ハンバート ハンバート「カーニバルの夢」インタビュー|夢の中から紡いだ12篇の物語 (2/3)

いきものがかりとのコラボから得たもの

──アルバムのところどころでアンビエントな響きや、ちょっとダークな色彩感が滲んでいるのが本作の特徴ですよね。例えば「In The Dark」のイントロの夢想的なピアノの響きとか、今までにないアプローチだと思いました。

佐藤 確かにそうですね。

佐野 いきものがかりとのコラボや映画の劇伴など、いろんな作品に携わる機会があって、今まで自分からやってみようと思わなかったものを試すことができたこともサウンドの変化に影響していると思います。「こんなのどうですか?」と言われてやってみると、「うん、けっこういいな」となるケースが多々あって、結果的に表現する世界の幅が広がっていく。「これもアリだとすると、だったらこちらは?」というふうに発想がどんどん広がっていきました。

佐野遊穂

佐野遊穂

佐藤 引き出しが増えていくんですね。楽器で言うと、チェレスタを使ってみようというアイデアとか。「ぼくのお日さま」のサントラがきっかけなんですが、奥山大史監督と話し合っていたときに、チェレスタとヴィブラフォンを使ってみるというイメージが湧いてきて、そこでめっちゃイイ音だと実感したことが関係している。

──これまでのハンバートは、新たに音を追加していく場合、アーシーなテイストのサウンドを選ぶ傾向が強かったように思うんです。それが今回は、ベクトルがポップな方向に向かっているのがよくわかる。ときとしてインディーロック的な感触のサウンドもあったりして。

佐野 自分の中から出てくるものだけにこだわったら、アーシーな方向にしか行かなかったかもしれない。そう言えば、いきものがかりとコラボさせてもらったときに音源のデータを送ってもらったんですよ。「なくもんか」という曲でコラボさせてもらったんですけど。

佐藤 いきものがかりの水野良樹さんがすごく面白い方で。「オファーする以上は元曲を好きにしてもらってもいい」と言ってくれたんで、「じゃあ資料をください」とお願いしたら、録音データをまるまる送ってきてくれたんですよ。こちらでリミックスを作れちゃうんじゃないか?と思ったぐらいで。聴いてみると、「こういうふうにコーラスを重ねてるんだ」とか、いろんなことがわかったんです。

佐野 「ここにこんな隠し味を入れてたんだ!」とかね。あと水野さんって全然お酒を飲まないそうなんです。そのことにも良成は「すごいなあ」って感心してたよね(笑)。「俺もやめよっかな。仕事する時間が増えるんだろうな」とか言って。

佐藤 そうそう(笑)。お酒をやめているときは、飲まないメリットをすごく感じるんですけど、飲み始めるとすぐに元の状態に戻っちゃいますね。

──わかっちゃいるけど……。

佐藤 やめられない、ですね、ハイ(笑)。

サウンドの幅とともに広がった歌の世界

──今作では、そういった外部からの影響も功を奏しているのか、いつになく多彩な楽曲がそろっていますね。

佐藤 そうですね。ある時期までは「できた曲を12曲集めてみた」って感じのアルバムが多かったんですけど、ここ最近は8割ぐらい曲がそろったら残りは足りない要素を補ったり、異なる要素を足してみようと考えたりするようになった。ストーリー作りに必要なキャストを考えるように、こういったタイプの曲をここに配置してみよう、とか。ただ、今回は作る前からこういう曲調が欲しいなと思い浮かべながら作ったケースがわりと多かったかな。今までは、あえて何も考えずにギターやピアノを弾いたりしながら曲のアイデアが浮かぶのを待つ感じでしたけど、今回は、はなから曲調ありき、「こういうタイプが欲しい」と考えて作った曲がけっこうありました。

ハンバート ハンバート

ハンバート ハンバート

──「恋はこりごり」とかオールディーズ調の曲が登場する場面が多いなという印象があります。

佐藤 そうですそうです。そういう自分が好きな感じの曲を作りたいと思っていたんです。20代、30代の頃はそういうスタイルの曲の作り方がホントにできなくて。

佐野 ここに着地したいんだ、と思いながら、なかなかね。

佐藤 結局はまったく違ったものができちゃう。

佐野 それはそれで面白かったんだけどね。

──自身の作家的な部分を駆使しながら曲作りを行ったんですね。あと曲調が多彩になった分、遊穂さんの歌の世界も広がりを見せていて聴き応えがありますね。

佐野 曲のバリエーションが影響しているのかわかりませんけど、「歌を歌うのって、本当に難しいな」と思うことは多々ありましたね。加齢でしょうか(笑)。

佐藤 加齢じゃないでしょ(笑)。

──いい意味で、歌声の年齢不詳感が増している気がします(笑)。

佐野 それが、いいように作用してくれていたらうれしいんですけど。

佐藤 歌入れでサジェスチョンしたことで言えば、今回はリズム面に関してがほとんどだったかな。「ここでは跳ねないで」とか、「ここは重くならないように」とか。

佐野 どこまで伸ばすか伸ばさないかっていうのも多かったね。ただ、そういう要求に応えて私が実際にできるかどうかはまた別の問題なので。

佐藤 できるかどうかを見極めながら折り合いをつけていくような感じでしたね。

──「恋はこりごり」とか70年代のアン・ルイスの歌を彷彿とさせるところがあって、歌謡感が絶妙に滲み出ているところがよかったりします。

佐野 歌謡感のある曲は活動初期の頃から作り続けてたんですが……。

佐藤 サウンドアプローチがそのままモロってことはしなかった。今回はわりと寄せてますね。

──間奏にSanto & Johnnyの名曲「Sleep Walk」風のフレーズをさりげなく入れてみたり、しゃれてますよね。

佐藤 あ、バレました?(笑) スティールギターでやるとモロになっちゃうから、ちょっと変えたんですけど。

ハンバート ハンバート
ハンバート ハンバート

“脱こだわり”で見つけた意外な楽しさ

──「わたしは空っぽ」の多重コーラスも新鮮でした。

佐藤 これも初の試みですね。ライブではずっとSimon & Garfunkelのように2声で歌ってきたので、音源でもそれに沿った形でアレンジすべきだと思っていたんです。でも以前、お芝居のテーマ曲のオファーをいただいたときに、フワーッと広がる感じのコーラスパートが欲しいと言われたことがあって、ちょっとやってみようと軽い気持ちで多重コーラスを取り入れてみたら意外と楽しいなとわかった。その曲を音源化したとき、「ハンバートって2声のはずなのに多重コーラスはおかしいんじゃないか?」って指摘されると思っていたんだけど、誰にも何も言われなかった(笑)。結局、俺1人が、これはやっちゃいけないことだと頑固にこだわっていただけなんだなって。

佐野 別にどうでもよかったってことに気付かされた(笑)。

──いろんなこだわりから解放されて自由にイメージを膨らませることが可能になったことと、夢というモチーフがうまく作用しているのがいいじゃないですか。ところで、お二人は夢の話をよくしますか?

佐野 すごくしますよ。「こんな夢を見たんだけど」って。

佐藤 それは遊穂だけでしょ? 俺はあんまりしないよ。

佐野 してたよお(笑)。なんだっけ、すごく寝苦しくって、お蕎麦が……。

佐藤 お蕎麦!?

佐野 食べても食べてもお蕎麦がなくならない夢を見た、って言ってたよ。

佐藤 そうだっけ? 忘れちゃった(笑)。