自分に発破をかけて
──「はずでした」もかなり面白い曲ですよね。トラックはスペイシーなニュアンスがありますが、ボーカルの表情は“平熱”“真顔”という感じで。虚無感のようなものも感じるし、アルコールで酩酊して時空が捻れているような感覚さえ覚える。
2年前にコロナ禍になったとき、家でボーッとしながらひたすら宇宙のことを考えていた時期があって。それで、こういう宇宙っぽいイメージの曲がいっぱいできたんですけど、そこから自分を現実に引き戻すのが、すごく難しかったんですね。この「はずでした」という曲は、宇宙空間から現実に戻ってきたつもりだったのに、また戻されちゃったという話で。
──「現実に戻ってきたはずでした」という。
そう(笑)。だから、「渦」でもまだ宇宙にいるイメージです。それで、3曲目の「泡」に入ってから現実に戻ってくるという流れですね。
──「泡」はチル、という感じですよね。
日常に戻ってきたんだけど、まだフワフワしているという状態です。からの4曲目「摩天楼」で、一気に動き出していくという。
──この飛躍度合いはすごい(笑)。クラブで繰り広げられる恋の駆け引きのようなストーリーが浮かぶ曲ですが。
最初はそういう恋模様を思い描いていたんです。私の中では、「摩天楼」を身長の高いギラギラした男性に見立てて。でも歌詞を書いているうちに、だんだん恋愛の曲ではなくなっていきました。自分の中でモヤモヤしていることに対して、この曲で何かをぶつけたいというマインドに変化していって。だから内省的で、自分に発破をかけているみたいな感じの曲でもあるのかな。でも、めちゃくちゃ強いですよね、この曲。
──かなり強いと思います。この曲は1月のライブでもすでに披露されていましたが(参照:CHAIとゲストがあふれる個性を自由に発揮、最高の夜を作り上げた「冬のCHAIまつり」)、歌っているときの感覚はどうですか?
「摩天楼」はとにかく強い感情をあらわにしなきゃいけない曲なので、ちょっとこっ恥ずかしさもあるんですけど(笑)。まあ、それも慣れでしょうね。今までライブで歌う曲はみんなと一緒に盛り上がるようなものが多かったけど、この曲はそうではなくて、自分1人が爆発しているみたいな感じだから、実際に歌ってみてパフォーマンスの在り方が難しいなと。この曲を乗りこなせるように模索していきたいですね。
あの日、ステージ上に現れた光
──ちなみに「neon」というアルバムタイトルも、「摩天楼」のイメージから拡張されたところがありますか?
「摩天楼」もそうだし、宇宙で輝く星のイメージもありましたね。アルバムを作っているときに、自分の中で“光”を意識している部分があったんですよね。あとは……昨年10月にメジャーデビュー5周年記念のツアーファイナルをSTUDIO COASTで開催して(参照:「私は私のrhythmで」iriが自身の原点と現在地示したアニバーサリーツアー、今週末にミニライブ生配信)。で、ちょっとスピリチュアルな話に聞こえるかもしれないですが……アンコールで「brother」を歌ったときに、ステージ上に兄がいるなと感じたんです。
──ああ、そういう実感があったと。
そうそう。「ここに兄がいる」という、すごくリアルな感覚があって。
──「brother」は生まれてすぐに亡くなったiriさんのお兄さんに宛てて書かれた楽曲であることは、ベスト盤のときのインタビューでも語ってくれていましたね(参照:iriベストアルバム「2016-2020」インタビュー)。
はい。あの日STUDIO COASTで「brother」を歌ったとき、ステージの一部分がめっちゃ光っていたんです。照明のせいじゃなかったし、お客さん側からもたぶんその光が見えていたと思うんですけど、とにかく兄がそこにいる気がして。そうなると、普通はうれしくて感動すると思うんですが、私は「え、来てくれたんだ!?」という驚きでなんか笑ってしまって(笑)。いつも「brother」は、ゆったりとエモーショナルに歌う曲なんですが、その日だけはめっちゃにこやかに歌っちゃったんですよね。で、ライブが終わってファンの方からメッセージが来たんですけど、「お兄さんいらっしゃってましたね」って。それで余計に「うわあ! やっぱり来てたんだ」と。
──それは忘れがたいライブになりましたね。
なりました。そのときに、もしかしたら人の魂って自然な発光体のようなものなのかなと思ったんです。あとはアルバムのジャケット写真で、サナギをイメージしたデザインの衣装を着ているんですけど……。
──「泡」の歌詞にも“蛹”(サナギ)というワードが出てきますね。
今の自分はいろんなことを経験して、いろんなものを吸収して、いろんなものを蓄えている途中で……まるで蝶になって羽ばたく前のサナギのようだなと思って。それで、サナギの体が土の中で光ることから自然に発される“ネオン”のイメージが広がっていって、「neon」というアルバムタイトルになりました。
──つまりこの「neon」は、魂であり生命力の発露としての光であると。
はい。それでジャケに映る自分もサナギみたいなビジュアルにしたいなと思って、髪の毛も見せないようにしました。
──なるほど。このアルバムは音楽的にも人間的にも新しいフェーズに向かおうとしているiriさんの指標のようでもありますね。
そうですね。まだ変化の途中ですし、ここからまた新しいものがいろいろと生まれてきそうな気がしています。
──4月にはご自身初のアコースティックワンマン、それを経て5月には「neon」のリリースツアーが始まります。ライブに対してどのような思いがありますか?
ずっと前から、アコースティックライブをやりたいと思っていたんです。アコースティック形式のパフォーマンスは私の原点でもあるし、これまでリリースした曲をアコースティックアレンジで、いろんな場所で歌うというビジョンを以前から持っていて。それで今回は、念願叶って1回お試しでやってみようということになりました。
──なるほど。それは楽しみですね。
アルバムのリリースツアーは、これまで通りお客さんもみんな踊れる雰囲気になると思いますが、アコースティックライブではゆっくり自分の歌を聴いてもらえたらうれしいです。私が昔から知っているギタリストがいるんですが、アコースティックライブは彼と一緒にやるつもりで。なんでも弾けるギタリストなので、自分の曲との化学反応もすごく楽しみです。もちろんアルバムツアーも音源とは違うライブならではのアレンジでパフォーマンスする予定なので、そのために私もしっかり準備しなきゃなって思います。
ライブ情報
iri Presents "Acoustic ONEMAN SHOW"
2022年4月27日(水)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
iri S/S Tour 2022 "neon"
- 2022年5月15日(日)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2022年5月21日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2022年5月22日(日)大阪県 Zepp Osaka Bayside
- 2022年5月24日(火)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2022年5月29日(日)北海道 Zepp Sapporo
- 2022年6月4日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2022年6月5日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2022年6月11日(土)沖縄県 桜坂セントラル
プロフィール
iri(イリ)
1994年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。メジャーデビュー前から「SUMMER SONIC」に出演したり、ドノヴァン・フランケンレイターの来日公演でオープニングアクトに抜擢されたりするなどして注目を浴びる。2016年8月にアルバム「Groove it」でメジャーデビューを果たし、2018年2月に2ndアルバム「Juice」、2019年3月に3rdアルバム「Shade」、2020年3月に4thアルバム「Sparkle」を発表した。2021年10月にメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム「2016-2020」をリリース。同月に行われた全国ツアーの模様を収めたライブDVD / Blu-ray「iri 5th Anniversary Live "2016-2021"」と、5thアルバム「neon」を2022年2月に同時発売する。4月にはアコースティックライブ「iri Presents "Acoustic ONEMAN SHOW"」、5月から6月にかけて全国ツアー「iri S/S Tour 2022 "neon"」を開催する。