音楽ナタリー Power Push - アーバンギャルド×藤井隆

ツーマン控えた2組が初対面「コンサートってなんて素敵な場所なんやろ」

恥ずかしいし、歌うのはイヤだった

松永 CMを作りたかったっておっしゃいましたけど、どっちかというとセルフプロデュース志向が強いんじゃないですか?

藤井隆の楽曲で構成されたDJミックスアルバム「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」のジャケット

浜崎 「Delicacy」(7月13日に発売された、藤井隆の楽曲で構成されたミックスCD「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」)のジャケットデザインもディレクションなさったんですよね。

藤井 でも最初の頃は自分のやりたいこともわからへんし、とにかくいつも怒られてました。ある時期からは「こういうことをしたい」という志向もフツフツとあったとは思うんですけど、発表する場がなかったし。ほかの芸人さんには単独ライブとかもあるじゃないですか。自分にはそれにあたるものがないのがコンプレックスだったんです。でもそれがまさか音楽になるとは……自分でもまったく思ってなかったですね。それなのに本当にいろんなことをやらせてもらって、すごく恵まれてたことがよくわかったので、ひさしぶりに活動再開しようかということになりました。

松永 僕は藤井さんに、実際に歌い始める前からアーティスティックな雰囲気を感じてましたよ。

藤井 坂西伊作さん(当時のアンティノスレコード社長。故人)が声をかけてくださって歌うことになったんですけど、恥ずかしいし最初は断ったんです(笑)。チーフマネージャーと3人でホテルでお会いしたときに、CD出すって言ったら喜ぶと思ってたみたいなんですけど、僕は「イヤです」って返事して帰ろうとして、「もうリリース決まってるから」って言われて引き止められて。でも、皆さん本当に熱を持って取り組んでくださったし、浅倉大介さんもすごく気を遣ってくださって。パルコ劇場でミュージカルの本番が終わって、夜の10時半頃スタジオに入ったら、お寿司とかケーキが用意してあってね、「疲れてるでしょ? 何か食べて」ってすごく優しくしてくださるんです。「歌えると思ったら言ってください」「はい」「どうですか?」「まだできません」。勝手でしょ(笑)。いい時代でした……ってごめんなさいね、僕の話ばっかり。お二人のことも話してください!

3日休むと「自分には価値がないんじゃないか」って

藤井 作詞作曲はどうしてるの?

松永 基本的に作詞はすべて僕で、作曲はメンバー全員です。まずアルバムの企画書みたいなのを書いて、こういう曲が欲しいんだよね、ってメンバーに振り分けていくイメージですね。彼女(浜崎)はテクノ寄りのものが得意で。

浜崎容子(アーバンギャルド)

浜崎 浅倉大介さんが浸透してるんです(笑)。けっこうバキバキの男らしいアレンジをするねって言われます。

藤井 何を使って作るの?

浜崎 パソコンです。

松永 コンピュータ中心に作っていって、楽器を重ねていく感じですね。

藤井 そのときは詞はないの?

浜崎 まずタイトルを渡されるんです。あと「おそらくこういうのが入ります」っていう言葉をいくつか。そこから「どんな曲だろう……」って想像して作っていきます。

藤井 思ってた感じになります? 詞が付いたときに。

浜崎 わりとハマりますね。

藤井 へー。面白いね。

松永 僕ら、アンダーグラウンドなところで活動してますけど、メロディはキャッチーにしたいんですよね。それこそ戸川純さんなんて、歌謡曲とかポップ、ロックの文脈を踏まえて、その中でドロドロした世界を表現されてるじゃないですか。僕らもドロドロしたものをいかにポップに聴かせるか、というところに重点を置いてます。

藤井 松永さんにはドロドロするような理由があるの?

松永 理由ですか!?

藤井 私たちは松永さんに騙されてると思うんですよ。ルックスも含めて。本当はすくすくと育ってそうな気がする。

松永 うーん……なんかやっぱり、コンプレックスがあるのかなって。

藤井 例えば?

松永 今ちょうどツアーが終わったところなんですけど、こうしてちょっと日程が空くと、すごく焦るんです。

藤井 なんで?

松永 曲を作ったりステージに上がってないと、自分にはなんの価値もない人間だって気がしてきちゃうんですよね。

浜崎 それは私もすごくあります。

松永 「Let's天才てれびくん」に出させていただいてて、ツアーもレコーディングもやらせていただいて、今は小説も書いてるんですけど、それが全部同時に来ると「忙しい、つらい、休みたい」って思うんです。でも例えば3日くらいポコッと休みができると……。

藤井 「大丈夫かな」とか?

松永 大丈夫というか、「自分には価値がないんじゃないか」っていう気持ちになります。

藤井 たかだか3日でえ!?(笑)

「僕が芸人やからこんなことに」って、ショックで意識がなくなった

松永 藤井さんもそういうところないですか? ワーカホリック的な。

藤井 昔はそうでした。本当に寝る時間がなかった時期もあるしね。体がものすごく丈夫なんで、僕自身はへっちゃらなんですけど、マネージャーさんが見事にバタバタ倒れていったんです。ある方に「あなたが休むって言ってくれないとみんな休めないんですよ」って言われて、はたと気付いたのが十何年か前で、以来、休みがあっても平気派です。

松永 病まないですか?

藤井隆

藤井 全然。ちょっと「繊細です」みたいなイメージを打ち出してたこともありますけど(笑)、実際は全然そんなことないから。

松永 僕、いろいろやりたいし、実際にやらせてもらってるんですけど、たまに自分の中で切り替えがうまくできなくなることがあるんです。藤井さんも音楽に芝居にテレビに、いろいろやられてますけど、そういうことはなかったですか?

藤井 本当のこと言うといろいろありました。例えば音楽絡みやねんけど、「CDが出ました」って渡したら目の前でポイッと捨てられたことが何度かありまして。それがあまりにも悔しくて悲しくて。

松永浜崎 えーっ!

藤井 「ちょっとー!」って走って取りに行くとでも思ったんでしょうね。「藤井くんはそのほうがおいしいでしょ」っていう愛情だったと思うんです。でも一方で僕、わりと忠誠心が強いほうやから。松本(隆)先生とかいろんな方々が正面からきちんと向き合ってくださって、やっとできたCDなんですよ。完成したときはうれしかったし、皆さん喜んでくださったのに、「僕が芸人やからこんなことに……」と思ったらすごくショックで。

浜崎 そんなときはどうやって立ち直るんですか?

藤井 根が図太いから、電話がガンガン鳴ったらはたと我に返って、仕事には行くんですけどね。僕は現場現場で「とりあえずこの人だけは悲しませんとこ」って思って一生懸命やるんです。その相手がプロデューサーなのか監督なのかディレクターなのかわからへんけど。そういう仕事のやり方をずーっと重ねてきたんですよ。だから「気持ちを切り替えてがんばろう」とかはあんまり思ったことないかな。……あれ、お二人の話だよね?(笑)

代官山UNIT 12th ANNIVERSARY LIVE「ご安心ください vol.1」

代官山UNIT 12th ANNIVERSARY LIVE「ご安心ください vol.1」

2016年8月5日(金)
東京都 UNIT

出演者

アーバンギャルド / 藤井隆

浜崎容子 ニューアルバム「Blue Forest」2016年6月15日発売 / 2376円 / FAMC-228 / KADOKAWA
「Blue Forest」
Amazon.co.jp
収録曲
  1. 硝子のベッド
  2. 雨音はショパンの調べ
  3. ANGEL SUFFOCATION
  4. 誰より好きなのに
  5. Forever Us
  6. ねぇ
  7. Lost Blue
藤井隆 DJミックスアルバム「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」2016年7月13日発売 / 2500円 / YRCN-95259 / よしもとアール・アンド・シー
「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」
Amazon.co.jp
収録曲
  1. アイモカワラズ
  2. ディスコの神様 feat. 藤井隆(Carpainter remix) / tofubeats
  3. YOU OWE ME(Radio Edit)
  4. I hold you tight
  5. 幸福インタビュー
  6. 素肌にセーター
  7. 未確認飛行体
  8. 赤と黒
  9. Socket
  10. 代官山エレジー
  11. I'M IN with YOU
  12. 究極キュート
  13. discoball
  14. make over feat.乙葉(On The TAKASHI ver.)
  15. SAVE ONESELF
  16. STAR BRIGHT LOVE
  1. わたしの青い空
  2. I just want to hold you(RAM RIDER REMIX)
  3. T&T Remix version / T&T(島田珠代・藤井隆)
  4. 1/2の孤独
  5. 月と砂漠と
  6. タメイキ
  7. 未来-Sex-
  8. drive me crazy
  9. 地球に抱かれて
  10. Sa ら Sa
  11. ある夜 僕は逃げだしたんだ
  12. OH MY JULIET!
  13. Quiet Dance(TAKASHI SOLO BPM124ver.)
  14. ナンダカンダ
アーバンギャルド 7thアルバム「昭和九十年」2015年12月9日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
初回限定盤 [CD+DVD] / 4104円 / FAMC-208
通常盤 [CD] / 2700円 / FAMC-209
CD収録曲
  1. くちびるデモクラシー
  2. ラブレター燃ゆ
  3. コインロッカーベイビー
  4. シンジュク・モナムール
  5. 詩人狩り
  6. 箱男に訊け
  7. 昭和九十年十二月
  8. あいこん哀歌
  9. ゾンビパウダー
  10. 平成死亡遊戯
  11. オールダウトニッポン
初回限定盤DVD収録内容

PROPAGANDA VIDEO

  1. くちびるデモクラシー
  2. ラブレター燃ゆ
  3. コインロッカーベイビーズ
  4. 平成死亡遊戯

LIVE VIDEO
アーバンギャルド2015春を売れ!SPRING SALE TOUR より

  1. コインロッカーベイビーズ
  2. ワンピース心中
  3. 原爆の恋
  4. 自撮入門
  5. さくらメメント
  6. ファンクラブソング
  7. 病めるアイドル
  8. いちご売れ
  9. プリント・クラブ
  10. 都会のアリス
アーバンギャルド

「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。2015年12月に4枚目のオリジナルアルバム「昭和九十年」をリリース。なお松永は2015年からNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演しており、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。

藤井隆(フジイタカシ)

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開した。その後さまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」、同年10月には初のベストアルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」を発表。2016年7月には初のDJミックスCD「DJ MIX "Delicacy" mixed by DJ DC BRAND'S」をリリースした。8月24日には早見優の21年ぶりの新作「Delicacy of Love」を全面プロデュースし、SLENDERIE RECORDより発売する。