入野自由|アーティストデビュー10年目、全曲作詞で切り開いた新境地

母親の言葉から生まれたフレーズ

──これまでの作品からはもっと前のめりな、入野さんの野心のようなものを受け取ることが多かったので、今作は非常に優しい印象のアルバムになったなと思いました。歌詞も立ち止まって周りを見回しているようなものだったり、自分の目に映る他人の姿を描いたものだったり。

今までは“自分の思い”という感じの曲が多かったですけど、特にリードトラックの「誰からも愛されるあなたのように」は誰かのことを書くというか、「誰かのために書く」というのもいいんじゃないかというアドバイスをもらって書いた曲ですね。ちょっと立ち止まっているという印象は、仕事を休んでいるときに書いた詞だからかもしれません。仕事することをまったく考えてないし、仕事にしようと思って書いている感じでもないですし。

──全体として落ち着いたトーンに仕上がってはいるんですが、ボサノバっぽい曲があったり、ファンクだったりピアノバラードがあったりと、サウンドのバリエーションは多彩ですね。

全部自分で詞を書いている分、結果として言葉が似てきてしまう部分があったんです。そんな中で曲ごとにどう変化をつけようか考えて、曲のテイストがばらけるようにかなり精査しました。「Lazy morning」の作曲を担当してくれたマツキ(タイジロウ / SCOOBIE DO)さんは、「誰にこの曲をお願いしたらいいんだろう」と悩んでいたときに、ディレクターから「マツキさんはどうですか」と提案してもらったり。「sayonara baby」の指田(フミヤ)さんもそうでした。

──「誰からも愛されるあなたのように」の作曲を担当されたnikiieさんは、初めてご一緒に制作された方ですよね。これは入野さんの希望で?

はい。nikiieさんはもともと友達で、彼女の曲も歌も好きだったので、「この詞は彼女にお願いしよう」と思いついたんです。詞もすんなり書けたものでしたし、nikiieさんにお願いして返ってきた曲もスッと腑に落ちて、「これだな」という感じがしました。

──「例えば歌が日記だったなら」の作曲を手がけたichikaさんも初めてですよね。

彼には会って2回目ぐらいで依頼をしたんですが、もともとコラボできたら面白いだろうなと思っていた方でした。メインで鳴ってるギターをichikaくんが弾いてくれているんですが、ギターが一緒に歌ってくれているような雰囲気は、やっぱりichikaくんにしか書けないリフだし、彼にしか出せない鳴らし方だと思います。

──この曲の「優しいことは強さなんだと歌い続けていたい」というフレーズはとても印象的でした。

これは自分の母親の言葉を歌詞にしたものなんです。日本に帰ってきてから、最後に書いた曲なんですが、僕が生まれてすぐの頃のことを両親が書き留めた日記のようなものがあって、その中にあった言葉です。確かに自分はそうやって育てられたし、自分もそうだなと思うこともあったので、ベースとなる詞を書いたあとに共作の只野(菜摘)さんにもお話しし、より歌詞らしく仕上げてもらいました。

入野自由「Live Your Dream」通常盤ジャケット

歌に対する考え方の変化

──詞先で作ってもらったことで、「自分の歌詞がこういう音になるんだ」とギャップを感じた曲はありますか?

どれも曲に関してはイメージ通りでした。歌詞が一番変化したのは「MASCLETA」ですね。これは元の歌詞に佐伯youthKくんがたくさん言葉遊びをいっぱい入れてくれて。「MASCLETA」はスペインで見たお祭りが題材なんですが、そのお祭りの動画を観てもらって話し合いをして。ほかがしっとりした曲が多かったので、大爆発してるもの、とにかく遊べるテイストでお願いしたんですが、歌うのはすごく難しかったですね。最初に曲を聴いたときに、「これは歌えないと思う」という話をしました(笑)。もちろん楽しかったんですが、大変は大変でしたね。

──1枚通してご自身で作詞をしてみて、新たに得たものはありました?

詞を書くのって難しいなあと(笑)。あとは歌というものに対する考え方、「なんで歌うのか」「誰のために歌うのか」とか、そういう感覚は得られたかもしれません。今までは自分の好きな人たち、信頼、尊敬する人たちがいい曲といい詞を書いてくれて、それを歌うというのが自分のスタンダードだったんですけど……心のどこかでプロじゃない自分が歌詞を書いて、それを買ってもらうことに対して「いいのかな?」という思いがあったんです。でも今回詞を書いてみて、もちろんいい歌詞であることに越したことはないけど、自分にとってどうか、自分がどういう思いで歌っているかということが、すごく大切だなと思いました。

──そうですね。ミュージシャンというか、表現することにおいて“プロ”という境目ははっきりとあるものではないですし。

その感覚が変わった感じはありますね。

──では、次の作品でも作詞したいと思いますか?

曲に詞を当てましょうという形だと締め切りがあって不安になるので、詞ができたときに考えるくらいのテンションが一番いいかと思います(笑)。

──なるほど(笑)。そして本作を携えて8月にツアーが始まりますが、今回は過去最多公演ですね。

はい。新木場STUDIO COASTは自分でもライブを観に行ったことがあって、「いつかここでやりたいな」と思っていたんです。2015年のツアーで行った福岡・DRUM LOGOSでまたライブができることもすごくうれしいです。

──前回の「入野自由 Live Tour 2017"Enter the New World"」は千葉・大阪だけでしたし、どちらもホール会場だったので、また違ったライブになりそうですね。

そうですね。「DARE TO DREAM」の楽曲もライブでは3回しかできなかったので、「もっとやりたかったな」と思っていたんです。自分自身も歌い込むことで成長していき、お客さんが曲を育ててくれて、曲の印象もどんどん変わっていくということを、2015年のツアーで経験させてもらいました。しばらく歌えていなかったので、シンプルに生で歌うということをやりたい気持ちもあるし、歌う体をもう1回作っていきたいです。

──楽しみにしています。ところで入野さんは今年でアーティストデビュー10周年を迎えるんですよね。でも、あまり節目とかは……。

意識しないですね。特に10周年だから何かしようというのは考えていないんですが、レーベルのKiramuneも一緒に10周年を迎えて、4月には「Kiramune Music Festival」の10周年公演があるので、そこでいいものを見せたいなと思っています。

ツアー情報

入野自由 Live Tour 2019
  • 2019年8月3日(土)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2019年8月5日(月)東京都 新木場STUDIO COAST
  • 2019年8月11日(日・祝)大阪府 なんばHatch
  • 2019年8月18日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2019年8月24日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2019年8月25日(日)宮城県 Rensa
  • 2019年8月31日(土)香川県 高松オリーブホール
  • 2019年9月1日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2019年9月6日(金)東京都 新木場STUDIO COAST

2019年3月25日更新