ナタリー PowerPush - 銀杏BOYZ
「ボーイズ・オン・ザ・ラン」峯田和伸インタビュー
祈りのようなものを作んなきゃダメだって思った
──今回のシングルの話ですけど、収録されてる2曲は「ボーイズ・オン・ザ・ラン」も「べろちゅー」も、結構前からライブでやってた曲ですよね。
うん。
──「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は映画のために書いた曲なんですか?
いや、最初マンガ読んで、もう仮タイトルで「ボーイズ・オン・ザ・ラン」って付けて、このマンガから受け取った感じで曲を作ろうと思って。で、それでライブでやってたの。
──じゃあ映画の話はあとから来た?
そう、監督が撮影入る前に曲を聴いて「この曲主題歌にしていいかな」って言うから「いいよ」って。
──そもそもどうしてこの曲を書こうと思ったんですか?
ある男が何かに向かって突っ走ってくんだけど、でも正義ではない、っていうところに惹かれたんですよね。筋が通ってない、間違ってる、っていうのに本人は気づいてないんだか気づいてんだかわかんないけど。でも走ってるところがすごく面白いな、ってマンガを読んで思って。で、以前からそういうちょっと間違ってる人とか欠陥がある人とかを題材に曲作るのが好きだったんで「あ、これだ」と思って。ストーカーの歌とかもそうだけど、感情移入すれば表面上はキレイに見えるけど実際は筋通ってない。女の子の後ろついてって、とかそういう男の歌。で、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」ってマンガを読んで「(自分の歌の世界に)近いな」と思って書いたの。
──確かに原作のマンガと銀杏BOYZの世界とは共通点ありますよね。
この曲に関してはちょっといろいろあって。映画の撮影入るまえに一度レコーディングは終わってたんです。でも撮影終わってから全部録り直して。最初はメロディも違ったし、歌詞ももっといっぱいあって。「SKOOL KILL」みたいっていうか、もうちょっと“説明”してたんですよ。でもそれは止めた。歌詞の中で答えを出しちゃうのは違う気がして。映画の撮影に入ってから「これじゃダメだ」と思って、歌詞もメロディも主人公と一緒に走ってるようなものにしなきゃ、祈りのようなものを作んなきゃダメだって思った。歌ってるヤツも演奏してるヤツも、みんな答えもわからずに切羽詰まってる空気を出したかった。で、全部やり直したの。
──それは映画を撮る前と後で、峯田くんの中の「ボーイズ・オン・ザ・ラン」に対する感じ方が変わったっていうこと?
うん。
──何か見えたものがあった?
うん、自分なりには。やっぱり映画の主人公のまんま、曲も迷ってて走ってる曲にしないと、作品の純度が濃くならないと思ったの。映画やってみて「そうじゃないんだよな」って経験でわかって、直さなきゃって思ったんです。
派手すぎず地味すぎないちょうどいい感じ
──「べろちゅー」は、ライブで聴いたときはフォーキーな弾き語りの曲っていうイメージがあったんですけど、今回の音源では単に静かな曲ではなくなって、だいぶ印象が変わった気がします。
1曲目があれだから、次につながるとしたらこういう感じかなと思って。
──この曲は字面通りのラブソングとして受け取っていいんですかね。
うん。
──この曲は峯田くんがソロの弾き語りのときにも歌ったりしてたし、わりとパーソナルな曲っていうイメージがあったんですけど。
でももともと銀杏の曲として、バンドでやるつもりで書いてましたよ。弾き語りでもやれるけど。で、今回録ってみて、ちょうどいいのができたと思う。
──ちょうどいいっていうのは?
派手すぎでも地味すぎでもない、ちょうどいい感じ。アルバムはもうちょっとうるさかったり静かだったり、幅があるもんになると思うんだけど、このシングルの2曲はその中域を出した感じになったと思う。
──でもやっぱり2曲とも銀杏BOYZにしか出せない音ですよね。こんなどしゃめしゃな音でCDを作るバンドは銀杏以外にあんまりいないし。
うーん、やっぱズレなんじゃないですかね。機械化されたリズムだったりメロディだったり、ミックスして直す作業だったりを全部やめた結果生々しくなってる。本当はみんなたぶん生々しいんだけど、俺らはそれを修正する作業をしてないから。だから銀杏が特に下手だとか生々しいとかじゃないと思うんだけど。
──ズレをあえて修正してないということ?
やっぱり好きなのは“間”なんだよね。洋楽とかも好きで聴くけど、邦楽で僕が思う良さっていうのは“間”なの。お笑いのコントにしてもお芝居にしても、海外のと決定的に違うところはそこだと思う。今回のはその“間”がよく出たなあと思って。ドラムのフィルがちょっとズレてたりとか、そういう意図して作れないものがちゃんと記録できたからそこが好きかな。音とかよりも“間”がいいと思う。
──それ面白いですね。
自分でこんな解説したくないけど、「べろちゅー」も形としては歌ものだけど、どっかしらちょっとズレてる“間”があるんだよね。それは村井くん(Dr)のモタりもあるんだけど、その間がすごく僕はしょうもなくて、あったかくて好きなの。なんか好きな音楽が作れるようになってきてる。
銀杏BOYZ(ぎんなんぼーいず)
2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo,G)が、当初ソロ名義の「銀杏BOYZ」として活動。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン 中村(G)を加え、2003年5月から本格的に活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年にはメンバー自ら編集に参加したDVD「僕たちは世界を変えることができない」、シングル「あいどんわなだい」「光」をリリース。ボーカル峯田は「アイデン&ティティ」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」など映画出演も多数。