昔のGalileo Galileiを今の自分たちがプロデュースするなら?“高純度”の再録アルバム「BLUE」完成

Galileo Galileiの再録アルバム「BLUE」がリリースされた。

「BLUE」は2024年9月に2枚同時リリースされたアルバム「MANSTER」「MANTRAL」の“兄弟作”。「ハローグッバイ」「管制塔」といったバンド最初期の楽曲をはじめ、「ハマナスの花」「Imaginary Friends」「恋の寿命」など2009年から2016年にかけて発表された楽曲の新録音源と、新曲「あおにもどる」の全14曲が収録されている。

2022年の再始動以降、精力的な活動を続けているGalileo Galileiが過去曲を再録した狙いや、制作の過程で得たものとは。また新曲で「あおのなかには いない」と歌う真意は何なのか。メンバー4人に語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

「ライブよかったです」より、ロングロングパンの話をされるほうが面白い

──まずは昨年9月発表のアルバム「MANSTER」「MANTRAL」を引っさげた全国ツアー「Galileo Galilei Tour 2024 Tour M」のことから聞かせてください。演劇とライブを融合させた実験的なステージでしたが、手応えはどうでしたか?(参照:Galileo Galilei、劇と音楽が交差した感動と余韻の「TOUR M」

尾崎雄貴(Vo, G) ライブは今後、より特別な体験をするものになっていくと思っていて。単に僕らがアルバムの曲を演奏するだけではなく、お客さんには思い出に残る体験をしてもらいたいんです。「Tour M」ではかなり攻めたことをやれたと思うし、お客さんも喜んでくれたことに対しては手応えがあります。ファンの人たちと「このバンドは一筋縄じゃいかない」「ライブでも何かをしでかしてくれるはず」という信頼関係を作ることも大事だし、演劇を面白がってくれたこと自体、僕らにとってはすごく勇気につながりますね。

「Galileo Galilei Tour 2024 "Tour M"」の様子。(Photo by Masato Yokoyama)

「Galileo Galilei Tour 2024 "Tour M"」の様子。(Photo by Masato Yokoyama)

岩井郁人(G) 「Tour M」では人生で初めて早着替えをしました(笑)。雄貴が「M王」、僕が「フミティ将軍」、和樹が「カズケウス殿下」、岡崎くんが「オチャ大臣」という役だったんですけど、SNSなどで役名で呼んでくれる人がいたりして、ちゃんと楽しんでもらえたし、思い出に残っているんだなって。今後も演劇をやるかどうかは別にして(笑)、あの世界を受け入れてくれたのはすごくうれしいです。

雄貴 僕らのスタジオ(わんわんスタジオ)の近くにコンビニがあって、そこの店員さんがGalileo Galileiのファンなんですよ。演劇に“ロングロングパン”というパンが出てきたんですけど、ツアー終わりでコンビニに寄ったら「ロングロングパン、最高でした」と言われました(笑)。「アオのハコ」の作者の三浦糀さんもツアーに来てくれて、「ロングロングパン」とSNSで呟いていて。僕らも「ライブよかったです」と言ってもらうより、ロングロングパンの話をされるほうが面白いなと感じましたね(笑)。

──(笑)。和樹さんの「Tour M」の感想は?

尾崎和樹(Dr) やる前は「果たして受け入れらてもらえるんだろうか?」とすごく不安だったけど、始まってみたら全然そんなことなくて。自分としても演奏の間に演劇が挟まっていることで、気持ちがラクだったんですよ。

雄貴 演奏、締まってたよね。

岩井 そうそう。演劇とライブのコントラストがよくて。岡崎くんは演技がめちゃくちゃうまかった。

岡崎真輝(B) ははは。演劇ではあらかじめ録ったセリフを流しながら身振り手振りを当てたんですが、録音の時点でみんな完璧に仕上がってたんですよ。演技もツアーを重ねる中でどんどんうまくなったし、演じていてすごく面白かったです。

岡崎真輝(B)

岡崎真輝(B)

雄貴 みんな声優みたいに声を入れてたし、準備のときから楽しかった。ツアーのあと、「ハリー・ポッター」の映画に合わせて僕と岡崎くんと和樹がアフレコするという音声コンテンツをファンクラブ向けに作ったんですけど、ファンから「こいつら、味占めたな」と言われてます(笑)。

──そんなことをやってるバンド、ほかにいないですからね(笑)。

雄貴 そうですよね(笑)。なんて言うか、中身が商業的になればなるほど「このライブ、やらされてるな」と思うことがけっこうあるんですよ。僕らはそうじゃなくて、火の輪くぐりをやりたくなったらやるかもしれないし、演奏している前で、野球選手に思い切り投球してもらうかもしれない(笑)。「こんなことやったら面白くない?」という普段の会話を実際にやっちゃうのが僕らだし、メンバー同士のつながりとしても大事なところだと思っていて。そういう意味でも、「Tour M」はよかったですね。

感覚的にも原点回帰し始めた

──そして3月5日には代表曲を再録音したアルバム「BLUE」がリリースされます。「MANSTER」「MANTRAL」と並行して制作を進めていたそうですね。

雄貴 はい。結果的に「MANSTER」「MANTRAL」が先に出ましたけど、僕らにとっては「BLUE」も合わせて3兄弟なんですよ。僕らの世代で言うと、「ポケットモンスター」の赤・緑というゲームがあって。それが一世を風靡したんですけど、その後、別バージョンの青が出て、「まだあるのか!」ってワクワクしたんですよね。そのときの記憶がすごく濃くて。

尾崎雄貴(Vo, G)

尾崎雄貴(Vo, G)

──それが「BLUE」の由来ってわけでもないですよね……?

雄貴 いや、それもありますね(笑)。

岩井岡崎和樹 ハハハハ。

──そもそもどうして再録アルバムを出そうと思ったんですか?

雄貴 「MANSTER」「MANTRAL」を作っていたときに、「昔の曲の雰囲気を思い出すね」とメンバー間で言ってたんです。アルバムでいうと「PORTAL」(2012年リリース)くらいの時期に、自然と回帰していたというか。単に過去に戻るのではなく、違うやり方で原点を見せることができると思ったし、年齢的にも懐かしさに敏感になってたんですよ。例えば10代の頃、MDに好きな曲を入れて、メモ欄にカッコよく曲名を書いて友達に回したり。そういうことを思い出すことが増えて、音楽性だけじゃなくて、感覚的にも原点回帰をし始めた時期だったんですよね。

岩井 うん。

雄貴 アルバムを聴くという行為もそう。今はサブスクでなんでもすぐ聴けるし、プレイリストで押し出されてくる曲で満足しちゃうというか、好きなバンドのアルバムを楽しみに待っている時間とかも失われてしまったと感じていて。そういう体験を大事にしたいし、「1回、立ち返ってみない?」という。

岩井郁人(G)

岩井郁人(G)

──そういうモードが再録アルバム「BLUE」につながった、と。岩井さん、「BLUE」の制作はどうでした?

岩井 最近、ファンの人たちが稚内に来てくれることが増えたんですよ。……ここからちゃんと制作の話につながるんですけど(笑)、例えば10代のときに「管制塔」を聴いてファンになってくれた人たちは、雄貴が書いた歌詞やメロディで稚内の風景を想像していたと思うんです。それから何年も経って、自分の意志で稚内に来た人たちが「こんな場所なんですね」と感想をポストしてくれてるのを目にすることもけっこうあって。つまり、ファンの人たちにとっては「管制塔」が“今の曲”として存在していると思うし、それはすごくハートフルで、エネルギーがあることじゃないですか。そういう状況の中で、既存の曲を“今の音”として収めておきたいと思うようになった。ライブではずっとアップデートを続けるんだけど、音源にしてなかったので、それをしっかりパッケージしたかったんです。ただ、「新しいアレンジにしよう」みたいな感じはなくて。

雄貴 そうだね。以前、テイラー・スウィフトが初期のアルバムの再録バージョンを出しましたけど、変にアレンジを加えてなくて、それがすごく好きなんですよ。「BLUE」も、そういうふうにしたくて。シンプルに言うと「ちゃんとやろう」という感じかな。

昔のGalileo Galileiを今の俺たちがプロデュースするなら

岩井 制作中に雄貴が言ってたことで印象に残っていることがあって。「昔のGalileo Galileiを今の俺たちがプロデュースするならどうするか。そういう観点でやってほしい」と言われたんですよ。だからこそ変化させるのではなくて、純度を高める方向に進んだのかなと。

雄貴 初期のGalileo Galileiにはプロデューサーがいたんです。僕らを見つけてくれた“あんちゃん”みたいな人なんですけど、年月が経って、僕らが当時のあんちゃんの年齢になった。そういうタイミングも重なって、「当時の自分たちをプロデュースしたら、どうするだろう?」という発想になったんだと思います。10代の頃に「ハマナスの花」をレコーディングしたときのことも思い出しました。「閃光ライオット」で優勝した当時、曲があまりにもプリミティブだったから「周りのミュージシャンからナメられてる」と思ってたんですよ(笑)。だから、とにかく難しいことがやりたくて、“あんちゃん”と一緒にスタジオに入って、ギターを絡ませたりして「ハマナスの花」を作って。

──そんな試行錯誤があったんですね。

雄貴 はい。あと、僕ら自身も最近10代前後のバンドに関わるようになったんです。この前もわんわんスタジオで若いバンドのレコーディングをディレクションしたんだけど、余計なことは言えないんですよ。そいつらの若さ、音楽への愛、メンバー同士の友情を含めて、触ったら壊れてしまいそうで。その体験もあったからこそ、「BLUE」の制作のときも「やりすぎると全部崩れてしまう」と思いながら作ってましたね。ただ、結局は僕らから聴いてくれる人の投げかけでしかないんですよ、全部。「BLUE」もそうですけど、「どうだい?」を繰り返しているというか。戦略的なことも考えてないし、再録をしたことにそこまで深い理由はないです(笑)。

和樹 「BLUE」に入ってる曲のほとんどが、高校生の頃にレコーディングした曲なんですよ。だから再録しながら「もう30歳になっちゃったよ」と思ったし、当時はババババッ!と勢いで叩いてた曲も今はちょっと難しく感じたりして、「若いっていいな」と(笑)。

尾崎和樹(Dr)

尾崎和樹(Dr)

──和樹さんの中で、印象に残ってる曲は?

和樹 「Electroland」ですね。ちょうど岩井くんがGalileo Galileiを抜けたときに作ってたんですけど、僕と兄でスタジオにベッドを持ち込んで、ほぼ軟禁状態でやってて。そのときの息苦しさを思い出しました。

雄貴 ネガティブだな(笑)。

岩井 僕は当時、別のバンドをやってたんですけど、「Electroland」のライブ映像がタイトル未定の新曲としてYouTubeに上がっているのを観て、「俺がいないほうがいいじゃん!」とめちゃくちゃ衝撃を受けて。「これをやりたかった」とも思ったし、そのときの記憶がずっと残ってたんです。なので再録アルバムを作る話をしてるときも、まず「『Electroland』をやりたい」と言いました。しかもライブバージョンがいいと。

雄貴 「Electroland」は平沢進の曲みたいなサビにしたかったんですよね。ヨナ抜き音階というか、“ホイサホイサ感”を出したくて。

──そうだったんですね! 新体制になってから参加した岡崎さんは、また違った視点で「BLUE」の制作に臨んだのでは?

岡崎 そうですね。レコーディングは和樹さんと一緒にベースとドラムを同時に録る方法だったんですけど、そのときに意識していたのはテクニック的なことよりも、精神的なことで。初期のGalileo Galileiを支えていた曲を再録するにあたって、当時はどんなふうにレコーディングしてたのか、どういう気持ちでやっていたのかを汲み取ろうと思いました。

雄貴 当時の思い出を岡崎くんに改めて話す、いい機会だったかもしれないです。「この曲のベース、実は俺が弾いてるんだよね」とか「このギターフレーズは、当時のプロデューサーがめちゃくちゃなコードにしちゃって」とか(笑)。ただ、岡崎くんはずっとバンドにいたような気がするんですよ。僕らに溶け込み過ぎていて、「あのときもいたよね?」という感じがするし、今や「ずっと一緒にいたってことにしよう」と思ってます(笑)。

岡崎 自分もそういう気持ちになってます(笑)。