祖堅正慶、今村貴文、石川大樹が解説する「GROWING LIGHT: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」 (2/2)

“ゆっくり休みたい”願望を込めた一発OK曲

祖堅 サントラの収録曲としては目立っていないけど、石川の仕事で注目してもらいたいのは拠点エリアのBGM「冒険者の休息 ~無人島開拓~」。石川はこういう曲を作るの、初めてだったんじゃない?

石川 初めてですね。この曲を作るとき、ちょうど「FF16」の作業がかなり立て込んでいて、自分自身がかなり疲れている時期でして……。ひたすら癒しが欲しいときに、拠点エリアのBGMという癒しをテーマにした楽曲の発注があったので、こういう曲が流れた空間でゆっくり休みたい、という思いを曲に込めて作りました。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

祖堅 この曲、一発OKだったっけ?

石川 一発OKでした。祖堅さん、めっちゃ笑ってましたよ。「うわーこれ、すげえいい!」って。

今村 祖堅さんを笑わせたら勝ち、みたいなところありますよね。

祖堅 ゲーム音楽は制約がある中で作るから、何度もこねくりまわしてしまうことのほうが多いかもしれないけど、本人たちに明確にイメージがあってポンと出てきた曲に関しては、わりとすぐOKを出すことが多いかな。ゼロムスの曲も「いいじゃん!」ってOKした気がするし。

今村 それと、おそらくゼロムスのときは余裕がなかったんでしょうね(笑)。

祖堅 それもあったかも。「作れるのは今日までだぞ」みたいな空気だったから。

──そのほかの曲で一発OKで印象に残っている曲は?

今村 僕は事件屋のエンディングテーマ(「ときめき紳士エスコート」)ですね。このサントラの収録曲の中で作るのが一番難しかった曲なんですよ。過去にいろんな作家コンペに参加したことがあるけど、この曲のような昭和アニメのエンディングテーマのような空気感のものはまったく作ったことがなくて。それに加えて、普段は絶対に使わない手法をふんだんに取り入れなきゃいけなくて戸惑いました。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

祖堅 日頃2人に「こういう音色、こういう構成、こういうアレンジメントはするな!」と言っていることがあって。わかりやすく言うと、スーパーマーケットで流れている曲のようにするのは禁止!っていつも言ってるんですよ。でも今回は楽曲の発注が「スーパーマーケットで流れているような曲」だったから、普段は禁止している音作りをしなきゃいけなかった。

今村 めちゃめちゃ難しかったですね。「こういう音、どうやって出しているんだ?」みたいなことばかりだし、「ボボボボボボ」みたいなベースも普段なら絶対入れないし(笑)。

祖堅 でもこの曲は一発OKだったから。相当苦労したと思うけど、ツボを押さえた制作だったと思うな。石川の一発OK曲で記憶に残っているのは、レポリット族(ゲームに登場する友好部族)の拠点で流れる「Dreamwalker」。

祖堅正慶

祖堅正慶

石川 普段あまり作る機会のないEDM系に挑戦した楽曲ですね。過去に僕と今村さんで「Pulse: FINAL FANTASY XIV Remix Album」(以下「Pulse」)というアレンジアルバム(「FF14」の楽曲をダンスミュージック調にアレンジした作品)の制作をしたことがあって、その経験が生きました。

祖堅 この曲はめちゃくちゃよかったね。個人的にもお気に入りの1曲だから、ごはんを食べるときによく流してたよ。

石川 え、この曲をですか?(笑)

祖堅 イケイケな気分のときにね。本人にとっては慣れてない仕事だったかもしれないけど、「Pulse」での“石川節のEDM”がけっこうよくて、レポリット族の拠点ではそれがハマりそうな気がしたんだよね。おしゃれなコードにノスタルジック感をいい具合で混ぜるのがうまいから。

失われた過去データ

祖堅 作業していて困るのはさ、昔のデータが開かないことだよね。例えば石川くんにアレンジをお願いした「Myths of the Realm ~華めく神域タレイア~」は、なんのデータも渡してないよね。

石川 はい。僕はこの曲が使われたトレイラー(「FINAL FANTASY XIV: A Realm Reborn - A New Beginning」)を観ただけでした。10年前に公開されたトレイラーをYouTubeで観ながら「こういうメロディなんだ」と確認して。

石川大樹

石川大樹

祖堅 楽曲を作ったのが14、5年前だから制作しているマシンのOSのバージョンが3つくらい変わってて、当時のデータが今持ってるPCで開かないんだよね。「あの曲のアレンジお願いします!」と言われて「OK」と言ったものの、2人にデータを渡せないという。2人とも「大丈夫っすよ」とは言ってくれるんだけど。

石川 最初は驚きましたけど、最近はもう慣れてきたので大丈夫です。

祖堅 懐かしの曲だと、クガネ(ゲーム内に登場する都市名)のデータは珍しく渡せたよね。

今村 受け取りました。個人的に大好きな曲なので、今「紅の夜更け ~クガネ:夜~」のアレンジを担当することができる事実に驚きました。発注の方向性もロックだったので自分の得意分野だし、この曲(「紅のリッジライン ~異聞六根山~」)はノリノリで作りました。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

石川 確か尺八のデータがあるはずだ、ってかなり探した気がします。

今村 ただ、そのままデータを使うのも違うので、楽曲に合わせて尺八の音源をちょっと歪ませて使ってます。

祖堅 忘れられないのが、その音源に参加してくれた尺八奏者さんだよね。和装か袈裟なんかで来るのかと思って待ってたら、ラフな格好したギャルみたいな女の子がスタジオにバーン!って入って来て。「マネージャーさんかな?」と思ってたら、その子が尺八を持ってレコーディングブースに入って「お願いします」って言うから驚いた。しかも演奏はめちゃくちゃうまいし(笑)。

今村 そのときの音源が脈々と今作まで受け継がれているんですね。

新しい冒険を彩るパッチ7.0の音楽へ

──サウンドチームは夏に実装予定のパッチ7.0となる最新拡張パッケージ「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」に向けて作業中ですか?

祖堅 そうですね。パッチ7.0から新しい冒険が始まるので、今までとは違う空気感がサウンドでも表現できたらいいなと思い、絶賛もがき中です。

今村 まさに作業中なので頭が痛い部分がありますが、今までの流れは汲み取りつつ、新しい冒険、新しい出発点みたいなところを作れるのは個人的にはうれしくて。ちゃんと音楽でもストーリーが支えられるよう、がんばっています。

石川 時期的にはこれから地獄に突入していくところなので、チーム全体で健康に気を付けながら作業を進めていきたいですね。

祖堅 まだ作業中ではありますが、仕込みは万全でございますのでお楽しみに。

──サントラからは話が逸れますが、東京ドームでのファンフェスに関して、「FF14」のサウンドチームはどのような関わり方をしていたんですか?

今村 北米と欧州のファンフェスに僕ら2人のうち1人ずつが参加していたので、東京ドームはチーム全員が現地に集まる集大成的なイベントでした。東京ドームでは、僕らがDJするコーナーもあって。

今村貴文

今村貴文

石川 東京ドームのド真ん中でDJやらされる経験はなかなかないですからね。

祖堅 せっかくだからお前らも東京ドームのステージに上がれ!って。最初は2人とも尻込みしてたけど、最終的には楽しんでくれたようで何よりでした。

──祖堅さんがTHE PRIMALSとしてライブをしているとき、お二人は何をしていたんですか?

石川 基本的にライブ中はサウンドチェックのために走り回ってました。

今村 会場内の最大音量などの制約がある中で、どうお客さんにライブを楽しんでもらえるか、どの席でも楽しめる音が鳴っているかのチェックと調整を任されていたので、ライブ中はサウンドチームで連絡を取り合いながら、スポーツ選手と同じぐらい走っていた気がします。

祖堅 昔は僕が演者をやりながら外の音の調整もやっていたけど、もともと物理的に無理なんですよ。2人が来てくれて本当に助かったし、来場してくれたお客さんから「どこの席からでもいい音だった」と言ってもらえたのは彼らのおかげですね。

今村 大変だったけど、すごくいい経験をさせてもらいました。

祖堅 あとでLINEのログ見たけどけっこう大変なことになってたよね(笑)。本当、ありがとう。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

ゲーム情報

「ファイナルファンタジーXIV(ファイナルファンタジー14)」

ジャンル:MMORPG(オンラインゲーム)
プラットフォーム:PlayStation 5 / PlayStation 4 / Xbox Series X|S / Windows / Mac

プロフィール

祖堅正慶(ソケンマサヨシ)

スクウェア・エニックス所属のサウンドディレクター、サウンドデザイナー、コンポーザー。アーケードゲームのサウンドクリエイターを経て、1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。サウンドディレクターを担当した「FINAL FANTASY XIV」は、「ビデオゲームで最も多くのオリジナルサウンドトラックを持つタイトル」としてギネス世界記録に認定された。2014年には同作公式ロックバンド・THE PRIMALSを結成し、北米・欧州・日本でのツアーイベントに出演。ワールドワイドに活躍の場を広げている。携わったゲームには「FINAL FANTASY XIV」、「FINAL FANTASY XVI」、「LORD of VERMILION」シリーズ、「ナナシノゲエム」シリーズ、「聖剣伝説4」、「MARIO SPORTS MIX」、「マリオバスケ3on3」、「ドラッグオンドラグーン2」、「ドラッグオンドラグーン3」などがある。父親は元NHK交響楽団首席トランペット奏者で琉球交響楽団代表の祖堅方正氏で、交響組曲「ドラゴンクエストI・II」に参加していた。

今村貴文(イマムラタカフミ)

スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。作家活動を経てスクウェア・エニックスに入社し、「FINAL FANTASY XIV」および「FINAL FANTASY XVI」にコンポーザーとして携わる。

石川大樹(イシカワダイキ)

スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。学生時代よりヴィオラを弾き、オーケストラ活動に参加。大学卒業後は一般企業に就職したが、その後スクウェア・エニックスに入社。「FINAL FANTASY XIV」および「FINAL FANTASY XVI」にコンポーザーとして携わる。