瑛人|来年どうなってるかなんてわからない、“計画はしない計画”で今を楽しむだけ

「香水」の次の曲

──この大注目の中で新曲を出すプレッシャーたるや……と思ったんですけど、新曲「ライナウ」は「明治 エッセル スーパーカップ」のWeb CM曲でもあり。いきなりタイアップ曲の書き下ろしという大きな仕事が来たわけで、さすがにいろいろ悩んだこともあるだろうと思うんですが、これも楽しめましたか?

楽しめました。「ふつうって、スーパー最高。」っていうテーマと「青春っぽい感じの曲」くらいの簡単なイメージだけ教えてもらいました。全部細かく教えてもらっていたら、きっと俺は置きに行っちゃうだろうから、あえて資料には触れずに。戸惑ったりしましたけど「できなかったらしょうがないし」と言ってくれて。助け舟がとてもいっぱいあって、なんとかなりました。

──「計画はしないって計画」というフレーズには哲学的な響きがありますね。

これ前にKさん(御徒町凧)とこれからについて話していたとき、「逆に計画はないっていう計画でもいいよね、難しいけどね」って言ってて。それをパッと拾ったんです。たぶんそのときめっちゃ共感したから耳に入ってきたんですよね。

──瑛人さんの飄々と今を楽しんでる感じが表れていると思うんですよ。「明日に持ち越せないドキドキ ほしいな」という、楽しい日々を刹那的なものとして捉えたフレーズもすごくよくて。この曲で描かれている風景は実体験が元になっているんですか?

瑛人

そうです。「T字路 左にまっすぐ進んで あの鉄塔の下まで」とか本当にそのまま。高校時代のことを思い出して言葉にして、それを歌詞にしました。

──歌詞に「ドルチェ&ガッバーナ」的なわかりやすいフックを入れていないのもいいなと思ったんですけど、キャッチーな言葉を入れようという欲はありませんでしたか?

ちょっと考えましたね。最近「オーバートルク」(※規定を超える力でボルトやナットを締め付けること)って言葉を覚えたので「オーバートルク 君はただ1人が嫌なんだ」とかいう歌も作ったんですけど、なんか違うぞって(笑)。でも、せっかくメロディは浮かんだので、その曲もタイミングがいいところで歌えたらいいなと思います。あと「ライナウ」については、同級生でギタリストのじゅんのすけ(小野寺淳之介)と一緒にいるときにKさんが「文化祭で初めてオリジナル曲を歌うくらいの気持ちでやってみたら?」ってアドバイスをくれて。「ジャンジャ、ジャーン」って感じとか、そのイメージもありました。

──じゅんのすけさんも瑛人さんの音楽におけるキーマンというか、それこそ森山直太朗さんと御徒町凧さんみたいな関係性なんですか? 2人で瑛人みたいなところもあるのかなって。

(笑)。どうなのかなあ、相棒は相棒ですね。じゅんちゃんは一緒に作曲しているわけではないんですけど、その場にいて、曲のこともすごく理解してくれるし、「俺も一緒に作ったよ」くらいの気持ちで弾いてくれるんですよ。じゅんちゃんがいるから安心してやれてるって面はあります。

──「ライナウ」はこれまでのフォーキーな楽曲とは異なるバンドアンサンブルで歌詞のイメージと合ったポップな曲に仕上がっていますが、満足度はどうでしょう?

満足度は……100点です(笑)。

──アウトロ終わりに「やば」という声が入ってますけど、あれは何がやばかったんですか?

楽しすぎて「やば!」みたいな。よく「やばい」って言うんですよ(笑)。

「もうこれで終わり」って意識で

──先ほど撮影中に少しお話しいただきましたが、今は1stアルバムの制作を進めているとか。

絶賛進めてます。いい感じだと思います。

──アルバムでは新しいチャレンジもありますか?

はい。自分1人で1から作ってる曲もありますし、打ち込みの曲やバンドの曲にも初挑戦していて。

──基本的にはこれまではいわゆるアコースティックで、フォークソングの流れを汲むスタイルでしたが、別にフォークソングをやろうとしてるわけじゃないんですよね。

瑛人

そうですね。スタイルに関しては何も考えてないです。自分らしく歌にできれば別になんでもいいし、いろんなことに挑戦したい。俺の仲間でHOT DOGSっていう兄貴たちがいるんですけど、その人たちがジャンルを聞かれたときに「俺らはハッピーアコースティックミュージックだ」って言ってたんですよね。俺の場合はアコースティックじゃない曲もあるから「ハッピーミュージック」って言いたいです。

──逆に絶対やりたくないジャンルってありますか?

やりたくない音楽……EDMって言いそうになったけど、それも想像したらワイワイ楽しそうだし、演歌もやってみたら楽しそう。やってみればなんでも楽しいと思います。

──そもそも瑛人さんはまだちゃんとした形でCDを出していないわけですよね。最近は「CDは出さなくてもいい」「メジャーじゃなくてもいい」みたいな新しい考えの人たちもどんどん出てきていて。それにアルバム単位で音楽を聴く人も減っていて、アルバムを作ることにこだわりがない人もいるのかなと思うんですが、瑛人さんはどうですか?

CDはやっぱり欲しいし、自分のアルバムも作りたいですね。みんなにあげたいし。アルバムについて言うと、1つテーマがあるんです。急にいろんなことがバタバタと始まって、忙しくなってしまったんですけど、Kさんと車で移動してるときに「アルバム、本当に作りたいものになってるかな? 棺桶に持っていくようなつもりで1stアルバムのこと考えてみてよ。俺はそれが聴きたいな」って言われたことがあって。1stアルバムって死ぬ前に聴き直すようなもので、直太朗さんも「やっぱ1stアルバムってすげえ意地張ったよね。瑛人は大丈夫?」と心配してくれていたみたいで……。俺が来年どうなってるかなんてわからないし、「もうこれで終わり」って意識を高めていこうと……1stアルバムにしてラストアルバム(笑)。それがテーマです。

──御徒町さんからの言葉でアルバムの内容にどのような変化がありましたか?

選曲が大きく変わりました。俺は曲のストックがすごく少ないので、新しく作った曲はどんどん出していかずにある程度温存しておこうという話もあったんですけど、「アルバムを墓場に持っていくとしたらどう?」って言われたから、もう今のうちに瑛人を全部出し切って、すっきりしようと。そんな思いもあって、アルバムタイトルは「すっからかん」にしました。

──氣志團万博では「ずっと楽しく歌い続ける」という非常にシンプルな目標を挙げていましたが、将来的にどんなアーティストになりたいとか、1人の人間としてどうなりたいかという具体的な目標はありますか?

神社にお参りするときとかもそうなんですけど、俺はあんまり多くを願わないようにしていて。嫌なことがあるのはしょうがないし、願うとすれば「幸せになれますように」ってことだけですね。

瑛人