にしなを迎えた「夜凪」
──3曲目はにしなさんをゲストに迎えた「夜凪 feat. にしな」です。川谷さんは、にしなさんとは以前から交流がありますよね。
川谷 はい。2019年にTwitterでカバー曲の弾き語り動画企画をやって、そのときに最初に選んだのが彼女でした。にしなとはその後、美的計画(川谷が作る楽曲をさまざまなボーカリストが歌うプロジェクト)の曲で歌ってもらったんですけど、彼女がソロで着実に上に上がっていく中で、ようやくタイミングが来たというか、今一緒にやったら面白くなるかなって。
──インディゴの楽曲はこれまでも女性コーラスが重要な役割を果たしていますが、女性ボーカルをフィーチャリングで迎える形は初めてですね。
川谷 僕がオクターブ下、にしながオクターブ上で同じメロディを歌うっていう、少し古風なデュエットは意外とやってなかったから。僕、ジェニーハイでもフィーチャリングをするときは最初から2人で歌い分けするんですけど、今回は1番と2番で分けて最後に一緒になる、というシンプルな構成をとりました。
──あえて王道を選んだと。「ナハト」の「自分を強く」のエピソードとも通じるものがありますね。
川谷 この曲については、単純にいい曲が作りたくて。にしなの曲はずっと聴いてるから、彼女の声に合うメロはわかってるつもりだし、やってみたかったメロディもあったんです。歌詞に関しては、似てるけど意味の違う言葉を使ったり、テクニックを使って書いたりした部分があるので、作詞家としてはちょっと恥ずかしい部分もあるんですけど、この曲に関しては書き切った感じですね。
ダンスフィールが“出てしまう”ドラムを
──4曲目はインディゴ流のダンスミュージックとも言うべき「雨が踊るから」です。DJとしても活動する栄太郎さんからすると、やってみたかったジャンルなのでは?
佐藤 Bo NingenのTaigenさんもDJをやっているんですけど、以前彼と話したときにものすごく意気投合したんですよ。例えばオーセンティックなバンドアンサンブルで、曲のリファレンスがハウスやテクノだったときに、フレーズのアレンジくらいで曲への関わり方が終わりがちですよね。でもそうじゃなくて、DJもドラムもやってる自分がバンドに貢献できるのは、何を叩いてもダンスフィールが出ることだという話になったんですよ。テンポが速い曲でも、遅い曲でも、イーヴンな曲でも、変拍子の曲でもダンスフィールが出てしまう。DJもバンドもやってる僕らが目指すところはそこなんじゃないかって、めちゃくちゃ膝を打ったんです。
──なるほど。
佐藤 で、この曲は135くらいのBPMで、うわもののシンセサイザーがあって、四つ打ちのキックで、となったときにクリシェに対してどう向き合うかすごく悩んだんですけど、あえて荒々しいフレーズを入れて、DJシャドウや初期のThe Chemical Brothersのようなレガシーに敬意を払いつつ、とにかく自分が叩くことでダンスフィールが出ることに希望を持ちました。
川谷 こういうミニマルな曲はずっとやりたかったんです。「雨が踊るから」は僕の中ではラストのサビメロを一番いい状態で聴かせるための曲という位置付けで。あとは歌詞に「夜明けの街で」が出てきたり、“雨”とか“夜”をかなり意識的に使ってるので、今のindigo la Endを象徴する曲になればいいなと思って、横アリのオープニングではこの曲のインストを使いました。
後鳥 ミックスで一番印象が変わった曲ですね。生と打ち込みの中間のような音になったので、これをライブでやったときにどうなるのか楽しみです。
長田 ディレイの感じはサカナクションの「夜の踊り子」をイメージしているんですけど(笑)、うまくギターでindigo la End感を入れられたかなと思います。ミックスで大きく印象が変わったから、もう少しやりようがあったかもと今は少し反省もしてるんですけど、全体を通してすごくいい感じに仕上がってると思います。
川谷 この曲の主人公はいろんなことに悩んでいて、どうしようもないこともあるけど、それでも折り合いをつけないといけない。そういう心境を書いているので、歌詞も含めてアルバムを象徴してる1曲ではあるかもしれないですね。
1つの区切りになった「心変わり」
──5曲目の「心変わり」はアルバムの曲の中では一番早く、去年の4月に配信されました。
川谷 この曲では新しいことをしようと思って、制作にはかなり時間をかけました。特にコードに関しては自分の一番好きなコード進行を作ろうと思ったので、けっこうガチガチに作り込んで、曲ができたときはすごく自信がありましたね。前のアルバムのあとに出す新曲として強かったのか弱かったのかいまだによくわかってないんですけど、すごく好きな曲です。
後鳥 僕もめちゃめちゃ好きなんですけど、最近セットリストに入んなくなっちゃって。
──横浜アリーナでやらなかったのは意外でした。
川谷 昔の曲もやらないといけないとなると、新しい曲は入れづらくなってくるんですよ。横アリのときはまだ「ラムネ」を1回もやってなかったからやるしかなかったんですけど、「心変わり」は結果的に外れることになっちゃって。
後鳥 韓国のライブくらいからいい仕上がりになった覚えがあるので、またやりたいですね。
長田 前のアルバムを出したあとに最初に作った曲だというのもあって、ギタリストとしても挑戦した部分が多いんですよ。イントロのフレーズはジョン・メイヤーの「Neon」みたいなことをやってみたり、サビでお得意の開放弦を使わなかったり、そういうことを自分で決めて作ったので、「MOLTING AND DANCING」というアルバムタイトルに合う曲になったんじゃないかなと思います。
佐藤 この曲を作ったときに、リファレンスとの向き合い方をめちゃくちゃ考えた覚えがあるんですよ。で、めちゃくちゃ悩んだ末に自分なりのこれが正解だというものを出したら、TikTokで広がって、しかもイントロだけクッキング動画で使われてたりして。ディスコの曲で「Got to Be Real」ってあるじゃないですか。あのイントロと同じ機能を持ってるなと感じました。
──ジングル的な使われ方ですね。
佐藤 そうですね。ちゃんと悩んで、1回ピリオドを打ったら、あとはみんながその曲のよさを決めてくれるんだと思えた。そういう1つの区切りの曲でもあります。
インテリジェンスとクールがファンクの熱を追い抜いた
──6曲目は「哀愁東京」。アルバム後半はファンキーな曲が増えてきて、やはり「DANCING」という言葉とのリンクを感じます。
川谷 トラック自体はもともとpH-1とのコラボ用に作ったんですけど、もっとフュージョンっぽいほうが好きだという話でそのときは「ラブ」が採用されたんです。でも、「哀愁東京」もいつかちゃんと形にしたいと思っていて。今回のアルバムタイトルが「MOLTING AND DANCING」になったから、すごく合うんじゃないかと思って、アレンジを少し変えて入れることにしました。歌詞には岡村(靖幸)ちゃんの曲のフレーズをちょっと引用したり、かなり遊びがある曲ではありますね。
──「電話なんかやめてさ ここで会おうよ」ですもんね。
佐藤 最初のデモの段階からファンクネス的な部分はあったんですけど、ファンクドラムと言ってもいろいろあるじゃないですか。そういう中でインテリジェンスとクールという言葉が出てきて、デモのときはもう少し筋肉質だった覚えがあるんですけど、改めてちゃんとレコーディングしようってなったときに、インテリジェンスとクールがファンクの熱を追い抜いたんです。そういうマジックが起きた覚えがあります。
──ファンキーな曲はやはりベースが目立ちますが、後鳥さんはどんなイメージでしたか?
後鳥 栄太郎が言ったみたいに、筋肉質というよりはクールなイメージで、それは「哀愁」という言葉に引っ張られた部分もあるかもしれない。特にアウトロは都会っぽさ、アーバンな感じ、冷めた感じを汲んで、ベースはミックスでより渋い音になってますね。
長田 2番のAメロのギターとドラムのグルーヴ感がめちゃくちゃカッコよくて、個人的にはこの曲の山場だと思っています。これを聴くたびにライブの照明が目に浮かぶんですよ。途中のキーボードだけになるところでパッとピンスポを当てるだろうから、リハのときとかめっちゃキョロキョロしてるかも(笑)。レコーディングはそんなにマッチョな感じでやってないですけど、ライブはけっこうみんなガツガツいっちゃうんだろうなって。
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