Ivy to Fraudulent Game「B.O.Y.」インタビュー|対バンツアーを経て春にZepp 2DAYSライブに挑戦、歩みを止めないバンドの今

群馬発のロックバンド・Ivy to Fraudulent Gameがmurffin discsに移籍したのは2021年9月のこと。mini muff recordsとタッグを組んで自身のブランド「from ovum」を立ち上げ、アルバムリリースやツアー開催など精力的な活動を見せている。

音楽ナタリーでは、彼らが2月15日に新曲「B.O.Y.」を配信リリースしたことを記念し、寺口宣明(Vo, G)と福島由也(Dr, Cho)にインタビュー。from ovum立ち上げからのライブ三昧だったというこの1年を振り返りつつ、ライブMCが作曲のきっかけになった新曲の制作エピソード、2023年4月14、15日に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で迎える主催ライブ「Ivy to Fraudulent Game Presents “春の中へと”」に向けた意気込みを語ってもらった。

なお昨年10月、約11年にわたってバンドに在籍していた大島知起(G)が脱退するという大きなニュースが飛び込んできた。インタビュー実施時からバンドの状況に変化が生じたことを受け、特集の冒頭にはバンドからの追加コメントを掲載する。

取材・文 / 天野史彬文中カット撮影 / 宇佐美亮

Ivy to Fraudulent Game「B.O.Y.」配信リリースを迎えてのコメント

本来であればB.O.Y.という新曲はツアー“春に逢えたら”の前にリリースする予定でしたが、このインタビューの直後に大島の脱退が決まりこのタイミングでのリリースとなりました。青春をテーマに書いた曲でしたが、今歌詞を読み返すと不思議と今の自分たちの気持ちとリンクしています。皆さんそれぞれの生活の中でもその様に歌詞が形を変えていけばいいなと思ってます。

パニックの中から始まったツアーもたくさんの人の力を借りて完走することができました。Ivy to Fraudulent Gameは今、探り探りではありますが、新しい自分たちの形を見つけ、よりバンドとして強くなっていけてる気がしてます。

やりたいことに向かってまっすぐ進んだ1年

──muffin discsへと移籍し、ブランド「from ovum」を立ち上げてから約1年が経ちました。この1年間の活動を振り返って、どのような手応えを感じていますか?

寺口宣明(Vo, G) やりすぎかなっていうくらい、ライブをやってきた期間ではあるんですけど(笑)。振り返ると、移籍したことは結果として、自分たちが変わるきっかけになったと思いますね。移籍してからはもっとシンプルに音楽を楽しみたいと思うようになったし、楽しませたいと思うようにもなった。それはもちろん、コロナ禍の影響もあるとは思うけど、俺たちが存在している意義みたいなものをガラッと変えられた1年だったと思います。過去のことを否定するわけではないですけど、やっとシンプルに、いいものを「これ、いいじゃん」って体現できるようになった感じがします。

福島由也(Dr, Cho) 僕も確実に、移籍してからの自分たちは変わったなと思っていて。murffin discsには第一線で活躍している人たちがたくさんいらっしゃるので、そういう人たちを間近に見ながら活動することで、感化されながらどんどんと意識が変わっていった部分もあると思います。第一線にいる人たちって、眼差しというか、瞳に宿っているものが違って、それは心の表れだと思うんですよね。やっぱり長くやっていると、どうしても惰性になっていく部分や、忘れてしまう気持ちが出てきてしまうじゃないですか。それまでの僕らが惰性的になっていたわけではないけど、この1年は、忘れかけていたことを今一度思い出す期間だったというか。実りのある1年だったと思いますね。

左から寺口宣明(Vo, G)、福島由也(Dr, Cho)。

左から寺口宣明(Vo, G)、福島由也(Dr, Cho)。

──第一線で活躍している方々を見ることで得た気付きは、この先、Ivyとしてより大きくなっていきたいという思いにもつながるものですか?

福島 そうですね。もともと「大きくなっていきたい」という願望はあったけど、それがより具体性を帯びてきたというか、もっと深く考えるようになったと思います。ぼやっとしていたイメージだったものが、より明確に考えられるようになってきたと思う。

──やりすぎなくらいライブをやってきたというのは、バンドの意志として求めていたものだったんですか?

寺口 必ずしもそういうわけではないです(笑)。でもハードになることはわかりながら、マネージャーと話し合いながら作っていったスケジュールだったんですよね。なんというか、「ダメになったらダメになったでいいかな」ってくらいの勢いというか、「なんとかするでしょ」というのが、今の俺たちのモードという感じがします。石橋を叩きながら渡るんじゃなくて、転がるように、前だけ見て突き進んでいる。俺にとって歌を歌うことは、一番大切な行為だからライブで声が出ないときは悔しいし、そういう経験もこの1年でしてきましたけど、声が出なくても伝わるもの……例えば必死さとか、全力で楽しんでいる感覚とか。そういうものも、特にこの1年間で見出してきた気はします。

──今年は寺口さんのソロ名義での弾き語りミニアルバム「Privacy」もリリースされていますよね。今作は福島さんがエンジニアとミックスを、カワイリョウタロウ(B, Cho)さんがジャケットのデザインをされていますが、どういった経緯で制作されたのでしょうか?

寺口 「出したいな」と思えたんですよね。これまではソロの音源を出してしまうことで、バンドのボーカルとしての存在感が薄まってしまうかもしれないというリスクを感じていたんですけど、今の自分のマインドや歌、ポジションを考えたときに、「出そうかな」と思えたんです。この1年でバンドがガラッと変わっていく中で、ここでなら自分のソロも当てはまる感じがしたというか。バンドと俺のソロの乖離があまりない状況になってきたんだと思います。

寺口宣明(Vo, G)

寺口宣明(Vo, G)

──福島さんは、「Privacy」の制作に対してはどのような思いがありましたか?

福島 僕はそもそも、弾き語りでこそ裸で伝わるノブ(寺口)の歌のよさがあると思っていて。バンドサウンドで見せることのできるものと弾き語りで見せることができるものって、感覚的には全然違うものだと思うんですけど、その弾き語りの部分が伝わるのはすごくいいことだと思ったし、僕自身はそこに携われることで、歌に対しての理解度をより深めることができたと思っていて。この先も、ノブのソロは出していっていいものなんじゃないかと思います。

──寺口さんは「バンドがこの1年でガラッと変わった」とおっしゃいましたけど、今年リリースされたフルアルバム「Singin' in the NOW」リリース時のインタビュー(参照:Ivy to Fraudulent Game「Singin' in the NOW」完成記念インタビュー)では、自分たちの変化が聴き手にどう伝わるか不安もある、というお話もされていました。実際、「Singin' in the NOW」が世に放たれてから数カ月経って、アルバムに対しての手応えはいかがですか?

寺口 出すことができてよかったアルバムだったと思えていますね。大袈裟かもしれないけど、人生が変わるくらい、あの1枚を出したことで見える景色が変わった気がしていて。確かに前のインタビューで言ったように、どう受け取られるか心配な部分もあったんですけど、自分が愛を持って作った曲たちをみんなが受け入れてくれたのは、ライブでも感じるし、聴いてくれた人の感想からも感じたし。それに安心したし、信じてよかったなと思いました。

福島 自分たちの心境の変化につながる作品だと思うし、ライブや日々の活動で見える景色が広がるきっかけになった1枚だと思っていて。作ってよかったし、今までの中でも大きなターニングポイントになった1枚だったと思います。

青春は俺たちが用意するよ

──今回配信される新曲「B.O.Y.」は、「Singin' in the NOW」で得たものを引き継ぎつつ、来年4月のZepp DiverCity(TOKYO)公演への導き手になるような楽曲だと思います。この曲は福島さんの作詞作曲ですが、どのように生まれたんでしょうか?

福島 この曲はツアー中のノブのMCがきっかけで生まれたんです。青春を奪われてしまったというか、コロナ禍になって、行きたいところに行けなかったり、普通の時代に生まれていたら体験していたはずのことを体験できなかったりしている人もいるけど、それでも青春は自らの意志や心で作っていけるし、それを俺たちは用意するよっていうことを言っていて。それがすごくいいなと思ったんです。「青春」というテーマは、今描くものとしてもふさわしいものだと思って。

──そのMCのことは、寺口さんは覚えていますか?

寺口 はい。ツアーでは必ず話していたことなんです。コロナ禍の今は、救いようのない状況で。奪われたことへのフラストレーションや怒り、悲しみをぶつける対象がないんですよね。ただ、凌ぐだけの日々が続いていく。でもそんな中でも多くの人があきらめきれずに、楽しいことに手を伸ばしたり、自分が幸せになるための選択を日々していたりする。そういう中で、俺たちは音楽を鳴らしているっていう事実があって。ライブをしていると、楽しい日を作りたくて、リスクがあっても、楽しいものに手を伸ばして人生を楽しもうとしている人たちの姿が見えて。俺はそれが美しくてカッコいいことだと思う。そういう人たちが目の前に立ってくれているということが、俺はすごく誇らしいんですよね。だからこそ全力で目の前の人たちに歌うし、楽しむし。そういう意味で、そのMCを言っていたんです。「青春は俺たちが用意するよ」って。

──実際、こうしてその思いが曲になって、どう受け止めましたか?

寺口 今バンドが伝えようとしていることを1曲にしてくれているなと思いました。青春=甘酸っぱくて弾けるものっていうことではなくて、そこには失ったものもあって。それは俺たちもそうだし、生きている人は誰だってそうだと思う。でも、それでも「今」に対して豊かであろうとすること、「青春でありたい」と思うことって、何も恥ずかしいことではないと思うんですよ。必死なことも、ちょっとでも幸せになりたいと思うことも、決してカッコ悪いことじゃない。聴いた人が、迷わず、自分が手を伸ばしたいものを選択できるような曲であってくれたらなと思います。

──お話を聞いていて思いますけど、寺口さんがライブで目の前にいるお客さんたちを見たときに、彼らは「幸せになりたい」と思っていて、何かに手を伸ばしていると、そう感じるということですよね。

寺口 感じますね。見てくれている人の表情を見ていると、さらけ出してくれているような気がするんです。……悲しいことかもしれないけど、結局、音楽って人間なんですよ。音楽は音楽だけじゃない。今までは「音楽を届けよう、音楽を届けよう」と躍起になっていたけど、今は音楽に囚われず、音楽の中で、歌の中で、自由になれるようになった気がして。そうすることで、お客さんと会話するように音楽ができているのかなと思います、バンドも、自分自身も。

──悲しいことかもしれない、というのは?

寺口 うーん……今までは「音楽が素晴らしければ絶対に伝わるでしょ」と思っていたし、そこは信じていたんですよね。鳴っているものがすべてだと思っていた。でも、そうじゃないなと思い始めて、今はそっちのほうが確信に変わっているんです。人を愛しているという事実が、確信に変わっている。

──今のお話に関して、福島さんはどう思いますか?

福島 結局、音楽は人が鳴らすものだからってことかな。やはり音楽と人間は切っても切り離せない関係性のものなんだと僕も思います。自分たちの楽曲が変化していくのも、「変化しよう」と思って変化するようなものではなくて。僕らが人間として変化しているから、楽曲が変化するし、その逆も然りで。音楽が変化して、それによってまた人間が変化するという側面もある。今の自分たちはそういう循環の中にいて、それをどんどんと体現できるようになってきているなと思います。音楽を作り始めた頃は、変化できない自分に対して音楽をぶつけているような感覚があったけど、今は、変化する自分自身を受け入れていけているし、変わっていく自分を音楽に投影できるようになっているなと思います。

福島由也(Dr, Cho)

福島由也(Dr, Cho)

──変化というのは、時として喪失でもあり得ると思うんです。「B.O.Y.」の歌詞には「失くしたものの数ばっか また一つ二つと増えていく さよならがいつだって 怖いのは変わらないなぁ」というフレーズがありますが、青春を描くこの曲に、こうやって喪失も描かなければいけなかったのは、どうしてでしょうか?

福島 物事には絶対に裏側があって、表と裏が密接に関わり合っているという思いが、僕には常にあって。きらびやかな気持ちがあったとしても、その裏には相反するような感情や体験がないと、説得力がないなと思ってしまうんですよね。できるだけ、どんな人が聴いたとしても、それを自分事のように感じとれる音楽が自分にとっては理想なので、そういう部分を曲に入れることは常に意識していると思います。それに、何かを失っていくことが、必ずしも悲観的なものだとは僕は思っていないので。言葉面だけで見るとマイナスなものに見えても、それは自分の体験として考えると必要な要素で、それによって得られたものだってあるはずだし。失くしたものの存在を知っていないと見ることができないものはたくさんあるし、そういうことを僕は描いてきたいなと思います。