Ivy to Fraudulent Gameが9月2日にニューシングル「Day to Day」を配信リリースした。
彼らは今作からeggmanが運営する音楽レーベル・murffin discsに移籍。同レーベル内のmini muff recordsとタッグを組み、音楽レーベル、デザイン、ファッションなど幅広く展開する自身のブランド「from ovum」を立ち上げた。
音楽ナタリーではバンドの新たなスタートに際して、メンバー全員にインタビュー。ブランドを立ち上げたきっかけや、「誰かの日常に寄り添う、疾走感のある新たなロックアンセム」としてバンドに新たな息吹を吹き込む新曲「Day to Day」の制作エピソード、Ivy to Fraudulent Gameというバンドの在り方について話を聞いた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 星野耕作
このスピード感や空気感は崩したくない
──Ivy to Fraudulent Gameは9月にmuffin discsへと移籍し、mini muff recordsとタッグを組んで自身のブランド「from ovum」を立ち上げました。バンド活動の在り方が大きく変化している印象を受けます。
寺口宣明(Vo, G) そうですね。今年4月のアルバム「再生する」は自主で発表したんですけど、その前にも、コロナ禍でどういう活動をしていこうかと考えていたんです。例えばリョウタロウはデザインができるし、福島はエンジニアとして音を録れる。だから自分たちの武器を生かして、音源とグッズを一緒にリリースしたこともありました。そうやって自主制作をしてみたら、自分たちから出てくるものをそのまま形にして届けることが何より大事なんだと感じられて。そのほうが自分たちのスピリットが薄まらずに届くし、ファンのみんなにも響いている手応えがあって。
カワイリョウタロウ(B, Cho) メンバー全員が曲作りをするようになったし、メンバー同士がそれまで以上に同じ方向を向いて進むことができるようになった感じがあったんですよね。
寺口 そう。1人ひとりがよりアイデアを出すようになったし、より密に1つの作品と向き合えるようになった。そういう中で「今のこの空気感、いいよね」という感覚は4人全員にあったと思うんです。だからこそ、「自主でやっている、このスピード感や空気感は崩したくない」というのもあって。僕たちだけでは右も左もわからないままのことが多いんですけど、その中で答えを見つけて発信していくやり方が、自分たちには合っていたんですよね。ただ、どうしても自分たちだけでやっていくには限界がある。そういう中で、muffin discsは僕たちの考えを受け入れてくれました。
新しい自分たちの、新しいやり方を見つけた
──「from ovum」というブランド名はどういった経緯で付けられたんですか?
カワイ eggmanのレーベルに入るということもあって、僕個人として「卵」にちなんだ名前を付けたいという気持ちがあって、福島が「ovum」という言葉を提案してくれたんです。「ovum」はラテン語で「卵」という意味なんですけど、いろいろ調べていく中で「すべては卵から」というある学者の言葉に出会って。それがすごくいい言葉だなと思ったんですよね。「すべては卵から」って、今の自分たちにも当てはまることでもあるのかなと。レーベル移籍して心機一転、「卵からいろんなアイデアを孵化させていく」という意味も込めて、「from ovum」という名前を提案しました。
──最初に寺口さんがおっしゃったように、コロナ禍というのもバンドの活動に変化を与えた影響として大きいんですよね。
福島由也(Dr) そうですね。コロナ禍以降、それまでと違う活動の仕方を模索しなきゃいけなくなったけど、自分たちの新しい価値観をちゃんと獲得できた実感があるんです。リョウタロウがデザインを担当するのもそうだし、アーティスト写真を撮るにも自分たちでロケハンしたり、音源を自分たちで作ってミックスしたり……そういう“手触り感”みたいな。それは自分たちの個性につながるものだと思うんですけど、このコロナ禍で活動のやり方を変えることで、そういうものを自分たちは得ることができた。4人で共有して1つのものを作っていくことで、よりバンドらしくなったというか。この感覚は絶対に次につなげるべきものなんだっていうのはありました。
──そうした“手触り感”というのは、2010年のバンド結成当初と比べても違うものですか?
寺口 いろいろを経た今だからこそ、この感情に出会えた。いろんな人たちと出会ってきたことで自分たちの中に蓄積されてきたものがあるし、そのうえでの今だと思うんです。なので、「戻った」という感じではないんですよね。新しい自分たちの、新しいやり方を見つけたという感覚のほうが大きいですね。
マスクをしていようが、心の距離は縮められる
──今はちょうど「再生する」のツアー中ですが(取材は8月中旬に実施)、ライブでの手応えに変化はありますか?
福島 僕自身、フラットに物事を捉えられるような感覚になってきているし、そのムードが純粋な形でお客さんに伝わっていると思います。今、僕らはどんどんとシンプルになっていっているように感じるんですけど、そのシンプルなムードがお客さんに伝わっているんじゃないかなって。すごくいい状態だと思います。
大島知起(G) 僕個人としては、前よりもライブ中に何も考えないようになったと思う。以前は、すごくいろいろと細かいことを気にしていたんですよね。機材のスイッチングも忙しいから、頭の中でいろいろ考えながらライブをやっていたけど、そういうことをあまり気にしなくなってきた。自由度は前よりも上がった気がします。あと、今はライブをやっても、どうしてもお客さんとの物理的な距離を前に比べると感じますよね。でも、前よりも、なんだか近さを感じます。
カワイ わかる。バンド内でも、個々にがんばるというよりは、みんなで1つの塊になっているような感覚が最近のライブではあるし、お客さんに対してもそれは感じます。僕らの曲調はお客さんがノリやすいものばかりではないけど、曲調云々の話ではなく、すべての曲でお客さんとの距離感を縮められているような気がする。感情に直接訴えかけることができているのかなと思います。
寺口 そもそも僕たちのライブって、お客さんみんなが同じアクションをするようなものではないんですよ。それはなぜかというと、僕らがお客さんに対して「ああして、こうして」って指示めいたことをしないからなんですけど、僕は、必ずしも空間で同じアクションをすることが「一体感」だとは思っていなくて。やっぱり、大切なのはこちら側の思いだと思うんですよね。こっちの思い次第で、空間に人の心はつなげられると思うし、マスクをしていようが、動けなかろうが、心の距離は縮めることができる。大切なのは、どれだけ1つのものに愛情を込めて表現できるかということなんだと思うし、そういうことは、最近のライブではより強く感じますね。
11年でバンドが“1人の人間”になった
──福島さんは「よりバンドらしくなった」とおっしゃっていましたけど、改めて思うのは、「バンドっていったいなんなんだろう?」ということで。これまでIvyの音楽に触れるときに、僕は「既存のロックバンド像を逸脱した存在」として見てきた気がするんです。これまでのロックバンドの「当たり前」から解き放たれている、自由な世代の音楽だと。それは音楽性やルーツ、感性の部分でそう感じてきたんですけど、ただ、アルバム「再生する」や新曲の「Day to Day」を聴くと、とてつもなく「バンドの音楽だ」と思うんです。ロックバンドというものからはみ出してきたはずの人たちが、ロックバンドという概念の真芯を突いているような感覚がある。漠然とした言い方になってしまいますが、「バンド」っていったいなんなんでしょうね?
寺口 それ、僕も考えるんですけど、今はいろんな音楽があって、別にバンドでなくても表現できるものはたくさんあるし、心を動かすものもたくさんありますよね。そう考えると、初期の僕らはロックバンドというよりは「表現をするために集まった4人組」という感じだったんですよね。音楽を奏でて聴かせるための楽団、みたいな。
──初期のIvyがロックバンドより“楽団”というのはしっくりきます。
寺口 でも、どんどんと“生き物”になっていったと思うんです。「人間になっていった」と言ってもいいかもしれない。4人だけど、1人の人間のような感覚になっていく。それが、福島のいう「バンドらしくなった」ということなのかなと思う。「バンドであることってどういうことなんだろう?」と考えたときに、そこにあるのは「音楽を奏でる」ということだけではないんですよね。なんというか、もっと、こう……「意志を持って存在する」ということ。そして、その意志がどういうふうに変化しているのかとか、そういうことが全部ストーリーになって、“生きもの”になって見えてくる。それがバンドなのかなって思います。Ivyは生きものとしてはもう11歳くらいなんですけど、この11年で、だんだんと音楽を表現する4人組が“1人の人間”になった。その過程を見せることが、ロックバンドの本当の面白さなんじゃないかなって思います。
──福島さんはどう思いますか?
福島 今の時代、1人で音楽を作ることは簡単なんですよね。でも、僕がやりたいことは1人じゃできないと思う。それは僕の場合、音楽的なことが理由ではなくて。僕は、自分自身の個性にフォーカスしたい、それを届けたいと思って音楽をやっているんですけど、個性って突き詰めると結局、その裏側には自分自身の至らなさがあったり、ボロが出てきたりするものでもあると思うんです。でも、それをどうやって成立させていくのかというところに、バンドの1つの形はあるような気がしていて。自分の至らない部分を助けてもらっている、それが集合して、4人が“1人”として成立する。ノブの話はそういうことなのかなと思うし、それは僕にも腑に落ちますね。
──裏を返すと、「個性」と呼ばれるものにはポジティブな意味もありますけど、誰しもがそれぞれの形で抱える弱さや愚かしさがあって。でも、そうした弱さや愚かしさでもって、他者や社会や時代とコミュニケーションを取ることができる。それが、バンドのすごさなのかもしない。
福島 そうですね。そういう部分は本来、言葉で交わしたり、大々的に主張したりすることではない。でも、そういうことで共鳴していく……それはメンバーとの在り方でもそうだし、バンドとお客さんとの在り方でも、あり得るのかなと思う。それができれば、“生きもの”としてのバンドの在り方として、すごくいいなと思います。
カワイ 最近よく思うんですけど、赤の他人が4人で集まって、スタッフも赤の他人。でもこうやって人が集まって、1つの作品を作ったり、聴いたりしていて……本当に不思議だと思う。「バンドってなんなんだろう?」って、考えれば考えるほど僕はよくわからなくなるんですけど、でも、わからないなりに、自分の人生においてプラスなものなんだとすごく思うんです。バカみたいな考え方かもしれないけど、とにかく自分にとってすごいもの。語彙力がまったくなくて申し訳ないですけど(笑)、そういう感覚が僕には今すごくあります。
──さっき寺口さんも言っていましたけど、結成から11年経って、今、Ivyはロックバンドであることはどういうことか、つかみ始めている。それは最初から「ロックバンドであること」を目的にしていなかったからこそ、よかった部分もあるのかなと思いました。最初から目的が強すぎると、その目的に食われてしまうこともあるから。
寺口 そうかもしれない。特に僕はJ-POPばかり聴いていて、自分のルーツの中にロックバンドというものがまったくなかったですから。だからこそ、「ロックバンドって楽しいけど、なんなんだろう?」という気持ちはずっとあったんです。この11年間、その時々で答えは一応出してみるけど、「うーん……」って感じでした。今ようやく、「これは正解に近いかもしれない」という手応えをつかめた感覚です。
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素直でストレートな「Day to Day」
2021年9月2日更新