藤田麻衣子|音楽監督・羽毛田丈史と振り返る2度目のオーケストラコンサート

あの曲なんだっけ? 怖いやつ

──では今回リリースされた映像作品を楽しむ方々に向けて、見どころなどを伺えればと思うのですが。

羽毛田 あの曲なんだっけ? 怖いやつ。

左から羽毛田丈史、藤田麻衣子。

藤田 怖いやつ(笑)。「嫉妬」ですか?

羽毛田 そうそう。あれはアレンジのしがいもあったし、すごく面白かったな。オーケストラにすることで原曲のポテンシャルをグッと引き出すことができるから。きっと麻衣子ちゃんの頭の中では、この曲を作る段階でオーケストラを想定してたんだろうなって思った。それくらいハマってるよね。

藤田 「ここにはこういう楽器で、こういう音が入っていてほしい」と私が想像したものが、羽毛田さんのアレンジには全部入っていたので、「すごーい!」って思いました。自分の頭の中にあった架空のオーケストラアレンジを現実のものにしていただけて、本当にうれしかったですね。「こういうのがやりたかった」ってすごく思いました。

羽毛田 ただね、怖いんだよ(笑)。一応ボーカルデータももらってはいるんだけど、アレンジのために何百回と聴くからさ、けっこうボーカルを消して作業してましたよ。でもこういうちょっと怖い世界観の曲をみんな聴きたいんだろうね。

藤田 そうですね。本番でタイトルを言ったときも「おー!」って皆さん反応してくださいましたし、アンケートでもこの曲の感想がダントツで多かったです。映像の確認をする際、自分でも鳥肌立ちましたね。最後の「どうしてあの子なの」のところで、「怖っ!」と思って(笑)。照明とかも含めて、皆さんの技術が怖さを増幅させてくれたと思います。

「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」の様子。

──カバー曲は槇原敬之さんの「もう恋なんてしない」、中島美嘉さんの「雪の華」、ポルノグラフィティの「サウダージ」の3曲が収録されています。

藤田 「もう恋なんてしない」は原曲とはアレンジをガラッと変えて、ストリングスの美しい旋律をより感じられるようになっています。ピアノに引っ張ってもらいながら歌い、そこにストリングスが入ってくるイメージで、すごく気持ちよく歌えましたね。あと、アンケートで感想が多かったのは「サウダージ」かな。あの日のセットリストの中では唯一、ちょっと明るい雰囲気の曲だったから(笑)。

羽毛田 「サウダージ」はアレンジしてても面白かったですね。こういう曲は歌も演奏も含めてわりと難しいんだけど、すごくうまく行った。麻衣子ちゃんのリクエストで、メンバー紹介のセクションを作ったのも面白かったよね。

──藤田さんのインパクトのある言い間違いのシーンでもありますね。

藤田 あははは(笑)。そうそう、“木管”を“木琴”って言っちゃったっていう。あの場面はお客さんと一緒にわーっと楽しめるシーンを作りたいなと思って入れてもらったんですよ。私の紹介に合わせてオーケストラの皆さんが立って演奏してくださったのもいいシーンになったなと思います。

やりたいと思ったときにやれるのが最高

──本編最後には、藤田さんがピアノで参加された「手紙~愛するあなたへ~」が。後半のアカペラになるパートは感動的でした。

藤田 この曲でアカペラを入れるのは普段のコンサートでもけっこうやっているんですよ。だからそこはあえてオーケストラアレンジでも生かすことにしたんですよね。

藤田麻衣子

羽毛田 実はアカペラの部分もスコアは書いてあったんです。でも麻衣子ちゃんのアイデアでアカペラにしたいということだったから、じゃここはオケを休みにしようと。この曲は麻衣子ちゃんのピアノもすごくよかったよね。プロのピアニストじゃない方がオーケストラに入るとちぐはぐすることもあるんだけど、まったく違和感がなかったから。

藤田 そこはね、日頃からJ-POPでも活躍されている方々に参加していただいたからだと思います。私の歌や演奏に対して臨機応変に対応してくださるので、すごくやりやすかったんですよね。今回の作品の初回限定盤には音源だけが入ったCDも付くので、ぜひじっくり細かい部分まで楽しんでいただけたらなって思います。

羽毛田 そうだね。Blu-rayやDVDでは麻衣子ちゃんの姿を堪能して、CDでは歌以外のパートに耳を傾けてみると面白いかもしれない。それぞれの楽器の音がちゃんと聞こえるミックスになっているから、どこかのパートだけを追っかけて聴いてみると、「ああ、なるほど。こう絡んでるのね」という発見があるんじゃないかな。

藤田 うんうん。オーケストラだからとか、豪華だからとか、そういう視点ではなく、藤田麻衣子ならではのエッセンスが詰まったコンサートになっていると思うので、音楽的に楽しんでもらえるのが理想ですね。

羽毛田 ポップスの曲をオーケストラコンサートで披露する場合、あえてグッと敷居を高くすることもあるんだけど、麻衣子ちゃんの場合はすごく身近な感覚で楽しめるところがあるんだよね。そこがなかなか珍しいし、いい部分だと思う。MCも面白いしね(笑)、ある意味、気楽に何度でも観れちゃうと思いますよ。

藤田 ずっとかしこまってはいられないというか、オーケストラコンサートであっても、ついいつもの自分が出ちゃいますからね(笑)。

──今後もオーケストラコンサートは続けていくことになるんでしょうね。

藤田 そうですね。「あ、このタイミングだ!」って閃いたら、きっとまたやりたいと言い出すんだと思います(笑)。やりたいと思ったときにやれるのが最高だなと思うので。その際はまたぜひ、よろしくお願いします。

羽毛田 そうだね(笑)。また同じメンバーが集まって継続できれば、その内容もクオリティもどんどんアップデートされていくわけだから。今度は客席の一番前に座ってるとか、ファッションショーのデザイナーみたいに最後だけ出ていく感じにしようかな。

藤田 いやいや、その場にいるんだったらピアノ弾いてください!(笑)

羽毛田 あとはさ、最初からオーケストラ用に曲を作って、それをコンサートで披露していくっていうのもいいと思うんですよ。で、それをあとからレコーディングして世に出すみたいな。要は今までと逆のパターンね。

藤田 おー! すごく面白そう。じゃミュージカルをたくさん観にいって、ネタを温めなきゃですね(笑)。

「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」の様子。