神はサイコロを振らないの新曲「May」が配信リリースされた。
「May」は柳田周作(Vo)が2018年に友人の結婚式のために弾き語りで制作したバラードナンバー。昨年末のホールツアーを経て、ロックバンドとしての表現の幅を広げた神サイは、6年前にできたこの曲をバンドアレンジしたことで何を得たのか。柳田周作(Vo)、吉田喜一(G)、桐木岳貢(B)、黒川亮介(Dr)に話を聞くと、互いを刺激し合う、メンバー同士の良好な関係性が浮かび上がってきた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 草場雄介
ホールでロックをどう響かせるか
──まずは1つ前のツアーの振り返りからさせてください。昨年10月から12月にかけて開催された「心海パラドックス」は、全国8都市でのホールツアーでした。
桐木岳貢(B) ちょうどこの前、柳田の家で「心海パラドックス」のライブ映像を観たんですよ。ライブ映像を観ながら反省会みたいなことをするのが、ツアーが終わったあとのルーチンみたいになってるんです。各々で観ることもあれば、移動中に観ながらああだこうだ言い合うこともあるんですけど、今回は柳田の家にみんなで集まって。
──映像を観ながら、4人でどんな会話をしたんですか?
柳田周作(Vo) 今回は特に何もしゃべらなかったですね。たまにMCとかで笑われたりするけど(笑)、基本みんな真剣に、半分研究みたいな感じで観てたので。
桐木 できるだけ俯瞰的な目線で、厳しい目で観るようにしてるんですけど、それでもやっぱりいいライブだったなと映像を観ながら素直に思えました。毎公演、終わったあとに反省会をしたのもあって、ちゃんと成長していけたんじゃないかなと。
吉田喜一(G) アンサンブルもストイックに突き詰められていて、ツアーを通して自分たちはこんなに成長したんだと、映像を観て改めて実感しました。だからこそ「次はどうしよう」という考えに至ることができた。
柳田 文句なしのホールツアーだったよね。ホールでやれることは全部できたんじゃないかと思います。ライブハウスに慣れてる分、ホールでロックミュージックをどう響かせるか、試行錯誤したんですよ。ホールはライブハウスと違って、マイクとスピーカーを通さなくても音が広がるように作られてるから、それを生かしてアカペラで歌ってみたりして。ミュージシャンとして楽しみながらホールツアーを回れたと思いますね。こないだ、Kアリーナ横浜にバンプ(BUMP OF CHICKEN)を観に行かせてもらったんですよ。もちろんバンプだからというところも大いにありますけど、あそこは音楽に特化したアリーナと謳われてるだけあって、音がやたらよくて「神サイもいつかここでやりたい」と思いました。次なる夢が1つできました。
──ホールツアーでは、音源では全編弾き語りだった「告白」をバンドアレンジで披露したそうですね。
黒川亮介(Dr) はい。どんなフレーズを鳴らすかとか、あえて事前に固めなかったんですよ。なので、1公演目と最後の公演はまったく違う「告白」になってたんじゃないかと。ツアー中もメンバーとスタジオに入って音を合わせたりしていたので、そういう部分が少しずつ反映されていたと思いますね。育っていく感じがすごくよかった。
柳田 僕の中では、ツアーファイナルで「告白」の1つの完成形を見せられた手応えがあって。だからしばらく封印というか、次いつライブでやるのかはちょっとわからないですね。映像を観ていて思ったんですけど、メンバーみんな楽しそうなんですよ。初日は「絶対にしくじれない」という感じで表情が引きつっている瞬間もあったんですけど、ツアーファイナルでは「あとはやるだけ」という自信が表情に出ていて。それがすごくよかったな。
桐木 トラブルが起きても慌てなくなったよね。
柳田 確かに。
──シーケンスが止まっちゃったんでしたっけ?
黒川 そうなんですよ。ツアーファイナルのためにPCを新しくしたんですけど、それなのに止まっちゃって。
桐木 昔だったら慌ててたけど、今はみんな冷静に……もはやトラブルを楽しむような感じで対処してて。
吉田 俺ら、トラブルがあるときは、なおいいライブしてるような気がする(笑)。逆境に燃えるタイプ。
柳田 確かに、大事な日に限ってトラブルがあるんですけど、なんかもう慣れましたね。落ち着けば、ちゃんと対応できるし。
──その落ち着きは、やはりライブ経験を重ねていくうちに培われたんでしょうか?
柳田 そうですね。あと、DIY精神の強いバンドなので。神サイはシステム周りもメンバーが管理してるんですよ。ライブ中のシーケンスの操作も自分たちでしたり、マシンを自分たちで作ったりしていて。マシンの仕組みとかを何も知らなかったら、トラブルが起きたとき、どうしていいかわからなくて焦っちゃうと思うんです。だけど自分たちでやってる分、対処法がわかるので、そういうところは強いかもしれないです。
“真逆の世界”で書いたウエディングソング
──ここからは新曲「May」について聞かせてください。柳田さんがご友人の結婚式のために制作した曲だそうですね。
柳田 2018年に地元の友達が結婚したんですけど、そのときに「歌ってほしい」と言われて、「カバーをやるくらいなら、自分で曲を作りたいな」ということで作りました。周りの友達の中で結婚したのはそいつが初めてだったんですけど、それ以降、同じようにほかの友達から「結婚式で歌ってほしい」と声をかけてもらうことが増えたので、そういうときはこの曲を歌ってます。
──けっこう前からあった曲なんですね。
柳田 そうなんですよ。2018年の弾き語りライブでも歌ったし、結婚式で弾き語りで歌ってる動画をSNSに上げてたので、知ってる人もいるかもしれないですけど。
吉田 その動画は俺も観た。
柳田 ずっと弾き語りで歌ってた曲なんですけど、6年を経て神サイ4人で表現してみました。
──曲を書いた2018年当時、ご友人から結婚の報告を受けて、どう思いましたか?
柳田 「え、結婚すんの!?」みたいな。だって、子供の頃からの友達ですよ? どれだけ時が経っても自分にとっては出会った頃のままだから、本当に信じられなかったです。あとは22、3歳でたった1人の人に決めるだなんて相当な覚悟だなと。
吉田 そうだよね。
柳田 当時の自分といえば、家賃も払えず水道も止まってるような……世間的な幸せとは遠い場所にいたんですよ。だけど友達は、映画のロケ地になるようなめっちゃ素敵な式場で結婚式を挙げますって言ってるわけで。自分とは真逆のキラキラした世界にいるんだなと思いました。「うらやましいな」「でもおめでたいな」っていう変な感覚でしたね。
──真逆の世界で起こっている出来事に対して、曲を書くのは難しそうだなと思いました。「どうして結婚しようと思ったの?」など、曲を書くために話を聞いたりしたんでしょうか?
柳田 いや、友達から細かくエピソードを聞くようなことはしていなくて。「もしも1人の女性を幸せにするとしたら」と自分に置き換えて妄想して書きました。僕は結婚したことないですけど、誰かを愛したことはあるし、この時期にも恋愛していたので、嘘なく書けた。結婚について書くというよりも、ピュアな愛情について書くという感覚だったのかもしれないです。
──従来のウエディングソングとはまた違う温度感の曲だと感じていましたが、曲の成り立ちを聞いて納得しました。例えば「強がりな僕だから 弱い姿など見せたくはない 僕と似た君の事だから 君と僕二人で」という歌詞が新鮮だなと。「弱い姿も見せ合って、支え合っていこう」ではなく、弱いところを見せられなくてもよしとしているところが新しいと思いました。この歌詞は、どういったところから出てきたんでしょうか?
柳田 どこから出てきたのか今思い出してるんですけど……なるほど、昔書いた曲のインタビューだとこういうことが起きるのか(笑)。今の自分は周りの人に弱い姿見せまくりだからこうは書かないだろうけど、このときはちょっと強がりだったんですかね?
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闇と光の両方を素の自分で歌える