花澤香菜「灰色」インタビュー|声優デビュー20周年、新曲「灰色」で開けた新たな引き出し (2/2)

これ、1回だけしかやらないんだよね?

──「灰色」がライブの場でどんなふうに機能するのかも楽しみです。セットリストの中で効果的なアクセントになる新たな手札が1枚増えた感じですよね。

確かに。「ここでグッと引き込みたい」という場面には絶対に適していると思いますね。逆に、「この曲をメインに据えたライブをやるときはどうしたらいいんだろう?」という心配もありますけど(笑)。

──なるほど。変化球としての使いどころは見えても、軸にするのは……。

ちょっと難しそう(笑)。

花澤香菜

──近年の花澤さんはそういう、特定の1曲をフィーチャーするスタイルのライブをよくやっていますからね。

はい。この間の川越のライブ(5月20日に埼玉・ウェスタ川越 大ホールにて行われた「HANAZAWA KANA Live 2023 "Not As Dramatic As…"」。参照:声優デビュー20周年の花澤香菜、ファンへの思い語った単独公演「私にとってこれはご褒美のような時間」)では「ドラマチックじゃなくても」をセットリストの中心に据えて、「そこに至るまでの道筋をいかにドラマチックにしていくか」という作り方をしていて。

──昨年9月の「HANAZAWA KANA Live 2022 "Pokerface"」もそういう形でしたし。

そうですね。「Pokerface」のときは「駆け引きはポーカーフェイス」を軸にして……本当にありがたいことに、ポニーキャニオンに移籍してからはシングルを出すたびにその曲メインのライブ、しかもフルサイズのライブをやらせてもらえていまして。それまでも、もちろんシングルのリリースイベントとかはあったんですけど、そういう場だとだいたい5曲とか6曲くらいのミニライブになることが多かったので、本当に今の体制だからできることなのかなと思っています。

──なかなかほかでは見られない形ですし、面白いですよね。よくある“アルバムのリリースツアー”みたいなものともまた違っていて。

そうそう、すごくぜいたくなやり方をさせてもらえていますね。バンドのみんなともよく言ってるんですよ、「これ、1回だけしかやらないんだよね?」って。リハーサルもめっちゃがんばって、セットも衣装もその日のために作ってもらってるので、「1ステージだけで終わっちゃうの、もったいないなあ」という思いもあります。

──逆に言えば、それだけ特別なライブができていると。

そうですね、ありがたいことに。

──このスタイルのライブは今後も継続的にやっていく感じなんですか?

はい。できれば続けていきたいなと思っていますね。

花澤香菜
花澤香菜

気付いたら20年経っていた

──近況についてもちょっと伺えたらと思うんですが……大きいところでは今年で声優業20周年ということで、おめでとうございます。

ありがとうございます。そうですね、20周年。おかげさまで。

──何か感慨のようなものはあったりしますか?

あんまり実感は湧いてないんですよ。気付いたら20年経ってたという感じで……今でもたくさんオーディションを受けさせてもらっていて、本当に毎回就活しているような気持ちでやっているんです(笑)。始めた頃はまさかここまで続けられるなんて思っていなかったですし、よく続けてこられたなあとは思います。いろいろな縁にめちゃくちゃ恵まれてのことではあるので、ありがたいなあと感じていますね。

──リアルな気持ちとしては、実際そういうものなんでしょうね。

これから30代後半になっていくんですけど、そこからは本当に未知の世界というか。どういう役幅になっていくのかも未知なら、それを私がちゃんと表現できるのかどうかも未知だし、歌手活動がどうなっていくのかも含めて本当に想像がつかないんですよ。たぶん、気付いたら30周年を迎えてることになるんだろうなと思いますが(笑)。

──先日のライブで「毎日のアフレコが楽しくてしょうがない」とおっしゃっていたのが、個人的にすごく印象的だったんです。20年もやっている仕事が今なお楽しくてしょうがないというのは、本当に素晴らしいことですよね。

そうですね。毎回本当に面白い役をいただけることがまずありがたいんですけど、アプローチをいろいろ変えたりしながらアフレコにみんなで没頭している時間がすごく楽しいんです。

──実際、近年の花澤さんは……アフレコの現場などは直接見れないですけど、いろんなお仕事をされてるのを見るたびに「この人、本当に楽しそうだな」と思うんですよね。

それを感じさせるのもどうかと思いますけどね(笑)。

──例えばですけど、パンのサブスク販売(参照:花澤香菜から毎月パンが届くサブスクスタート)を始めたじゃないですか。最初にそのニュースを聞いたときは「この人はいったい何をしてるんだ?」と思ったんですけど……。

あははは。確かに、何をしてるんでしょうねえ……。

花澤香菜

──びっくりはしたんですけど、趣味を突き詰めてきた結果、それを求められたってことですもんね。

そうなんですよ。私は本当にただの趣味でパンを楽しんできた人間なので、何よりもパン屋さんにお金を落とすことが最重要だと思っているんですね。これまでにも「パンを絡めて何かやりませんか」というお誘いをいただいたことは何度かあったんですけど、今回のお話が初めて「これは“パン活”の領域を逸脱していないな」と思える内容だったので、だったら私がやる意味もあるかなと思いまして。

──そこにはちゃんと線引きがあるんですね。

ありますあります。私個人が利益を上げるためのものではなくて、お客さんにおいしいパンを食べてもらって、パン屋さんが潤ったらいいなっていう。オススメのパン屋さんがたくさんあるので、「ここのお店はどうですか?」とラインナップを決める会議が一番楽しかったですね。私の選んだパンがみんなに届くんだと思うと、ワクワクが止まらないです。

──それもこれも、花澤さんが長年にわたってパン愛を発信し続けてきたからこそ生まれた話ですよね。

そうなんですよ。「好きなものについて積極的に発言していったほうがいい」ってみんな言うじゃないですか。「確かになあ」って実感しました。

──そういうところを見るにつけ「楽しそうだなあ」と思うんです。花澤さんって、外野から見ている分にはある意味“いろんなことを成し遂げてしまった人”というふうにも見えるので、仕事へのモチベーションをどうやって維持しているのか不思議に思ったりもするんですけど……。

何も成し遂げてはいないですけどね(笑)。でもそうか、モチベーションねえ……。

──結局のところは「日々楽しい」ということがすべての原動力になっているのかなと。

そうなんですよね。しかも正解のないお仕事なので、「何かを達成した」みたいなことを感じる瞬間も特にないんです。常に反省があって、「今度はもっとこうしたい」という課題も出てくる。その繰り返しなので、基本的にモチベーションが枯渇することはないんですよね。

──それこそさっきおっしゃったように、今まで演じたことのないタイプの役に出会うこともまだまだあるでしょうし。

そうそう。それに加えて、共演する役者さんたちからも「この人はなんでこんなことができるんだろう?」という刺激をいつももらっていますから。もともと自分に自信がないせいもあるとは思うんですけど、基本的に「満足する」ということがないお仕事なんだろうなと思いますね。

──だから飽きることもないし、20年経っても楽しくてしょうがないんでしょうね。

まだまだいろいろ進化していきたいですし、常に「なんか面白いことやってんな」と思われる存在でいたいなと思います。

花澤香菜

プロフィール

花澤香菜(ハナザワカナ)

1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。2021年7月にポニーキャニオンへの移籍を発表し、2022年2月には約3年ぶりとなるアルバム「blossom」をリリース。2023年7月にアニメ「ダークギャザリング」のエンディング主題歌「灰色」を配信リリースした。