FAKE TYPE.|メジャー1stアルバムは純度100%の仕上がり、トップハムハット狂&DYES IWASAKIが追求するエレクトロスウィング (2/3)

メジャーだからこその変化

──メジャーに行って環境が変わったこととか、いい意味でやりやすくなった部分はありますか?

DYES 細かい部分がかなりアップデートされてますね。アー写を撮るにしても、今までは自分たちで衣装を買いに行って、スタジオを押さえて写真を撮ってもらってたんです。今回はちゃんとプロの方に衣装を作ってもらえたり、セットもすごかったりして。美術さんや照明さんなど、いろんな方がサポートしてくれたうえでアー写ができあがっていきました。ほかにも今まではすべての新曲のMVを制作するのは予算的に難しいところがあったんですけど、メジャーに行ってからの曲はすべてMVを作れそうで、そういうバックアップの部分で変化を感じますね。

──今回のアルバム制作を通して、メジャーだからこそ挑戦できたことは?

トップハムハット狂 楽曲制作の予算を割いてもらえるようになったので、曲中で楽器を入れたいところはプロの方に生演奏をしてもらえたよね。

DYES そうだね。今回はトランペット、ストリングス、クラリネットなども生演奏で入れてもらって、楽曲のクオリティがより上がりました。

FAKE TYPE.

FAKE TYPE.

──レコーディングでの変化はどうですか?

トップハムハット狂 前と比べて作業が早くなりました。これまではレコーディングが終わったら、翌日にボーカルエディットをしていたんですけど、今は録ったらその場でエディットをする流れにしています。それによって、以前よりも録音する時間自体は増えちゃうんですけど、2日かかる作業が1日で終わる。何より大きいのが、エディットが終わって気になる箇所があっても「ここを録り足そう」とか、その日のうちにほぼほぼイメージを固めることができるので、それはすごくよかったですね。

DYES それと、レコーディングをしたあとに自分たちでやっていたミックス作業をしていたんですけど、今回はプロの方に指示書を渡してやってもらうようになったのは大きかったです。ドラムのキックとベースがカッコよく鳴っていて、上ネタもわちゃわちゃしたおもちゃ箱のようなミックス感にしたかったので、そこはかなりこだわってリクエストしましたね。

代表曲を今の自分たちの力で再構築した「Nightmare Parade 2020s」

──今回のアルバムで骨子となっている楽曲はどれでしょう?

DYES やっぱり前回もインタビューで取り上げていただいた「真FAKE STYLE」がアルバムの基軸になっていると思います。「FAKE TYPE.がパワーアップして帰ってきた!」と感じてもらえるんじゃないかなって。

トップハムハット狂 そうだね。2013年にリリースした「FAKE STYLE」のリバイバル的な位置付けだから、やっぱり最重要曲ではあります。

──さらに今回は2013年にリリースされた「Nightmare Parade」の最新バージョン「Nightmare Parade 2020s」も作られましたね。

DYES 「Nightmare Parade」はFAKE TYPE.の中でもすごく人気のある曲で、そのパート2を作りたいという思いから、制作をスタートしました。ちなみにタイトルなんですが、エレクトロスウィングのルーツとして1930年代に生まれたジプシージャズという音楽があるんです。その音楽にも多大な影響をおよぼしたのが「Roaring '20s」と呼ばれる1920~30年代までの通称“ジャズエイジ”でした。100年ぶりの20年代である現代におけるエレクトロスウィングのアーティストたちが「あの時代をもう一度」という願いを込めて、曲やタイトルに「Roaring '20s(狂騒の20年代)」の要素を持たせるムーブメントが「Roaring 2020s」という名前で海外のアーティストを中心に巻き起きたんです。「Nightmare parade 2020s」のタイトルはそのムーブメントから引用して付けたものですね。

──「FAKE STYLE」は今のFAKE TYPE.の礎とも言える楽曲で、だからこそ「真FAKE STYLE」で原点を更新する狙いがありましたよね。「Nightmare Parade」はどういう位置付けの曲なんですか?

DYES キャラヴァン・パレスみたいな曲をやりたいと思ったのがスタートなんですよ。スキャットなんて1回もしたことなかったんですけど、キャラヴァン・パレスのスキャットがカッコよかったから見よう見真似でトライしてみよう、っていう(笑)。

トップハムハット狂 「Nightmare Parade」をリリースしたあと、海外の「ケモナー」と呼ばれる動物に趣向がある人たちの間で、この曲を使ってダンスをするのがミームになったことがあって。そのおかげで「Nightmare Parade」自体がすごく広まってくれて、今ではFAKE TYPE.の代表曲の1つになりました。それをメジャーという場に行って、今の自分たちの力でまた再現してみようと。当時の「Nightmare Parade」のミームを知ってる人たちにも、喜んでもらえたらいいなと思います。

──リリックの内容は「Nightmare Parade」とかなり変わりましたよね。

トップハムハット狂 元の曲自体も「悪夢」という言葉がキーワードになっていて、現代における悪夢って何かな?と考えたんです。やっぱり人によってはSNS絡みで悪夢になり得るようなことがいっぱいある。現代人にとって身近なSNS周りの不祥事を描いた物語を作れたらいいのかなと思って、「Nightmare Parade 2020s」を書きましたね。

──作曲ではどんなことを意識されましたか?

DYES 活動休止前に作っていたエレクトロスウィングは、サンプリングを多用したりブラスの音を引っ張ったりして、ピッチシフトでメロディを作っていたんですけど、活動再開してからは全部打ち込みで作るようになったんですよね。そのおかげで、より自分の純度100%のエレクトロスウィングに塗り替わったんじゃないかなと思います。なので、今まで培ってきたものを現代の技術でぶつける意識で作りました。

DYES IWASAKI

DYES IWASAKI

「I'm out」に込めた思い

──個人的には「I'm out」がどういう意図で作られたのか気になりました。

トップハムハット狂 人付き合いって大変じゃないですか。これはタイトルからネタバレしてるんですけど、「そういうところから俺は抜けますよ」ということを歌った曲なんです。「自分がネガティブになってしまう人とのお付き合いは止めて、居づらいコミュニティからはさっさと抜け出せばいいんじゃないの?」みたいな。そういう思いを込めて書きましたね。

──あ、そういうことなんですね! 僕はてっきり自分たちが有名になるために、これまでいた音楽シーンだったり、インディーの世界から飛び出してメジャーに行くんだっていう、下克上宣言の歌だと思っていました。

トップハムハット狂 そう捉えてもらえたら、めちゃくちゃいいですね。インディーズ時代にフラストレーションが溜まることはなくて、もっと別の所で溜まっていたものがあったんですけど、その解釈はうれしいです!

──「I'm out」は、どんなことをイメージして作曲しましたか?

DYES なんか……修行をイメージして作りました(笑)。

──修行!?

DYES 淡々とメロディを繰り返して進行する感じが、なぜだか修行してるような感覚になって(笑)。

トップハムハット狂 俺としては、かなりおしゃれで攻撃的なイメージかなと思ったよ(笑)。この「FAKE SWING」の中でも、シンプルであり攻めた感じがする。

DYES 確かにね。シンプルで淡々としていて、わかりやすい曲になってると思う。

トップハムハット狂 めっちゃわかりやすいと思うよ。ラストサビで転調がないから、シンプルにガッて勢いのある感じがするし。

DYES 曲として特別メリハリがあるわけでもないから、どうやって印象を残すか考えたりするのが修行だったのかも。まさにこのアルバムらしい曲だよね。

──今作は後半に向かっていくにつれて、シンプルな要素が多くなっていく感じがするんですね。言うなれば前半5曲はA面で、後半5曲はB面という印象を受けました。

DYES うんうん、そうですね。やっぱり全部がA面にならないようには気を付けてはいます。聴きやすい曲と、クセになる曲っていうか。ちゃんと波があるようにバランス感は意識しました。