音楽ナタリー PowerPush - HEY-SMITH
アメ村のライブハウスから野外へ 猪狩秀平が提唱する“本物のフェス”
パンクに寄ったフェス
──ところで猪狩さんはハジマザの準備段階で具体的に何をしていたんでしょうか?
具体的なやりとりは別の人間がやってくれたんですが、場所の下見に一緒に行ったり、市の人に挨拶に行ったり。あとはバンドのブッキングですね。交渉は全バンド、直接メンバーにしました。事務所に言うんじゃなくて、会うタイミングで直接メンバーに話したり、電話したりして。そこで自分の気持ちもきちんと乗るし。「こういうイベントにしたいんやんか、ホンマ頼むわ」って。それが一番の俺の仕事かな。
──へえ。そういうところが、バンド主催のフェスならではですよね。
実はちょっと悩んだ部分もあって。お金の面とかでね、もっと集客できるキラキラしたバンド、「キャーキャー」言われるようなバンドが必要やったりするんかなとか考えたりもしたんですけど。そういうのじゃなくて、ずっと一緒にやってきた仲間、それこそ電話1本で出てくれるような、汗臭いやつらとやりたかったんですよね。で、そういうパンクに寄ったメンツで、こんなことできんねんぞっていうのを見せたかった。さらに、あの規模やけど、ライブハウスの対バンみたいな感じにしたかった。実際みんな、他のバンドのライブを観てたし、出番遅いやつとかも朝から来てたし。「やって帰る」フェスじゃなくて、みんながこの1日を刻みに来るようなフェスにしたかったんで、うれしかったです。
──バンド主催のイベントで「パンクに寄ったフェスにしたかった」っていう発想は珍しいですよね。「ジャンルを超えたイベント」って言うことが多い気がします。
パンクに思い入れがある……というか、パンク魂しかないっすよ。今回の出演者もね、楽曲とかライブとかもそうなんですけど、私生活からカッコいいんですよ。お客さんからしたら見えない部分かもしれないですけど。そういうのがパンクスやと思うし。なんかね、物事を否定するだけじゃなくて、そこから何かを生み出すようなパワーを持ってる人とやりたくて。みんなこの人たちはそういうパワーを持ってる。
──じゃあ猪狩さんにとって「パンク」っていうのは音楽じゃなくて、精神的なもの?
精神性ですね。だからNUBOとか、音楽はめっちゃポップなんですけど、中身はものすごいパンクスですよ。
──例えば?
一成(Vo)さんは飲んだら絶対1人で家には帰れませんし(笑)。自分たちに対して死ぬほど厳しいし、曲がったことを一切許さない。俺らなんか比べものにならないくらい鉄の心で。で、ちゃんと自分たちはここに行くんだとか強い気持ちがあって。そういう精神性がパンクですね。ライブはパンクバンドみたいだし。
あのステージで悪ふざけしたかった
──競演者の話が出たところで。初日の「前夜祭」はKEMURI、東京スカパラダイスオーケストラ、HEY-SMITHというメンツもすごかったですが特筆すべきは転換です。OVER ARM THROWの菊池信也さんと、Northern19の笠原健太郎さんの弾き語り。それからSTOMPIN' BIRDのTOMさんとdustboxのSUGAさんによる謎のインストユニット・麻利男兄弟、PANのゴッチさんと川さんによるPANナコッタですね。弾き語りの2人はカバーやモノマネなんかも織り交ぜて。麻利男兄弟は「スーパーマリオブラザーズ」の音楽をひたすら演奏して、PANナコッタは好き放題に歌ってましたね(笑)。
KEMURIとスカパラと3バンドでやるっていうのはもちろん夢でもあったし、すごくうれしかったんですけど、転換がいい感じにゆるくてよかったですよね。あの規模で、なんであんなんが出るの?っていう(笑)。前夜祭やし、お祭りって感じで、あのステージで悪ふざけしたかったんですよね。麻利男兄弟とか最高でしたね。ふざけてますけど、あれやろうと思ったらめちゃくちゃギターうまくないとできないんですよ。こういうギターの遊び方もあるんだよっていうのを提示したいっていうのもあって。バンドって楽しそうって思ってほしかったんで。あの転換は、言うたら打ち上げとか楽屋の風景なんですよね。KIKU(菊池信也)さんいっつも楽屋で歌ってるし。あのユルさ、本当によかったなー。
──PANナコッタに関しては、PANとSABOTENが主催している大阪の野外イベント「MASTER COLISEUM'14」が次の日にあるのにも関わらずメンバーが出演していて愛を感じました。
そうなんですよね。マスコロとは相談したわけじゃないのに同じ日になってしまって、お互いが「ひゃー」ってなった。ホンマは2日間どんかぶりやったんですけど、マスコロは1日ずらせるってなって1日かぶりだけにしてくれて。で「ホンマはPAN出てほしかったっすよー」って言ってたら、「なんかできることあったらやるで」って言ってくれて、「じゃあちょっと……」ってお願いした結果がPANナコッタ(笑)。
──それこそバンド主催じゃないと呼べない出演者ですよね。
っていうか、バンド主催じゃないとこんなん呼ばないでしょ(笑)。
次のページ » 今でもあの光景、まだ残ってる
- ライブDVD「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」2015年1月1日発売 / 3131円 / CAFFEINE BOMB ORGANICS / CBR-66 / Amazon.co.jp
- ライブDVD「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」
収録内容
9/13 HAZIKETE 前夜祭
- Drug Free Japan
- Skate Or Die
- Stand Up For Your Right
- Lonely With Everyone
- Journey
- Free Your Mind
- Over
9/14 OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014
- Endless Sorrow
- True Yourself
- Theme Of HEY
- Like A Gentleman
- Jump!!
- Living In My Skin
- The First Love Song
- We Sing Our Song
- Download Me If You Can
- Goodbye To Say Hello
HEY-SMITH(ヘイスミス)
猪狩秀平(G, Vo)、Mukky(Vo, B)、満(Sax)、Iori(Tp)、Task-n(Dr)からなる5人組パンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年に1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年には「FUJI ROCK FESTIVAL '12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスに招聘されるほか、coldrain、SiMとのパッケージツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催した。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表し47都道府県を回るレコ発ツアーを大成功に収める。2010年より自主企画イベント「OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」を主催しており、2014年9月には大阪・泉大津フェニックスにて初の野外開催を成功させた。2015年1月1日に同イベントの模様を収録したDVD「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」をリリース。