indigo la Endロングインタビュー|バンドの“王道と変化”示すメジャー8thアルバムを全曲解説 (3/3)

「じゃあ、やってやろうじゃん」

──7曲目の「ラムネ」は、昨年9月にリリースされた先行シングル第2弾です。制作において当時イメージしていたことなどはありますか?

川谷 キャッチーなポップスに聴こえるんだけど、実際やってることは全然違うという構造の曲を作りたかったんです。歌メロはキャッチーにしているから、オルタナティブ性が一番わかりづらいと思います。聴き心地はキャッチーだけど実は攻めてる、みたいな曲があることでアルバムの深みが出るんじゃないかなと。

後鳥 この曲は弾くのが難しかった。ゆったりしたリズムで、拍を長く取って、いい感じで弾けて結果的にはよかったなと。ベースが目立つ曲でもあるんですけど、サビの少し変わったグルーヴ感が特殊なのでそっちにも注目してもらいたいです。

長田 この曲を作ってたのが前回のツアーが終わったあと、ちょうどNHKホール公演の(金子)厚武さんのレポートが上がった次の日ぐらいで、「長田のカッティングが様になってきている」みたいなことが書いてあって(笑)。

──そんな偉そうな書き方じゃないでしょ(笑)(※Rolling Stone Japanに掲載されたライブレポート。金子はその中で「かつては『得意ではない』と話していたカッティングはもはや楽曲の軸を担っていて」とつづっていた)。

長田 あのレポートを読んで「じゃあ、やってやろうじゃん」と思って、カッティングになりました(笑)。実際それが曲にうまくハマって、余計なことをしないでよかった感じがします。

長田カーティス(G)

長田カーティス(G)

佐藤 僕、ドラマーのBOBOさんを本当に尊敬していて。彼は超人であろうとしているし、実際ドラムを叩く姿を見ると超人だなと思うんだけど、「やっぱり人間が叩いてるな」というところが一瞬漏れてしまうときもある。でも「人間なんだからしょうがない」という考えではあの領域には絶対たどり着けない。この曲の1Aと2Aではずっと「人間じゃなくなるぐらいにタイトに叩きたい」と考えていました。僕はBOBOさんと比べると鍛錬が足りないから、彼にはなれませんでしたが、結果的にその揺れを得るプロセスがよかったなと思います。ドラム全体のリファレンスはハリー・スタイルズの一番新しいアルバム(2022年発表の「Harry's House」)の「Daydreaming」という曲で、実際のBPMは110ぐらいなのに、140以上の躍動感を感じるような、あの感じを目指そうと考えていました。

Netflix「ボーイフレンド」にインスパイアされて

──8曲目の「BOYFRIEND」はいかがでしょうか?

川谷 もともとこの曲のオケは、めちゃくちゃドロドロしたドラマのタイアップのエントリー用に作ったんですけど、それにはハマらずに宙ぶらりんになっていたんです。そんなときにNetflixの「ボーイフレンド」というリアリティショーを観て、シュンダイっていうカップルの雰囲気がサウンドに合ってる気がして勝手に歌詞を書きました。

──何かリファレンスはありましたか?

川谷 JUNG KOOKの「Standing Next to You」みたいな、マッチョなアメリカイズムをやりたくて作り始めました。ああいうイントロはインディゴではやったことがなかったけど、「MOLTING AND DANCING」というアルバムタイトルに沿ってトライしてみようと思って。マッチョなサウンドに、マッチョじゃない歌詞が乗る、その組み合わせも面白いかなと。

佐藤 自分としては戦隊モノのイメージで、画面外でもいろんな爆発が起こるとか、マシンが飛び出すみたいな、そういうことを意識した覚えがあります(笑)。それがちゃんとフレーズのフックになったんじゃないかと思います。

佐藤栄太郎(Dr)

佐藤栄太郎(Dr)

「FEVER」は新たなライブ定番曲になるかも?

──9曲目の「FEVER」は昔からあった曲だそうですね。

川谷 そうなんです。レコーディングも進んでいたけど、僕がコロナにかかっちゃって、自分のパートだけ録音できずにいて。もともとは外国アーティストとのコラボ用に作っていて、シティポップっぽさのある行き切ったサウンドが面白いかなと思ったんですけど、そのコラボの話がなくなっちゃったんですよ。でも、これも「MOLTING AND DANCING」というタイトルに合うんじゃないかということで、アルバムに入れることにしました。

──この曲はなんと言っても長尺のベースソロとギターソロが印象的です。

後鳥 8小節でヒーヒー言ってたら長田くんに怒られました(笑)。

──ギターのほうがだいぶ長いですからね(笑)。

長田 お客さんとのライブでの距離感について常々考えるんですけど、「FEVER」はもう少しお近付きになれる曲になったらいいなって。

川谷 ライブの定番になる可能性はあるよね。いろいろ遊べる曲だと思っていて、最近そういう側面を「晩生」(2021年発表のアルバム「夜行秘密」収録曲)に頼りきってた部分もあるから、「FEVER」みたいな曲が増えることで、ライブのやり方もちょっと変わるかも。

川谷絵音(Vo, G)

川谷絵音(Vo, G)

佐藤 「夜風とハヤブサ」(2020年リリース)みたいなシティポップに対する回答をもう一度っていう雰囲気もあってすごく好きです。歌詞は制作のことも込められてる?

川谷 込めてるね。

佐藤 それがめっちゃ面白くて好きで。「そうそうそう!」と思ってた。

──あ、「どうやったってもう間に合わない」とか(笑)。

川谷 「なんて理不尽な」とか(笑)。

佐藤 急がなきゃいけないタームがたくさんあったなって(笑)。

リスナーに対して投げかけてる

──10曲目の「盲目だった」は昨年11月に先行配信された楽曲で、横浜アリーナでのシューゲイズサウンドが非常に気持ちよかったです。

川谷 これも「やってそうでやってない曲を作ろう」というのが出発点でした。曲が長くなってもいいから、とりあえず全部詰め込んで、シューゲイズだけど曲の終わりがはっきりしてるというか、ポップスとして完成されているんだけどシューゲイズ感のある曲を作りたかった。コードはシンプルなので、あまりこねくり回さずに、あっという間にできた気がする。長田くんのイントロのフレーズができて方向性が固まった感じはあるかな。

長田 この曲はいろいろ考えましたね。あまりヒントがない中で簡単だけど印象的なアルペジオを考えなきゃいけなくて、あれだけのフレーズなのにマジで何日も考えた気がします。

後鳥 すごく好きな曲なので、しっかりと後ろで支えつつ、シューゲイズするところは重く重く弾きたいなと考えていました。

後鳥亮介(B)

後鳥亮介(B)

佐藤 ドラムのアレンジはエルヴィス・コステロをリファレンスにしつつ、とあるバンドのストーリーを表現してみました。

──歌詞もすごく印象的で、コミュニケーション不全に陥っている現代に対する非常に切実な内容だと感じました。

川谷 歌詞に「僕があなたの光でも あなたは僕の光じゃない」とありますけど、普通は逆のことを歌うじゃないですか。でも、こういうことってあると思うんですよ。やっぱりみんな周りが見えてない。「何を言ってもいい」という空気もあるし、ここまでSNSが広がっても、自分が発信した言葉で相手がどう思うかまで想像できていない。想像できないことが当たり前になってる人が増えすぎてて、そういうことを歌詞にせざるを得なかったんです。アルバムの中で一番重い曲でもあるし、これをどういう気持ちで聴くんだろうとも思うんですけど、完全にリスナーに対して投げかけてる曲ではあります。

結成15周年、indigo la Endの2025年は?

──アルバムは「盲目だった」で終わっても成り立ちそうだけど、11曲目の「Lauren」が映画のエンドロール的な役割を果たしていて、すごくいいなと思いました。リファレンスはMitski?

川谷 正解です。

長田 仮タイトル「ミツキ」でした(笑)。

川谷 短いバラードをやりたかったんです。3分もないぐらいですけど、このゆっくりなテンポで、ちゃんと間奏もあって、うまくまとまりました。地味ですけど、やっぱりこういう曲が入ってることによってアルバムが締まるかなって。

後鳥 この曲はなるべくシンプルに、削ぎ落とすことを意識しました。あとピアノがめちゃくちゃ好きですね。

長田 僕もそんなに難しいことはしてないですけど、コーラスとギターにかけたビブラートが相まって不思議な音像を生み出していて、それがすごく気持ちいいですね。

佐藤 いろんなリファレンスに対して、それとどう向き合うかをずっと考えてたんですけど、この曲は逆にルーズにやることが正解だと思ったから、すごくワクワクしたし、過程と結果がコンパイルできて、そういう意味でもラストっぽいですよね。ほかの曲は筋肉がすごいけど、この曲はすごく力が抜けてて、手綱が緩い。なんなら離してもいい。その切なさが演奏にも出て、すごくよかったなと思います。

──「MOLTING AND DANCING」というタイトルに導かれるように、王道と革新が入り混じった、躍動感のある11曲が集まったアルバムであることがよくわかりました。2025年は結成15周年ということで、最後に川谷さんからひと言いただけますか?

川谷 15周年なので、過去の曲と向き合う時間も長いと思うんですけど、そこに新しいアルバムの曲をどうやって入れていくかを考えてるところです。新しい自分たちを見せながら過去も振り返るのはなかなか大変ではありますが、アニバーサリーのライブやツアーもいろいろ変わってくるというか。今シリーズ2まで発表してますけど、シリーズ3以降もあるし、この1年はいろんなライブを予定していて。その都度ちょっとずつテーマを変えていけたらなと思っているので、ぜひライブに来てほしいです。

indigo la End

indigo la End

ライブ情報

indigo la End 15th Anniversary Live Special series#1 「夜凪」

2025年2月24日(月・振休)東京都 東京ガーデンシアター


indigo la End 15th Anniversary Special Series #2 ONEMAN TOUR 2025「藍のすべて」

  • 2025年4月5日(土)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2025年4月12日(土)香川県 サンポートホール高松 大ホール
  • 2025年4月18日(金)栃木県 栃木県総合文化センター
  • 2025年4月20日(日)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート) 大ホール
  • 2025年4月23日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年4月24日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年5月2日(金)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2025年5月10日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年5月11日(日)広島県 上野学園ホール
  • 2025年5月17日(土)石川県 本多の森 北電ホール
  • 2025年5月20日(火)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年5月23日(金)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
  • 2025年5月24日(土)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年5月31日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2025年6月1日(日)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2025年6月8日(日)茨城県 ザ・ヒロサワ・シティ会館(茨城県立県民文化センター)
  • 2025年6月20日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2025年6月21日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA

プロフィール

indigo la End(インディゴラエンド)

川谷絵音(Vo, G)、長田カーティス(G)、後鳥亮介(B)、佐藤栄太郎(Dr)からなる4人組ロックバンド。川谷を中心に2010年に結成され、2014年に後鳥、2015年に佐藤が加入し現体制となる。歌とギターのツインメロディ、独創的なバンドサウンドで話題を集め、2014年4月にミニアルバム「あの街レコード」でunBORDEよりメジャーデビュー。2015年2月にメジャー1stフルアルバム「幸せが溢れたら」、6月に現体制初の音源となるシングル「悲しくなる前に」をリリースした。2023年1月にリリースしたシングル「名前は片想い」がバイラルヒット。10月には同楽曲を含むメジャー7thアルバム「哀愁演劇」を発表した。2024年12月には初の神奈川・横浜アリーナ単独公演「トウヤノマジック Vol.1」を開催。結成15周年を迎える2025年の1月にニューアルバム「MOLTING AND DANCING」を発表した。2月以降は結成15周年ライブ「夜凪」や全国16カ所を巡るワンマンツアー「藍のすべて」の開催を控えている。