音楽ナタリー PowerPush - 映画「はじまりのうた」
映画「はじまりのうた」片平里菜が恋したニューヨークと音楽
映画「ONCE ダブリンの街角で」で「第80回アカデミー賞」歌曲賞を受賞し、その名を世界中に広めたジョン・カーニー。彼の最新作「はじまりのうた」(原題:BEGIN AGAIN)が2月7日より日本で公開される。
ニューヨークを舞台にした本作は、キーラ・ナイトレイとマーク・ラファロというハリウッドきっての人気俳優2人と、Maroon 5のボーカリストであるアダム・レヴィーンの共演が話題の音楽映画だ。豪華なキャスティングや胸をきゅんとさせるようなストーリー展開はもちろん、音楽業界の裏側も描いたディテールや多数の魅力的なオリジナル曲は音楽好きにも愛されることだろう。なお劇中歌「LOST STARS」は「第87回 アカデミー賞」の歌曲賞にノミネートされたほか、アダム・レヴィーンが同曲を「アカデミー賞」授賞式でパフォーマンスすることが決定するなど熱い注目を集めている。
今回はキーラ・ナイトレイが演じる主人公グレタと同じシンガーソングライターの片平里菜に、アーティスト目線で「はじまりのうた」の魅力を語ってもらった。
取材・文 / 中野明子 撮影(片平里菜のみ) / 上山陽介 ヘアメイク / 奈津
自分でもカバーしたくなっちゃった
──昨年の秋に映画の舞台になっているニューヨークに旅行されたそうですね。片平さんが「はじまりのうた」をご覧になったのはいつ頃だったんですか?
去年の10月末くらいかな。映画を観たときは帰国したばかりだったので、「ここ行った! あそこも行った」ってちょっと懐かしくなりました。
──旅の余韻に浸りながらご覧になったんですね。「はじまりのうた」を観た感想を教えていただけますか?
冒頭でキーラ・ナイトレイが演じるグレタが1人でバーで弾き語る歌がよくて(楽曲タイトルは「A Step You Can't Take Back」)。1曲目から泣けてきてしまったほど感動して、自分でもその曲をカバーしたくなっちゃいました。それと主人公がロンドンからニューヨークに行って音楽活動をする姿が自分の状況と被るところがあったんですよね。私も故郷の福島を離れて東京で活動をしてるんで。特に最初のシーンは、1人で路上ライブをしていた頃とかを思い出しちゃって。映画を観て初心に戻れた感じはしました。メジャーレーベルにいると、スタッフにステージを用意してもらって、交通費も支給してもらえて……そんな状況にあるんです。でも「はじまりのうた」のグレタは、恋人と一緒にニューヨークに来たのに、失恋して何もかも失ってゼロから始めていく。その時期って、大変だけど充実していたなって思い出しました。
──映画の中ではマーク・ラファロ演じるプロデューサーのダンと、グレタがニューヨークのさまざまな場所でレコーディングをするシーンが登場しますね。
そうですね。路地裏でレコーディングするシーンはよかったですね。地元の子供たちから“使用料”をせがまれたダンが、お金を払って子供たちにコーラスを依頼する場面とか笑っちゃったし。地下鉄でのゲリラレコーディングも、屋上でセッションするシーンもよかったなあ。屋上のレコーディングは自分でもやってみたいですね。
──冒頭のシーンに感動したとおっしゃってましたが、それ以外で印象に残ったシーンや楽曲はありましたか?
浮気した恋人の留守電に「もうあなたのことなんていらない」って歌で吹き込むところ(楽曲タイトルは「Like A Fool」)。あれはグッときたし、スカッとして最高でした(笑)。あと、恋人と仲がよかった頃の回想シーンで、グレタがピアノの弾き語りで歌う「Lost Stars」も素敵でしたね。
──私はグレタが「Like A Fool」を歌う場面を観て、片平さんの「女の子は泣かない」の歌詞の世界観と重なるなあと思いました。
被る被る! 男の子に対する恨み節とかね。うふふ(笑)。
ニューヨーカーになりたい!
──映画の中でプロデューサーのダンは「アルバムを作ろう」と言って、グレタを口説き落としますよね。「ヒット曲を作ろう」や「シングルを作ろう」ではなく、1つの世界観構築できるアルバムというのがポイントなのかなと感じたんですが、片平さんはアルバムとシングルに対する思いの違いはありますか?
私はアルバムがすべてだと思ってます。どっちも作る上ではこだわってますけど、洋楽を聴いてきた影響もあって最終的にはアルバムを意識してシングルを作るところがありますね。アメリカの場合はアルバムが1つの作品で、その中から何曲か先行してシングルとして売り出していく形が多いと思うんです。私もその感覚に近いです。
──片平さんがある“場所”をモチーフにアルバムを作るとしたら、どんな場所を選びますか?
やっぱり自分が生きている場所や関わりが深い場所がいいですね。今住んでる東京の喧噪の中だったり、地元福島の海の近くだったり……。あと家の中でもいいですね。私が深夜に1人でギターを爪弾きながら歌ってるものをそのままを録音しても面白いんじゃないかなと。ただ家で作ってるときはあまり音を出せないのもあるし、1人で作ってるからなのか必ずバラードになっちゃうんです(笑)。スタジオに入ったときは思いっきり音を出せるので、溜まっていたフラストレーションが爆発してアップテンポなものができますね。
──「はじまりのうた」は音楽も素敵ですが、舞台となっているニューヨークもすごく魅力的に描かれていますよね。
私、すごくニューヨーカーになりたいんです! 美に対しての意識が高い街だし、芸術に触れる時間を大切にする人が多い印象を持っていて。特にブルックリンに住みたいと思いました。街中でブルースミュージシャンが演奏してたりして、一緒にセッションしてみたいなと思いましたね。それから映画には出てこないけど、コニーアイランドも素敵でした。私、パティ・スミスが好きで聖地巡礼みたいな感じでコニーアイランドに行ったんです。あの寂しい雰囲気とかも含めて素敵だったし、すごくイマジネーションが膨らんで。あとニューヨークに旅行したときはビリー・ジョエルを観にMadison Square Gardenも行ったし。プライベートで旅をしても、やっぱり音楽にまつわるところになってきちゃうんですよね。
──お気に入りの場所として挙げてもらったブルックリンを舞台に曲を作ったらどんな曲になりそうですか?
街並みと同じようにオシャレな曲ができそうな気がします(笑)。
──映画の中ではグレタとダンがイヤフォンスプリッター(※2人で別々のヘッドフォンで同じ音楽をシェアできる分配器)を使って、同じ音楽を一緒に聴きながらニューヨークの街を散歩するシーンが登場しますね。
あれ私もやってみたいです! イヤフォンを片方ずつ友達と共有したことはあるけど、ヘッドフォンをしてっていうのはないので。あのデートの仕方はすごく素敵でしたね。スプリッターを使って、コニーアイランドで散歩デートしたいです。コニーアイランドは1人だと寂しいんで(笑)。
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2人で作った曲が映画の主題歌に採用され、メジャーデビューが決定したミュージシャンのデイヴ(アダム・レヴィーン)と恋人のグレタ(キーラ・ナイトレイ)。拠点としていたロンドンからニューヨークに移り住んだ2人には、今までとは違うセレブのような生活が待っていた。しかし1人でスターへの階段を駆け上がるデイヴと、グレタの間に少しずつ溝が生まれ始める。幸せな生活は続かず、デイヴとスタッフの浮気が発覚。裏切られたグレタは失意の中、旧友で売れないミュージシャンのスティーヴ(ジェームズ・コーデン)の家へと転がり込む。
スティーヴは落ち込む彼女を小さなバーに連れて行き、ステージで歌うよう誘う。浮かない表情のままステージに上がり、1曲弾き語ったグレタだが客にはまったく受けない。しかしたまたまバーに来ていた音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)が彼女に近付き、その歌を絶賛。「一緒にアルバムを作ろう」と持ちかける。ダンはここ数年ヒット曲を作り出せず、家族の問題にさいなまれ荒んだ生活を送っていた。何もかも失った2人は手を組み、ニューヨークの街を舞台にレコーディングを始めた……。
キャスト
- グレタ:キーラ・ナイトレイ
- ダン:マーク・ラファロ
- デイヴ:アダム・レヴィーン
- バイオレット:ヘイリー・スタインフェルド
- スティーヴ:ジェームズ・コーデン
- サウル:ヤシーン・ベイ(モス・デフ)
- トラブルガム:シーロー・グリーン
- ミリアム:キャサリン・キーナー
スタッフ
- 脚本・監督:ジョン・カーニー
- プロダクションデザイン:チャド・キース
- 編集:アンドリュー・マーカス
- 衣装デザイン:アージュン・バーシン
- 音楽:グレッグ・アレキサンダー(New Radicals)
- 片平里菜 ニューシングル「誰もが / 煙たい」 / 2015年2月25日発売 / ポニーキャニオン
- 完全生産限定ライブDVD盤 [CD+DVD] 2484円 / PCCA-4175
- 通常盤[CD] 1296円 / PCCA-4176
CD収録曲
- 誰もが
- 煙たい
- 東京の空に乗って
完全生産限定ライブDVD盤 DVD収録内容
2014年7月11日「自由学園明日館講堂」弾き語りライブ映像
- 夏の夜
- 心は
- tiny room
- CROSS ROAD
- Come Back Home
- amazing sky
- 女の子は泣かない
片平里菜(カタヒラリナ)
1992年生まれ、福島出身のシンガーソングライター。2011年9月に「閃光ライオット2011」で1万組の中から審査員特別賞を受賞する。翌2012年にはソニーWALKMAN「Play You. Label」第1弾アーティストに抜擢され、山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)プロデュースのもと楽曲制作。2013年1月にアジカン山田プロデュースによる楽曲「始まりに」を配信リリースする。同年5月にはギブソン社傘下のギターブランド・エピフォンが片平を日本人女性初のエピフォンアーティストとして公認したことも発表され、大きな反響を呼んだ。そして8月にポニーキャニオンからシングル「夏の夜」でメジャーデビュー。翌2014年1月には2ndシングル「女の子は泣かない」を発表。同年4月に3rdシングル「Oh JANE / あなた」を、8月に1stアルバム「amazing sky」を発表した。東京・LIQUIDROOM公演を含む「diffusy presents 片平里菜2ndワンマンツアー2014 "amazing sky"」は全公演即日ソールドアウトと、ライブの動員数でもその勢いをうかがわせている。2015年2月25日にニューシングル「誰もが / 煙たい」をリリース。
2015年2月10日更新