iriが2ndアルバム「Juice」を2月28日にリリースする。
本作には、iriの作品ではおなじみのケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)をはじめ、5lack、yahyel、WONK、高橋海(Lucky Tapes)、ESME MORI(Pistachio Studio)、TOSHIKI HAYASHI(%C)、OBKR(Tokyo Recordings)、Yaffle(Tokyo Recordings)といった多彩なクリエイター陣がトラックメーカーやプロデューサーとして参加。楽曲ごとにiriの新しい歌声と魅力が味わえる、濃密な内容に仕上がった。
今回の特集では、本人のインタビューに加え、アルバム参加クリエイターやiriと親交のあるアーティストのコメントを交え、「Juice」の世界を多角的に紹介する。
取材・文 / 天野史彬 撮影 / 須田卓馬
誰かに言っているようで、結局自分に向かって言っている
──2016年に1stアルバム「Groove it」でデビューして以来、1年以上の月日が流れました。iriさんの中にご自身の音楽がリスナーに伝わっているなという実感はありますか?
そうですね……ライブ会場でもそうですけど、SNSでメッセージをいただいたりしたときに、そう実感することが増えてきているかもしれないです。単純に「カッコいい!」って思ってもらえるのもうれしいんですけど、歌詞のメッセージに共感してくれる人が増えてきているなっていうのはすごく感じています。
──iriさんにとって、理想的な聴き手とのつながり方はありますか?
こう受け取られたらうれしいというのはないんですよね。もちろん、「誰かと音楽を共有したい」っていう気持ちはあるんですけど、私にとって歌詞を書くことは自分自身を吐き出すことにつながっていて。自分がそのとき見たこと、感じた気持ち、「これ、どう思う?」っていう疑問……そういうものを歌詞にして、作品として残している感覚が強いんです。だから、「私の音楽を聴いてどう思うか?」ということは、聴いた人それぞれで違うんじゃないかなあ。
──何かを明確に伝えているというよりは、iriさんがiriさん自身であることが、そのまま音楽になっている?
はい。それが自分の音楽のいいところだし、そうやって生まれた音楽を自由に受け取ってもらうことが、私の音楽の楽しみ方なんじゃないかと思います。
──実際、iriさんの音楽は、いい意味でとても孤独ですよね。眠れない夜に公園を散歩していたら、同じように夜の公園をブラついている人がいて、会話するわけではないんだけど、同じような人がこの世界にいるんだ、と思って少しうれしくなるような……iriさんの音楽を聴いていると、僕はそんな感覚を覚えます。
ありがとうございます。聴いた人が、それぞれイメージした場所に行けるような曲を作れるよう、いつも意識はしているんです。私自身、ほかのアーティストさんの曲を聴いても、その曲を作った人が観た景色や感情を、自分が入り込んで体験できたり、想像できるような音楽が好きなんです。
──iriさんの音楽は、常に聴き手に対して1対1の関係を望んでいるように思えるんですよね。歌詞の中にも“2人”という関係性が描かれている場面も多いし。
そうですね。恋愛を描いたうえでの“2人”という表現もあれば、主人公をちょっと離れたところから見ながら、その人に何かを伝えようとしているっていう感じもあるし。
──「離れたところからの目線」というのは、iriさんの音楽を象徴している表現のような気がしますね。
そうかもしれないです。あと、やっぱり「自分が自分を見ている」みたいな感覚が私は強く。誰かに言っているようで、結局、自分に向かって言っている……そういうことを歌にしているなって思います。
もっと自分らしくありたい
──iriさんは、過去のご自身の作品を聴き返すことはありますか?
ありますね。最近は特に聴いたりするんですけど、1stアルバムの「Groove it」を聴くと、「若いなあ」って思ったりします(笑)。
──今でも十分若いでしょう(笑)。「Groove it」から新作「Juice」を作り上げた現在まで、iriさんはどのように変化してきたと思いますか?
音楽的にはよりヒップホップ色が強くなったなって思います。あと、最初の頃は「作らなきゃ!」と言うよりは、「作ろっかなー」っていう感じで(笑)、気を抜きながらやっていたんですけど、最近は、「作るぞ」っていうモードになって作るようになりました。
──iriさんは、かねてから「聴き手の背中を押すような音楽を作りたい」とおっしゃっていたじゃないですか。それは、もともと心理カウンセラーになりたかったというご自身の素養から生まれてきたものでもあったと思うんですけど、その気持ちに変化は生まれたりしましたか?
そうですね……確かに去年、「Watashi」を出したときは、「誰かの背中を押したい」っていう気持ちは強かったんです。曲もNIKEさんとタイアップで作ったものだったし、そういう気が強いモードに入っていたんですけど、今回のアルバムは逆に力を入れ過ぎず、気を張り過ぎないようにしようと思ったんですよ。
──その気持ちの変化を詳しく知りたいです。
「Watashi」を作ったことによって、「力強い女性でなければいけない」みたいなモードに入ったのですが、「それって本当に私が伝えたいことなのかな?」って思うようになったんです。強いことばかり言っている自分が少し気持ち悪くなってきちゃったんですよね。そもそも私、そんなに強くないし(笑)。
──まあ、強いだけの人はいないですよね。
なので、今回のアルバムはもっと自分らしくありたいと思った、と言うか……日常的なことを歌いたいな、と思いました。
人を落ち着かせる曲のほうが私には合っている
──今、強くて大きなメッセージは巷にあふれているし、特に女性の在り方、生き方については、いろんなステートメントが出てきていますよね。それはすごく重要なことではあるんだけど、iriさんは1人の表現者として、そんな世の中の潮流に距離を置きたかったという部分もありますか?
うーん。もちろん、そういうメッセージを放つ曲があってもいいと思うんですけど、私自身、特にこのアルバムを作り始めた頃は、「Watashi」の影響でそのモードに入り込んじゃって抜けるのがすごく大変だったんですよね。一時は作る曲すべてが「自分を強く持とう!」みたいなテンションになっちゃったんですけど、自分で客観的に聴いてみたとき、「私ってそんなに強くいなきゃいけないのかなあ?」って、疑問が湧いてきて……結局、疲れちゃって。「Watashi」はメッセージ性の強い曲だったけど、すべての曲がそうなってはいけないなって思ったんです。
──iriさんなりのメッセージの在り方というのが、そこから明確に見えてきたんですね。
そうですね。聴いた人が「こうでなければいけない」と思うようなメッセージよりは、「あ、こんな感じでいいんだ」って思えるような、人をプッシュすると言うより、落ち着かせる曲のほうが私には合っているなって思います。
──そういったiriさんのスタンスを体現しているようなアーティストで、シンパシーを感じたり、影響を受けたりしている人っていますか?
邦楽のラッパーの方の作品をよく聴くんですけど、例えば5lackさんの歌詞もそうですよね。何かを「こうだ!」って伝えてくると言うよりは、自然と言葉が入ってくる。そういう人の音楽に共感します。
──実際、今作「Juice」は、もちろん「Watashi」のようなステートメントの強い曲も光っているんですけど、例えば11曲目の「ガールズトーク」のような、すごくパーソナルな情景が歌われている曲も聴いていてグッとくるんですよね。
「ガールズトーク」は、chelmicoのMAMIKOちゃんと、音楽のこととか、悩みとか、くだらないこととか、いろんな話しながらお酒を飲んだ日があって。その日に「お互い、今日あったことを歌詞にしたら面白いよね」っていう話をしたんです。それが、ちょうどアルバムの制作中だったので、「私、書くよ」って。その日のことと、彼女のことを書いた曲がこの曲なんです。
──じゃあ、MAMIKOさんの作品の中にも、いつかiriさんとの夜を歌った曲がでてくるかもしれないんですね。
かもしれないですね(笑)。私も楽しみです。
次のページ »
聴いた人のエネルギーになるミックスジュース的な1枚に
- iri「Juice」
- 2018年2月28日発売 / Victor Entertainment
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3996円 / VIZL-1310 -
通常盤 [CD]
3132円 / VICL-64926
- CD収録曲
-
- Keepin'[lyrics:iri / music:iri / track produced by ESME MORI (Pistachio Studio)]
- Corner[lyrics:iri / music:iri、OBKR、Yaffle / produced by OBKR、Yaffle (Tokyo Recordings)]
- Slowly Drive[lyrics:iri / music:iri、OBKR / produced by OBKR、Yaffle (Tokyo Recordings)]
- For life[lyrics:iri / music:iri、ケンモチヒデフミ / track produced by ケンモチヒデフミ]
- Watashi[lyrics:iri / music:iri、ケンモチヒデフミ / track produced by ケンモチヒデフミ]
- Telephone feat. 5lack (Extended)[lyrics:5lack、iri /music:5lack、iri / produced by 5lack]
- Dramatic Love[lyrics:iri / music:iri、WONK / track produced by WONK]
- Night Dream[lyrics:iri / music:iri、Kai Takahashi / track produced by Kai Takahashi (LUCKY TAPES)]
- your answer[lyrics:iri / music:iri / track produced by yahyel]
- fruits (midnight)[lyrics:iri / music:iri / track produced by ESME MORI (Pistachio Studio)]
- ガールズトーク[lyrics:iri / music:iri、ケンモチヒデフミ/ track produced by ケンモチヒデフミ]
- Mellow Light[lyrics:iri / music:iri / track produced by Toshiki Hayashi (%C)]
- 初回限定盤DVD収録内容
-
iri One Man Live 2017
- 無理相反
- breaking dawn
- Wandering
- Never end
- ナイトグルーヴ
- 半疑じゃない
- Watashi
- blue hour
- Fancy City
- your answer
- 会いたいわ
- rhythm
- フェイバリット女子
- brother
MUSIC VIDEO
- rhythm
- Watashi
- Telephone feat. 5lack
- iri 1st Tour 2018
-
- 2018年3月15日(木)愛知県 APOLLO BASE
出演者iri / 向井太一 - 2018年3月16日(金)大阪府 Shangri-La
出演者iri / 向井太一 - 2018年3月18日(日)宮城県 CLUB SHAFT
出演者iri - 2018年3月20日(火)東京都 LIQUIDROOM
出演者iri / DJ:Licaxxx - 2018年3月21日(水・祝)福岡県 DRUM Be-1
出演者iri
- 2018年3月15日(木)愛知県 APOLLO BASE
- iri(イリ)
- 1994年生まれ、神奈川県逗子市在住の女性アーティスト。メジャーデビュー前からサマーソニックに出演したり、ドノヴァン・フランケンレイターの来日公演でオープニングアクトに抜擢されるなどして注目を集める。2016年8月にメジャーデビューアルバム「Groove it」を発表し、2017年3月に1stシングル「Watashi」をリリース。2018年2月に5lack、yahyel、WONK、高橋海(Lucky Tapes)、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)、ESME MORI(Pistachio Studio)、TOSHIKI HAYASHI(%C)、OBKR(Tokyo Recordings)、Yaffle(Tokyo Recordings)が参加したアルバム「Juice」を発表する。