ENVii GABRIELLAのメジャー1stアルバム「ENGABASIC」が6月28日にリリースされた。
メジャーデビューから約1年半。これまでの集大成となる本作には、既発曲の「APHRODITE」「BL」「オリビアを聴きながらを聴きながら」「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」「Symphony」に、社会に鋭く切り込んだメッセージ性が先行配信時から大きな話題を呼んでいたリード曲「オワッテンネ」や、全編ラップで構成された新機軸の「PAY ME」、90年代ヒット曲のタイトルを歌詞にちりばめた「90's」など、最新のエンガブ表現した新曲を加えた全10曲が収録されている。
7月から全6公演の全国ツアー「ENVii GABRIELLA LIVE TOUR 2023 ENGABASIC」をスタートさせるエンガブのメンバー3人に、本作の制作エピソードをじっくりと聞いていく。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 斎藤大嗣
名刺代わりになるアルバム「ENGABASIC」
──エンガブの皆さんは6月4日、「SAKAE SP-RING 2023」の愛知・名古屋ReNY limited会場に出演されました。ライブ後にはTwitterで「#エンガブ」を付けた感想が多数見受けられましたし、かなり大きな反響があったようですね。
Takassy そうですね。あの日のライブは写真撮影をOKにしたので、それが大きかったかもしれないです。感想とともに上げてくださっている方がたくさんいらっしゃいました。
HIDEKiSM Twitterのトレンドに入っていたというお話も伺いましたね。
Kamus 一応、エゴサーチもさせていただいたんですけど(笑)、初めてエンガブを観たという方の感想がすごく多かったのがうれしかったです。ずっと応援してくださっている方々はもちろん、新しい出会いもたくさんあったので、本当に出演させていただいてよかったですね。
HIDEKiSM 「サカスプ」を観てくれた方が私たちのYouTubeにも飛んできてくださって。「エンガブ面白い!」「エンガブカッコいい!」みたいなコメントをたくさん書き込んでくれていたので、自分たちとしてもすごく手応えがありました。
──エンガブとして対バン形式のサーキットイベントに出演するのはどんな気持ちなんですか?
HIDEKiSM 燃える!「絶対あんたたちをトリコにしてやるから!」っていう気持ちになるから(笑)。私たちは下積みが長かった分、いろんなアウェイの場所でもライブをしてきたので、その当時の熱量みたいなものを改めて思い出したりもしましたね。
Takassy 対バンはかなりひさしぶりだったからね。今回のアルバムタイトルじゃないけど、エンガブとしてのベーシックを再確認できたところもあったと思う。言い方は悪いですけど、ワンマンだけを続けていると、ぬるま湯に浸かってるような感覚になってしまうんですよ。でも今回の「サカスプ」への出演を通して、ライブへの思いがより研ぎ澄まされたというか、野生に戻った感覚になりましたね。純粋にめちゃめちゃ楽しかったですし。
──これを機に、フェスなどで大暴れするエンガブも見たいところですよね。
Takassy 出たいですねえ。とりあえず今回のアルバムをたくさん売りたいので、私たちのことを全然知らない人たちのところにどんどん殴り込みに行きたいですね。
Kamus 行きたーい。殴り込みたーい!
HIDEKiSM ヤダ、怖ーい(笑)。
──そんなエンガブからメジャー1stアルバム「ENGABASIC」が届けられました。デビューから約1年半の歩みを総括しつつ、同時に今のエンガブの姿がしっかり刻まれている作品になりましたね。
Takassy 私たちは幸運なことに配信を含めたシングルをけっこう大量に出させていただいているし、どれもジャンルがぶっ飛んだ曲だったりするので、アルバムとしてどう収拾をつけるのかというところから考えていきました。コンセプトアルバムにはできそうもなかったので、だったら私たちが持っているものを全部見せようと。インディーズ時代を含め、6年間活動してきたうえでの初フルアルバムなので、初心に戻ろうという気持ちもありました。そこで、改めてエンガブのベーシックな部分を見せたいという思いを念頭に置いて、まずは「ENGABASIC」というタイトルを決めたんです。で、シングル曲を並べながら、その間を埋めるように、バランスよく今の、最新の私たちを感じていただける楽曲を並べていった感じでした。
──リード曲となる「オワッテンネ」はアルバムを見据えて作られたものですか?
Takassy そうですね。アルバムのリードという名のもとに作った曲です。
──なるほど。それでちょっと腑に落ちましたけど、エンガブの大きな魅力は、1つのジャンルに縛られない多彩な音楽性だと思うんですよ。それは今作でもしっかり貫かれている。同時に、今回は「オワッテンネ」が象徴するように、世の中のおかしな状況にまっすぐ物申す曲がすごく印象に残ったんです。言わばオネエユニットとしてのアティチュードがしっかり刻まれているというか。それこそがエンガブのベーシックなんだと感じたんですよね。
Takassy ありがとうございます。そこをしっかり見せたい気持ちはとてもありまして。もともと今の事務所に入る前、インディーズでやっていた楽曲はかなり尖っていたんですよ。歌詞の攻撃性がすごく強くて、わりとドロッとしたものを歌っていた。ただ、事務所やレコード会社に所属させていただき、「豪華ネェサン」(2019年リリースのシングル表題曲)とか「ハッピーハッピーウェイウェイドンチー」(2022年リリースのミニアルバム「Metaphysica」収録)といった楽曲を出していく中で、私たちのカラーも徐々に変化していったところがあったんですよね。言葉を選ばすに表現すると、大衆のイメージに沿ったものを作ることが最重要項目になっていったんです。
──今挙がった2曲のように、とにかく楽しくてノれるという楽曲もまたエンガブの武器であることは間違いないですけどね。
Takassy うん。いかに私たちを知ってもらうか、好いてもらうかという意味においてはすごく大事な側面ではあるし、曲を聴いた方に「元気をもらえた」といったポジティブなメッセージをいただくことも多いので、それによって私たちの存在意義が確立できたところはありました。とは言え、今回は“BASIC”という言葉を掲げているわけなので、そこも原点に戻ってドロッとしたものや独りよがりな部分を全面に出してもいいんじゃないのかなと思ったんですよね。
HIDEKiSM そうしたことによって、本当にエンガブのベーシックな部分をしっかりと織り込んだアルバムに仕上がったと思いますね。
Kamus これまで出してきた楽曲すべてに私たちの本当を織り交ぜてきたけど、今回はより本物のエンガブが見せられている感じがする。今やりたいいろんな音楽の上で言いたいことをしっかり言うことができているので。アルバム曲に関しても、すべてがシングルにできるくらい迫力のある仕上がりになっていますからね。名刺代わりになるアルバムだと思います。
攻撃的なワードを「カニバサミ」で相殺
──では新曲について順に聞いていきましょう。2曲目に収録されているのが、先ほど少しお話してもらった「オワッテンネ」。LGBTQについてかなり鋭く切り込んでいる印象です。
Takassy 私はTwitterを見るのがあまり好きじゃないんですよ。悪意なく失言した人に対しての叩き方がすごいから、それを見てると具合が悪くなっちゃう。そういう現象はLGBTQの話も例外ではないんです。悪意なく失言した人をよってたかって叩くのではなく、もう少し優しく諭してあげてもいいんじゃないかなって私は思うんですよ。逆に偉い人が悪意を感じさせる物言いをしたときには「あなたがそれを言ったらどれくらいの人が傷付くかわかってる?」と思うこともある。そういう状況に対して“オワッテンネ”って思ったところから、ガーッと歌詞を書きました。ただ、書いたはいいんだけど、最初は今よりも言葉がキツくなってしまって。そこに関しては2人の判断を仰ぎつつ、ディスカッションしながら変えていったところもあります。
Kamus 歌詞を最初に見たとき、けっこう攻撃的だなとは思いました。今の世界、そして私たちの身の回りの状況に向けた思いがわかりやすく書かれていたので、そこに対して少し不安もあったんですよね。でも、その思いは私も一緒だし、「わかるよ!」と思う部分ばかりだったので、それをどう伝えるかでけっこうやりとりした感じでした。
Takassy 1番で「国の恥」というちょっと攻撃的なワードを使ったら、2番の同じところに意味のない「カニバサミ」というワードを置くことで相殺したりとか。そういう仕掛けを考えました。
HIDEKiSM 私は初めて聴いたとき、実はそこまで攻撃的には感じなかったんですよ。それはサウンドのおかげもあったとは思うんですけど。改めて歌詞をじっくり読んでみたら、「あら、けっこうすごいこと言ってるわね!」っていう(笑)。
Kamus あははは。
──確かにファンクテイストのサウンドがテンション高く耳に入ってくるので、楽曲としてすごく聴き心地がいいですからね。
Takassy そこはすごく意識したところで。歌詞の内容がなかなかなので(笑)、それをどれだけライトなエンタメに変えられるかというところに神経を使ったところはありました。
HIDEKiSM そのコントラストがいいと思うんですよね。この歌詞を強いサウンドに乗せちゃうと、パンチが効きすぎてズシッと重たくなっちゃうから。とは言え、ここで歌われている内容って、決して攻撃的なものではないんですよ。突き詰めていけば人間の本質を描いているというか。Dメロで歌っていることに尽きるんですけど、人種もジェンダーも年齢も問わず、みんな仲よくやろうよってことですから。エンガブの曲はよく“スルメ”って言われますけど、この曲も噛めば噛むほど、曲の内容を掘り下げれば掘り下げるほど面白く感じてもらえるとは思いますね。
──この曲は5月24日から先行配信もされましたが、反響もかなり大きいんじゃないですか?
Takassy そうですね。いろんなコメントがある中で、「結局、すごい優しい曲だね」って言ってくれている人がちらほらいたんですよ。この曲の深い部分まで感じてくれた方がいたのはすごくうれしかったですね。
HIDEKiSM 曲自体もさることながら、MVの反響がすごいんですよ。今回は豪華なゲストの方たちにご協力いただいたこともあって、公開からあっという間に20万再生を突破してくれて。それもうれしかったわよね。
Kamus この曲はエンガブには珍しく、みんながワイワイとコールしたり、一緒に振りができるところがあったりするんです。それを前に生配信でレクチャーしたら、もうすでにライブでは完璧にやってくれているお客さんがすごく多くて。そういう部分での反響もすごく感じていますね。
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ヴィランズのようなエンガブの真骨頂