音楽ナタリー PowerPush - 銀杏BOYZ写真集「純血」

“ドキドキジャンキー”村井香が銀杏BOYZと駆け抜けた11年

本人たちに見せたい。それが一番ですね

──村井さんの写真はこれまでもアルバムジャケットや雑誌その他、銀杏BOYZ関係の媒体で使われてきましたけど、スタンスとしては仕事なんですか? それとも作品? もしくは仲間の延長っていうこともあると思いますが。

銀杏BOYZ写真集「純血」収録写真(撮影:村井香)

何か作品にしたいとか、展示して誰かに見せたいとかじゃないんですよね。はっきり言えるのはメンバーに見せたかったんです(笑)。「あなたたち、こんな面白いことをやってるんだよ」って。だって見られないじゃないですか、本人たちは。なので本人たちに見せたい。それが一番ですね。オフショットを撮るのも「うわっ、バカなことしてる!」とか「こんな顔してたよ!」とか、それを本人たちに見せてあげたかったんです。

──ほかのミュージシャンでもそういうスタンスで接することはありますか。

基本的にほかのバンドを撮るときもそういうスタンスなんです。ただここまで長くずっと一緒にいたのは銀杏しかないので。どうしてだろう?って考えることがあるんですけど、銀杏って一度も「撮れた!」って思えたことがなくて、だからずっと撮ってたのかなって。「よし撮れた。じゃあ、もういいや」って思えたことがないんですよ。銀杏に関しては目の前で起きている事柄や瞬間を「切り取れた」って思えたことが一度もなかった。例えば雑誌の編集の人とかが「すごくいい写真だよ」って言ってくれたりすることもあったんですけど、自分の中では決して「撮れた」と思えなかったんですよ。1回でも「撮れた」と思えたらやめようぐらいに思っていたんですけど、結局撮れないままここまで来ちゃった感じです。撮りたかったんですよ。そのためにどうしたらいいか考えて、夜中に走ったりもしましたから。

──走った? どうしてまた(笑)。

いや「撮れない」のはライブ中に会場を走り回る量が足りないからじゃないかと思って、体力をつけようと(笑)。

──なるほど。それは銀杏BOYZメンバーの音楽特訓に通じるものがありますね(笑)。

あとは機材を変えてみたり、カメラをたくさん持ってみたりもしたんですけど。多いときで3~4個かな。もしダイブをくらって壊れても、中断せずに撮影できるように。でもきっと、バンドを撮ってる人はみんなそうだと思いますけど。

──銀杏BOYZのライブはやたら液体が飛び交ってたから、機材的にも大変そうでしたね。

いろんな匂いがしてましたよね(笑)。でも対策とかはしなかったな。耳栓もしなかったですし。お客さんと同じ空間に同じようにいようっていう気持ちがあったので、何かを守るっていう意識は一切なかったですね。みんな裸でぶつかってるんだから、自分もそういうふうに向き合おうっていう気持ちで。

すべてを撮ってやるっていう気持ちはずっとありました

──銀杏BOYZって、例えばアルバムジャケットを何度か撮影している川島小鳥さんほか、大勢の写真家の被写体になっていますけど、ほかの人の写真はどんなふうに見ていました?

村井香

すごく素敵だなと思って見てました。やっぱり人によって全然違うので。とにかくたくさんの人が銀杏を撮って、彼らのいろんな部分を残してくれたらいいなと思っていたんですよ。自分だけじゃカバーしきれない部分があるし。物理的にも、例えばライブ中にチン(中村)くんが客席のほうに走り出したときに、1人だとステージと両方は追い切れないじゃないですか。

──またチンくん以外も走り回りますからね(笑)。

どんな状況になってもできるかぎり全部を撮ろうっていう気持ちだったんです。もちろんたくさん撮りこぼしてはいるんですけど、それでもその場に自分しか写真を撮る人間がいない以上、すべてを撮ってやるっていう気持ちはずっとありました。

──小さな身体に、かなりの重荷をしょい込んで。

でもそれもひっくるめて楽しかったんですよ。撮れない! 大変!とか、そういうことでドキドキするのを楽しんでいたんでしょうね。

──銀杏BOYZというバンド自体も音楽に対してそういうスタンスでしたものね。とにかく過剰というか、「そこまでやるのか!」って。あと、銀杏BOYZって、ザッツ男子というか、楽屋でもオフのときも、かなり下品な下ネタを繰り出すじゃないですか(笑)。そのあたりは女性カメラマンとしてはいかがでした?

そこは、誰も女の子として扱ってくれなかったから(笑)。ちょっとうれしかったところでもあるんですよね。誰も何も気にしないから、「あ、私ここにいていいんだ」って思えたんですよ。それもあって、なんでも撮れたっていうのもありますね。

写真集「銀杏BOYZ写真集『純血』」
初回限定生産 事前予約締め切り2014年12月10日 / 2015年1月15日発売 / 5400円 / 太田出版

ロックバンド銀杏BOYZの初の写真集が完成。この写真集には写真家・村井香によって撮影された峯田和伸(Vo, G)、安孫子真哉(B)、村井守(Dr)、チン中村(G)の4人の2003年から2014年までの11年間がパッケージされている。
今作にはこれまで公式には発表できなかったものを含む345カットが掲載されているほか、脱退した3人のメンバーの近影や峯田和伸のロングインタビューも収録。4人の銀杏BOYZが残した軌跡を写真とテキストでたどるファン垂涎の1冊となっている。

銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
銀杏BOYZ

2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo, G)が、当初ソロ名義で「銀杏BOYZ」を始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年からはDVD「僕たちは世界を変えることができない」や「あいどんわなだい」「光」といったシングル作品をリリースし、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。