ナタリー PowerPush - HEY-SMITH

“過去”最高傑作となった“今”のアルバム

ホーンを加えたメロディックなサウンドを武器に、インディパンクシーンを疾走している関西発の5人組バンド、HEY-SMITHが約2年ぶりとなるニューアルバム「Now Album」をリリースした。

彼らはオリコンインディーズランキング1位を獲得した前アルバム「Free Your Mind」以降、レコ発ツアーはもちろん「FUJI ROCK FESTIVAL'12」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスへの出演、朋友coldrain、SiMとのパッケージツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」などを経験。バンドとしての地力をさらに高めた彼らが生み出したのが本作だ。そこには、よりタフでしなやかになったサウンドと、今だからこそ強く響かせたいというメッセージが熱くほとばしっている。

今回ナタリーではHEY-SMITHのソングライティングを担う猪狩秀平(G, Vo)にインタビューを実施。本作に込めたさまざまな思いについて話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

「過去最高傑作だぜ」という気持ちに自然となれた

HEY-SMITH

──約2年ぶりのニューアルバム「Now Album」、楽しく聴かせていただきました。

ありがとうございます。自分でもほんまに今までで一番いいものができたなと思っているんですよ。よく海外のアーティストがインタビューなんかで「過去最高傑作だぜ」とか言うじゃないですか。「ウソつけ!」とか思ってたんですけど(笑)。

──その気持ちが本作で実感できたと。

そう。ほんまにそういう気持ちに自然となれましたね。もちろん今までもその瞬間、その瞬間で最高のものができたって思ってはいたんですけど、今回はそれ以上の手応えがあるというか。歌いたいことがわりとはっきりしていて、それを曲とリンクさせていく方向で作っていったからより納得できるものに仕上がったのかもしれない。

──ああ、確かに全体の聴き心地にはハッピーでキャッチーな雰囲気がありますけど、じっくり聴いてみれば鋭いメッセージが刺さってくる曲が多いですよね。

うん。例えば2曲目の「Dancing is Illegal」は、タイトルを直訳すると「ダンスは違法です」ってことになる。要は風営法に対して歌ってるんですよ。あんな法律、ありえへんから。あと「ほんとの君」っていう意味の「True Yourself」って曲では、例えば耳が聞こえないとか、脚が動かないとか、たとえそういうことがあったとしても、それもまたその人の個性であるよってことを歌ってたりする。僕は常々、欠落こそが個性で、その欠落を歌うことこそが音楽だと思っているんで。そうやってそれぞれの曲にわりと明確なテーマがあったんですよね。

──8曲目の「I Hate Nukes」なんかも今の世相を反映したリアルなメッセージですしね。

まさに。特に「Dancing is Illegal」と、「核が怖いよ」って歌ってる「I Hate Nukes」の中の俺はかなり怒ってるんですよ。でも、先ほどおっしゃったように、あくまでそれをハッピーに、ポップに歌いたかったっていうのもあって。

──もう1つの世相を反映した曲「Dancing is Illegal」はめちゃくちゃ踊れて暴れられる曲ですもんね。「踊るのは違法」と言っている警察に対するシャレたいやがらせともいえる感じで(笑)。

そうそう(笑)。実際、クラブで遊んでたら警官が2人来たことがあってね。ちゃんと法律にのっとって営業してるとこやのに、わざわざ音楽を止めさせて捜査するっていう。もうほんまにムカついてね、一気に警察が嫌いになった。だからめちゃめちゃ踊れる曲にしたろと思って。

「まいっか、炎上しても」

──楽曲で伝えたいことは、実際の経験に基づいてあふれてきた感じなんですね。

HEY-SMITH

どの曲にもきっかけはありましたね。「True Yourself」は俺自身、10代の頃にちょっと精神的なバランスがおかしかったことがあったんで、それが影響してる。さらに去年ね、メンバーのベース・ボーカルのヤツ(Mukky)が鼓膜破ったんですよ。で、耳の中に菌が入ったことで三半規管がバグっちゃって。そのときにヤツはまともに歩けないし、まともに歌えないから相当落ち込んでいたんで、じゃあ彼に向けてこういう曲を書くのはアリやなと思ったんですよね。そういうことがあっても「大丈夫大丈夫!」みたいなことを言ってやりたかったから。

──けっこうドキッとするワードが散りばめられてもいますよね。

「うつ病」とかね。そんなん歌っていいんかなってちょっと思ったんやけど、でもそれもビシッと言おうと。ロックバンドやから。なんか最近、ロックの発言権が弱くなってる気がするんですよ。炎上するのを恐れてるというか。だからこそ「まいっか、炎上しても」みたいな気持ちで歌ってやりましたね(笑)。

──曲の真意はネガティブなことではないし。

そうなんです。だからいいかなと思って。

ニューアルバム「Now Album」 / 2013年5月1日発売 / 2415円 / Caffeine Bomb Record / CBR-57
「Now Album」
収録曲
  1. Welcome To Now Album
  2. Dancing Is Illegal
  3. True Yourself
  4. Like A Gentleman
  5. D.I.Y(Dive Into You)
  6. Living In My Skin
  7. Download Me If You Can
  8. I Hate Nukes
  9. Heartbreak
  10. Summer Head
  11. Magic Leaf
  12. Real Tomorrow
  13. Lonely With Everyone
  14. Goodbye To Say Hello
  15. Start Again
  16. Journey
HEY-SMITH(へいすみす)
HEY-SMITH

猪狩秀平(G, Vo)、Mukky(Vo, B)、満(Sax)、Iori(Tp)、Task-n(Dr)からなる5人組パンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年には1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年には「FUJI ROCK FESTIVAL'12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスに招聘されるほか、coldrain、SiMとのパッケージツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催するなど、より大きな舞台でのライブ活動も展開。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表した。