ENVii GABRIELLAが3カ月連続リリース第1弾となるデジタルシングル「Moratorium」でメジャーデビューを果たした。
エンガブことENVii GABRIELLAは、ボーカルのTakassyとHIDEKiSM、ダンサーのKamusによって2017年3月に結成された“オネエによる総合エンタテインメントユニット”。ハイレベルな楽曲とパフォーマンス、そして愛すべきキャラクター性が相まって人気がジワジワと拡大し、結成当初から続けているYouTubeチャンネル「スナック・ENVii GABRIELLA」のチャンネル登録者数は16万人を超えた。メンバーにとって念願だったメジャーデビューを記念し、音楽ナタリー初のインタビューを実施。結成からメジャーデビューまでの道のりを振り返ってもらうと同時に、デビュー曲「Moratorium」の制作エピソード、そしてメジャーフィールドで成し遂げたい夢の話題までたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき
決め手は覚悟と顔
──皆さんはもともと別々に活動をされていたそうですね。
Takassy はい。私はボーカルグループやダンスユニットをいくつか経験してから、ソロアーティストとして活動するようになって。そのあとは作家活動に専念するために一度歌うことを止めていたんです。でも作家としてやっていく中でもう一度、表舞台に立ってパフォーマンスしたいと思うようになり、2017年3月にENVii GABRIELLAを結成して。自分としてはこれが最後のチャンスというか、これがポシャったら死んでやるくらいの勢いで始めました。
HIDEKiSM 私もずっとソロアーティストとして活動していて。私はちょっとおかしいキャラクターでもあるので(笑)、同時にテレビのバラエティ番組でタレントのようなお仕事をさせていただいたりもしていましたね。ただ、どうにもこうにも売れない時期が長く続いていたので、もう全部やめて普通の仕事をしようかなって思った瞬間があって。で、最後のつもりでライブをやったんです。そうしたらたまたまリーダー(Takassy)が観に来てくれて、そのときに声をかけてもらったことでエンガブとして活動するようになりました。なので私もラストチャンスくらいの覚悟はありました。
Kamus もともと歌をやっていた2人とは違って、私の場合はダンサーになるために上京したんですよ。自分の表現ができる場所を探しながら、ショーパブやストリップなどいろんなところでパフォーマンスをしたり、クラブイベントをオーガナイズしたりしていましたね。そんな中、2人とは面識があったので、エンガブを結成するときに声をかけてらったという。2人は最後のチャンスみたいなこと言ってましたけど……私は単純に「楽しそう!」と思ってメンバーになったんですよ。話の流れ的にちょっと言いにくいんですけど(笑)。
HIDEKiSM そんなの全然いいのよ、気にしないで。
Takassy そうよ。言ったら、“このババア2人とやる覚悟”はきっとあったはずだしね(笑)。
Kamus そうですね、うふふふふ。
──Kamusさんは上京する前、陸上自衛隊員だったんですよね。
Kamus そうなんですよ。ダンサーになりたいという思いはずっとあったんですけど、田舎のお婆ちゃんが安心する職業に就いたほうがいいと思って自衛隊に入ったんです。まあ1年でサラッと辞めてしまったので、お婆ちゃんには申し訳なかったんですけど。自衛隊では衛生科にいたので、緊急事態というか、倒れてる人に対して処置ができるとか、そういうところは今も役に立ちますね。
HIDEKiSM あら、助かっちゃう。私はもう歩く緊急事態だから(笑)。
Takassy 酒で万年、緊急事態だもんね。Kamusがいて安心ね。
──Takassyさんはエンガブを結成する際、HIDEKiSMさんとKamusさんに声をかけたのはどうしてだったんですか?
Takassy 普通にユニットを組もうとすれば、人材はすごくいっぱいいると思うんです。でもオネエやゲイ限定でパフォーマンスできる人を探そうとすると一気に間口が狭くなる。そんな中、HIDEKiSMには捨てるものが何もない崖っぷち感を感じて。そこに惹かれたんですよね(笑)。
HIDEKiSM ちょっと!(笑)
Takassy 私はエンガブを結成するタイミングではまだ世間にオネエやゲイであることをカミングアウトしていなかったんですけど、ラストチャンスとしてユニットをやるならば、セクシャリティも含めて自分の持っているものを全部武器にしてしまおうと思ったんです。だから一緒にやる人もそこが大事だった。その時点でHIDEKiSMはすでにカミングアウトしていて、ライブでもヒールを履いてパフォーマンスをしていたので、そこに覚悟を感じたから声をかけたんです。一方のKamusは、知り合いの中で一番顔がよかったから声をかけました。その時点では彼のダンスを生で一度も見たことがなかったんですけど(笑)。
HIDEKiSM 顔は大事よねえ。
Takassy あとは、オネエも人数が集まるとけっこう面倒くさいんですよ(笑)。それぞれ主張が強いので。でもKamusは新宿二丁目で働いていたりもしたから、人と関係を結ぶのがすごく上手だったんです。それもユニットに誘った1つの理由でしたね。
Kamus いろいろちょうどよかったんでしょうね(笑)。私も声をかけてもらえたことはすごくうれしかったですし。
Takassy ただ、HIDEKiSMは最初、かなり警戒してましたけどね。誘いの電話をしたときも、「うーん、どんな展望があるかまず教えてくれる? そのうえでちょっと1回考えるわ」みたいな。「偉そうに!」と思って、その瞬間、やっぱ誘うのやめようかなって思ったんですけど(笑)。
HIDEKiSM あははは(笑)。誘ってくれたことはうれしかったけど、さっきも言った通り私はもうアーティスト活動を辞めようと思っていたから不安があったんですよ。だからTakassyがどんなビジョンを持ってユニットを組もうと思ってるのかをちゃんと確認しておきたかったんです。そのうえで納得できたので参加することにしたんですけど。
Takassy 今の日本にはオネエやゲイというセクシャリティを公言して、音楽をメインに活動をしているアーティストはまだあまりいないから、それを先陣切ってやりたいんだということを伝えました。
私たちは絶対に売れるから!
──結成当初からスタートしたYouTubeチャンネル「スナック・ENVii GABRIELLA」は、今やチャンネル登録者数が16万人を超える人気を誇っています。今の状況にたどり着くまでの約4年半の間には前に進むのが困難になる状況もありましたか?
Takassy それはもちろんありました。自分でもよく言ってますけど、結成当初、 HIDEKiSMは私のことがあまり好きじゃなかったみたいなんですよ。苦手意識があったって。一方のKamusに関しても、そこまで深く人となりを知った上で誘ったわけじゃなかったから、私としても多少の距離感を持って接していたところがありましたしね。最初は腹の探り合いみたいなところはあったと思います。
HIDEKiSM セクシャリティが一緒だからって別にみんながみんな気が合うわけではないじゃないですか。だからそれぞれを知るところから始めた感じよね。
Kamus 最初の頃は3人で始めたYouTubeも全然盛り上がらなかったし。チャンネル登録者数は伸び悩むし、再生数が下がっていくっていう。そういう状況に悩んで、何度も投げ出しそうになることがありました。でも、そのたびになんとか持ちこたえて、今の場所までたどり着くことができたんですけど。
Takassy 途中からミーティングを徹底的にやるようにして、例えば文句があるなら目の前で正直に言うとか、そういう環境にしたんですよ。そうすることでお互いがより分かり合えるようになったし、3人ともがエンガブのことをより強く考えるようになったところはあったと思います。
HIDEKiSM みんなで悩んだり迷ったりしたとき、リーダーは毎回、ブレない目で「私たちは絶対に売れるから!」ってずっと言い続けてくれたんですよ。それに支えられたところも大きかったとは思います。だってね、Takassyは曲が作れるし、Kamusは振りが作れるし、私は一番美人だし……。
Takassy うるさい! 窓から落ちろ!(笑)
HIDEKiSM あははは(笑)。そんな3人が出会えることって、なかなかないじゃないですか。だから簡単にやめてしまうのは違うなと思って、踏ん張ることができたんですよね。もう四の五の言わずにやるしかない、みたいな。
Kamus 振り返るとほんとにいろんなことがあったし、濃い4年半だったよねー。
──Takassyさんが「私たちは絶対に売れる」と言い続けられたのにはどんな理由があったんでしょう?
Takassy 私は3人の中でも群を抜いてネガティブな人間なんです。でも、この2人は私が作る曲をすごく認めて、評価してくれて。それが1つ大きな自信につながっているところはあります。あとは個人的な好みの部分が大きいですけど、私はこの2人のビジュアルがとにかく好きなんですよ。ステージに立ったときに、ものすごく華があるんですよね。しかも我々はパフォーマンスも面白いという自負もある。そう考えると売れるに決まってるじゃないですか(笑)。
──売れない理由が見つからないと。
Takassy そうそう。しかも3人とも命懸けてやってるし。まあ、正直に言えばそれくらいの自信を持っていないと自分自身が潰れてしまいそうだったからなんですけど、私が誘った以上は2人の人生に対しての責任を取らなきゃいけないという思いもあったので、私からネガティブな発言をするもんじゃないなっていう。逆に言えば、2人の存在が私を強く、前向きにさせてくれているということでもあるんですけどね。
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