indigo la End|孤立しながら貫き続けるバンドの美学

歌詞に表れる死生観

──歌詞についても聞かせてください。バンドのパブリックイメージ的な恋愛の曲ももちろんありますが、アルバム後半の「不思議なまんま」や「晩生」、「さざなみ様」といった死生観について書かれた歌詞が特に印象的でした。

後鳥亮介(B)

川谷 「晩生」は曲がオルタナティブなロックで、アウトロにちゃんと意味を持たせられる歌詞にしたいと思って、戦争のことなどがテーマになりました。歌詞に関しても1曲単位で考える感じで、インディゴのテーマは失恋だからどうこうというのも、もはやあんまりないかなって。

──「不思議なまんま」の「どうにか明日生き抜いて」や、「さざなみ様」の「生きてみたくなったんだ」といった歌詞が出てきたのは、コロナ禍の影響もありますか?

川谷 コロナ禍が関係しているのかは自分でもハッキリとはわからないです。ただ、30代になって多少なりとも死を意識するようになったというのはあって。「死んだらどうなるのか?」というのは誰でも考えたことがあると思うんですけど、最近特にそういうことをよく考えるようになりました。30代になると知り合う人も変わってきて、みんなどこかに憂いがあるんですよ。そういう人たちと話をしていると、自分も死について考えざるを得ない。その影響は歌詞にも出ていると思います。

──普段はなかなか口に出しにくい死生観の話が“秘密”と題された作品に入っていることは意味があると思うし、その流れを経て「夜の恋は」でアルバムが終わるのもいいですよね。この曲ではラストの「好きにならずにいたかった あなたを知らずにいたかった」という部分だけ女性コーラスで歌われていて、物語がより重層的になっている印象がありました。

佐藤 めちゃくちゃ映画的な演出ですよね。

川谷 アルバム全体として映画的にしたいという思いがあって。フランス映画のポスターがすごく好きなんですけど、今回ジャケットを手がけたYOSHIROTTENさんに「フランス映画のポスターみたいにしたい」と言ったんです。すごくバッチリなジャケットになったなと思います。

──前作が小説なら、今回は映画。

川谷 作品自体、前作より立体的になったと思います。前はもう少し2D的だったのが、3Dっぽくなったというか。

──曲調や歌詞の幅も広いし、音像も立体的ですもんね。

川谷 ミックスに関しても、前作はレコーディングの後半からうにさんに入ってもらったけど、今回は最初からお願いしていたし、今回1曲目に作った「チューリップ」からレコーディングエンジニアの高山(徹)さんと一緒に録音とミックス作業をしたので、スタートから体制が整ってたんですよね。そういう意味では、これが1stアルバムみたいな気持ちもあるというか。

──最初にした1stアルバムのアップデートという話に戻ってきましたね(笑)。

川谷 結局戻ってきちゃいましたね。

長田 伏線回収みたいな(笑)。

川谷 俺が張った伏線じゃないけどね(笑)。でも、10周年で1回ゼロに戻して、これが1枚目くらいの気持ちで作ったアルバムです。

どんどん孤立していかないと

──最後に、10周年に関してもう少しだけ話を聞かせてください。音楽業界のサイクルがどんどん速くなっていく中、自分たちのスタイルを貫いて、着実にバンドとして大きくなり、今も第一線に立ち続けている。その理由を自分たちとしてはどう考えていますか?

川谷 いい意味であんまり変わってないんですよね。バンドの体質的に、グイッとギアを入れていろいろやろうという話をしたこともあんまりなくて、ずっと同じペースでやってきたというか。ゲス(の極み乙女。)みたいに「こういう見せ方をしよう」みたいなことは特に考えてないし、やりようがないんですよ(笑)。コマーシャル的なことはできないというか、やる必要がないバンドなので。

──それでも時代に取り残されていないのは稀有だと思うし、バンドとして1つのあるべき姿だと思います。ちなみに、“戦友”と呼べるバンドってパッと思い浮かびますか?

佐藤 それを作らなかったのも大きいんじゃないですかね。フェスに行っても、ごはん食べてスッと帰るんで(笑)。

川谷 THE NOVEMBERSとかPeople In The Boxとか、リスペクトしてる先輩バンドはいますけどね。きのこ帝国とかはライブハウス時代から一緒にやってるけど、今はバンド活動を休止してるし。

佐藤 唯一仲がいいのは、KEYTALKとか?

長田 でも戦友って感じじゃない(笑)。

川谷 音的には水と油な感じしますね。

──“戦友”というと大げさかもしれないですが、KEYTALKときのこ帝国はわかる気がします。KEYTALKとインディゴは今やってる音楽性こそ全然違うけど、バックグラウンドには通じる部分があると思いますし。

佐藤 the cabsのメンバー(首藤義勝)もいますしね。

──きのこ帝国の「クロノスタシス」とインディゴの「夏夜のマジック」は、サブスクでの聴かれ方や広まり方が似ているなと思うし、初期のオルタナティブな音楽性から、今の佐藤(千亜妃)さんの活動含めて、徐々に開かれていった感じもインディゴに近いかもしれないですね。

川谷 でも最近は共演もしてないし、戦友的な人は本当にいないんですよね。栄太郎が言ったみたいに、戦友を作らなかったのがよかったというか、作れないというか……インディゴは全員ひねくれてるんで、バンドメンバー4人そろって「好きだ」と胸を張って言える音楽が本当に少なくて。

長田 そうなんだよねえ。

川谷 「関ジャム」(テレビ朝日系音楽番組「関ジャム 完全燃SHOW」)とかでしゃべってるときはまたちょっと違うというか、テレビに向けての気持ちの作り方はまた全然違う話になってくるので。だからインディゴに関しては、ほかのバンドに対して仲間意識みたいなものは本当にないんです。ずっと言ってることですけど、クラムボンとかくるりみたいに、ちゃんとポップスでありながら、フジロックに呼ばれても違和感がないようなバンドがいいなというのは思っていて。J-POP的な立ち位置にいながら、音楽的にもちゃんとリーチしていくには、どんどん独立していかないと、孤立していかないとっていうのをなんとなく感じているんです。ただ孤立しすぎると、本当に一部のファンしかいなくなっちゃう。そこは難しいですけど、これからも変わらずにいたいと思います。


2021年2月17日更新