藤田麻衣子|あふれ出る思いを歌にした 原点回帰のニューアルバム誕生

“私”とか“僕”という言葉を意識的に使わない

──歌詞における言葉選びに関しても何か変化を感じるところはありましたか?

藤田麻衣子

うん、ありました。私の場合、昔から同世代の女性のファンの方がけっこう多かったんですけど、ここ最近は年配の方や親子でライブに来てくださる方々もいらっしゃって。老若男女、すごく幅広いんですよ。で、そういった状況を感じていたので、歌詞で主人公を限定するのはちょっと違うのかもと思うようになっていたところがあったんです。なので今回は“私”とか“僕”という言葉を意識的に使わないようにして書いた曲がいくつかあるんです。そうすることで主人公が男性なのか女性なのか、さらに言えば年齢もあまりわからない曲になるんじゃないかなって。

──そうすることで、すべての人がスムーズに自分自身を曲に投影できるはずですよね。

そうそう。イメージを限定しないから、聴く方それぞれが自分の歌として、大事な人を思い浮かべて聴いてもらうことができるんじゃないかなと。それはちょっと自分としては新しい試みでしたね。

──曲で言うと「思い出にはいつも」はそういう描き方をされています。

あと、「necessary」もそうかな。最初は“僕”とか“私”みたいな主語を使ってノートに歌詞を書いていたんだけど、途中でそれをバーッと消したんですよね(笑)。

──主語がなくなることで歌詞自体が短くなる効果もあったのかもしれないですよね。

あははは(笑)。そうかも。だから、言葉が詰まっていないゆったりした曲になったのかな。

──昨年11月に一気に生まれたという曲たちはすべて収録されているんですか?

いや、そこからいくつか選んでいった感じですね。それ以外は、これまでのストック曲であったり、制作の終盤に「こんな曲も欲しいな」と思って急遽書き上げたものもあります。

──ストック曲だったのは?

「私たち」と「その声が聞きたくて」はけっこう前からあった曲です。「その声が聞きたくて」は、ほとんどできあがっていたんですけど、今回収録するにあたってDメロの部分をブラッシュアップしましたね。どうしてもこの曲をアルバムの推し曲にしたかったので、気合いを入れたところはあって。

藤田麻衣子

今回も恋愛の歌を推し曲にしたかった

──今回のアルバムには藤田さんの今の新鮮なムードが漂っていますけど、壮大で切ないラブソングである「その声が聞きたくて」が1曲目に配置されていることで、これまでの活動からのいい流れを感じることができたんですよね。違和感なく今の藤田さんの世界に誘われていくというか。

今回もちゃんと恋愛の歌を推し曲にしたかったんですよ。家族に向けた歌とか応援ソングとか、レパートリーの中にはいろんなタイプの曲があるんだけど、私はずっと恋愛の曲を大事にしてきたし、今の藤田麻衣子としてもそれは変わらないんですよね。今回は自分にとって新たな意味を持つ大事なアルバムにもなったので、だからこそこれを推し曲にしたいなって思ったんです。

──この曲を筆頭に、今回もストリングスを効果的に盛り込んだ曲がたくさんあります。藤田さんの声は弦楽器との相性が抜群ですよね。

藤田麻衣子

うれしいです! 弦のアレンジに関しては毎回うるさく注文をさせてもらっていて。「ここはもうちょっとザクザク感が欲しいです」とか「ここはもっと低音で動いてほしいです」みたいな感じで。結果、今回もすごくカッコいいアレンジにしていただけましたね。昔から弦楽器が一番好きだし、オーケストラコンサートを2度やらせていただいたことで、1つひとつの音へのこだわりもより強まっている気がします。弦楽器ではないんですけど、「here」という曲でオーボエを使ったのもオーケストラコンサートからの影響だったりもして。「オーボエの音色ってこんなに温かいんだな」という気付きがあったから使ってみることにしたんですよね。今回はレコーディングに関してもけっこうこだわりを注いだかなあ。いつもライブでご一緒してるバンドの方々に参加していただいたりもしたので。

──なるほど。ライブで育んできた呼吸感が盤にもそのまま刻まれているわけですね。

そうそう。デビュー当時からピアノとバイオリンとチェロはそれぞれ同じ方にレコーディングしてもらってきたんですけど、今回はそれ以外の楽器に関してもツアーメンバーに演奏してもらいたかったんですよね。その関係性でしか出せない空気感がCDにしっかり込められたと思うので、すごくうれしかったです。「クリア」という曲は、10年以上サポートしてくださっているドラムのJINU(藤沼啓二)さんに言われたことがきっかけでできた曲だったもするんですよ。

──どんなことを言われたんですか?

私はなんでもしっかり解決したい人間なんですよ。白黒はっきりつけたいタイプ。だからこそ解決しないことで悩んでしまうことがよくあるんですよね。で、かなり前にJINUさんと2人でツアーを回ったときにそんな相談をしたら、「解決しないことがあったとしても、全体がうまく回っているのならそれでいいんだよ」という話をしてくださって。当時の私はまだ20代だったから「そんな考え方もあるのか」と漠然とした受け止め方をしつつも、気持ちがちょっと楽になったんです。で、そこから時間が経って今回、その言葉をもとにした「クリア」という曲が書けて。レコーディングではJINUさんにパーカッションを叩いてもらうこともできたので、すごく大切な曲になりましたね。