバムが具体性を帯びていったのかも、自分たちではよくわかっていないんですよ。できあがったものを冷静になって見てみたら、すごいものができていたし、ちゃんと流れができていた。シングルで出した曲以外に新録曲がアルバムの半分くらい入っていますけど、この曲たちができたのはつい最近で。怒涛の制作の中で、「ポップスとはなんなのか?」と自分の中で問いかけていく感覚がありました。どうしたら自分の思いは人に伝わるのか? もっと、わかりやすい言葉で言えば伝わるのか? でも、わかりやすくすればするほど、その“あざとさ”に聴いている側はすぐ気付くんじゃないか? じゃあ一切寄り添わずに、エゴを貫き通せばいいのか?とか……。
──なるほど。
柳田 とにかくチャレンジしたし、がむしゃらでした。何かを計算して、企てて、このアルバムができたという感じでは一切ないんです。短い間にいろんなことが起こりすぎて、時系列もよくわからない。なんならライブの合間にチームでミーティングをして、「あの曲のテーマは全部変えてみましょう」みたいな話を、つい先々月くらいにしていたくらいで(取材は8月中旬に実施)。
よく妄想をするんです
──怒涛の日々の中で生み出されたものが、ここまでトータリティの高いアルバムになったというのは、すごいことですよね。
柳田 ジャケットが決まったくらいから自分の中ではピースがはめやすくなったかもしれない。石川県で「百万石音楽祭2023~ミリオンロックフェスティバル~」というフェスがあって、そのときの楽屋でジャケは決めたんです(神サイは6月3日に出演)。アボカドから鳥が飛び立っているジャケットなんですけど、最初は単純に、初回盤や通常盤などのリリース形態の都合で4種類必要だったんです。でも、いざデザイナーさんから届いたジャケットを見ると、「この4種類って、喜怒哀楽のことなのかな?」と思って。デザイナーさんがどう意識してこの色使いにしたのかはわからないんですけど、このジャケットが決まった頃に、アルバムの全貌が自分でもわかってきた感じがします。
──アボカドから鳥が飛び立っているというデザインはかなりインパクトがありますが、デザインに関しては何かしらオーダーをされたんですか?
柳田 いや、基本的にジャケットは僕らからオーダーしすぎないように、イメージはデザイナーさんにお任せするようにしています。それにデザインの真意も、僕らからあまり詳しくは聞かないようにしていて。ざっくりとしたイメージは聞いているんですけど、あくまでも、意味を付けていくのは僕らであり、お客さんだと思うので。ただ1点、オーダーをする段階で「心海」というアルバムのタイトルは決まっていたので、「海っぽい感じにはしないでください」とは言いました。あくまでも自然の海ではなく、心の海なので。
──改めてですが、「ポップとは何か?」という大きな命題を掲げた「What's a Pop?」という曲がどのようにして生まれたのか伺いたいです。
柳田 僕のデモのデータ上は1曲目の「Into the deep」と「What's a Pop?」はつながっているんですけど、そもそもは「アルバムの曲を作ろう」という意識で作った曲ではなかったんですよね。僕は家で曲作りをしているとき、よく妄想をするんです。「次の大きいステージのライブでは、こういうSEが流れて、こうやってステージに出て、物語が始まって……」みたいな。そんな妄想の中から、「What's a Pop?」もできていて。この曲を作っていたのはメンタルの浮き沈みが激しいときだったんですけど、夜中に曲を作っていて頭に浮かぶのは、ファンの人たちがライブで盛り上がっている姿とか、笑っている姿なんです。歌詞の中にある「真っ先に君に聴かせたい」の「君」というのは、要はファンの人たちのことで。僕、インスタライブもよくやるけど、いつも「今すぐにでも、未発表の新曲を歌ってやりたい!」と思っているんですよ。そういう一心で作った曲ですね、「What's a Pop?」は。
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最終的に残ったものが歌だった