ナタリー PowerPush - HEY-SMITH

“過去”最高傑作となった“今”のアルバム

「ツインボーカルに対するこだわりはまったくない」

──「Now Album」を聴いて改めて思ったんですけど、HEY-SMITHは非常に歌心のあるバンドですよね。それはインストである1曲目の「Welcome To Now Album」もしかり。ホーンが歌いまくってますから。本当にメロディが気持ちいい。

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歌が好きなんですよ、やっぱり。みんなそうじゃないですか? みんなカラオケ好きでしょ? それは僕らも一緒で、みんなでシンガロングとかコーラスとか、そういうのが楽しくてしょうがないっていう。

──今って猪狩さんとベースのMukkyさんがボーカルを担当してますけど、その割り振りっていうのはどう決めているんですか?

メロディができたら、まず2人とも歌ってみるんです。その上で「この曲はお前のほうが似合うな」とか「このパートは俺のほうが似合う」とか、そんな感じで決めてます。

──ツインボーカルに対してのこだわりもあります?

それはまったくないですね。別に歌うのがこの2人じゃなくてもいいと思ってるんで。ホーンはね、口がふさがってますからアレですけど(笑)、曲に合うんであればドラムが歌ってもいいと思うし。俺はもともと、そういうバンドが好きなんですよ。最初にRANCIDのことを好きになった理由もそうですからね。基本ティム(・アームストロング / Vo, G)とラーズ(・フレデリクセン / Vo, G)が歌ってるけど、たまにマット(・フリーマン / B, Vo)も歌う。そういうスタイルにやられたんで。ライブを観てるとき、ボーカルがポンポン変わるほうが楽しいんです。

──そのへんは自由な感じなんですね。

そうですね。まあ、うちらの曲でドラムが歌うのはほぼ無理でしょうけど(笑)。

60回プレイすれば60曲になる楽曲

──ライブは当然大合唱になりますよね?

すごいですよ、もう。自分たちの演奏の音が聞こえないときもありますから。俺らのリスナーはみんなほんまに歌うのが好きやと思う。さらに暴れん坊というかね、みんなほんまに自由。ちょっと大きめの会場でライブやるとフロアに柵がいっぱいあるじゃないですか。それがリスナーからしたらうっとうしいみたいで、ライブ中に引っこ抜いてダイブさせてましたからね、柵を(笑)。

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──柵がクラウドサーフしていくという(笑)。

「おいおいおいどうすんねん、これ?」みたいな(笑)。まあ、それはルール違反だとは思うんですけど、自由を求めてライブハウスに来てるんなら「なんでもやればいいじゃない!」っていう気持ちもあるんでね。みんなで楽しめることならば、ですけど。

──いいですねえ。ライブが俄然楽しみになってきます。5月22日からは47都道府県すべてを巡る全58本のツアーがスタートしますしね。猪狩さん念願の夏のツアーが(笑)。

ツアーが一番楽しいですからね。制作は楽しくないんで(笑)。で、今回はどうしても小さい会場で、47都道府県を回りたかったんですよ。正直、5大都市の大きめの会場をポンポンとやったほうが絶対儲かりますからね。今回のツアーは絶対儲からない(笑)。でも、このアルバムに入ってるのはみんなに向けて歌いたい曲ばっかりだったんで、臨場感のある距離感でやりたかったんです。俺らとリスナーの、お互いの汗がかかり合う距離で感情を共有したいなって。

──それぞれの曲たちも、ライブではまた違った表情を見せることもあるでしょうしね。

そうそう。ライブの醍醐味はやっぱそこなんですよ。例えば60本ライブをやったら、たぶん60回演奏される曲ってあると思うんですよ。でも同じ曲には絶対聞こえない。違う60曲に聞こえると思う。そこを感じてほしいんですよね。だからできれば自分の住んでる県と、その隣の県のライブにも来てほしいですね。

──演奏している側の感情も毎回違うわけですからね。

うん、全然毎回違う。「なんで今日こんな感じなん?」ってバッドな意味で思うときもあれば、昨日まで全然うまいこといかなかった曲が「あれ、なんで今日こんな感じなん? 今日ハマったよな」ってなる日もある。いろいろあるから。

次回作へのモチベーションはツアーから生まれる

──その中で正解っていうのはあるんでしょうか? 例えば毎回同じレベルで、同じくらいいいパフォーマンスができることをよしとするバンドもあると思うのですが。

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そういうバンドも確かにいますよね。でも俺らは違います。大否定ですね。アイドルやったらそうしときゃいいと思うんですけど、僕らはバンドだし、僕らの音楽はそういうものじゃないから。例えばギターソロなんかにしてもね、CDよりもだいぶ手数も小節も多めに弾いちゃうとか、そういうのがあってこそのライブなんですよ。基本的に同じソロは弾かないですからね、俺。だからこそ絶対、会場ごとに違う曲になるんです。

──今回のツアーを通して手に入れたいものって何かありますか?

彼女っすかね。

──そんなこと言って各県にいるんじゃ?(笑)

過去にはね(笑)。もう大人なんで、そろそろ落ち着きたい。そういう意味でのパートナーは手に入れたいですね。あとはなんだろうな? ……ないっすね、ほんまに。

──まあ47都道府県を回れば、求めずとも何か得るものは必ずあるはずですしね。

そうですね、うん。絶対ありますよ。僕って毎回、アルバム作ってるときは「ほんまにいつでもやめたんぞ、お前、この野郎!」みたいな気持ちなんですよ。「これが最後のアルバムになるかもしれない」っていうくらいの気持ちで制作しないとピリピリした作品にならないから。それは今回も同じで、もうやめたろかなって思ってたんです。でも、たぶんツアーが終わればまた違った衝動も生まれてくるんだと思う、きっと。それがどういうものなのか。楽しみではありますね。

ニューアルバム「Now Album」 / 2013年5月1日発売 / 2415円 / Caffeine Bomb Record / CBR-57
「Now Album」
収録曲
  1. Welcome To Now Album
  2. Dancing Is Illegal
  3. True Yourself
  4. Like A Gentleman
  5. D.I.Y(Dive Into You)
  6. Living In My Skin
  7. Download Me If You Can
  8. I Hate Nukes
  9. Heartbreak
  10. Summer Head
  11. Magic Leaf
  12. Real Tomorrow
  13. Lonely With Everyone
  14. Goodbye To Say Hello
  15. Start Again
  16. Journey
HEY-SMITH(へいすみす)
HEY-SMITH

猪狩秀平(G, Vo)、Mukky(Vo, B)、満(Sax)、Iori(Tp)、Task-n(Dr)からなる5人組パンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年には1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年には「FUJI ROCK FESTIVAL'12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスに招聘されるほか、coldrain、SiMとのパッケージツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催するなど、より大きな舞台でのライブ活動も展開。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表した。