音楽ナタリー Power Push - アーバンギャルド×藤井隆
ツーマン控えた2組が初対面「コンサートってなんて素敵な場所なんやろ」
90年代の音楽にはどんな文化も飲み込む万能感があった
──アーバンギャルドには世代的にリアルタイムのものよりも、昔のモチーフを使った表現が多いですよね。何か理由があるんですか?
浜崎 単純に好きっていうのが一番大きいですね。
松永 本当にひねくれ者なんで。リアルタイムで流行ってた小室哲哉さんとかB'zとか、基本的に全然聴かなかったし。それこそ戸川純さんとかムーンライダーズとか、別の世代の人たちの音楽ばっかり聴いてました。僕にとっては懐かしくもあり、同時に新しかったんですよね。80年代の音楽がクールであると感じてました。でも不思議なもので、今90年代のものを聴くとクールだったりするんですよ。
藤井 表現が映像的なのはどうして?
松永 もともと演劇をやってたり、映画が好きだったり、詩や小説を書いたり、音楽以外のものも同時に好きで、それを全部詰め込めるのが音楽だったのかなって気がするんです。90年代後半から2000年代前半って、日本の音楽業界が一番潤ってた時代ですよね。例えば椎名林檎さんがショートフィルムを作られたり(2003年の「百色眼鏡」)、音楽でアートも映像も文学もなんでもできる、っていう万能感があった。今は音楽業界にそれほどお金もないですし、データで聴けるのは便利ではあるけど、お手頃な感じになっちゃってる気はします。アーティストも身近じゃないですか。Twitterもやってるし(笑)。
藤井 昔は雲の上の人だったもんね。
松永 最近すごく思うのは、90年代の音楽シーンへの憧れみたいなものを自分は持ち続けてるんだなって。アーバンギャルドがいろんなことをやるのも、そういう理想が前提としてあるからで、当時の音楽のなんでもあり感というか、どんな文化も飲み込んでしまうような強さって、このご時世だとなかなか出すのが難しいと思うんですけど。
藤井 アーバンギャルドは十分出してらっしゃると思います。
松永 出せてるとしたら、好き放題やらせてくれるチームのおかげですね。うちの規模では無茶なくらいMV作らせてもらってますし(笑)。
藤井 浜崎さんはどう? 浅倉大介さんのほかに憧れてるのは?
浜崎 私はとにかく電子音楽が好きなんです。流行りのEDMとかもカッコいいと思うんですけど、2~3年前のを聴くとすごく流行から遅れてるように聞こえちゃったりするんですよね。だから逆に最先端を追求したくなくて、80'sや90'sの感触をどうしても求めちゃうみたいな。
松永 あと歌メロの強さってやっぱり大事ですよね。
浜崎 それもあります。最近の曲って……っていう言い方はあんまりしたくないんですけど、リズム先行でメロディがあんまり残らない曲が多いなって思ってて。私も筒美京平さんとか大っ好きなので。
藤井 筒美先生はえげつないよね!
浜崎 歌謡曲って圧倒的にメロディじゃないですか。あと歌詞。そして歌声が三位一体になってる、あの感じをやっぱり求めちゃいます。
瞬時に直感的に理解してもらえるのは音楽だけかもしれない
松永 最近ふと思ったんですけど、今の音楽業界ではライブの「現場」っていうものが前提にされすぎちゃってる気がするんですよね。楽曲にもかけ声やコールを入れる箇所が最初から用意されてたりして、演出が透けて見えすぎちゃってるというか。もっと普通に歌を聴きたいし、ライブでどういう反応が起こるかわからないようなものを作ってもいいんじゃないかなって。
浜崎 うちのファンの方たちってけっこうライブで戸惑っちゃうみたいです(笑)。「普通にノレるかな?」って思ったら途中で拍子が変わったりとか、そういうことをやっちゃうバンドなんで、ライブに緊張感がありますね。
松永 藤井さんは忠誠心が強いってさっきおっしゃってましたけど……。
藤井 尊敬する人に「こうしなさい」って言われたらね。「この先生なら!」って思うと塾生になる。褒められたいんです。褒められて伸びるタイプ。
浜崎 めっちゃわかります。私も褒められたい。
藤井 コンサートってお客さまが褒めてくれるからうれしいし、がんばれるんですよね。だって、だいぶ前からチケットを買って楽しみにしてくださってるわけじゃない?
松永 そもそも、わざわざ足を運んでくださるんですもんね。
藤井 お芝居はまず物語を提示して空気を作らないと、出てきただけで盛り上がるわけじゃないし、新喜劇やったら前振りがあって初めて笑いが生まれるけど、コンサートではイントロが鳴った瞬間に「キャーッ!」って熱狂してくださるじゃないですか。なんて素敵な場所なんやろって思うんです。それは音楽の力ですよね。
松永 確かに、瞬時に直感的に理解してもらえるのって音楽だけかもしれない。
藤井 あと去年から初めて物販に立たせていただいて、手売りするのがめっちゃ好きになりました(笑)。佐渡島のフェスに呼んでいただいたときにね、物販でご婦人が声をかけてくださったんですよ。「観てたよ、『まんてん』」って。NHKの朝ドラなんですけど、ずいぶん前なので自分が出ていたことを覚えていてくださる方がいらっしゃるなんて思ってなかったし、お会いできたのは音楽のおかげやから、いろいろやらせてもらってて本当によかったなって思いました。松永さんも「てれびくん」に出てはるから、将来ちびっ子たちが来てくれますよ。
松永 5カ年計画で考えてるんですよ。今、小学生の子たちが5年後にアーバンギャルドを知って「こんな闇の世界があるのか!」って気付いて観に来てくれたらいいなって。だからあと5年は続けます。
藤井 5年と言わず、ずっと続けてくださいよ。
トレーナー着て子供向けライブやりましょう!
藤井 ……松永さん、なんかどんどん席が離れていってない?(笑)
浜崎 この人、ホント人と距離をとりたがるんですよ。
藤井 ホンマに? 僕、そういうことじゃないと思う。
松永 本当は距離とりたくないんですよ。寂しがり屋なのかなって最近ちょっと思うんです……ってなんでこんな話をしてるんだ(笑)。
藤井 でしょー? わかる。センシティブなところはもちろんおありやろうし、すっごく感受性が強い一方で、意外に普通の人じゃないかなと僕は睨んでんねんけど。
松永 あ、でも普通ですよ。そんなややこしい人ではないです(笑)。
藤井 浜崎さんのほうがよっぽどエッジィなんじゃない?
浜崎 常識人ぶってますけど、まだ開花してない芽がいっぱいあります(笑)。
藤井 音楽以外にもやってみたいことあるでしょ? 女優さんとかは?
浜崎 全然興味ないんです。事務所的には「やりなさい」って感じだと思うんですけど。
松永 話が来たらやるでしょ?
浜崎 えーっ、わかんない。
松永 僕だって、まさかNHKから子供番組のレギュラーをやってくれなんて話が来るとは夢にも思ってなかったですよ(笑)。
浜崎 悪役なので子供たちには本気で嫌われてるらしいです。
松永 「バカ!」とか書かれた絵が送られてくるのが、ありがたいんですよね。
藤井 やり甲斐ありますよね。すごく素敵なこと。
浜崎 一部の悪役好きの子供たちにはクリティカルヒットしてるみたいですし(笑)。
藤井 子供向けのライブ「アーバンギャルド昼の部」とか、やってみたら?
浜崎 実は歌のおねえさん狙ってるんです。
松永 マジでアリかもしれないですね。ファミリー向けの要素もあるし。
藤井 実現したら子供連れて観に行きますよ。
松永 やりましょう!
浜崎 やりたい! 全部ひらがなで「みんなでうたおう! あーばんぎゃるど」みたいな。
藤井 メイクとヘアも変えて。
松永 トレーナー着て、絵描き歌も歌って。
藤井 8月5日、UNITでやらせていただきましょうか(笑)。いや、でも本当に楽しみ。
浜崎 私たちも楽しみです。「藤井隆のホットホット屋」、復活させようかな。
松永 等身大パネルをまた作らせていただいて。
藤井 全然いいよ。いいけど、そんなに食いついてくれる子おらへんで。今2016年ですよ(笑)。しっかりして、アーバンギャルド! 今を生きて!
浜崎 そんなことないですよ。20代以上には訴求します!
藤井 ホント? その気になっちゃう。全然売れへんかったらどうする?
浜崎 全部私が買い取ります!(笑)
代官山UNIT 12th ANNIVERSARY LIVE「ご安心ください vol.1」
2016年8月5日(金)
東京都 UNIT
出演者
アーバンギャルド / 藤井隆
収録曲
- 硝子のベッド
- 雨音はショパンの調べ
- ANGEL SUFFOCATION
- 誰より好きなのに
- Forever Us
- ねぇ
- Lost Blue
- 藤井隆 DJミックスアルバム「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」2016年7月13日発売 / 2500円 / YRCN-95259 / よしもとアール・アンド・シー
- 「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」
- Amazon.co.jp
収録曲
- アイモカワラズ
- ディスコの神様 feat. 藤井隆(Carpainter remix) / tofubeats
- YOU OWE ME(Radio Edit)
- I hold you tight
- 幸福インタビュー
- 素肌にセーター
- 未確認飛行体
- 赤と黒
- Socket
- 代官山エレジー
- I'M IN with YOU
- 究極キュート
- discoball
- make over feat.乙葉(On The TAKASHI ver.)
- SAVE ONESELF
- STAR BRIGHT LOVE
- わたしの青い空
- I just want to hold you(RAM RIDER REMIX)
- T&T Remix version / T&T(島田珠代・藤井隆)
- 1/2の孤独
- 月と砂漠と
- タメイキ
- 未来-Sex-
- drive me crazy
- 地球に抱かれて
- Sa ら Sa
- ある夜 僕は逃げだしたんだ
- OH MY JULIET!
- Quiet Dance(TAKASHI SOLO BPM124ver.)
- ナンダカンダ
- アーバンギャルド 7thアルバム「昭和九十年」2015年12月9日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4104円 / FAMC-208
- 通常盤 [CD] / 2700円 / FAMC-209
CD収録曲
- くちびるデモクラシー
- ラブレター燃ゆ
- コインロッカーベイビー
- シンジュク・モナムール
- 詩人狩り
- 箱男に訊け
- 昭和九十年十二月
- あいこん哀歌
- ゾンビパウダー
- 平成死亡遊戯
- オールダウトニッポン
初回限定盤DVD収録内容
PROPAGANDA VIDEO
- くちびるデモクラシー
- ラブレター燃ゆ
- コインロッカーベイビーズ
- 平成死亡遊戯
LIVE VIDEO
アーバンギャルド2015春を売れ!SPRING SALE TOUR より
- コインロッカーベイビーズ
- ワンピース心中
- 原爆の恋
- 自撮入門
- さくらメメント
- ファンクラブソング
- 病めるアイドル
- いちご売れ
- プリント・クラブ
- 都会のアリス
アーバンギャルド
「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。2015年12月に4枚目のオリジナルアルバム「昭和九十年」をリリース。なお松永は2015年からNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演しており、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。
藤井隆(フジイタカシ)
1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開した。その後さまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」、同年10月には初のベストアルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」を発表。2016年7月には初のDJミックスCD「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」をリリースした。8月24日には早見優の21年ぶりの新作「Delicacy of Love」を全面プロデュースし、SLENDERIE RECORDより発売する。