CENT「PER→CENT→AGE」発売記念 セントチヒロ・チッチ×峯田和伸 対談

元BiSHのセントチヒロ・チッチがソロプロジェクト・CENT名義で8月23日に1stアルバム「PER→CENT→AGE」をリリースした。

「PER→CENT→AGE」はチッチの“好き”が詰まったセルフプロデュース作品。真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、おかもとえみ(フレンズ)といった豪華アーティストが制作に携わった楽曲や、チッチが自ら制作した新曲など計11曲が収録されている。

音楽ナタリーでは1stアルバムの発売を記念して、チッチの憧れの存在である峯田との対談を掲載。チッチが峯田の音楽に出会ったきっかけ、峯田がチッチおよびBiSHを認知したときのエピソード、そして峯田が作曲、チッチが作詞を手がけた楽曲「決心」にまつわる話などをたっぷりと語ってもらった。特集の終盤、2人は共通の趣味である怪談やホラー、オカルトといった話題で話に花を咲かせた。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 塚原孝顕

峯田はフェスの最前でBiSHを観ていた

セントチヒロ・チッチ 峯田さんを知ったのは高校1年生のときです。仲のいい先輩がいろんな青春パンクの楽曲を録音したMDをくれて。帰り道に聴いていたら銀杏BOYZの「BABY BABY」が流れてきて、ビビビって電撃が走ったような感覚を覚えて、そこから好きになりました。その頃は音楽に詳しいわけではなかったけど、“出会った”と思ったんですよ。

峯田和伸 あ、高校生で。なるほどな。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

チッチ 調べていくうちに、GOING STEADYというバンドから銀杏BOYZになったことを知って。さかのぼってゴイステのアルバム「さくらの唄」を聴いてみたり、どんどん峯田さんの音楽に触れていくようになりました。当時の私はあまり友達がいなかったんですけど、悩むこともなく、それを当たり前に思ってたんです。人間が友達じゃなくても、音楽が友達になってくれた。峯田さんは神様と言ったら大袈裟かもしれないですけど、すごく遠くにいる“峯田”という圧倒的な存在が、ずっと私の中にいたんです。

峯田 僕は「SET YOU FREE」というイベントを主催している千葉(智紹)さんと昔から仲がよくて。ある日、「BiSHって知ってる? 『SET YOU FREE』にも出るんだよ」と教えてくれたんです。そこで初めてBiSHの名前を知ったと思う。そのあと「ライジングサン」(「RISING SUN ROCK FESTIVAL」)だったかな? 夜に小さいステージでライブしたの覚えてます?

チッチ はい、覚えています!

峯田 そのステージを最前で観てるんですよ。

チッチ ええ! 知らなかった!

峯田 そのフェスに僕らも出ていたんですけど、千葉さんがBiSHのことを言ってたなと思って、出番が終わって夜の時間が暇だったので観に行きまして。関係者面して脇から入ったら警備員さんに「もっと中に入って!」と誘導されて、気付いたら一番前にいたんです。で、ファンの人にガンガン体をぶつけられながら観ていて。

チッチ ははは。

峯田 女の子数人が歌って踊る姿に、「うわあ!」ってときめきました。まず、曲がよかったんですね。それで「この子たちはすごいな」と思って。実は、話したのはもうちょっと前なんですよね。でも紹介されて軽く挨拶しただけで、初めて「BiSHのセントチヒロ・チッチ」を認識したのと、「ちゃんと歌う人なんだ」と思ったのは「ライジングサン」のステージ。いろんなロックバンドが出ている中、BiSHは異色でした。お客さんもロックファンとはちょっと違っていて。でも全然浮いてなかった。カッコいいなって、すごいなと思いましたよ。

チッチ ありがとうございます。フェスとかイベントでご一緒するたびにご挨拶に行かせていただくんですけど、いつも緊張してあまりしゃべれなくて。ちゃんと目を合わせて会話をしたのは、雑誌「Bollocks」の撮影でサンボマスターの山口(隆)さんと3人でしゃべったときですよね。

峯田 アイツは本当に邪魔だったね、うん。

チッチ ふふ、そんなことないですよ(笑)。

峯田 まあそのときはしゃべったけど、普段はあんまりしゃべらないよね。会っても「おいっす!」ぐらい。でもね、チッチさんだけってわけじゃないんですよ。誰ともそんなに話さないんで(笑)。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

チッチ 2人だけでしっかりお話できたのは、BiSH「JAM」のミュージックビデオ撮影ですよね。「一番会いたい人に会いに行く」というテーマがあって、私は峯田さんに声をかけさせていただいて。

峯田 あー、公園で! 雪が降っててね。

チッチ あの日、峯田さんが投げてくれたカイロは、まだ家にとってあります。大事にしようと思って(笑)。

峯田 あれは2018年の1月ですか? ああ、僕がまだ中野にいた頃だ。

チッチ あのとき峯田さんが「おばあちゃんになるまで音楽をやりなよ」と言ってくれたことを糧にして、私は当時がんばれていたところがあって。何かあるたびに思い出していました。

──その約半年後には、チッチさんがソロでGOING STEADY / 銀杏BOYZの「夜王子と月の姫」をカバーしました(参照:セントチヒロ・チッチ(BiSH) / アイナ・ジ・エンド(BiSH)「夜王子と月の姫 / きえないで」インタビュー)。この曲を歌うことになった経緯は?

チッチ 当時、WACK総選挙で1位になった人がソロデビューできることになって。そこで私が1位をいただいたのがきっかけでした。楽曲をどうするか話し合ってるときに「銀杏BOYZがあって、今の自分がいる」ということを表現できたらいいなと思って、峯田さんに相談してカバーをさせていただけることになりました。なんと言っても「夜王子と月の姫」は、私の孤独を救ってくれた曲なんです。大好きな曲ですし、私が歌うことで、私の感じたその思いが今生きている人たちに伝わっていったらいいな、という思いでカバーしました。

峯田 めちゃくちゃうれしかったですよ。僕は自分の部屋でギターを弾いて曲を作るんですけど、僕以外の誰かが歌ってくれる日が来るなんて、曲を作ってた頃は想像もしていなかったので。「夜王子と月の姫」がリリースされたのは2002年なんですけど、あのときってゴイステの終わりの頃で、今と比べるとちょっと何がなんだかわからない毎日だったんです。

チッチ そうだったんですか?

峯田 世間のこともロックファンのことも、すべてに対して「どうにでもなれ」みたいな。そんな自暴自棄のときに絞り出して作ったのが「夜王子と月の姫」で。リリースしてすぐにゴイステは解散するんですけど……なんだろうな? たまにライブで僕も歌うんですけど、やっぱり思い出したりするんですね、あのときの自分を。「大丈夫かな、俺?」みたいなときだったんで。でもそれを好きになってくれた人がいて、あの曲を好きでいてくれる人がいて、「自分でカバーしてみたい」という人が現れて。原曲とまったく違う解釈で歌ってくれた。歩いていたら「セントチヒロ・チッチのカバーめちゃくちゃいいっすね」と言われたこともあるし、普段ロックとか聴かない人にこういう形で知ってもらうこともあるんだな、みたいな。すごくうれしい出来事でした。銀杏BOYZのツアー(2018年11月開催の「GOD SAVES THE わーるど」)でBiSHと対バンしたときは、「オーケストラ」を一緒に歌ったよね。

チッチ はい! 「夢で逢えたら」もみんなで歌わせてもらって。ほかにはツーマンライブ「SET YOU FREE~VS SERIES」でもご一緒しましたね。

セントチヒロ・チッチ

セントチヒロ・チッチ

峯田からチッチへ思いを込めて

──度々対バンを重ねてきましたが、BiSHの解散が決まったとき、峯田さんはどう思いましたか?

峯田 BiSHの解散は残念でしたけど、解散自体はよくあることですからね。解散って大きなことだし、「もう1回ぐらい対バンしたかったな」とは思ったけど、それぐらいですかね。ただチッチさんは1人になっても、どういう形になっても音楽は辞めないんじゃないかなと勝手に思っていて。まさか「曲を書いてください」と言われると思わなかったけど(笑)。

チッチ ふふふ。今回1stアルバムを作るにあたって「楽曲をお願いするなら誰がいい?」とスタッフさんに聞かれて、真っ先に「峯田さんがいいです」と伝えました。

峯田 すごくうれしかったですね。自分が書いた曲を女性に歌ってほしいな、という願望がどこかにあって。チッチさんの声に合う曲は作れるんじゃないかなと思って「いけるかもしれないですね」とお伝えました。曲の方向性については会って直接話したんです、どういうタイプの曲がいいかとか。そのときにマーシー(真島昌利)さんとか、ほかの人の曲も入ると聞いたので、アルバムの中でどういう感じで存在させようか、みたいなことは考えて作りましたね。

チッチ まず、峯田さんが「銀杏BOYZの中で、どういう曲が好き?」と聞いてくれて。「夢で逢えたら」とか「恋は永遠」とか、明るい方向のキラキラしてる曲が好きです、と伝えました。そしたら「僕がイメージしていたのと一緒だ。ちょうど考えてるのがあるんだよね」と言ってくれたので、ワクワクしました。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

左からセントチヒロ・チッチ、峯田和伸。

峯田 曲のイメージについて話すと、まずBiSHの中での彼女の役割があったじゃないですか? 「この人はこういう役だから、私はこうしよう」という。その一方で、どうやったって変わらない核になってる性格みたいなのもある。で、僕がすごいと思う人は共通していて、その2つが無理なく存在しているんです。もとから持っているものと、「周りがこうだから、こういう自分でいよう」というのが無理なく、バランスよく存在している人ってすごいなと思うんですね。で、チッチさんはその感じがある。そういうふうに僕なりにチッチさんの色がなんとなく見えていたので、その気持ちを出せるような曲にしたいという思いがあって。それはうまく言えないですけどね、言葉でどういうことかっていうのは。でも、僕が思うチッチさんというのは、曲を聴いてもらった通り。サビのあの感じ。ああいうのを歌ってほしかったっていう。

チッチ 曲が届いて、私は感動して泣いたんですよ。打ち合わせで想像していたよりも、もっともっと、“峯田さんが生きてきた音楽”を感じた。新しい曲なんだけど、なんだか初めて聴いた感覚じゃなくて。私の中で生きていた峯田和伸さんが、この曲の中に存在してる感じがして、すごくうれしかったんですよ。で、この曲が私のイメージというのもすごく幸せでした。

峯田 曲を送るリミットがあって。ちょっと遅れていたんですけど、今日までに作らないとダメだなと思って朝方に録ったんですね。僕は携帯の録音機能でデモを録るんですけど、ライブのあとで声がガラガラだったんですよ。声はかすれていたけど、きっとわかってくれるんじゃないかな、と思って送りました。

チッチ それがすごくよかったんです! 峯田さんの声でこの曲を歌ってるデモが感動的で、本当に生々しくて。

次のページ »
チッチの歌詞に感銘