ハンバート ハンバート「カーニバルの夢」インタビュー|夢の中から紡いだ12篇の物語

ハンバート ハンバートの通算12枚目となるフルアルバム「カーニバルの夢」がリリースされた。

“夢”をテーマにした本作には、ドキュメンタリー映画「大きな家」の主題歌「トンネル」やアニメ「この素晴らしい世界に祝福を!3」のエンディングテーマ「あの日のままのぼくら」のセルフカバーを含む12曲を収録。彼らの持ち味であるフォーキーなサウンドをベースにしつつ、オールディーズ調の「恋はこりごり」や多重コーラスを取り入れた「私は空っぽ」など、これまで以上に多彩な楽曲を楽しむことができる。さらなる進化を遂げたサウンドを紐解くべく2人に話を聞いた。

取材・文 / 桑原シロー撮影 / 小財美香子

充実していた2024年を振り返る

──2024年を振り返ると、2月にハンバート史上最も規模の大きい東京国際フォーラム・ホールAでのワンマン公演がありました。

佐藤良成 思い返すと、MCがよかったね。

──かなり冴えていました(笑)。確かカレーショップC&Cについてしゃべっていましたっけ。

佐藤 明大&前ですね(笑)。この日は話すことがやたらとあったんですよ。(ライブ映像を収録したアルバム初回特典の)Blu-rayを観ると、MCが5回も入ってるもんね。

佐野遊穂 けっこうリラックスしてステージに立っていたってことだね。

佐藤 昔はホールだと緊張しちゃってましたね。サウンドもちょっとかしこまった感じになるから、ライブハウスに比べると客席にもザワザワ感がないし、MCもしぼみがちだった。でも国際フォーラムでは、のびのびとやってたね。

ハンバート ハンバート

ハンバート ハンバート

──MCも含めて素晴らしいライブでした。そのほか大きなトピックとしては、ハンバートが2014年に発表した楽曲をタイトルに用い、佐藤くんが劇伴も手がけた映画「ぼくのお日さま」がカンヌ映画祭で上映されるということで、初のカンヌ詣でもありました。

佐藤 最高でした。カンヌってめっちゃ海辺の街なんですね。砂浜に沿う歩道があって、会場になる2つの劇場がポンポンと建ってる。海辺の劇場なのに全然潮臭くないんですよ。日本のベタベタした感じとは違って、潮風もすごく気持ちいい。カンヌ、さすがだなと。

──現地で何か印象的な出来事はありましたか?

佐藤 ホテルの清掃をしていたタイ人のおばちゃんと仲よくなりました。「カンヌはどう?」って聞かれたから、「楽しいよ、大好き大好き」と答えたんだけど、「ホント?」って(笑)。「やっぱそうでもないかな、物価高いし」って返したら、「やっぱそうでしょ~、私も好きじゃないもん」って笑ってました。

──(笑)。それが一番の思い出話ですか。

佐藤 そうだ、劇場の雰囲気がすごくよかったんです。小さいほうの劇場で上映したんですけど、それでも2000人ぐらい入る。映画館というよりもコンサートができるようなホール。今まで観たスクリーンの中で一番大きくて、音のよさも圧倒的だった。

──今年の秋には映画のサントラもリリースされました。話題が前後してしまいますが2月には、いきものがかりのコラボレーションアルバム「いきものがかりmeets」にも参加されています。いきものがかりの楽曲に12組のアーティストが新たな息吹きを注ぎ込むというコンセプトの作品で。

佐野 いろいろやってますね。こうして振り返ると、すごく充実した1年だったと思います。

ハンバート ハンバート
ハンバート ハンバート

ハンバート ハンバート

夢の中でメロディが生まれた2曲

──そんな2024年の締めを飾るのが、通算12枚目となるオリジナルアルバム「カーニバルの夢」。テーマはズバリ「夢」ということですが。

佐藤 テーマは、いつも後付けなんです。できた曲を並べていったときに「何かこういう感じだな」と思えるものがテーマとして上がってくるんですが、曲を作った時期が近いので、おのずと方向性が似通ってくるんですね。

佐野 アルバムタイトルを考えるにあたって、何かテーマがないと付けられないから一所懸命探すんです。

佐藤 この10年ぐらいは、テーマの取っかかりになるキーワードをスタッフに見つけてもらっていたので、だんだんやり方もわかってきました。8割くらいできあがったところで、今回は夢がテーマの曲が多いぞと思ったんですね。夢といっても、非現実的な夢の世界もあれば、将来の夢のようなものもある。一瞬の泡沫の夢のようなものもそう。幻想的な風景が出てくる曲も多いし、今回のテーマは「夢」で間違いないだろうと。あと、夢の中で作った曲が2曲ほど入っているのもポイントです。

佐藤良成

佐藤良成

──夢の中で見た世界や風景を歌詞に?

佐藤 いえ、歌詞じゃなくて夢の中でメロディを作っていたんです。起きたときにメロディを覚えていたので、すぐにICレコーダーに吹き込んで。1曲目の「一瞬の奇跡」と最後の曲「クリスマスの朝」がそうです。

──そういうことってよくあるんですか?

佐藤 これがめったにないことで。だからすごくうれしくて、得した気分です。

──でも、夢の中で作ったメロディがアルバムの最初と最後を飾っているだなんて、これはもう間違いなく、夢に引っ張られた作品になっていると言えるでしょうね。

佐藤 そうですね。作品全体にドリーミーな感じも強いですし。

佐野 テーマを決めてから作った曲もあって、そっちはすごく夢に寄せたものになってます。

佐藤 うん。夢の中の出来事を描いた曲も多いし、そうするとサウンドも自然とそっちの方向に寄っていきますよね。