Ivy to Fraudulent Gameの“今”が詰まった「Singin' in the NOW」完成記念インタビュー

Ivy to Fraudulent Gameが5月4日にニューアルバム「Singin' in the NOW」をリリースする。

昨年9月にmuffin discsに移籍し、mini muff recordsとタッグを組んで自身のブランド「from ovum」を立ち上げたIvy to Fraudulent Game。彼らが長年のキャリアを経て発表する新作はバンドの“今”をフィーチャーしたフルアルバムで、これまでの彼らとは一線を画すサウンドバリエーションと、「貴方の暮らしを笑顔にできますように」という願いが込められた楽曲が10曲収められる。

音楽ナタリーでは自信作を完成させた彼らにインタビュー。アルバムのコンセプトや、楽曲それぞれに込めた思い、サウンド面での進化などについて話を聞く。インタビューの最後には、「愛とは何か?」という根源的な質問にも答えてくれた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 佐藤広理

どうやって「今」を最大限に作り出せるか

──この度リリースされる「Singin' in the NOW」は、muffin discs移籍後初のフルアルバムとなりますが、非常に風通しのいい、Ivy史上過去最高に開けた作品だと感じました。制作するにあたり、コンセプトなどはありましたか?

寺口宣明(Vo, G) コンセプトや狙いをガチガチに固めて作ったわけではないんですよね。ただ、今言ってくださった風通しのよさは意識していました。キャッチーなものを作りたいと思っていたというか。

大島知起(G) 今のバンドのムードがそのまま反映されている感覚だよね。

カワイリョウタロウ(B, Cho) うん。「再生する」(2021年4月発表の3rdアルバム)の頃から変わっていく片鱗は見えていたと思うけど、コロナでこれまで当たり前だったものが制限されていく中で、ライブができること、ライブを観てもらえることの喜びが今まで以上に感じられるようになっていて。そういうこともあって、肯定的なアルバムになったんじゃないかと思います。

寺口 やっぱりコロナ禍になって、誰しもが不自由の中にいると思うんですよね。だからこそ、生きていくうえでの楽しさが今すごく重要だなと思うんです。自分たちで楽しさを作り出したいと思うし、その楽しさを聴いてくれる人と共有したいと思うし。「楽しさ」と言うと軽く聞こえるかもしれないけど、音楽の楽しさってすごく複雑なものだと俺は思っていて。音楽で悲しむことも、怒りを表現することも、踊ることも、感動して泣くことも、すべてが音楽の「楽しさ」に含まれると思うんですけど、今の俺たちにとっての音楽の楽しみ方が、このアルバムなんだと思います。初期の頃は、俺たちはそこまで音楽を楽しむことができていなかったんですよ。どちらかというと、「感動」と「ハングリー精神」だけでやっていた。「楽しさ」の割合が少なかったんですよね。楽しいことを表現することから逃げていたなと、振り返ると思う。

寺口宣明(Vo, G)

寺口宣明(Vo, G)

──「感動」と「楽しさ」のバランスの違いが、これまでのIvyの作品と今作との違いをわかりやすく説明しているような気がしますね。

寺口 リスナーの皆さんもシンプルに楽しめるものが作れたなと思いますね。

福島由也(Dr, Cho) ただ、このアルバムで表現したかったことって、これまでの自分たちとそこまで差異があるわけでもないんですよね。この2、3年くらい、日常的なものが制限される以外でも、心の部分や根源的な部分で、当たり前のものがなくなっていくことを目の当たりにすることがあって。そこには、何かを失う悲しみだってあった。でも、そういう中で、ネガティブなことをネガティブなまま表現することが、僕としてはしっくりこないところがあったんですよね。だからこそ、今の状況に対して自分たちはどれだけの光を作り出せるのか? そういうことを意識して作ったアルバムだと思います。どうやって「今」を最大限に作り出せるか、ということに向き合ったというか。それができなければ、いつまでも状況は変わらないと思ったし。

──今、福島さんがおっしゃったことは、この「Singin' in the NOW」という作品が現実や時代感に対しての「反抗」という態度を持っている、と言い換えることはできると思いますか?

福島 うーん……。反抗というよりは、自分の心持ちが自ずと変化していったという感覚ですね。「この状況をぶっ壊そう」みたいな精神ではないです。ただ、この状況の中でどうやって、自分は最大限に楽しめるか?というところにフォーカスしたかった。なので、表層的にカテゴライズできるものではないし、それゆえに、もっと根源的で単純なものなんだと思います、このアルバムにある自分にとっての音楽の楽しさは。

変化は楽しみでもあれば不安でもある

──3月22日にはshibuya eggmanで本作の収録曲に限定したセトリのライブをすでに行っているんですよね。アルバムリリース前の新曲披露となりましたが、手応えはいかがでしたか?

寺口 今までの俺たちからしたら振り切ったアルバムになっているので、自分たちでもどうなるのか想像つかない感じだったんですけど、始まってみれば、しっかりIvyでしたね。聴いてくれる1人ひとりに好き嫌いはあるし、答え合わせができないので不安もあったんですけど、「このアルバムもIvyだ」と自信を持って言えるなと思いました。

福島 僕は単純に、初めて演奏する曲ばっかりだから緊張しました(笑)。

一同 (笑)。

カワイ 俺もまったく一緒だわ(笑)。

福島 ただ、曲が持っているもともとのエネルギーが、ライブだと強く感じられましたね。今回のアルバムは特にライブで映える曲が多いなと思ったし、今まではその曲が「その曲であるため」にがんばって演奏している感覚があったけど、今回のアルバムの曲は「この曲たちはこれからもっと成長していくんだろうな」と思えていて。ライブで進化していくイメージがすごく浮かびました。

大島 僕も不安はあったけど、やってよかったなと思いましたね。これまでの自分たちの曲たちは身構えて聴くような曲が多かったけど、今回は肩の力を抜いて聴ける曲が多いと思うんですよね。なので、今までよりもフロアとステージはかなりシンクロしていたんじゃないかと思う。

──寺口さんと大島さんがおっしゃる「不安」というのは、これまでのIvyのパブリックイメージと比較してということだと思うんですけど、やはり不安はあるものですか。

寺口 めちゃくちゃあります。でも、やりたいときにやりたいことをやるのがロックバンドだと俺は思っているので。賛否どんな意見がくるのか、楽しみでもあります。不安ではあるけど、不安も楽しめているような感じがありますね。自分としては、いいアルバムだなと思うし、それでいいかなって。

カワイ きっと、聴いてくれる人のIvyに対しての印象はだいぶ変わりますよね。でも、聴き返すと「このアルバムを作ってよかったな」と俺も思います。

大島 今までもやりたいことをやってきたし、今回もやりたいことをやっただけで、スタンスとしては変わらないしね。それが一番、誠実というか、健康的だと思う。

大島知起(G)

大島知起(G)

──福島さんはどうですか?

福島 不安……別にないですけどね。むしろ、なんで今までの自分たちに暗いイメージがついていたのかわからない(笑)。

一同 (笑)。

福島 今までだって、明るい曲もあるから(笑)。

歌で始まり、歌で終わるアルバム

──今作では前作「再生する」と同様にメンバー全員が作曲者としてクレジットされているわけですが、全員が曲を作るというのは、今のIvyにとっては自然な流れということですよね。

寺口 いつの間にかそうなっていましたね。それぞれが曲を作るからといって、アルバムの内容が散漫になるんじゃないかとか、そういう懸念も一切なかったです。前作を作ってわかったこととして、4人それぞれ作る曲のアプローチは違うんですけど、その中に必ず「Ivyで鳴らすもの」という視点がインプットされているんです。そこはお互いを信頼できていると思うし、ほかのメンバーが曲のアイデアを持ってきたときはワクワクしますね。

──今、カワイさんと大島さんにとって、曲作りとは?

カワイ 僕が今回初めて単独で歌詞を書いてみて思ったのは、曲を作ることは自分の生活にリンクしてくるものなんだなっていうことですね。

大島 僕は音を作ったり、作った音をパズルのように積み重ねていったりする作業が楽しいという感覚ですね。人が作った曲も「こうしたら面白いんじゃないか」って妄想したり。それが、ただただ楽しいです。

──今作は1曲目が「泪に唄えば」、最後を飾るのが「愛の歌」。「うた」という言葉で始まり終わるアルバムとも言えますが、タイトルにもまさに「Singin」と入っています。アルバムタイトルを付けられたのは、曲が出そろったあとですか?

福島 そうですね。「今」にフォーカスしたアルバムでもあるし、なるべく、このアルバムを象徴するタイトルにしたいなと思って、付けました。1曲目の「泪に唄えば」は「雨に唄えば」というミュージカルのオマージュなんですけど、そこからアルバムタイトルは原題の「Singin' in the rain」のオマージュにしようかなと思って。あのミュージカルのポップな雰囲気がアルバムにリンクすると思ったし、語感の軽やかさもいいなと思ったんです。今までは日本語タイトルでやってきたんですけど、今回のアルバムに関しては、そのイメージが浮かばなかったんですよね。もっと軽やかでいいような気がして。