ナタリー PowerPush - J
ソロ17年目に掲げる“FREEDOM”の意味
自分のロック観をすべて見せたい
──Jさんのアルバムは作品を重ねるごとにどんどんロックミュージックとして純度の高いものになっていると思うんですけど、近作ではさらに音楽的な広がりも感じていて。前作「ON FIRE」には「baby baby」のようなポップな楽曲もありましたよね。今回もストレートなロック一辺倒というわけではなくて、シャッフルのリズムを取り入れた曲やスローナンバー、ストリングスを取り入れた曲もある。非常にバラエティに富んでいて、1枚通して聴き終えたときに映画を1本観たような印象を受けました。
最近は自分のロック観みたいなものをすべて見せていきたいと、以前よりも思うようになって。もちろんエネルギッシュでハードなサウンドは大好きなんですけど、今作で言えばストリングスの入った2曲(「Day Dream -the way of infinity-」「NEVER END」)は、ほかのハードな曲以上に大きな力を感じてもらえるんじゃないかな。こういう表現も自分のロック観の中には昔から存在しているんですよ。
──ちなみにストリングスは生演奏ですか?
いや、サンプリングをしたものです。フルオーケストラを迎えたレコーディングも可能性としてはあったんですけど、録音状態によっては自分がイメージするサウンドにならないこともあるんですよね。スタジオの鳴りとか、プレイヤーの方々のテンションとかが影響して。一番怖かったのは、音像がふくよかになりすぎて曲の温度感が変わってしまうことだったので、今回の2曲に関してはこの方法がベストだったと思います。でも今度はフルオーケストラでの録音にもトライしてみたいですね。このバージョンのさらに上をいくのか、もしくはまた違った世界を見せてくれるのか気になりますし。
日々起きていることを観てもらうのはいいことなんじゃないか
──アルバムのDVDおよびBlu-ray付き仕様には、アルバム制作の裏側を追ったドキュメント映像が収められています。なぜこのタイミングで裏側を見せようと思ったんですか?
今まではあえて見せる必要もないかなと思ってたんです。レコーディングって実は苦悩の日々で、時間に追われて過ごすことが多くて。でも今回のアルバムにはゲストミュージシャンも参加してくれていて、今までのレコーディングとは違ったテンションの日もかなりあった。あと今回のアルバムではサウンドメイクによりリアリティを求めていたので、日々起きていることをみんなに観てもらうことはいいことなんじゃないかなと思ったんです。もちろんここに収められているものだけがすべてではないんですけど、レコーディング中に何が起きてたかっていうのは垣間見られると思うので、ぜひ楽しんでほしいですね。
──固定のバンドメンバーがいながら、かつてバンドに在籍したmasasuckさんや、Masuo Arimatsuさんといったゲストプレイヤーをレコーディングに迎えたのは、どうしてですか?
今までずっと自分たち4人(J、Takashi "CBGB" Fujita、Kazunori Mizoguchi、Scott Garrett)でサウンドメイクをしてプレイしてきたんですけれど、だからこそ見えなくなってきてる部分も確実に存在しているだろうと。1つの形ができあがってしまうとさらに前進するのはなかなか大変なので、一度フラットにしておきたかったんです。MasaやArimatsuくんとはレコーディング以外でもいろんな付き合いをしていて、俺がやろうとしてることや見ている風景を理解してくれている。彼らの個性を加えることで、何か新しい発見ができないかといろいろ想像してみたんです。結果的にはすごく成功したと思ってます。
今のLUNA SEAは“5人でアートを作ってる感覚”
──最後の質問です。LUNA SEAが活動休止したときに開始したソロ活動と、終幕後にスタートしたソロ活動、そして“REBOOT”後のソロ活動というのは、それぞれJさんの中でどういう意味を持つものなんでしょう?
まず1997年にソロ活動を始めたのは、LUNA SEAの活動休止に対する反動でしかないんですよ。俺はバンドを続けたかったから。そのときはみんな1年間限定でソロ活動をした。そこからいろんな時間が流れて終幕するんですが。終幕後に再びソロに戻っていくのは、いちミュージシャンとしては自然な流れでした。もちろんバンドが終わってしまったという傷は当然のようにありましたけど、自分自身の音楽は終わらないという強い思いのもとに始めたソロ活動だったんです。そこから12、3年、最初にソロを始めたときから16年経ちましたけど、すでにLUNA SEAの実働期間よりも長くなってますからね。で、今はソロとLUNA SEAを天秤にかけるってことすらもなくなってる。どちらがいいとか悪いとかではなくて、自分の中で鳴ってる音、鳴らしたい音をただ出してるだけなんです。
──なるほど。
例えば2012年から2013年にかけてのLUNA SEAっていうのは、俺の中では5人で1つのアートを作ってるような感覚なんです。もしかしたらそれって、終幕以前とは気持ち的な部分でまったく違うものかもしれない。でも俺にとってはすごくうれしいことなんですよね。なぜかと言えば、LUNA SEAの第2章が始まったということだから。一緒にやりたくなったらやって、やりたくなかったらやらないって本当にぜいたくなことで。無理して続けようとか、そのほうが不自然ですしね。今も終幕以前同様、みんなで物事を決めているんですけど、こんなに自由でいいのっていうくらい。だけどいちミュージシャンとしてお互いに突きつけているものは、昔よりも鋭利なんです。そんな5人が集まって音楽の実験をする場が、今のLUNA SEAかな。そういう意味で、それぞれの今を映せばソロとバンド両方が存在しているっていうのはものすごく健全なことなのかなって、最近特に感じてる。本当にぜいたくなことだよね。
- ニューアルバム「FREEDOM No.9」 / 2013年10月23日発売 / cutting edge
- CD+Blu-ray 4515円 / CTCR-14808/B
- CD+Blu-ray 4515円 / CTCR-14808/B
- CD+DVD 3990円 / CTCR-14809/B
- CD 3150円 / CTCR-1481
- CD 3150円 / CTCR-14810
CD収録曲
- Go Ahead
- Love to Kill
- MARIA
- If you can see me
- Nightglow
- Everything
- Looser
- right away
- Sword
- Day Dream -the way of infinity-
- NEVER END
Blu-ray / DVD 収録内容
- 「NEVER END」Music Clip
- Documentary Film
J(じぇい)
1992年、LUNA SEAのベーシストとしてアルバム「IMAGE」でメジャーデビュー。1997年のバンド活動休止期間にシングル「BURN OUT」、アルバム「PYROMANIA」でソロデビューを果たす。2000年12月のバンド終幕以降、本格的なソロ活動を開始。LUNA SEA時代からソングライターとして知られる彼ならではの、パワフルでパンキッシュなロックサウンドが高い支持を得る。2003年にはソロとしては初となる日本武道館でのライブを敢行。また楽器メーカーESPから発売されているJオリジナルモデルのベース販売数は累計で5万本に達し、世界でもっとも売れているアーティストモデルのベースとなっているなど、現在も次世代のベーシストに影響を与え続けている。2008年にLUNA SEAが"REBOOT"(再結成)して以降は、ソロと並行して音楽活動を展開。2013年10月、通算9枚目のオリジナルフルアルバム「FREEDOM No.9」をリリースする。