Ivy to Fraudulent Game|murffin discsに移籍し、新ブランド「from ovum」立ち上げ 誰かの日常に寄り添う「Day to Day」完成

素直でストレートな「Day to Day」

──9月2日に配信される新曲「Day to Day」についても伺いたいのですが、この曲はいつ頃作られた曲なんですか?

福島由也(Dr)

福島 「再生する」が出たあとですね。muffin discsに移籍することが決まってから作った曲です。

──作詞作曲は福島さんですが、Ivyの曲としてすごく新鮮な印象を受けました。Ivyの曲を聴くとき、異物感や展開の複雑さに驚くことも多かったですけど、この「Day to Day」は、それこそ“塊”のような感覚がありますよね。まっすぐな疾走感と、自然なうねりを感じる曲だなと思いました。

福島 単純に、今の自分のムードが直で出ている曲だと思います。昔は、「ナメられたくないからこうしよう」みたいな、変なフィルターがあった気がするんです(笑)。でも今はそういうものが一切なく、“直”でいける。そういう感じがすごく出ている曲だと思う。

──レコーディングはどのようにして行われたんですか?

福島 群馬のTAGO STUDIOと、あとは僕の家でボーカルとギターは録りました。こういうレコーディングの手法も、「再生する」以降のやり方なんです。

寺口 「再生する」を作るときに、なるべくコンパクトにレコーディングできないかっていうことで、スタジオを使わなきゃ録れないものは地元群馬のTAGO STUDIOをメインに使わせてもらって、それ以外の部分は福島の家でガッツリとレコーディングをするようになったんです。

歌にしたのは、ありふれた生活

──「Day to Day」は、再生した瞬間からギターの音の厚みにとにかく驚いたんですけど、このギターサウンドはどのようにして生み出されたのでしょう?

大島知起(G)

大島 確かにこういうデカい感じの音像って、今までやってこなかったサウンドだと思います。……単純に、今までのやり方に飽きたのかな(笑)。

一同 (笑)。

寺口 今までの僕らのギターの音色って、わりと細めで、まとまっている感じだったんですよね。「Ivyはバッキングの音がキラキラしていいね」と言われることもあったけど、「Day to Day」のギターは、芯が太くて、走り出す感じというか。よりエモーショナルになっていると思う。

──「Day to Day」は、訳すると「日々」ということですよね。

福島 いろんなタイトルが候補に挙がったんですけど、いつもの僕の感じでいくと、漢字の単語でバン!と出すものが多いんですよね。でもこの曲には謎の脱力感のようなものがある気がしていて。キマっていない感じというか。それでいろいろ考えて、この「Day to Day」がしっくりきたんです。

──その脱力感というのは、どうして生まれているものなのだと思います?

福島 さっき言ったように、前は「ナメられたくない」という気持ちもあったし、それゆえに「絶対にキラーワードを書いてやろう」みたいな気持ちもあったんですけど、「そういうことじゃないな」と思ったというか。もっと根本的な部分、自分が生きていて根底に感じること、生活の中にありふれていること……そういうことが、この「Day to Day」では曲になっているような感覚があるんですよね。

──なるほど。

福島 日々の中にある、普通だったら話の題材にもならないようなものが誰かを救うこともある。逆に誰かを傷つける一因にもなり得る。そういうものって、普段は取り上げられないし、過ぎ去っていくだけだと思うんだけど、あえてそこにフォーカスすることによって、日々そのものを違う見え方にできたらいいなと思うんです。それができれば、自分たちの生き方も変わっていくかもしれない。その変化の中で何かを肯定することも、「それは違うよね」と考えるきっかけを与えることも、どちらも優しさだと思うから。そういう優しさで包みたいなと思ったのが、この曲なんだと思います。

──このコロナ禍では、日々の中でどうしようもなく閉塞感を感じてしまう人もいると思うんです。だからこそ、「日々」という連続する事象に変化や希望を見出しているこの曲は、すごく響くなと思いました。歌詞を書くうえで、コロナ禍というのは大きな前提としてありましたか?

福島 意識はしていないけど、どうしても影響を受けた部分はあると思います。視点や考え方をちょっと変えるだけで、見えるものは変わってくるし、それをいい方向に持っていくことができれば、希望になると思うし。そういう気持ちは常に持っていたいし、伝えたいなと思う。音楽って、僕のできることの範囲では、そういうものを形にして見せられる唯一の手段だと思うので。

「Day to Day」ジャケット

──ジャケットも曲の世界観を表しているなと思ったんですが、デザインはご自分たちでやられているんですよね?

カワイ そうですね。僕と福ちゃんで相談して考えました。

寺口 ホントに「Day to Day」っていう感じのジャケットですよね。色のなかった昨日から、色の見える今日に変わっていく感覚とか。あるいは、今日、色が見えなくても、明日は色が見えるかもしれない、とか。1枚の写真だけど、見方、見え方によって違ってくる。

Ivyの音楽が明日を生きる理由になれば

──今までのIvyの曲、特に福島さんが作る曲に比べると、「Day to Day」はスポットを当てる世界がいい意味で小さいですよね。絶対的な何かを描こうとするより、何かと何かの狭間にある、揺れ動くものを捉えようとしている感じがする。そういう部分は、「再生する」の最後に収録された「御伽」にも通じるなと思いました。

福島 それはあると思います。作っている感覚としては「御伽」に近かったかもしれない。バンッと象徴的なものがあるというよりは、連続する日々での淡い感覚を捉えようとしているというか。なんでもそうですけど、物事が2つの事象に極端に分かれることって、あんまりないと思うんですよ。考え方でもなんでも、「ここからここまで」みたいな線引きって、本当はないんじゃないかと思う。どんな事象であっても、2つが並べば、その狭間にはグラデーションがあると。だからこそ、そのグラデーションの中を自由に行き来できることは、すごく大切なことのような気がするんです。

──3人は「Day to Day」をどのように受け止めていますか?

カワイ サウンドを含めて力強さ、エモーショナルさがありつつ、聴いてくれる人との距離の近い曲だなと思います。Ivyらしさはあると思うけど、新しい感覚の曲だと思う。すごくストレートですし。

大島 「Day to Day」は、めっちゃ福ちゃんという感じ。言葉の使い方もそうだけど、体温を感じる。今のこのバンドの雰囲気だからこその曲だなと思います。

寺口 歌う人間としては、こういう曲のほうが、自分が試されている感じがします。曲がシンプルになっていけばいくほど、自分の歌の表現力が大事になってくるもので。どれだけ着飾らずに、このバンドサウンドの中で歌をど真ん中に持っていって、歌っている自分自身がどれだけ響いてくるか。そういうことに、この曲ではすごく対峙した感じがします。新たな「Ivyらしさ」を体現している曲だと思うので、大切に魂を吹き込もうと思いました。あと、音源だとどうしてもきれいになっちゃうし、だからこそ「ライブのほうがいい」という人もいる。でも、何回再生しても同じものが流れる音源において、どれだけ曲を“生きもの”にできるか。そういうことは常にテーマとして考えるんです。自分の歌はきれいじゃなくてもいいから、汚れていてもいいから、美しくありたい。「Day to Day」も、そう思いながら歌いました。

──先ほど福島さんから「優しさ」という言葉が出ましたが、そうした感情や感覚を聴き手に与えたいという気持ちは、今の福島さんにあるものですか?

福島 そうですね。こういう感覚は日に日に強くなっているかもしれません。昔はもっと「自分を見せたい」という自我を持ってやっていた気がするけど、今はそういう感じはなくて。自信が付いたのかわからないけど、どんどんと心持ちが変わっていっているような。聴いた人が少しでも心が楽になったり、明日を生きる理由になったりすれば、それはすごくいいことだなと思うので。自分もそうやって音楽に生かされてきた人間だからこそ、自分の音楽もそうありたいなと思います。

Ivy to Fraudulent Game

ツアー情報

Ivy to Fraudulent Game Presents "Day to Day" release 2man tour
  • 2021年10月9日(土)愛知県 APOLLO BASE
  • 2021年11月17日(水)大阪府 Music Club JANUS
  • 2021年11月22日(月)東京都 TSUTAYA O-WEST
Ivy to Fraudulent Game(アイヴィートゥーフロウジュレントゲーム)
Ivy to Fraudulent Game
2010年10月に群馬県で結成された、寺口宣明(Vo, G)、大島知起(G)、カワイリョウタロウ(B, Cho)、福島由也(Dr, Cho)からなる4人組ロックバンド。バンド名には「Ivy=植物の蔦の意で、生命力が強く、広範囲に伸び成長して行く蔦のように音楽やバンドもなっていけるように。Fraudulent Game=イカサマ的な意で、良い意味で期待を裏切っていきたい」という願いが込められている。主に作詞、作曲、アレンジを手がける福島が紡ぎ出す楽曲を鮮烈なものにするライブパフォーマンスに定評がある。フロントマンである寺口が稀有な歌唱力で楽曲の世界観を再現し、多くのファンを魅了している。2017年12月にビクターエンタテインメント内のレーベル・Getting Betterから1stアルバム「回転する」をリリースし、メジャーデビュー。その後も音源のリリースとツアーを重ね、2020年10月には東京・TSUTAYA O-EASTで有観客配信ワンマンライブを行った。2021年4月に3rdアルバム「再生する」を発表。9月2日にmurffin discsに移籍し、mini muff recordsとタッグを組んで自身のブランド「from ovum」を立ち上げる。移籍後、第1弾作品となる配信シングル「Day to Day」をfrom ovumよりリリース。

記事初出時よりツアー情報に一部変更が生じました。


2021年9月2日更新