ナタリー PowerPush - いきものがかり
初ベスト盤「いきものばかり」に込めた 4年8カ月の輝くヒストリー
老若男女に愛されるポップバンドとして確固たる地位を築き上げたいきものがかりが、メジャーデビューから約4年8カ月の歴史を総括する初のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」をリリースする。
収録されるのは、シングル曲はもちろん、カップリング曲やアルバム曲、さらには既発曲のリアレンジ&再レコーディングバージョン、初音源化曲、そして初お披露目となる新曲まで、メンバーが自信を持ってセレクトした全31曲。幅広い音楽性を持ついきものがかりの魅力を全方位的にフォローする最高の内容だ。
目前に迫った初アリーナツアーのリハーサル中だという3人に、輝かしいマイルストーンとなるであろう本作について話を訊いた。
取材・文/もりひでゆき
3人の選曲が8~9割かぶっていた
──今回の初ベストアルバムを単純にシングルコレクションにしなかった理由から聞かせてください。
水野良樹(G) 今までオリジナルアルバムには手を出さなかったけど、ベストだったら聴いてみようかなっていう人がかなりの数いるだろうなっていうことで、初めていきものがかりのCDを手に取る方にどんなグループなのかが端的にわかる内容がいいんじゃないかなって思ったんですよ。
山下穂尊(G) うちは3人とも曲を書くので、シングルとかカップリングとかアルバム曲とかっていう垣根を取っ払って、一番いいバランスを考えたらこの選曲になったんです。
──レパートリーが多いだけに、選曲は大変じゃなかったですか?
吉岡聖恵(Vo) 最初にメンバーそれぞれが候補曲を選んできたんですけど、意外なことに8~9割ぐらいはかぶってて。
水野 言い合わせたわけじゃないのに、あぁやっぱりそれを選んでくるか、みたいな感じがありましたね。そこらへんでブレてなかったのが単純にうれしかったです。
吉岡 で、残りの部分をどうするかで悩んだ感じですね。例えばアップテンポな曲だったら、これとこれはちょっと同じ部類のところにいるから、こっちはごめんなさいとか、そういう引き算のほうが難しかった。まぁでも、基本的には取っ組み合いとかにはならずに(笑)。
水野 普段もならないけどね(笑)。
ブレずにやってこれたことを表す選曲
──各ディスクとも、収録可能な時間をめいっぱい使ってますよね。
吉岡 そうなんですよ。作業の最後のほうで、それぞれのディスクに4分半くらい時間が余ってるよってことがわかったんで、そこから、一旦ごめんなさいした数曲たちをもう一回オーディションにかけて入れたりもしたんです。もうほんとにギュウギュウまで入れようと思ってたんで。
──選曲で大事にしたのは、やはりいきものがかりが持っている楽曲のバラエティ性ですか?
水野 そうですね。アップテンポの曲だけになってしまっても良くないし、バラードだけになってしまっても良くないし。あとは、活動してきた中で自分たちなりの曲のカテゴリーみたいなものがいくつかあるんですよ。例えば「ブルーバード」とか、今回は入ってないですけど「ホタルノヒカリ」や「HANABI」だったりっていうタイプのカテゴリーとか、「くちづけ」「ひなげし」「秋桜」みたいなタイプのカテゴリーとか。それをうまく分担して出して、自分たちの武器をすべて見せるってことにはすごく気を使いましたね。
──これだけの曲数が並んだ作品を眺めてみて、何か感じることはあります?
水野 よく作ってきたなっていうところですかね、率直な感想としては。ただ、作り手としては、そのときどきのレコーディング風景なんかの思い出があるんですよね。例えば「うるわしきひと」だったら吉岡が歌入れで困ってたなとか(笑)、「ノスタルジア」だったらインディーズ時代のライブハウスの光景が浮かんできたりとか。そういうちょっと振り返るみたいなことは頭の中ではありましたね。
──バンドとしての変化を感じる部分はないですか? 逆に変化していないことが見えてきたりもするとは思うんですけど。
山下 結成から11年やってきてるんですけど、各時代の曲をちゃんと入れられたっていうことはブレずにやってこれたっていうことだと思うんですよ。いろんなことをやってはきたけど、この曲はもう入れられないだろうっていう曲はなかったから。先月ぐらいに作った新曲から、かたや10年前に作った曲も入ってますからね。それがアルバムとしてちゃんと収まったってことは、イイ意味で変わってないというか。それに安心したところもあって。一方では、曲作りという意味で、いろんな(タイアップなどの)お話をいただいて作ることができるようになった点はありますね。柔軟に対応できるようになったのは、成長した証拠かなって気がしています。
自分だけのことにとどまらないような曲を書いてきた
──歌に関してはどうでしょう? 全体を通して聴いたときに、作られた時期はさまざまですけど、すべてが違和感なく並んでいるようにも感じたのですが。
吉岡 そうですね。「SAKURA」なんかは初々しい感じがするのかなと思ってたんですけど、今回改めて聴いてみたときに意外と声がハスキーだなとか思ったり(笑)。ただ、デビューした頃っていうのは必死だったとは思うんですけど、曲の世界観を伝えられる歌とはどういうものなのかっていうことは最初から意識して取り組んでいたので、そういう姿勢は変わってないと思うんですよね。曲ごとに声を変えていくっていうよりは、パッと聴いた瞬間に「あ、いきものがかりじゃん」って言ってもらえるように、統一性を持った歌い方をずっとしてきたので。
──確かにそこは一貫してますよね。あと、曲が持っている世界観に関して言えば、常にいきものがかりは日常に寄り添った曲を歌っているなぁと、改めて感じたんですよ。だからこそ、さまざまなシーンに溶け込む存在になっているんじゃないかなと。
山下 日常っていうのは確かにキーワードかもしれないですね。社会的なメッセージを込めたりっていう感じではあんまりないんで、僕らは。こんな恋愛が、こんな生活があったらいいなとか、そういう些細なことから曲を書いていたりするので。
水野 例えば僕らが社会的なメッセージを曲にしたとすると、それってすごく限定されたものになってしまうと思うんですよ。日常ではないものになってしまうというか。それは、僕らが作ろうとしている音楽とはちょっと離れてるんですよね。僕らはなるべく間口の広い音楽がいいと思っているので。で、結果として、それがみなさんの側にあるものになったらいいなぁっていう。
吉岡 いきものがかりの始まりとして、路上ライブがやっぱり大きな存在なんですよね。歩いている人たちに立ち止まってもらうにはどうすればいいんだろう、年齢問わず共感してもらうためにはどうしたらいいんだろうっていう考えがバンドの根幹にはズドーンとあって、そこは今でもまったく変わってないんですよ。で、そこを軸にした上で、自分の気持ちを曲に出すにしても、自分だけのことにとどまらないようにって意識して書いていく。曲を狭いものにしたくないっていう気持ちがすごくあるんだと思うんですよね。
DISC 1 収録曲
- SAKURA
- うるわしきひと
- 青春ライン
- 茜色の約束
- KIRA★KIRA★TRAIN
- ノスタルジア
- 未来惑星
- 夏・コイ-2010 version-
- タユムコトナキナガレノナカデ
- 今走り出せば
- 花は桜 君は美し
- ソプラノ
- 月とあたしと冷蔵庫
- ホットミルク
- コイスルオトメ
DISC 2 収録曲
- 気まぐれロマンティック
- ブルーバード
- じょいふる
- 心の花を咲かせよう
- YELL
- キミがいる
- ちこくしちゃうよ
- Happy Smile Again
- ありがとう
- 雪やまぬ夜二人-2010 version-
- くちづけ
- スピリッツ
- 風と未来
- 残り風
- なくもんか
- 帰りたくなったよ
いきものがかり
1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集めている。2008、2009年の大晦日には「NHK紅白歌合戦」に連続出場。バンド名は、メンバーの水野と山下が小学1年生のときに「生き物係」だったことから。