音楽ナタリー Power Push - 銀杏BOYZトリビュートアルバム「きれいなひとりぼっちたち」特集 銀杏BOYZ×リリー・フランキー
ひとりぼっちの2人の対話
40代になったら
リリー カズくん今いくつになるんだっけ?
峯田 39歳です。リリーさん39歳ぐらいのときってどんな感じでした?
リリー 唯一の家族だったお袋が死んで2年ぐらい経ってて、まだ喪失感みたいなものは残ってた時期だよね。でも不思議なことがいっぱい起きた。その頃1人で小料理屋に入って飲んでたときに、となりにいた白髪のおじさんと世間話して「もうすぐ40歳なんです」って言ったら、そのおじさんに「うらやましい。40代になったら世界が自分の思うように動きますよ」って言われたの。あと秋山道男さんっていう先輩に「リリー、40代になったらもう“コーマンバリバリ”だぞ!」って言われて「マジですか! そんな楽しいの?」って(笑)。
峯田 えー、いいなあ!(笑)
リリー 世界が思うように動くかどうかはともかく(笑)、確かに30代のときに自分が思ってた40代とはだいぶ違う気がするね。
峯田 そうなんだ? どんな感じなんだろうな。でも俺23歳ぐらいからずっと気分が変わってないままだったんですけど、でも去年の終わりぐらいかな、「あ、変わった」っていう感じがあったんですよ。「なんか終わったな」みたいな感覚が。うまく言えないですけど。
リリー バンドがなくなったから?
峯田 そうかもしれない。でも全然悪い感じじゃないんですよ。なんか楽しみなんです。
「汚れたくない」って思ってる
リリー そういえば俺ここ最近、今まで思ったことなかったんだけど、夜中に1人で家にいるときに「寂しいな」って思うときがあってさ。
峯田 そうなんですか。「楽しいな」っていうときもあります?
リリー ない。
峯田 でも「寂しいな」はある?
リリー うん。
峯田 やっぱ誰かと住んでたり子供がいたりするといいんですかね。
リリー やっぱそんな平凡な解決しかないんだろうね。この平凡の呪縛からは逃れられないっていう。
峯田 そういうの先にリリーさんがやってくれないと俺できないですよ。同棲も結婚も子供も。
リリー 結局この生き方を変えようと思ってもさ、じゃあ今からピースボートに乗ればいいとかって話じゃないじゃん。もうそういうことじゃないからね。
峯田 仕事終わって帰ってきて、奥さんに「ただいま」って言ったり、手料理を作ってもらって向かい合って「いただきます」って言ったりとか、そういうのやったことないもんな。
リリー 「おはよう」も「おやすみ」も普段言わないもんね。
峯田 あ、でも今回YUKIさんが「漂流教室」って曲をカバーしてくれて、「漂流教室」って楳図かずお先生のマンガなんですけど、もともとのタイトルは「ただいま」だったらしいんですよ。で、YUKIさんが「峯田くんが作った『ただいま』っていう曲を聴きたい」って言ってくれて。地味に一番キツいテーマの曲。でもYUKIさんが言うんだったら、って思ってるんです。
──お二人はこれからもずっと“ひとりぼっち”のままだと思いますか?
リリー うん、もし結婚したり子供がいたりしても、この孤独感っていうのはなくならないと思うんですよね。そんな形式的なことですべて埋まってはいかないと思うから。でも、自分が持ってるこの孤独感みたいなものは、これは何かを考える上ではとても大切なことだと思う。
峯田 これは自分のしょうもないところなんですけど、「汚れたくない」って、どっかで思ってるんですよね。もう汚れてるんだけど、でも自分からは汚れたくない。そういう気持ちがどっかにあるんです。例えば伴侶がいるのにそれでも孤独だっていうその孤独よりは、自分が誰とも結婚しないその孤独のほうを選びたい。結婚して浮気もして不倫もして、それでも孤独なんだったらもう最初から1人のほうがいいやって。きっとリリーさんもそうなんじゃないかなって。
リリー うん、たぶんそういうことですよ。いつまでも「きれいなひとりぼっち」でありたいんだと思う。だってひとりぼっちで汚れてたらもう最悪だもんね(笑)。
- V.A.「きれいなひとりぼっちたち」
- 「きれいなひとりぼっちたち」
- 2016年12月7日発売 / 3240円 / UNIVERSAL J / UPCH-2105
- itunesへ
- レコチョクへ
- ハイレゾ配信 / レコチョクへ
- 2017年5月17日にアナログリリースも決定
収録曲
- 漂流教室 / YUKI
- ぽあだむ クボタタケシ REMIX Version I / クボタタケシ
- 夢で逢えたら / 麻生久美子
- あいどんわなだい(Instrumental) / YOUR SONG IS GOOD
- 援助交際 / クリープハイプ
- NO FUTURE NO CRY / サンボマスター
- なんとなく僕たちは大人になるんだ / 安藤裕子
- 夜王子と月の姫 / 曽我部恵一
- 駆け抜けて性春 / ミツメ
- BABY BABY / sébuhiroko
- YOU & I VS. THE WORLD / THE COLLECTORS
- ナイトライダー / GOING UNDER GROUND
- 東京 / YO-KING
銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
2003年1月、GOING STEADYを解散後に峯田和伸(Vo, G)が、ソロ名義で銀杏BOYZを始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時に発売する。続くツアーやフェス出演では骨折、延期など多くの事件を巻き起こした。その後も作品のリリースを重ねていたが、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。2016年6月に、サポートメンバーを従え8年半ぶりのツアー「世界平和祈願ツアー 2016」を開催。このツアーの追加公演として8月に初の東京・中野サンプラザホールにてワンマンライブ「東京の銀杏好きの集まり」を実施した。また俳優業では、NHK BSプレミアムで放送されたドラマ「奇跡の人」で主演を務めたほか、2017年4月より始まるNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」にも出演する。
リリー・フランキー
1963年生まれ、福岡県出身。武蔵野美術大学を卒業後、イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など多彩な分野で活動。2001年に発表した絵本「おでんくん」はアニメ化されるなど幅広い層の人気を集めた。実体験を基に執筆した長編小説「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」は、テレビドラマ、映画、舞台化されている。俳優としては映画「ぐるりのこと。」「モテキ」「凶悪」「そして父になる」、舞台「クレイジーハニー」などに出演し高い評価を受けている。2017年1月からはドラマ「銀と金」では、原作者である福本伸行からの指名で、裏社会を仕切る大物フィクサー“銀王”こと平井銀二を演じる。