FAKE TYPE.|メジャー1stアルバムは純度100%の仕上がり、トップハムハット狂&DYES IWASAKIが追求するエレクトロスウィング (3/3)

日本でも盛り上がりつつあるエレクトロスウィング

──「I'm out」の次に「RAT A TAT WRITER」が収録されていますけど、この2曲はいい意味でつながっている感じがしました。

トップハムハット狂 実はその逆で「RAT A TAT WRITER」は、エレクトロスウィングをやってる人がちょっと増えてきたことを踏まえて「一緒に手を取り合って、もっとこの音楽を広めていこうよ」みたいなことを歌っているんです。もともと僕らは2013年の1発目に「FAKE STYLE」というエレクトロスウィングとラップの曲を出したんですけど、そのときは同じことをしてる人なんて本当にいなかったんです。でもFAKE TYPE.が復活して、楽曲提供したり再び自分たちの作品をリリースするようになったのを境に、エレクトロスウィングを発信する人たちが増えていったんですよ。僕はそれをポジティブに捉えていて「もっと一緒にやっていこうよ」と思った。だから、「FAKEの真似をしちゃってさ」とか、そういう皮肉ってるわけではないんですよ。

──そうだったんですね! 「どうやら目ざとい同業者は皆 興味津々でエレクトロにスイングしだしてるみたい」というリリックがあるじゃないですか。「今勢いがあるから俺らの真似をしてるんだろ? そうじゃなくてお前は自分のオリジナルで勝負しなよ」というメッセージだと思っていました。

トップハムハット狂 これは「ちゃんと俺らのヤバさをわかってるんじゃん!」みたいな。ちょっと上からな感じで申し訳ないですけど「このよさがわかるんだね、あなたは!」という、好意的なニュアンスなんですよね(笑)。そのあとに「一緒に踊ろうぜ!」と言ってるので。

──確かにそうですね。ちなみにFAKE TYPE.結成当初は、エレクトロスウィングというジャンルって相当珍しかったわけですよね?

DYES やってる人は全然いなかったですね。今は昔と比べたら、エレクトロスウィングを作れるコンポーザーがめちゃめちゃ増えていて、時代が変わってきたのを感じますね。

トップハムハット狂 FAKE TYPE.を結成したのが2013年なんですけど、当時はEDMが流行っていたよね。

DYES そうだね。エレクトロスウィングは海外では流行っていたものの、日本には来てなくて。

FAKE TYPE.

FAKE TYPE.

──ライブハウスで歌っていて、周りの反応はどうでした?

トップハムハット狂 サブカルチックというか、そういう人たちは反応してくれたと思います。

DYES オタクカルチャーに強いような人たちがね。

トップハムハット狂 そうそう。アンテナが敏感な人たちはいい反応を示してくれた。エレクトロスウィングにEDMの要素を入れていたのが、より珍しかったかもしれないですね。だから「RAT A TAT WRITER」のような状況になったのは、僕もうれしいです。

──この曲において、DYESさんがトラックメイクで意識されたことはなんでしょう?

DYES 初めてバイオリンをメインに作った曲なんですよね。なのでバイオリンがカッコよくなるように意識して作りました。僕らはストリングを取り入れたことがなかったので、個人的にはこのアルバムの中で一番挑戦をした曲でしたね。

存在意義はなくてもいい

トップハムハット狂 俺が新しいなと感じたのは「No Proof」だよ。FAKE TYPE.の楽曲の中でも、より大人な雰囲気が漂っていると思った。

DYES うん、そうだね。ちょっとしんみり泣ける、ピアノを生かした哀愁あるエレクトロスウィングを作ったら、意外にもヒップホップな歌が乗っかったので「あ、そっちに行ったんだ!」と驚いたのを覚えてる。

トップハムハット狂 この曲も先ほど言ったような、そのときに感じていたことを散文的に書いたリリックなんです。「自分はこの場所にいていいのか?」とか「存在意義はなんだろう?」とか悩む気持ちもわかるんですけど、俺はそういう小難しいことは考えたくないタイプなので、存在意義とかどうでもいいじゃんって。これもね、「最悪、意義がなかったとしてもいいじゃん」みたいな話をしていたタイミングで作ったんですよ。思っていたことをそのまま勢いで書いたリリックが「No Proof」の内容になっていますね。

──つまり「No Proof」は“答えを出さない”という答えを提示する曲。それがアルバムのラストを飾るのがいいですよね。

DYES そうなんですよね。トラックの話で言うと毎回アルバムのラストは湿っぽい感じにしたくて、そこも意識してましたね。

トップハムハット狂 この曲が仕上がったときは「新しい感じでいいね」という話で盛り上がったよね。アルバムの最後で目立つ位置ですし。

トップハムハット狂

トップハムハット狂

培ったものを存分に発揮したメジャー1stアルバム

──ちなみに、このアルバムのことでまだお聞きしていない裏話ってありますか?

トップハムハット狂 あるかな?(笑) 「At Atelier」はMVを観てもらったらわかる通り、MVクリエイターさんのお話になっていて。あと「Chameleon」は、自分というオリジナリティがないのに、いろんな流行りに飛びついてる姿がしょっちゅう色が変わるカメレオンみたいで、「本当の自分の色がないんじゃないの?」と歌っている曲ですね。「Beauty Unique Boutique」はおしゃれじゃなかった子が、あるときに目覚めて最後はおしゃれ中毒になり、家の外に出るのがステージに上がるのと同じことに感じるぐらい過敏になっちゃうっていう、バッドエンドなお話。「Knickknack Kingdom」は物の価値がわかる魔人に能力をもらい、お宝を掘り当てていくんですけど、最終的にお金稼ぐことに執着してしまったあまりに魔神に呆れられて、その能力を奪われる。そして物の価値がわからなくなるデバフみたいなものを付与されて、献上する宝に価値がないことがバレて捕まってしまい、堕落して凋落するお話。「Deep Sea Swing」は「魚が深海から上に向かって日の目を浴びたい」みたいな内容なんですけど、言い換えるならアンダーグラウンドの場で活動している僕らのようなアーティストが、メジャーを目指すこととリンクしている。日の目を浴びるってことは、メジャーになるってことで、上がっていくのはいいんですけど、上がっていくことによって取られちゃうじゃないですか。

──取られちゃう?

トップハムハット狂 例えば、よくない大人に捕まって食い物にされちゃうみたいな。そこがアーティストと深海魚の重なる部分かなと思って作りました。

──DYESさんはどうですか? まだお聞きしていない裏話。

DYES 湘南乃風の「睡蓮花」っていう曲があるじゃないですか。あのドッカドッカと鳴るリズムとBPMを参考にして作ったのが「Knickknack Kingdom」なんですよ。FAKE TYPE.にもタオルをぶん回せる曲が欲しいなと思って。

──インスピレーションを受けたものの中に湘南乃風があった。

DYES そうなんです。結果的には全然違う曲になりましたけどね(笑)。

──ちなみに、DYESさんはコメントで「今回のアルバムはFAKE TYPE.初のElectroSwingオンリーのアルバムになってます! 求められているものを一直線に作ってみようと制作に至りました」と書いてましたよね。改めて、なぜ求められていることに応えようと思ったのか教えていただけますか。

DYES FAKE TYPE.の旗揚げ当初から「エレクトロスウィングだけに固定したくないね」という話をしていて、そのうえでいろんなジャンルに手を出して、いろんな曲を作ってきたんです。だけど曲の再生回数とか反応を見てみると評価が高いのは、やっぱりエレクトロスウィングなんだなと感じて。これまでだったら「あと何曲エレクトロスウィングを作れるんだろう?」みたいな焦りがあったんですけど、今はもう無限に作れるなと思えるようになっていて。「いっぱい作ったろ」みたいな気持ちがあるんですよね。

──今回のアルバムは自分たちの武器は何かを理解して、その刀を研いだ1枚というか。

DYES そうですね。エレクトロスウィングをオーバーグラウンドにしたいという気持ちが、今の自分の根底にあるんですよ。まだ日本では浸透しきっていないので、自分たちで流行らせてやろう、という思いがすごく強いです。

──改めてメジャー1stアルバム「FAKE SWING」は、どんな1枚になりました?

DYES これまでとは違って、打ち込みで曲を作るようになったんですけど、初めてのわりにはうまく作れたのかなと自分では思いました(笑)。あとは過去に出した楽曲の続編みたいな曲を作っていて。「At Atelier」は2015年にリリースした「La Primavera」のパート2という位置付けだし、「真FAKE STYLE」は「FAKE STYLE」の進化形だったり、「Nightmare Parade」からの「Nightmare Parade 2020s」だったり、そういう続編を作ったときに「過去作と比べて、ちゃんと更新できてるな」という自負を感じる作品になりましたね。

トップハムハット狂 そこまで気負わずにというか、いつも通りの自然体な感じで作った作品だと思うんです。でも、そのうえで今までの自分たちの培ったものが存分に発揮できた1枚になっているんじゃないかなと思うので、ぜひ期待して聴いていただけたらと思います。

FAKE TYPE.

FAKE TYPE.

ライブ情報

VIVA LA SWING 2020s

  • 2022年12月3日(土)福岡県 bar evoL
  • 2022年12月11日(日)北海道 cube garden
  • 2022年12月14日(水)大阪府 BIGCAT
  • 2022年12月15日(木)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2023年1月6日(金)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

FAKE TYPE.(フェイクタイプ)

MC / トラックメイカーのトップハムハット狂とトラックメイカーのDYES IWASAKIが2013年8月に結成した音楽ユニット。2014年4月にリリースした1stアルバム「FAKE BOX」でデビュー。2015年12月に2ndアルバム「FAKE BOOK」、2016年9月に3rdアルバム「FAKE WORLD」を発表後、2017年から約3年にわたり活動休止する。2020年に活動を再開し、2022年7月に配信シングル「Knickknack Kingdom」でメジャーデビューを果たす。同年8月公開の映画「ONE PIECE FILM RED」に、Adoが劇中で歌唱する楽曲「ウタカタララバイ」を提供し話題に。11月にはメジャー1stアルバム「FAKE SWING」をリリース。12月からは全国5都市を回るツアー「VIVA LA SWING 2020s」を開催する。