音楽ナタリー Power Push - 秦 基博

自らの手で描ききった「青の光景」

実感を伴った言葉たち

──パーカッションを軸としたグルーヴィなナンバー「Fast Life」の歌詞からは、現在社会に対する批評みたいなものも感じられました。

最初は「パーカッシブでソウルテイストの曲」っていうザックリした感じだったんですけど(笑)、デモを作ってるときに「言葉で畳みかけるような曲にしたいな」と思って。思い付いたことをバーッと歌っていたら、その中に「スローライフ」という言葉があって、それが自分の中で引っかかったんです。今の世の中って「ファストフード」「ファストファッション」と「スローライフ」が両極で共存していますよね。そこで「自分はどこにいるのかな?」とか「それに対して何を思うか?」と考えたのが、この歌詞の着想ですね。SNS的なことを含めて、現代的なことをあえて歌っていこうと。

──以前は風景を描写するような歌詞が多かったと思うのですが、より直接的に自分の考えを歌うことも増えてきて。歌詞の表現も確実に広がってますよね。

秦 基博

もちろん曲によって違うんですけど、自分にとってリアリティがあることを歌うのが大事なんですよね。必ずしも「曲の主人公=自分」というわけではないけど、ある一節だけは自分が心底思っていることを表しているとか。妄想でも構わないんですけど、その曲の主人公のことが実感できてないと、説得力が出ないんですよね。借りてきたような言葉だと、どうしても軽くなってしまうので。

──「あそぶおとな」の「遊ぼう 自由に 壊そう 今を 何でもありだよ」というフレーズも秦さん自身の実感?

「あそぶおとな」は自分がまんま入ってるような、すごく近しい曲だと思います。今の自分が抱えている問題、ぶつかっている壁、「ここから先、こうなりたい」ということが具体的に入っていて。それを楽しく歌ってるだけですね(笑)。

──音楽に対する衝動やドキドキ感をキープしたい、ということ?

それもあります。キャリアを重ねると引き出しが増えて、「こういうときは、こうやればいい」ってこともわかってきて。それは悪いことではないけど、そこに縛られるのはつまらないと思うんですよね。全然違うやり方があるかもしれないし、今の自分はすごく狭いところでやってるんじゃないか?とか。そういうことって、今の自分の年齢、キャリアくらいで直面する部分だと思うんですよ。「ある程度のことはできるけど、この先どうするの?」って。

──デビュー10周年を目前にして、30代半ばに差し掛かって……。

そうそう。先輩たちを見ていると、皆さん「楽しく音楽をやってるな」と感じるんですよね。そういう大人の在り方はすごくいいなって。難しいことだけど、自分もそこに踏み出していくタイミングなんだと思います。今回のアルバムを作ってるときもそう思ってたんですよね。自分のイメージの世界を作ることもそうだし、歌うこと、演奏することも、人からは遊んでるように見えるくらい楽しくやりたいなって。

明るいクリスマスソングにしよう

──「聖なる夜の贈り物」は秦さんにとって初めてのクリスマスソングですが、ポップスとして優れていると思うし、誰もが楽しめる曲だなと。

ありがとうございます。まず、幸せな曲が欲しいなと思ったんですよね。アルバム全体を通して、もの悲しさだったり人の裏側を描いていく中で、この曲に関しては“幸せで明るい未来が待っている2人”を歌いたいなって。シチューのCMソング(ハウス「北海道シチュー」)のオファーがあって、CMの内容が「雪」「白い」いうイメージだったので、クリスマスソングにしちゃおうと。クリスマスソングは書いたことがなかったし、いい機会だなと。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」もそうだけど、切ないクリスマスソングはたくさんあるので、自分が作るなら明るい曲にしようと思って作りました。

──秦さんはクリスマスソングのようにイメージが限定される曲を避けるタイプかと思ってましたが……。

あ、それは正解です(笑)。世に名曲もたくさんあるし、書きづらいなって今までは思ってましたね。

ずっと必死なんですけどね(笑)

──2016年3月には「青の光景」を軸にした全国ツアーがスタートします。アルバムをセルフプロデュースで制作したことは、ライブにも生かされそうですか?

リハーサルのときはそうでしょうね。まずはライブのアレンジや構成、全体像がどう見えるかをしっかり確認しようと思っているので。でも実際にライブをやるときは冷静ではいられないでしょうね。やっぱり楽しいし、お客さんとその楽しさを共有したいと思うので。それにレコーディングは曲によってミュージシャンを変えましたけど、ツアーは固定したメンバーで演奏します。音数も減るだろうし、ライブならではのアレンジも出てくると思うんですよ。そこで有機的なセッションが生まれたらいいなと。もちろん歌が真ん中にあるべきだと思いますが、そこもしっかり伝えられるメンバーだと思うので。

──なるほど。しかしライブ中を除けば秦さんはどんな状況でも冷静ですよね。アルバムの初回限定盤に付属するDVDで縁の深いミュージシャンに秦さんがインタビューしていますが、そこでも「秦くんはデビューの頃からしっかりしてた」という趣旨の発言が多くて。

伝わりづらいだけでずっと必死なんですけどね(笑)。今回のアルバムの制作も必死でやってました。「今日中にこれが終わらなかったら、アルバムはリリースできない」みたいなことも何度かあったし。

──セルフプロデュースはしばらく続きそうですか?

当面はそうですね。持っている曲のイメージを自分でアレンジして広げていくのは、初期衝動のまま猛進していくというよさがあるので。ただ、このやり方に固執しているわけではないんです。どこかのタイミングで「この曲は自分よりも、あの人にアレンジしてもらったほうがよくなる」という欲求も芽生えてくるだろうし。「自分にとって面白いと思えるかどうか?」だと思うんですよね、大事なのは。

秦 基博
ニューアルバム「青の光景」 / 2015年12月16日発売 / アリオラジャパン/AUGUSTA RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 4500円 / AUCL-192~3
通常盤 [CD] / 3240円 / AUCL-194
CD収録曲
  1. デイドリーマー
  2. ひまわりの約束
  3. ROUTES
  4. 美しい穢れ
  5. Q & A
  6. ディープブルー
  7. ダイアローグ・モノローグ
  8. あそぶおとな
  9. Fast Life
  10. 聖なる夜の贈り物
  11. 水彩の月
  12. Sally
初回限定盤DVD収録内容
  • ドキュメンタリー映像「Behind of“青の光景”~interview, recording & live~」
  • 「Q & A 」「ひまわりの約束 」LIVE映像(世界遺産劇場 -縄文あおもり三内丸山遺跡-)
  • 「言ノ葉 -Makoto Shinkai / Director's Cut-」MUSIC VIDEO
秦 基博「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016」
2016年3月5日(土)福岡県 福岡サンパレス
2016年3月11日(金)岡山県 岡山シンフォニーホール
2016年3月12日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
2016年3月19日(土)秋田県 秋田県民会館
2016年3月30日(水)京都府 ロームシアター京都
2016年4月3日(日)北海道 ニトリ文化ホール
2016年4月10日(日)香川県 アルファあなぶきホール 大ホール
2016年4月17日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2016年4月24日(日)新潟県 新潟県民会館
2016年4月28日(木)神奈川県 神奈川県民ホール
2016年5月3日(火・祝)宮城県 仙台サンプラザホール
2016年5月11日(水)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
2016年5月18日(水)大阪府 オリックス劇場
2016年5月19日(木)大阪府 オリックス劇場
2016年5月26日(木)石川県 本多の森ホール
2016年6月3日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
2016年6月4日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
秦 基博(ハタモトヒロ)
秦 基博

オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。柔らかな声と叙情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」が支持を集め、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は100万ダウンロードを超える大ヒットを記録し、10月発売の弾き語りベスト「evergreen」も今なおロングセールスを続けている。2015年7月に青森県の縄文遺跡群の魅力を伝える「あおもり縄文大使」に任命され、三内丸山遺跡での野外公演は4000人を動員。新曲「聖なる夜の贈り物」のミュージックビデオは縦型と横型の2タイプを同時発表し話題を呼んだ。12月には全曲セルフプロデュースの5thアルバム「青の光景」をリリースする。