「FINAL FANTASY XVI」サウンドトラック特集|最高のゲーム体験を生み出す音楽制作の舞台裏 (2/4)

「FF16」で作られた音楽はオーダーを遥かに超えた300曲以上

──ここからは「FF16」のサウンドメイキングについて伺います。具体的にはいつ頃から「FF16」のサウンド作りが始まりましたか?

祖堅 もう覚えてないんですよ(笑)。僕が携わるようになったのはけっこう初期で、ゲームのプロットを作るタイミングでサウンドエンジンは作り始めていたかな。それがおそらく7年ぐらい前。実際にゲームにサウンドを実装する作業というのは、ゲームが完成に近付かないとできないので量産体制に入って作業が激化したのはここ1、2年です。

今村 僕らがまだ入社して間もないタイミングだったのもあり、「このチームで『FF16』の音楽を作ります」みたいなキックオフの瞬間はなかったんですよね。祖堅からいろいろ学びながら「FF14」の曲を作っていたら、いつの間にか「FF16」の曲を作ることになっていた感じ(笑)。

石川 祖堅から1曲目の制作を依頼されたのは2020年2月頃でした。話をもらったときは「16」の曲になるとは聞かされておらず、なんとなく「14」の曲ではなさそうだなと感じていたくらいでした。実際に「16」に収録されることになったときは驚きました。

「FINAL FANTASY XVI」より。

「FINAL FANTASY XVI」より。

──「16」の音楽に関して、大きなテーマみたいなものは存在するんですか?

祖堅 まずプロデューサーの吉田直樹から「直球のダークファンタジーにするから今回はオーケストラでいきたい」という話を聞きました。ただ古典的なオーケストラがそのままゲームにハマるわけではなくて、楽器はオーケストラのものを用いるけど、テンポ感や展開はオーケストラの枠にはハマらない音楽が求められることもある。オーケストラという言葉に縛られすぎず、どこまでバラエティに富んだ音楽にするかは僕らサウンドクリエイターチームに委ねられていたと思います。

石川 僕はオーケストラで実際に演奏をしていましたが、その経験を「16」の音楽制作にそのまま活かすのは思っていたよりも難しく感じました。祖堅さんがおっしゃったように純粋なオーケストラ音楽ではないこと、それとこれは僕がまだゲームサウンドの勉強中というのもありますが、オーダーに対してどうすれば最大限ゲームを面白くできるか、魅力的にできるかを考えて1曲ずつ注力していく意識が強かったですね。

「FINAL FANTASY XVI」より。

「FINAL FANTASY XVI」より。

──お三方は「14」と「16」の音楽を同時並行で作っていたことになりますが、同じナンバリングタイトルとはいえオンラインでさまざまな物語が展開する「14」と、パッケージ版で1つの世界を描く「16」では表現のトンマナがかなり異なると思います。それは音楽にどのように反映されていますか?

祖堅 「14」は“FFのテーマパーク”と呼ばれるように、ありとあらゆる表現が許される場というか。乱暴な言い方をすると、なんでもアリ(笑)。「FF」ってそもそもなんでもアリな空気感があるシリーズなんだけど「14」はその最たるもので、「16」はそのなんでもアリの中に一本筋が通っているようなイメージ。だから「14」と「16」の音楽制作でけっこう頭を切り替えることを意識していました。

──具体的な楽曲制作に入る前に、どのようなやりとりがありましたか?

祖堅 吉田直樹から「オーケストラでいきたい」という方向性が示されたあと、シナリオライターの前廣(和豊)から、必要曲数のリストをもらって。そのリストからコストの見積もりとスケジュールを引くんですが、最初にリストに書かれていたのが140曲。これがユニークなメロディが多くなりがちなリストだったので、そこでちょっと議論がありました。ユニークなメロディがあふれてしまうことで音の色が散らばらないように、キャラや土地に紐付いた固有のメロディを固めたほうがプレイヤーに話がスッと入ってくるのではないか、みたいな話ですね。ただ曲リストの抜本的な再構築を、ただでさえ作業タスクがあふれ返っている前廣に直接戻すのも常識的に考えて難しいよな、というときに吉田直樹が出てきて「ちょっと俺が一度預かる」と。プロデューサー目線で最低限必要なテーマ曲を挙げてもらうことになり、それでかなりギュッとした内容になったので救われたな、と思ったんですが……。

今村 結局、300曲以上作って、サントラの収録曲だけで約200曲になっちゃいましたね。

祖堅 どうしてこうなったんだろう(笑)。プロデューサーに絞ってもらったリストにはキャラクターや国をイメージした楽曲のオーダーが載っていたけど、結局カットシーン(※オープニングやエンディング、イベントなどゲームの途中に差し込まれるイベントや会話で使用される映像)の曲を専用で作ったりしているうちにどんどん増えてしまった。

石川 設定やシナリオをもとに大きなテーマの楽曲は作れますが、ゲームのシーンが完成してからでないと、そこにマッチングする音楽を作ることはできず、ゲーム音楽として成立させられない。ゲームの制作状況に合わせて僕ら3人が「ここにはこういう曲が必要じゃないか」という意見を随時出し合っていたので、いつの間にか作るものが増えていきました。

祖堅 この会話ってゲームが好きじゃないとできないんですよね。ただの音楽家だったら、テーマをもとに素晴らしい音楽を作って終わり。でも僕らはプレイヤーのゲーム体験に合わせて音楽も盛り上げたいし、逆に音楽が目立ちすぎちゃいけないシーンにはあえて地味な曲を作る。音楽の理解とゲームの理解、それともう1つがゲームへの実装の理解。この3つがあってようやくゲーム音楽として成立すると考えています。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

PS5にインストールされる“ミニ祖堅システム”

──ソフトの発売前に配信された発売直前生放送では、祖堅さんが“ミニ祖堅”という言葉を用いて「FF16」のサウンドを説明していました。改めて、これはどういう意味でしょうか?

祖堅 時間があればどのように「FF16」の音楽が鳴っているか、その仕組みを説明することはできますが、細かいことを言い始めるとめちゃくちゃアカデミックな話になってしまうので、僕が勝手に“ミニ祖堅システム”と呼んで説明しています(笑)。これが何かというと、「16」をプレイしようとするとソフトと一緒に“ミニ祖堅”がPS5にインストールされます。で、その“ミニ祖堅”が皆さん1人ひとりのゲームプレイのスタイルやスピードに合わせて、曲をリアルタイムでいい感じに編集したり、音量を調整したりしています。

「FINAL FANTASY XVI」より。

「FINAL FANTASY XVI」より。

──戦闘曲をループで流すようなアプローチとは考え方の根本が違うわけですね。

祖堅 特に「FF16」はカットシーンからシームレスに戦闘が始まるし、カットシーン中にコマンド入力が求められて戦闘の局面が大きく変わることもあるし、戦闘の終盤でボスが大技を使うこともある。いろんな局面に追従して曲が変化していくことをインタラクティブミュージックと呼びますが、それとはちょっと違う仕組みを作ってみました。それがうまく説明できないから“ミニ祖堅”という言葉に頼っています(笑)。体験版の最後にプレイすることになる“召喚獣バトル”がわかりやすいかな。スムーズにプレイできても、攻略に時間がかかってしまったとしても、「なんかええところで、ええ音楽鳴るね」と感じてもらえると思うし、戦闘が終わるとシーンに合わせて曲もビシッと締まる。これができるのはリアルタイムで “ミニ祖堅”ががんばっているからですね。

──音の切れ目などがほとんど気にならないということですよね。ただ祖堅さんの哲学に則れば、音楽に集中してゲームをプレイしてほしいというより……。

祖堅 プレイに熱狂してほしいので、細かいことは考えずに「このゲームすげー!」って喜んでもらえたらうれしいですね(笑)。このインタビューを読んだからと言って、音楽に集中する必要もなくて、むしろ音楽のことが気にならないくらい、「16」の世界に没頭してほしい。それが“ゲーム体験ファースト”であるモノ作りの矜持だと思っています。

2023年7月24日更新