ENVii GABRIELLAが10月26日にニューシングル「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」をリリースした。
表題曲とカップリング曲「オリビアを聴きながらを聴きながら」の2曲を収録した今回のシングルは、1980年代後半から90年代に流通していた懐かしい短冊型ジャケットの8cm CDとして限定販売された。CDは好評につき完売している状況だが、収録される2曲はサブスクリプションサービスや各種音楽配信サービスで配信され、ともに大きな反響を呼んでいる。
ミュージカルのようにカラフルな場面が目まぐるしく展開する豪華絢爛な「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」と、杏里のヒット曲「オリビアを聴きながら」にインスパイアされて生まれたメロウなシティポップナンバー「オリビアを聴きながらを聴きながら」の2曲について、エンガブのメンバー3人にたっぷりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 斎藤大嗣
8cm CDを出すことがメジャーアーティストの証
──ENVii GABRIELLA は3月にミニアルバム「Metaphysical」を、6月と7月にはデジタルシングル「BL」「Symphony」を連続リリースし、その存在感をシーンにしっかりアピールしてきました。楽曲のタイプも毎回ガラッと違いますし、エンガブのクリエイティビティはますます広がっている印象です。「どれだけ引き出し持ってるの!?」っていう。
Takassy あははは、ありがとうございます。確かにやりたいことはずっとあふれ続けていますね。我々は裏切ることが大好きなので(笑)、1曲1曲に全然違った意匠を込めて作っている感じというか。この3人のポテンシャルをどんどん試していきたい気持ちも強いので、楽しそうだと思うことをただただやらせていただいている感じなんです。自分たちに合うか合わないかはわからないけど、チャンスがあるんだったら違ったことを毎回やっていきたいなって。
HIDEKiSM 私は歌手を目指し始めた当時から、ジャンルに固執したアーティストではなく、いろいろなことができるJ-POPアーティストに憧れるタイプだったので、今はすごく本意な活動ができていますね。いろんなことに挑戦させてもらってこそ、トータルでエンタテインメントを表現できると思っているので、その状況をとにかく楽しんでいる感じ。たまにね、「Takassyの引き出しがいつかなくならないかしら」と心配に思うこともありますけど(笑)。
Kamus メジャーに来たことで、エンガブに興味を持ってくださる方の裾野が広がってきたと思うんですよ。だからこそ、より幅広くいろいろなことをしていきたい気持ちが強くなっているんです。活動スタートから5年弱、本当に目まぐるしい活動をしてきた中でエンガブのスタイルとして固まってきたものはもちろんあるんだけど、まだもっと何かできることがあるんじゃないかと常に考えている自分たちもいて。ある意味、エンガブとしてのカラーが固まり切らないことこそがエンガブの武器でもあるんじゃないかなって。今回リリースする「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」と「オリビアを聴きながらを聴きながら」も今までのエンガブがやってこなかった、まったく新しいジャンルですからね。
──しかも、その2曲を収録するシングルが8cm CDでリリースされるという大きなトピックもあって。なぜ2022年の今、8cm CDを出そうと思ったんですか?
HIDEKiSM やっぱりあの短冊型のCDに思い入れがある世代なんですよ。学生時代にあれを求めてCD屋さんに走ったこともあったし、発売からちょっと経たないとレンタルできないのを悔しがったりしたこともあって。そういういろいろな思い出があるんです。
Takassy そうそう。しかも年代的に8cm CDを出すことがメジャーアーティストの証的なところがあったしね。だから自分たちがメジャーに来て、まず何をやりたいかって言ったら8cm CDでシングルを出すことだったので、キングレコードのスタッフさんにはずっと「いつか8cm CDを出したいなー」ってサブリミナルのように言ってたんです(笑)。そうしたら、ある日のミーティングで「10月に8cmシングルを出すことにしました」と言われて。うちら3人、「マジかよ!?」みたいな(笑)。
Kamus 念願が叶いました。
──限定販売された8cmシングルはすぐ完売してしまったそうですね。
Takassy そうなんですよ。ありがたいことに。エンガブはアラサーユニットで、ファンの方も同年代からちょっと上の世代の方が多いので、皆さん「懐かしいー!」と言いながら購入してくださったみたいですね。
HIDEKiSM ご購入いただいても聴ける環境はあるのかしら?という疑問もあるんですけどね。今はCDデッキすらない家庭が多いみたいじゃないですか。それを言ったら8cm CDを作ってくれる工場がよくあったなって話なんですけど(笑)。
Takassy 工場も全然なかったらしいんですけど、そこをなんとか探していただいて。ホントに長年の夢が叶ったうれしい出来事でした。
オネエのフル活用でエンタメに昇華
──先ほどKamusさんがおっしゃったように、そこに収録される2曲がまたエンガブの新たな表情を見せてくれる仕上がりになっていて。まず「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」は煌びやかな世界観を持ったゴージャスな1曲です。これはもうエンガブにしか表現できない曲だなと。
HIDEKiSM あらーうれしい!
Takassy もともとタイトルになってるワードがずっと私の頭の中にあったんですよ。で、今回8cmシングルの話が出たときに、この企画にピッタリなタイトルだなと思って。「あの長細いCDジャケットにこの長いタイトルを縦書きで配置したい!」みたいな(笑)。そこからなんとなくコスメのCMで流れるような曲をイメージして、歌詞とサウンドを作っていったんです。
──ミュージカルを観ているかのように、カラフルな景色が次々と展開していくアレンジが楽しいですよね。
Takassy 曲の構成に関しては、キャリアウーマンの1週間みたいな脳内テーマがあって。日々を忙しく過ごしながら自分をアップデートしていく人の目まぐるしい感じをサウンドでも表現したかったんです。あとは、他人や社会に合わせて生きていた主人公が、本当の自分を見つめ直していくというテーマを持つ「不思議の国のアリス」をイメージしたところもありました。あの物語の中であっちこっちに行く感じを、音でも出せたらなって。アレンジは、インディーズ時代にエンガブの「オダマリナサイ」をやってくれた(Takao)Ogiくんにデモを作ってもらい、そこから一緒にブラッシュアップしていきました。Ogiくんにある程度おまかせして作ってもらったことで、自分としてもこのアレンジには純粋に驚くことができて。そこにメロと歌詞をつけていく作業も楽しかったですね。
──HIDEKiSMさんとKamusさんはサウンドに関してどんな印象を受けました?
Kamus ええー、私は「はじめまして」って感じでした(笑)。
HIDEKiSM まあね、だいたいどの曲もそうよね(笑)。
Kamus いや、エンガブには今までなかったタイプの曲だし、でもこの曲をパフォーマンスするエンガブは絶対にカッコいいだろうなと思える感じがあって。その感覚が「はじめまして」だったんです。突然リズムが変わったり、転調したり、とにかく目まぐるしい展開がありますからね。終わったかと思いきや、最後にもうひと盛り上がりするビッグバンドっぽいパートもあったりするし。聴くごとにどんどん好きになる感じがありましたね。でも最初は「はじめまして」でした。
HIDEKiSM よそよそしいわね(笑)。私はもう最初に聴いた瞬間、「はい好きー!」みたいな。もともと私はミュージカル好きでもあるので、この煌びやかな楽曲にはスムーズに入り込むことができたんです。忙しないシーンの目白押しで、いろんなところに驚きも用意されている、それをまあよく5分という尺の中で表現できたもんだと驚いちゃいましたね。歌詞にはしっかりメッセージ性も込められているので、深掘りして聴いていくことで、私自身がこの曲に救われるような感覚にもなりました。
──自分を美しく磨いているのは自分でしかないという主張をしている歌詞が痛快ですよね。
Takassy そうそう。日々の生活の中で、自分で働いて稼いだお金でジムやエステに通い、キレイになるためにコスメを買ったりしているのに、「あの人のおかげできれいになったよね」とか言われることって多かったりするじゃないですか。なんでそんなこと言われなきゃいけないのってすごく思うから、「いや、あなたが私をきれいにしてるわけじゃないのよ」「私が私のお金を使い、自分で自分をきれいにしてるんです!」ということを言いたかったんですよね。同じことを感じてる人もきっと多いはずだから、その主張を今回は全面的に押し出そうと。
──なかなか口に出せない心の中の本音を代弁してくれるのは、エンガブの曲の大きな魅力でもありますよね。
Takassy そこは“オネエ”というセクシュアリティを最大限フル活用する感じで(笑)。エンガブには“オネエがお届けする総合エンターテインメントユニット”というキャッチコピーがあるんですよ。そこで“ゲイ”という言葉を使っていたらちょっと社会的な雰囲気が出てたと思うんだけど、“オネエ”にしたことで一気にエンタメ感、テレビ感が出た。その結果、普通の男性や女性が歌うと角が立つことでも、私たちが歌えばエンタメに昇華されて共感していただけることがあるんじゃないかなって。それは私たちにしかできないことだし、それによって気持ちがスッキリしてくれるならば、こんなにうれしいことはないと思うんです。
見ていてゾクゾクする
──この曲もたくさんの共感を呼ぶことになると思います。ボーカルのレコーディングはいかがで……
HIDEKiSM (質問を遮りながら)大変でしたっ!!
Takassy すごい食ってくるけど(笑)。
Kamus めっちゃ食ってたね、今(笑)。
HIDEKiSM もう大変ですよ! 曲の中でリズムも変わりますからね。歌詞のメッセージに伴って歌い方を変えていく必要もあったし、魔女みたいに変な声を出さなきゃいけない瞬間もあったし(笑)。かと思えばプリンセスみたいな歌い方を求められるところもあって。楽曲自体の緩急に合わせるだけじゃなく、気持ちの部分でも緩急をつけて声に乗せなきゃいけないのが本当に大変で。その目まぐるしさを少しでも楽しんでいただけるようにがんばってパフォーマンスしましたね。
Takassy 毎回レコーディングのときには、視覚的なイメージが浮かびやすいリファレンスを伝えたりするんですよ。映画や絵画なんかを見てもらったうえでイメージを共有するっていう。今回もパートによっていろんな映画の要素を歌に反映させているんですよね。
Kamus レコーディング風景を見ていると、本当に面白いんですよ。最初はHIDEKiSMが自分がイメージした感じで歌って。その後にさっきTakassyが言ったみたいに参考になる映画のシーンとかを見せると、歌声がマジで変わるんです。イメージをすぐ声色に乗せ、微妙なニュアンスをつけてくる姿には毎回感動しますね。見ていてゾクゾクするときがありますもん。
HIDEKiSM イメージを共有する時間は本当に大事よね。自分の解釈が間違っているときもあるわけだから。
Takassy でも逆にHIDEKiSMの解釈のほうがよくて、そっちを採用するときもあります。だから最初はまず自由に、自分なりの解釈で歌ってもらうようにしてるんです。そういう作業は毎回しっかりやっていますね。
──最初は「あなたが私を綺麗にする訳じゃないの」と歌いながらも、途中で一度「アナタが私を綺麗に少しはするかもね」と歌われているところが強く印象に残りました。ここにはどんな思いを込めたんですか?
Takassy 人間って好き勝手に自分の力だけで生きてると思っていても、実際は周りからのサポートを何かしら受けているものじゃないですか。会社にしても、自由に動いていると思いきや、裏では知らず知らずのうちに誰かが助けてくれていることもあったり。何も考えず好き勝手にやってるだけなら、わがままな子供と一緒。そうではなく、周りのサポートもちゃんと理解したうえで自由に生きている人こそがカッコいいと私は思うので、“少しはするかもね”という歌詞を入れました。Twitterとかを見ていると、その“かもね”のところに共感してくれている人が多かったのもうれしかったです。
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悩み多き女性たちの情念を込めた歌詞