「FINAL FANTASY XVI」サウンドトラック特集|最高のゲーム体験を生み出す音楽制作の舞台裏 (4/4)

ゲーム体験に寄り添ったさまざまなテーマ

──DISC 8にチップチューン調のアレンジで収録されている「Away」は、ほかのディスクにもいくつか違うアレンジが収録されていて、ゲームの中で重要な1曲だと感じています。

祖堅 「Away」は、言ってしまえば主人公クライヴの弟であるジョシュアのテーマ。体験版でも象徴的に使われているし、ゲームの肝である“召喚獣バトル”で流れる曲の芯となるメロディラインはこの曲がもとになっているので「16」のメインテーマと思われる方もいるかもしれませんが、作り手としてはそういうつもりもなくて。じゃあクライヴのテーマがメインテーマかと言われると、それもちょっと違う。確かに主人公はクライヴですが、彼は周りの人間からいろんな影響を受けているし、ゲームの舞台であるヴァリスゼアという世界からも影響を受けている。だからクライヴ1人のテーマがゲームを象徴しすぎないように作っている側面もあります。今回はゲーム内のキャラクターや国のテーマがそれぞれしっかり際立っている分、1つのメインテーマを押し出すような作りにしていないのが特徴ですね。

──「1つのメインテーマを押し出さない」という認識はプロデューサーや開発チームと話し合って決められたものですか?

祖堅 そこは僕らに任されていました。僕は常日頃から「ゲーム体験が第一優先」と話しているので、メインテーマがあるほうがゲーム体験が際立つようならそうしたはずなんですよ。でも今回は各キャラクター、各国が際立っていて、それぞれのテーマが入り乱れる構成にしたほうがゲーム体験として正しいと判断しました。この認識はプロデューサーや開発チームとも大きくズレていないと思います。

祖堅正慶

祖堅正慶

──さまざまなテーマ曲の中で、特にお気に入りの1曲はありますか?

祖堅 どれも思い入れが深い曲ばかりだけど、どれか1つに絞れと言われたら「My Star」かもしれないですね。この曲、言ってしまえばジル(クライヴとともに旅をするヒロイン)のテーマなんですよ。

──「My Star」は「14」の楽曲でも歌唱を担当していたアマンダさんがボーカルを務めています。「16」においてはボーカリストを立てない楽曲が多いですが、この曲ではなぜ起用することに?

祖堅 「My Star」に関してはボーカリストを立てないと説明ができなかったんですよね。ゲームの流れ、シーンの重要性を鑑みて、歌がないわけにいかなかった。あと、この2人が猛烈にボーカル曲をプッシュしてきたのも理由の1つです(笑)。

石川 当初の制作段階では作る予定がなかった部分でしたが、僕と今村がテストプレイをした感触で、ここには祖堅によって書かれたジルを象徴するボーカル曲が絶対に必要だと思いました。それを熱弁して急遽作ってもらうことになりました。

祖堅 めちゃめちゃ時間がないタイミングだったけど、2人がそこまで言うなら……と。でもボーカリストをアマンダにするかはけっこう悩んでいました。

──それはなぜ?

祖堅 これまでお願いしてきた楽曲がクワイアのようなクラシック的なアプローチなものだったのに対して、「My Star」はジャジーでメロウな曲調だったから、ジャンルがかけ離れたものをアマンダにお願いすべきかどうかがわからなくて。ちょうど別の仕事で顔を合わせるタイミングがあったから「心が痛むけど、この曲に関してはアマンダをオーディションさせてくれ」ってお願いをしました。そうしたら彼女は「私、こういうのも得意よ」と笑顔で了承してくれて。本当かよ!と思ったけど、仮テイクをもらったら度肝を抜かれましたね(笑)。完璧に歌い上げてくれて、2人も即OKを出してくれました。ただ、この曲をどこで鳴らすかもけっこうモメたところで。

──結果として、DISC 7の終盤に収録されているので物語の終盤で鳴るものだと予想できますが……。

祖堅 いろんな意見がある中でようやく落ち着くべきところで鳴ることになりました。まだ最後までプレイしていない人は「ここにきてジルのテーマが流れるのか」と驚くかもしれないですね。

PV曲が重要なテーマに

今村 僕がテーマ曲の中でも特に印象に残っているのは、祖堅が作った「Find the Flame」ですね。

祖堅 音楽的には幼稚なんだけどなあ。

石川 そんなことないですよ(笑)。

祖堅 展開がないし、一辺倒な楽曲じゃん。なぜ一辺倒かというと、もともとこの曲は急遽PV用に作った曲で、ゲーム内に実装するつもりはなかったんですよ。PV用の音楽として提出したあとで、周りに「この曲、クライヴのシーンに使ったほうがいいと思います」と力説されて(笑)。「いやいや、あくまでPV用のただ盛り上がるだけの曲じゃん」って返したんだけど、「そういう曲が求められているシーンじゃないですか!」と言われて、確かにそうだねと。でもそれって、テストプレイでのゲーム体験があるからこそ言ってもらえたことだよね。俺も実装してみたら「あ、本当だ。ハマるわ」と思ったから。結局、「Find the Flame」はゲーム発売前に先行配信されて、「FF16」にとってとても大事な曲になったよね。

──祖堅さんが脳となり、石川さんと今村さんがある程度手足となって曲が生み出されている形をイメージしていましたが、「My Star」「Find the Flame」のように石川さんと今村さんの提案から実装に至った楽曲もたくさんあるんですね。

祖堅 僕がメインで作った部分は多いけど、作業自体をチームとして取りかかれたのはすごくよかったな。これは2人が数年でここまで成長してくれたことが一番大きい。僕にできなかったことを2人に委ねた曲もあるし。

今村 DISC 3収録のボス曲「Catacecaumene」ですよね。少し補足をすると、ゲームの軸となっているダークファンタジーとは少し違う要素を入れた楽曲で、“異質な世界”で戦うときに流れる曲です。

祖堅 この曲がかかるちょっと前のシーンの楽曲を僕が担当していて、その“異質感”を曲に混ぜたらボツを食らっちゃって。その曲はDISC 8に入っているのでそれはそれでいいんだけど、ボツった無念をなんとか成就させたくて、今村に「ここではやっちゃってよ!」と発破をかけて作ってもらったのが「Catacecaumene」です。

今村 「やっちゃってよ!」という指示がすごくやりやすかった(笑)。ここではガンガンやっていいんだと察して、ちょっとタガが外れたくらいの曲になりました。

祖堅 でもこういう異質感のある振り切った楽曲が書けるのは、今村のこれまでのキャリアがあってこそだから。すごく頼りにしてたよ。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

“イケシブ”なシドのテーマに込められた狙い

今村 テーマ曲の話に戻りますが、DISC 2の1曲目「Hide, Hideaway」も思い出深い1曲ですね。これは“シドのテーマ”なんですよ。「FF」には過去タイトルにもだいたい1人くらい“イケ渋”なおじさんキャラがいて、いつか自分でイケ渋キャラのテーマを作ってみたかったんですよね。「FF10」で言うアーロンみたいなキャラクター、大好きなので。

祖堅 いいよね。この曲。

今村 ストーリーの構成上、シドのテーマでありながらアジトでも流れる曲として成立させないといけなかったのがちょっと難しかったですね。アジトに帰ってきた安心感を感じさせつつ、キャラクターの象徴としてのカッコよさ、年齢を重ねたからこそにじみ出る悲しみだったり、含みのある過去も感じさせたくて……。それと、イケシブなキャラクターって、だいたいストーリーの感動する流れに絡んでくるので、そこでもちゃんと響くようにしなきゃいけない。序盤に流れる曲ではあるんですが、ゲームの終盤まで使えるような曲に仕上げています。

石川 「Hide, Hideaway」の次に収録されている「Lovely, Dark, and Deep – The Greatwood」は「16」の楽曲の中で初めて作った曲なので、僕にとってすごく印象深い楽曲です。

祖堅 そっか。ここからなんだっけ?

石川 はい。作ったのは2020年なので、もう3年も前になります。収録曲のほとんどはシーンありきで作っていますが、「Lovely, Dark, and Deep – The Greatwood」だけは「16」に収録されるとも知らずに作った曲です。まだ働き始めて間もない頃に手探りで作った楽曲なので、今聴くとすごく懐かしさを感じますね。

ゲーム体験を優先して割くべきところにコストを割く英断

──サントラにはオーケストラという軸に加えて、クワイアのような合唱曲も数多く収録されていますが、レコーディングはどのように?

祖堅 実は今回、これまでのナンバリングタイトルに比べるとレコーディングを行った楽曲がかなり少ないんです。レコーディングを少なくした理由は、テクノロジーの進化によりレコーディングをしなくてもクオリティの高い音源の制作が可能になったこともありますが、コストとスケジュールの関係で判断したところが大きいかな。ここで言うコストというのは予算がなかったという意味ではなく、生楽器を用いて1つの楽曲のクオリティを追求するよりも、1曲でも多くカットシーンに合う音楽を作ることのほうがプレイヤーのゲーム体験に還元できるのではないかと考えた結果ですね。もちろん、生楽器を入れてレコーディングしたほうが素晴らしい音楽になるのは間違いありませんが、それは本当にゲーム体験に必要なのか。そこに立ち返って結論を出しました。

──確かに、ゲームに音楽を実装させる際に行う微調整は、レコーディングされた生楽器の音源だと極めて難しい作業になりそうですね。

祖堅 その通りです。一度レコーディングをしてしまったら、尺が変わると使えない音源になってしまう。ゲーム開発においては時間もお金も無限じゃないので、何を優先すべきかを考えていました。サントラ単体で聴いてもらったとき、もしかしたら生楽器じゃないことに気付く方がいるかもしれませんが、僕らは開発チームの一員として、総合的にゲーム体験を優先して割くべきところにコストを割いた、と考えています。

「FINAL FANTASY XVI」より。

「FINAL FANTASY XVI」より。

──最後に、「FF16」をプレイされる皆さんにメッセージをお願いします。

今村 カットシーンで流れる音楽は細かく音量を調整しているので、ゲームとサントラとではちょっと違って聞こえるかもしれません。シーンを優先して音量を小さく実装した曲も、サントラではきちんとマスタリングし直して収録しているので、皆さんプレイの体験を思い出しながら「こんな曲もあったな」と、音楽を楽しんでもらいたいですね。

石川 僕は「16」の音楽制作をこの3人でやり遂げられたことがすごくよかったと感じています。入社してからずっと、誰1人欠けることなく結束を強めてきた結果を1つの作品に注ぎ込みましたので、ゲームと一緒に音楽も楽しんでもらえるとうれしいです。

祖堅 僕は本音で言うと、ちょっと心配なんですよ(笑)。「14」のときはパッチごとに楽曲をプレイヤーの皆さんに聴いてもらっていたから、みんなの反応を見ながら次に作るサウンドの方向性を練ることができた。でも「16」は発売日までスタッフ以外は誰もプレイすることができないから、自分たちが作っているものが本当に正しいものなのか、本当に音楽も一緒になってゲームを面白くできているのか、長く開発に従事していると感覚が麻痺してきちゃう。反応をもらわないまま7年も1つのゲームを作ったことはなかったので、発売までめちゃくちゃソワソワしています。自信はあるけど、本当にみんな楽しんでくれるのかな(笑)。この記事が出る頃にはもうみんなプレイしているはずだから「ゲーム楽しかったよ」と声をかけてくれたら、サウンドマンとしてこの上ない喜びですね。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

プロフィール

祖堅正慶(ソケンマサヨシ)

スクウェア・エニックス所属のサウンドディレクター、サウンドデザイナー、コンポーザー。アーケードゲームのサウンドクリエイターを経て、1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。サウンドディレクターを担当した「FINAL FANTASY XIV」は、「ビデオゲームで最も多くのオリジナルサウンドトラックを持つタイトル」としてギネス世界記録に認定された。2014年には同作公式ロックバンド・THE PRIMALSを結成し、北米・欧州・日本でのツアーイベントに出演。ワールドワイドに活躍の場を広げている。携わったゲームには「FINAL FANTASY XIV」、「FINAL FANTASY XVI」、「LORD of VERMILION」シリーズ、「ナナシノゲエム」シリーズ、「聖剣伝説4」、「MARIO SPORTS MIX」、「マリオバスケ3on3」、「ドラッグオンドラグーン2」、「ドラッグオンドラグーン3」などがある。父親は元NHK交響楽団首席トランペット奏者で琉球交響楽団代表の祖堅方正氏で、交響組曲「ドラゴンクエストI・II」に参加していた。

今村貴文(イマムラタカフミ)

スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。作家活動を経てスクウェア・エニックスに入社し、「FINAL FANTASY XIV」および「FINAL FANTASY XVI」にコンポーザーとして携わる。

石川大樹(イシカワダイキ)

スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。学生時代よりヴィオラを弾き、オーケストラ活動に参加。大学卒業後は一般企業に就職したが、その後スクウェア・エニックスに入社。「FINAL FANTASY XIV」および「FINAL FANTASY XVI」にコンポーザーとして携わる。

※記事初出時、本文記載のサントラ収録曲数に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2023年7月24日更新