FAKE TYPE.は3月に結成10周年を記念した初のBillboard LIVE公演を開催し、ハワイのポップカルチャーフェスティバル「Kawaii Kon2024」にメインゲストとして出演。ユニットと並行して、TOPHAMHAT-KYOとDYES IWASAKIそれぞれの活動も精力的に展開している。
そんなFAKE TYPE.から届けられたのが新作EP「Cats are dangerous EP」だ。本作にはFAKE TYPE.がこれまで追求してきたエレクトロスウィングに留まらない新曲「Cats are dangerous」をはじめ、ファンタジーアクションRPG「ゼンレスゾーンゼロ」のテーマ曲でnqrseとコラボした「Zillion playerZ feat. nqrse」など、彼らの新機軸を感じさせる5曲が収められている。
音楽ナタリーでは、FAKE TYPE.のTOPHAMHAT-KYOとDYES IWASAKIにインタビュー。2024年も残すところ3カ月弱、2人には怒涛の活動を振り返ってもらいつつ、「Cats are dangerous EP」の各収録曲に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 曽我美芽
楽曲制作にライブ活動、怒涛の2024年を振り返る
──8月にFAKE TYPE.のYouTubeチャンネルで「FAKE TYPE. - 激動の2024 (YouTube Music Weekend 8.0)」と題して上半期を振り返る動画を公開していましたが、今年は本当に怒涛ですね。現時点での2024年の活動をまとめた資料を用意したので、1年を総括するにはちょっと早いかもしれませんが、お二人にはそれをもとにお話いただきたいと思います。
DYES IWASAKI うわ、めちゃめちゃ細かく書いてくれてる! そっか、個人の活動も入れるとこんなになるんですね。こうして見ると、楽曲提供も相当たくさんやってますね。
──FAKE TYPE.名義と個人名義を合わせると、20曲近く楽曲提供をされています。
TOPHAMHAT-KYO そうなんだ! 確かに、今年はやることが絶えなかったですね。常に手を動かしていた気がします。
DYES ノンストップだったよね。僕はボカロPとしての活動もあったので、よけいにバタバタで。毎月ライブもあったし。
TOPHAMHAT-KYO 俺は7月も8月もライブがあったからね。
DYES AO(※TOPHAMHAT-KYOの愛称)に関しては、まったく休んでないよね? ライブがない月って今月がひさしぶり?
TOPHAMHAT-KYO そうだね。でも来月またライブがある(笑)。
──今年の活動の中で印象的なことや、自分たちの作品に生きていると感じる経験はありますか?
TOPHAMHAT-KYO 思い出に強く残っているのは、3月に開催した結成10周年記念のビルボードライブ(「FAKE TYPE. 10th Anniversary Live in Billboard Live YOKOHAMA」)ですね。
DYES うんうん、俺もそうかも。
TOPHAMHAT-KYO 10周年を記念した内容だったのもあるけど、ずっと前からディナーショー形式のライブをやってみたいと思っていて。それを初めて実現できたビルボードライブ公演はかなり色濃く残っていますね。とは言ったものの、5月の「JAPAN JAM」も大きかったな。
DYES あれはすごかったね!
TOPHAMHAT-KYO 初めてフェスに出させてもらって。俺はフェスに行ったのも初めてだったので「これは楽しいわ!」と思いました。
DYES 3月の「Kawaii Kon 2024」もね。「ハワイに仕事で行けるんだ」「FAKE TYPE.を呼んでくれるんだ」という感動がありました。僕は初めてのハワイだったんですけど、現地のムードを含めて大好きになりましたね。
TOPHAMHAT-KYO 珍しいところで言うと、5月にすりぃさんとの対バンもあったよね。俺らは普段対バンに全然誘われないんですよ。だから「え? すりぃさんから声がかかってるの?」とびっくりして。面識はなかったんですけど、以前から楽曲はチェックしていたし、すりぃさんもFAKEを知ってくれていて。ジャンルは違うかもしれないけど、ぜひご一緒したいなと思って、すぐに「やりたいです」とお伝えしました。しかも会場がZepp Shinjukuだったんです。2月に自分たちのツアーファイナルでも立った場所だったから、うれしかったし、楽しくていい思い出になりました。
DYES そしたらTOOBOEさん主催の「交遊録III」にも呼んでいただいて、10月にまたZepp Shinjukuに立てるという(笑)。
時代に順応していかないと
TOPHAMHAT-KYO (資料を眺めながら)7月8日でメジャーデビュー2周年だったんだね。あと、あれじゃん! 7月17日にはAdoさんに楽曲提供した「ウタカタララバイ」のMVが1億回再生を突破してる。
DYES これもうれしかったね!
TOPHAMHAT-KYO 自分たちが関わった曲で再生数が1億を突破したのは初めてなんですよ。こうやって見ると、いろいろやってるんだね。
DYES というか、やりすぎてるよ!(笑) いろんなアーティストの活動をチラチラ見るけど、こんなに動いてるアーティストはあんまりいないと思う。
──しかも、定期的にオリジナル曲も出していますし。
DYES そうですよね。本当だったら自分のユニットで手一杯になる人が多い気がするから、本当に怒涛ですよ。
TOPHAMHAT-KYO 新しいところで言うと、NornisさんとYouTubeでコラボトークをしたのと、星街すいせいさんのラジオ「ぶいあーる!~VTuberの音楽Radio」に出演したのも新鮮な経験だった。Vtuberの方と公の場で絡むのは初めてだったんですよ。それもすごく楽しかったですね。
DYES 今度は3Dライブの中に俺らが登場できたら面白いよね。最近Vtuberの方でそういうライブをされている人も多いので、何かあれば声をかけてほしい。
──いちリスナーとしても、ライブ配信以外でFAKE TYPE.がフランクにトークをしている様子を見れたのは新鮮でした。ショート動画の「質問してみた」シリーズなど、明るくポップに話す姿を見せる機会が増えましたね。
TOPHAMHAT-KYO 自分たちでやると大変だけど、最近はありがたいことにサポートしてくれるスタッフがいるので、「俺たちはいるだけでいいなら、全然やってほしいです」という気持ちで。自分たちの新しい一面を発信できているのは優秀なスタッフさんのおかげなんです。
──昔のFAKE TYPE.は素性がベールに包まれているイメージでしたけど、今は少しずつオープンになってきてますよね。新しいことにも常にチャレンジしている。
TOPHAMHAT-KYO 俺らは時代の荒波に揉まれ続けてきた感覚があって。例えば音源は、CDから配信が主流の時代に変わってきたじゃないですか。そういう変革期に音楽を始めた人間だから、時代に順応していかないとまずいというのは肌で感じていて。そしたら、その道のプロの方が「ショート動画もやったほうがいいよ」とアドバイスをくれて、ならやってみようかと。
DYES YouTubeとTuneCoreのセミナーにも行ったんですよ。そこでショート動画がいかに大事か、ということをめちゃめちゃ勉強して。「俺たちも積極的にショート動画を出したい」という気持ちになっている中で、スタッフさんとのご縁があったので力を入れていたんです。
エレクトロスウィングに留まらない新作EP
──そんな精力的な活動を送る中で「Cats are dangerous EP」はいつ頃から構想されていたんですか?
DYES まず最初にとある曲をEPに収録する、という予定だけがあったんです。その曲は僕たちがこれまで打ち出してきたエレクトロスウィングではなかったので、「次回作はエレクトロスウィングじゃない曲も並ぶようなEPにしなきゃね」と話していたんですけど、大人の事情でその曲が今回は入らない!っていう(笑)。
TOPHAMHAT-KYO でも、エレクトロスウィング縛りにしなかったのは結果的によかったよね。
──EPの全体像はどの段階から見えてきましたか?
DYES どうだろう? トラックで言うと、新曲と過去のストック曲が混ざっているんですよ。3曲目の「Apple juice」に関しては2016年頃、4曲目の「No more work」は2017年頃に作った古めの曲なんです。どちらもいつか出したいと思っていた曲で、ブラッシュアップして今の形に落とし込みました。1曲目の「Cats are dangerous」ができた頃に「これが推し曲だよね」という話になって、この曲を主軸にEPを作っていきましたね。
猫ミームからインスピレーションを受けた「Cats are dangerous」
──1曲目「Cats are dangerous」はTOPHAMHAT-KYOさんの尖ったメッセージを、サウンドからは新しいFAKE TYPE.を感じました。
DYES ありがとうございます。これはかなりの自信作で、Johngarabushiさんと2人で笑いながらトラックを作りました(笑)。当時、僕が猫ミームにめっちゃハマっていたんですよ。猫ミームの声を勝手にサンプリングして、トラックにはめ込んでAOに渡したら、それっぽいテーマのリリックが届いて。ただ、猫ミームの音自体は権利の問題があるので、自分たちで録り直しました。
──猫の要素をちりばめたリリックが印象的ですが、猫をテーマに歌詞を書こうと思ったのか、伝えたいメッセージが先にあって猫の要素を入れたのか、どっちなんだろうと気になっていたので、話を聞いてスッキリしました。
DYES ハハハ、最初から猫がありました。狂ったように猫ミームを観ていたんです。
TOPHAMHAT-KYO トラックができた経緯を聞いて「そしたら猫ミームをもとにした曲しか書けないじゃん」と思ったけど、猫ミーム自体はずいぶん前から世界中で流行っていて。日本はそういうものが海外よりも遅れて流行る傾向がありますよね。そことリンクするリリックなら書けるのではと思ったんです。あと芸能人を広告塔に使った結果、その人がトラブルを起こして炎上するニュースも多いから、これを猫に置き換えたらどうだろうと考えて。
──「我が国じゃ Meme は遅れてやってくる / 散々擦られた御下がりなのにリバイバルヒット」や「広告塔には Cat-Cat 経費も Cut-Cut / そのうえスキャンダルもなしで良し!」のフレーズですね。
TOPHAMHAT-KYO ミームの定めとして、企業が流行りものに目をつけて利用しようと思った頃には新鮮さはないですよね。商売やメディアが絡んだら終わりの合図というか、そういう要素と絡めれば猫ミームをいい具合に生かせるんじゃないかと。あと僕らのミュージックビデオを作ってくれているイラスト映像制作チームのPPPが、たまたま「次は獣を描きたい」と言っていたんですよ。
DYES 「Cats are dangerous」を作る前から言っていたよね。
TOPHAMHAT-KYO 「じゃあ獣の要素が生きる内容の曲がないと駄目だよな」と考えているときにDYESから猫ミームをテーマに作ったトラックが届いて、「じゃあ猫じゃん!」という流れで生まれました。
──歌声も含めて、だいぶ振り切っていますよね。
TOPHAMHAT-KYO こういうバカみたいに明るい曲が好きなんですよ。ただ、FAKEが2017年に活動休止して2020年に復活して以降は、書きたいテーマがたくさんあって。それを消化し終えたタイミングに、こういう底抜けに明るいトラックが届いたから「ひさしぶりにバカみたいなことをやれるな」と思ったんです。
──サウンドはロシアとかスイスの民謡っぽさを感じました。
DYES あー、なるほど! そういうのもあるし、ブルース感も折り混ぜつつ作りました。
TOPHAMHAT-KYO リズムも独特だもんね。
DYES タッカタッカみたいなね。デジタルな盆踊りサウンドをエレクトロスウィングと同じ構成楽器でキャッチーにした結果、面白い曲ができたので「これがEPのリードになるだろうな」と思いました。
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唯一無二の存在・nqrseと再びコラボ