細野晴臣|50周年イヤーに生まれ変わる「HOSONO HOUSE」

今作るとこうなる

──今回オリジナル版「HOSONO HOUSE」を聴き直したんですけど、改めて聴くと派手なサウンドですね。

派手なのかな? あの頃は、狭い部屋で録っているから音が回ってしまって、いろんなマイクにシンバルが入ってしまうから、そのまま下げられなかったんですよね。当時はミックスも吉野(金次)さんにお任せだったんですけど、僕の知らないところでミックスされていましたし(笑)。

──あの音の回り込みが、あのアルバム特有の独特なサウンドを生んだとも言われています。

あれが狭山っぽいですよね。でも当時は、あまり深く考えませんでした。当時は一過性っていうか、「ソロを作りませんか」と言われて乗っかって作って、「じゃあ次はどうしよう」っていう時代ですよ。あまり明日の不安もない、その日暮らしっていうのかな。そういう時代だったんで、作ってしまったものに思いはあまりないんですよ。しかも、自分で聴くとアラが目立つしね。作品としても、音としても……うーん、だからこういう時代になると思わなかったな。あの作品がみんなに聴いてもらえるような。

──いろいろなきっかけが重なって、“より聴かれだしている”と言っていい状況ですよね。

ちょっとね、僕には理解できませんね。一体何がいいんだろうなと。そういう状況であることを知って、知ったうえでの今回の制作でした。だから今までと違うのはそこかな。「今作るとこうなるんだよ」ということを言いたかったのかもしれません。

──しかも最近では、海外でも細野さんの楽曲の人気がより高まっています。“ジャパニーズレアグルーヴ”なんて言われたりして。

それもなんだかわからないんですよね。今度ニューヨークでライブをやるんですけど(参照:細野晴臣ニューヨーク公演がチケット完売を受け2DAYSに)、現地では「花に水」が話題になってるらしくて。Vampire Weekendがサンプリングした(参照:細野晴臣の楽曲をVampire Weekendが新曲でサンプリング)ってのもあるのかもしれないんだけど、それにしても……あれのどこがいいんだっていうね(笑)。無印良品の店頭BGMのために作ったものなのに。そんなにあれが好きなら、ライブでもやるべきなのか?と悩んでしまうよ。

細野晴臣

──個人的には観たいですし、喜ばれると思います。

やったほうがいいのかな? でもどうやって……(笑)。まあ考えようかなと思いますけど。そういう世界の反応は、無視できなくなっていますから。今までそんなことは考えたこともなかったんですけどね。かなりドメスティック……どころか、個人の内に向かって音楽を作っていたので。そういえば、星野(源)くんには「内に向かっていったら外にバーンといった」と言われましたけど(笑)。

──言い得て妙ですね(笑)。細野さんの音楽への向き合い方を思い返すと、確かにそう思います。しかし過去に作った楽曲が、作り手の思惑を超えて海外で受けているというのはなかなか面白い出来事ですよね。

うん、意外で面白い。これがYMOとかであれば、ある程度反応を想定して作って、実際に受けたら「やっぱり」と思ったりすることもあったかもしれない。でも今は違いますからね。

──今回もミックスまでご自身で行われたのですよね。

そう。もうね、締め切りがありがたいんです。締め切りがなければまだやっていたかも。何度聴いたか。できあがったら聴きたくないくらいだね。誰よりも聴いてますよ。特に今回はさっき言った通り、「新しい音にしたいけれどまだまだ」「もっともっと近付けよう」という気持ちが強くて。でも機材が古い、音源が古い、音圧が出ないって悩みながらミックスしていった。そんな中で、「今回はこれでいいや」ってところで切り上げた感じですね。

──そうだったんですね。特に「薔薇と野獣」などは、音場が広いし、その一方でしっかりと音圧が感じられて。素晴らしいミックスだと思いました。

まだ足りない部分はあるんですけど。まあそれは自分の課題です。しかし、音を追求していくのは楽しい。いつも、ほかの音楽に刺激されて作っていますからね。「アメリカの音ってなんでこんなにいいの?」と思っていたのがはっぴいえんどの頃だし。YMOのときも、イギリスのニューウェイブの音に対抗するように作っていました。そんなふうに、音に刺激されて作っていることが多いですよね。音楽を作るときは、歌を作るときとはモードは違います。今回はすでに歌ができているから、特に音の方面に対する比重が重かったですね。

──ちなみに、今後もまた打ち込み的な作り方は続けていくのですか?

宅録という意味ではずっとやっていましたけど、より機材をアップデートしていくので、ますます入り込むと思います。打ち込みが増えるかどうかはわからないですけど、バンドと宅録的な方向の両方でやっていく。次のアルバムのことはまだ考えていませんけどね。