LUNA SEA「MOTHER」「STYLE」セルフカバーアルバム特集|INORAN & Jソロインタビュー

LUNA SEAが1994年発売の「MOTHER」、1996年発売の「STYLE」という2タイトルのセルフカバーアルバムを11月29日にリリースした。

「MOTHER」は「ROSIER」や「TRUE BLUE」、「STYLE」は「DESIRE」や「IN SILENCE」などのヒット曲を収録した作品で、LUNA SEAが日本のロックシーンで不動の地位に駆け上がった時期に制作されたアルバム。来年デビュー35周年を迎えるLUNA SEAがこれらを再録した背景にはどんな理由と思惑があったのか。また、2作を携えて行っているアリーナツアー「LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023」ではどんな手応えを感じているのか。INORAN(G)とJ(B)にロングインタビューを行い、それぞれの思いを聞いた。

取材・文 / 後藤寛子撮影 / 須田卓馬

INORANインタビュー

僕らが死んでも音楽は生き続ける

──今回の「MOTHER」と「STYLE」にまつわる一連の動きは、どのような経緯で始まったんですか?

2018年に「IMAGE」(1992年開催のツアー「IMAGE or REAL」)と「EDEN」(1993年開催のツアー「SEARCH FOR MY EDEN」)の再現ライブを終えたあと、その流れで「MOTHER」でもやりたいよねという話になったんです。それならツアーでやったら面白いだろうというところから、じゃあ「STYLE」も含めてデュアルツアーにしようというアイデアが出て。さらにアルバムも紐付いていたらすごく面白いんじゃないか、というふうにつながっていきました。ここ数年、コロナ禍があったり、RYUICHIの喉の手術だったり、スタッフが一新されるタイミングだったり、いろんなものが重なっていたんです。その中でもう少し強くLUNA SEAとしての歴史を刻んでいきたいという気持ちが、メンバーそれぞれとしても、バンド全体としても湧き上がってきたんですよね。

──ライブだけではなく、すべてを再録してアルバムを作るのは、一歩踏み込んだ決断ですよね。

でも、以前経験していますから。

──2011年にリリースしたインディーズ盤「LUNA SEA」の再録アルバムですね。あれは2010年の“REBOOT”後初の音源でしたが、その制作で得たものは大きかったんですか?

そうですね。再録、焼き直しというものを、どう解釈するか考えることができたので。単純にもう1回同じものを作るというのも焼き直しだけど、それだけではなくて、そこに何を込めるか。自分たちの変化を見つめながら作れたことは大きかったと思います。

INORAN

──昔の自分たちが作った曲を通して、学びや気付きがあるということですか?

うーん……要は、レコーディングに入る前にどう考えるかですよね。再録って、変えてはいけないという制約とか、周りからどう見られるかみたいなところでプレッシャーを感じる人もいると思うんです。オリジナルに向かう姿勢によっては、超えることはできないんですよ。そのときに生まれたものの再現はできないんだけど……その反面、もっと輝かせることはできる。僕の場合は、当時よりも成長しているところを入れられたらいいなと思って向き合いました。フレーズを変えることもそうだし、まるっきり同じフレーズでも、もっとミクロなところにフォーカスするようなイメージかな。同時に、ただその瞬間をパッケージするだけじゃなくて、今と、当時と、今と当時の間、そして未来もパッケージしていく。ミクロもマクロも両方見ている感じですね。言葉で説明すると難しく感じるけど、結局は感覚でやっています。最終的には自分の感覚を信じるしかないので。

──なるほど。

メンバーそれぞれの感覚は多少違うと思うけど、今に至るまでミュージシャンとして活動できていることや、それをどう音に落とし込んでいくかを考えたら、当時より気持ちが入りますよね。今振り返ると、昔は「絶対いいものを作ってやる」みたいな、もうちょっと漠然とした気持ちだったと思う。今はもっと周りが見えるし、たぶん未来も見えているけど、「MOTHER」や「STYLE」を作っていた20代の頃は、自分が50、60歳になったときに何をしているかなんて想像できていなかったから。時空の捉え方が違うというか。

──当時はもっと刹那的な感じだったと。

そうですね。やらなきゃいけないことは今も過去も一緒なんだけど、やるうえでの覚悟が違うんですよ。今はプロとして、ミュージシャンとして、こういう立場にいられる人間として、もっともっと責任を感じているので。あと、僕らが死んでも音楽は生き続けるじゃないですか。そう考えると、1つひとつの音に込めるものも変わってくる。身体的な若さや勢いは取り戻せないとしても、音楽は歳をとらないし、若さを失わないから、そこに対して素直に今の年齢の情熱を吹き込んでいくことが重要なのかなと思います。それはライブにも言えることだと思う。まあ、常にこんなふうにストイックに考えているわけじゃないですけどね(笑)。

──再録にあたって大きなリアレンジなどはされていませんが、その方向性はメンバー間の共通認識としてあったんですか?

いや、そこは原曲の作者によって違うと思いますよ。細かいところなのでわかりづらいかもしれないけど、僕の曲は、同期モノやフレーズを多少変えたりしました。当時はこのアンサンブルのアイデアは持っていなかったとか、このフレーズが鳴ったらほかの楽器はこうなるとか、今になってわかることがあるので。今の自分だからできる、曲に対しての解釈ですね。そのあたりは素直にやったつもりです。

──それぞれ、作曲者がイニシアチブを取って進めていったんですか?

今回の場合は特にそうでしたね。それぞれこだわりポイントが全然違って、それがまたLUNA SEAの面白いところかなと思います。

──JさんとSUGIZOさんの方向性はまた違う印象でした?

Jはあまり変えないほうかな。SUGIZOは曲によるんじゃないですかね。SUGIZOは、僕なんかよりもっとストイックだけど、今回はいい意味で……わかりやすく言うと、かっちりしすぎない表現をしているなという印象があります。同じギタリストだから、すごくそれを感じるんですよね。

──INORANさんの曲は全然変えてもOKと。

そうですね。ドラムでもベースでもギターでも、あんまり「こうしてほしい」と言うことはないです。

今のRYUICHIの声が一番好き

──その中で必然的に変化が現れるのがRYUICHIさんのボーカルだと思います。20年間でもちろん変わってきましたし、手術を経てのこの数年の変化もありますし。再録には完全に新しい歌声で臨んでいる印象があったんですが、INORANさんから見ていかがですか?

当然、人間は年を重ねるごとに深みが増していくものですけど、RYUちゃんの声はそれ以上に深みを増しているなと、隣で見ていて思います。今回のレコーディングでも、彼は努力しているところや頭の中で考えていることは見せないのでわからないけれども、すごく今の瞬間をパッケージしているように感じました。僕も歌を歌っているけど、歌っているとそれなりに成長していくわけですよね。ただ、成長すればいいというものではなくて、「昔のほうがよかった」と言われることもあって。でも、昔に寄せることはできないから、今の声で歌うしかない。そういう意味では、RYUICHIの歌はいい変化をして、いい成熟をしていると思うんです。歌い方や歌い回しみたいな細かい部分ではなく、全体的にもっとレベルが上がる成長の仕方をしている……って、僕なんかが言うのは生意気ですけど。それが一番今回のアルバムを聴いてほしいポイントかもしれない。歌を歌い続けて、ずっと歩いてきた彼が今ここにいる。約30年前の自分と向き合った時に歌詞に込める感情や思いも含めて、もうパーフェクトに近い歌だと思いますよ。

──今の歌声を感じてほしいと。

うん。ボーカリストが喉を手術するのは相当のことだけど、僕は「悪い部分を切った」というより、「皮を剥いた」というふうに捉えていて。今のRYUちゃんの声が一番好きだし、これからもこの声であってほしい。

──もう1人のキーパーソンとして、スティーブ・リリーホワイトさん(U2、The Rolling Stones、ピーター・ガブリエルなどの作品を手がけ、5回のグラミー賞受賞歴を持つプロデューサー)というプロデューサーの存在についてもお聞きしたいと思います。最終的なミックスを任せられる存在はやはり彼だろうという話になったんですか?

そうですね。メンバーそれぞれ音の好みが違うから、広い音楽の世界の中で5人全員がリスペクトする方は何人かしかいないんですよ。スティーブはその1人で、「CROSS」(2019年12月リリースのアルバム)でセッションしたことは僕らにとってすごくエネルギーになりました。そのエネルギーが、今回は絶対必要だと思ったんです。

INORAN

──セルフカバーアルバムということで、何かリクエストやメッセージは伝えたんですか?

いや、わりと一発勝負に近い感じでしたね。メンバーがレコーディングでそれぞれの思いやこだわりをぶつけたように、スティーブにもそうしてもらうという考えでした。だって、スティーブは曲の歴史とか、「この音がこの曲のキモなんだよ」というファンの方や僕らの思いを知らないわけだから。何十チャンネルと入っている音の中から、彼の感覚で「これが大事だ」と判断してもらわないと、スティーブとやっている意味がない。例えば「LOVELESS」の最初の僕の12弦の音が超小さくなっていたりしても全然いいんです。そこが、ニューアルバムを作るのとはまったく解釈が違うんですよ。新曲だったらちゃんと楽器の音が聴こえてくれないと困るけど、「LOVELESS」の12弦の音が小さくなっていても、みんなの中で鳴ってるでしょ?

──確かに。

だから、スティーブが捉える「MOTHER」と「STYLE」の解釈とコラボレーションするのは面白かったです。最終的に何曲かは修正してもらったけど、僕は1発目にスティーブから届いたミックスが一番好きでしたね。

──「CROSS」の制作時にしっかり絆ができたから、それだけ信頼して任せることができたということですよね。

「CROSS」を作ってるときは、まさかミックスをやってくれるとは思わなかったですけどね。でも、言ってみてダメだったらそのときはそのときじゃん?みたいな。僕が参加しているMuddy Apes(INORAN、タカ・ヒロセ[Feeder]、ディーン・テディ、MAESON [8otto]によるバンド)とかもやってきた中で、僕はそういう感覚になれたんです。相手が超有名な人でも、リスペクトがあれば絶対叶わないことはないよね、リスペクトできる友情や絆があれば不可能なことはないよねって。音楽の世界はそういう憧れの人と仕事ができる魅力もあるから、LUNA SEAでも実現できたのがすごくうれしかった。スティーブ、タイでやった僕のソロライブにふらっと遊びに来てくれたからね。

──素敵な関係ですね。

それくらい、スティーブとはいい関係になれたと思う。やっぱり、こっちが「あのU2の……」って萎縮しちゃうと、そこで関係値が終わってしまうんですよ。