神はサイコロを振らないインタビュー|1人では生きていけない──「心海」に込めたメッセージの真意は (2/3)

最終的に残ったものが歌だった

──柳田さんの中にある「聴き手に届けたい」という欲求は、ずっと変わらないですか?

柳田 そうですね。そもそもは「作ったものを届けたい」という以前に、もっとシンプルに「歌を聴いてもらいたい」というのが大きかったですけどね。でも、何かが変わったという感覚はないです。僕の音楽活動のスタートは神サイが生まれる前の大学1年生の頃、配信アプリで弾き語りをしたときで。その頃は本当に毎日毎日、朝から晩まで配信していたんです。24時間配信していたんじゃないかっていうくらい、いろんなアーティストの曲をずっと1人で歌っていた。それがすべての根本で、そこから始まっている。歌を歌い出すまでの僕は、スポーツもダメだったし勉強もダメ。バイトも8回くらい飛んでいて……。

──(笑)。

柳田 社会に適合できない自分に最終的に残ったもので、誰かが喜んでくれるものが、歌だった。自分が歌うことで誰かが満たされたり感動したりするのなら、それが自分の役目なのかなと。そういう使命感は、ずいぶん前から芽生えていますね。

神はサイコロを振らない

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──ただ、その使命感の背後でさまざまな葛藤にも向き合わなければいけなかった、というのが前作以降の1年間だったのだと、先ほどのお話を聞く限りは感じます。結果的に「What's a Pop?」には「自分が作った音楽を他者に届けたい」という思いがあふれているけど、その背後にあった葛藤が、この曲のタイトルを、「?」マークの付いた疑問形にしている。

柳田 そうですね。音楽シーンは年々変わり続けているし、音楽の聴かれ方や在り方ってどんどん変わっていくけど、その中で「今のトレンドってなんなんだ?」とか、「今はどんなジャンルが人に響くのか?」って、クリエイターとしては常日頃考えてしまうんですよ。でも同時に、「そうやって考えてしまうことは、本当にクリエイティブなことなのか?」と思ってしまうこともある。ただ、音楽で生計を立てている以上、僕らにとってこれはビジネスであることは間違いない。そういう部分での葛藤はやっぱりあるんですよね。時には、その瞬間に自分の中に浮かんでくるビートやメロディをそのまま曲に使いたいという欲求が湧き上がるけど、タイアップの話が絡んだりすると、たくさんの人たちでひとつの作品を作り上げていくことになるわけだし、僕のわがままだけでは成立しない。プロとしての覚悟もあるつもりで。決して「たくさんの人に聴いてもらうにはどうすればいいか?」と考えることは悪ではない。ただ、その範囲内で「どれだけ自分を表現できるのか?」という葛藤が、この1年は多かったんですよね。

“怒”に込められたSNSへの思い

──この時代に、神サイのようにメジャーシーンで活躍しているバンドが「ポップスとは何か?」と問うことはとても誠実だと思うし、改めて、神サイの音楽には理想主義的な側面が強くあるなと思うんです。音楽に感情や人生をひっくるめて自分自身を託すこと、あるいは音楽によって人に影響を与えることにまっすぐに向き合っているように感じる。それは「What's a Pop?」のような曲にはもちろん、このアルバムが“怒”の感情を取りこぼしていない点にも表れているなと思います。

柳田 このアルバムの“怒”の部分で歌っていることって、SNSに対する思いもすごく強くて。SNSがメインカルチャー化して……というか、もはやカルチャーという以上に「ここで生きていかざるを得ない」という状況になっている中で、言葉が凶器になることに気付いていない人が多すぎると思うんですよね。言葉ひとつで、人は喜ぶこともできるし、笑うこともできるし、涙するし、傷付くんですよ。でも、今でもSNSを開くと目を伏せたくなるような言葉がタイムラインには流れている。この現状は誰かが釘を刺さない限り変わらないし、今後、もっとひどいことになるだろうなという危機感を覚えていて。例えば中学生や高校生がちょっとおバカな画像や動画をインターネットに上げてしまうと、ずっと残ってしまいますよね。僕は、人は絶対に間違える生き物だと思うんですよ。でも、10代のまだ善悪の判断もつかない子供の未来を、SNS上で大人たちが寄ってたかって潰しにかかる、みたいな……本当にどうかしていると思う。そういう異常さには気付いてほしいし、せめて、この音楽を聴いた人にはわかってほしいなと思って。いきなり世界を変えることはできないかもしれないけど、小さなコミュニティからでも、ちょっとでもいい影響を与えられればいいなという、願いですね。

神はサイコロを振らない

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──“言葉”というのは、「Division」の歌詞にも大きなモチーフとして表れているように感じます。

柳田 やっぱり、一度、言葉で刺されてできた傷って、一生癒えない気がするんですよね。その自覚を持って普段から人と対峙してほしい。傷跡が見えている相手でも、見えてない相手でも。「Division」は、そういうことを歌っている曲ですね。