クレイジーケンバンドとヒャダインのインチキJ-POP感
5作品の中に入れ忘れてましたけど、最近のものだと「CRAZY KEN BAND TOUR 2018 "GOING TO A GO-GO" at 横浜アリーナ」もいいですね。2018年9月24日、クレイジーケンバンドが地元・横浜アリーナで行ったCDデビュー20周年記念公演。カッコよかったなあ。CKBは昔から大好きなんです。もともとピチカート・ファイヴが好きだったので小西康陽さんのレーベルから出たCKBの作品(2000年6月発売のアルバム「ショック療法」)を聴いて、横山剣さんの独特な世界に引き込まれたんですけれども、めちゃくちゃカッコいいんですよね。ホーンがいて、コーラスもいて、何より横山剣さんがとてもダンディで、カッコよくて。ライブアーティストだなと思いました。ミュージシャン・オブ・ミュージシャンが集まって、楽しく遊んでいるような風景ですよね。
──歌謡曲をルーツにした曲作りはヒャダインさんとも共通するところです。
そうなんですよ。僕は音楽的にCKBに実はすごく影響を受けていまして。横山剣さんとお会いしたときに直接お話しさせていただいたんですけど、僕は小さい頃から歌謡曲の影響をものすごく受けていて、あのごった煮感というか節操のない感じが大好きなんです。ラテン、ブーガルー、「伊勢佐木町ブルース」的な日本のブルース、和田アキ子さんに代表される和製R&Bスタイル。それらを取り入れて今っぽくやっているのがCKBだと思うんですけど、僕も“なんちゃって”でいろんな楽曲を作るので、横山さんご自身もおっしゃるところのインチキのJ-POP感という部分ではすごく共通しているんです。剣さんはものすごいポップな感覚も持ち合わせている方ですし、キャッチーであり、バカバカしくもあり。でも、ご本人はめちゃくちゃシャイガイで愛らしい方なんです。照れ屋さんだけど、ステージではキリっとしていて、カッコいいし、ひたすら楽しい。歌詞の世界観も不思議な言葉のセンスですよね。「タイガー&ドラゴン」の「貸した金の事など どうでもいいから」の“貸した金”とか、「えっ、こういう言葉使うの?」みたいな。そういったところもめちゃくちゃ影響受けています。メンバーも一流ぞろいだし、元オメガトライブの方(ドラムスの廣石恵一)までいますもんね。僕、オメガトライブも大好きなので、よだれ垂らしながら観てました。しかもこのライブ、3時間20分ありますからね。トラックリストもM38まであるから、びっくりしちゃった。よく体力持つなって。
動画サイトにないもの=存在しないもの
──オススメ作品を挙げていただきましたが、改めてdTVをご覧になっていかがでしたか?
いやあ、楽しかったです! 友達と家飲みするとき、dTVをApple TVとかにつないでBGVとして流しつつ飲みたいと思いました。これまではYouTubeのプレイリストを流していたんですけど、映像の有無や画質がバラバラなのでBGVとしての精度が低めなんですよね。dTVだったら1時間半とか2時間のパッケージで観ることができるので、BGVとしてとても優秀。画質も音質もしっかりしているから、大画面でも楽しめますよ。あと、ちゃんと公式なのでうしろめたさもないですし。
──あはは。それは一番大切です。
今までは配信での供給が少なかったから、みんな誰かがアップロードしたものを観るしかなかったと思うんですよ。YouTubeが始まったのが2005年ですけど、それまではミュージックビデオすら気軽に観られなかったから、「やっと気軽に観られる世の中になったな」とうれしかったんですよね。ライブ映像もCS放送で単発のオンエアはあっても、あくまで受動的なものだし、こちらから選んで観る感覚ではなかったので。dTVには昔のアーカイブをどんどん供給してほしいです。さっきお話ししたように今は80'sの音楽がリバイバルで流行ってますから。特にザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」の爆発的なヒット以降、Billboardのチャートでもシンセウエーブの勢いがすごくて。その一方で日本のシティポップも海外で注目されていて、松原みきさん、竹内まりやさんを筆頭に人気ですよね。海外のプレイリストを見ていると、日本のシティポップのリストに菊池桃子さんの3rdアルバム「ADVENTURE」(1986年)から「Mystical Composer」というすごくマイナーな曲が入っていて、いい時代だなあと思って。昔のファッションや音楽だけではなく、dTVを使って映像面でも当時のライブを掘ってみるのはオススメですね。その当時の様子をdTVで手軽に観られるわけですから。最近は80年代や90年代のアニメのエンディングのような映像を使うアーティストも多くて。デュア・リパなんて「セーラームーン」まんまなMV(「Levitating」)を作ったりしているんですよ。dTVのアーカイブを研究すれば、昔のライブそのもののオマージュもできるかもしれないなと思いました。
──板で作った街のセットだったり、ステージ上に置かれたブランコだったり。
ああ、いいですねえ。音だけでなく、ビジュアル面も再現できそうですよね。今のデジタルネイティブの子たちって、音楽は“映像ありきで聴くもの”という意識があると思うんですよ。YouTubeの再生回数を見ても。YOASOBIなんかも音源を映像付きでリリースしていて。誰かが言っていたんですけど、映像がないものは世の中にないものと同義なんですって。彼らにとってはYouTubeや動画サイトにないもの=存在しないものになっちゃう。そういう時代背景を考えると、ついにサブスクでここまでサービスが行き届いたのも納得感があるし、感無量です。
ライブといえばdTV
dTVはJOYSOUNDさん提供のカラオケがあるのも面白いですよね。やっぱりライブを何周も観たら自分でも歌いたくなると思うんですけど、そこに対応しているのがすごい。僕も友達とUSB充電のマイクでよくカラオケしますけど、こういうふうに公式で用意されているのはいいですね。
──ちなみにヒャダインさんの十八番は?
もちろん「マツケンサンバⅡ」は絶対歌います(笑)。スナックで入れるとすごく盛り上がるんです。イントロは上様のお着替えの時間なので歌い始めまで1分半あるんですけど、その間僕はずっと踊りながら1分半焦らしに焦らしたあげく「♪叩けボーンゴ」って歌い始めたらみんなウワーッとなるんですよ。
──今後ますますタイトルも充実していくと思いますが、ヒャダインさんが個人的にご覧になりたい映像のリクエストがあればお聞かせください。
権利関係もあるから難しいと思うのですが、昔の歌番組をぜひお願いしたいですね。「夜のヒットスタジオ」や「ザ・ベストテン」、もっとさかのぼって「シャボン玉ホリデー」や「夢であいましょう」など、白黒時代のものも観てみたいなあ。この前、テレビで観たゴダイゴの70年代の映像がすごくカッコよかったんですけど、そういうものを今の子が観たら仰天すると思うんですよね。ぜひ歴史的な作業として、昔のアーカイブをデジタルで残してほしい。誰にも損はないと思うんですよ。権利者にお金も入るわけですし、当時を知らない世代も新しく観ることができるし。この先も残っていくわけですから、積極的にやっていただきたいなあ。その結果、“ライブといえばdTV”というふうになったら、すごく個性を持てると思います。とんでもなくマイナーな人でもいいので。スターボーのコンサート映像なんてあったら、めっちゃ観たい! たぶん僕と上坂すみれさんは常軌を逸した反応しますよ(笑)。上坂さんも80年代の音楽が大好きだから。
──ヒャダインさんと上坂さんがdTVで観たいアーティスト映像を語り合うオリジナル番組があったら面白そうですね。
めちゃくちゃ盛り上がると思いますよ。上坂さんと会うと、いつも林哲司とオメガトライブの話で盛り上がりますから。この間も2人でカルロス・トシキのドッキリ動画を観ながら、「カルロスかわいいー」となっていたので(笑)。ぜひ“昔のものソムリエ”として2人でリクエスト会議ができたらいいなあ。カルロス・トシキ&オメガトライブの映像って、ほとんど残ってないんですよね。歌番組の出演映像ぐらいで、MVもなくて。今調べたらdTVも「アクアマリンのままでいて」のカラオケ映像しかないですね。これもキーやテンポを変えられたらいいんですけど……いろいろ広がりますねえ!
──あはははは。
UI(ユーザーインターフェイス)面でいうと、公演の開催年とどの会場でやったかという情報を概要欄に書いてほしいですね。MAXの1997年の全国ツアー「J-POP GIG TOUR 1997」の映像も「やっと売れ始めた私たち!」という喜びにあふれた時期でたまらないんですけど、概要欄に「MAXが初めて行ったコンサートの模様を収録」だけしか書いてなくて。ここ、もっとがんばれますよ。トラックリストも書いていないものが多いので、トラック名を押すことでその曲の頭にジャンプできたらさらによくなると思います。アップデートしていただければ、ユーザーとしては非常にうれしい限りです。UI面、まだまだ伸びしろありますよ。1回会議に入りましょうか?(笑)
──ユーザー目線での貴重なご意見までいただいて、ありがとうございます。
とんでもないです。僕もこんなにライブを楽しめると思っていなかったので、これからもっとdTVを活用していきたいです。アーティスト側も「私たちのライブがここで観れますよ!」ってもっと発信したほうがいいと思います。
多様なライブ映像の楽しみ方
──ちなみにdTVはスマートフォン、パソコン、テレビなどで観ることができますが、ヒャダインさんオススメの見方は?
基本は家のテレビの大画面で観て、出かける時間になったらスマホに切り替えてタクシーや電車の中でそのまま続きを……という見方をよくします。スタジオに着いたらFire TV Stickを挿して続きを観る、みたいな。どこでもシームレスに観られるのもdTVならではですよね。ありがとう、5G(笑)。
──ヒャダインさんはサウナ好きとしても知られていますが、サウナの中でご覧になることは?
観たいんですけど、スマホに高温注意のアラートが出ちゃうんですよね。願わくばサウナの中にあるテレビをハックして……(笑)。
──(笑)。ちなみに年末年始はどのように過ごされますか?
コロナ以前はいつも海外に行っていたんですけど、今はなかなか行けないので、テレビで「紅白歌合戦」を観て、dTVのライブ映像を楽しみながら、のんびり過ごそうかなと思っています。友達を呼んでdTVのライブ映像をBGVとして流すのはありだなと今回真面目に思いました。VJとしては1回スマホで曲の頭出しをしておいて、テレビにつないで観てもらうやり方もいいんじゃないかな、とかね。とりあえずこの記事を読まれた方は試しにMAXのライブをご覧になってみてください。いいもんですよ、MAX。楽しい気持ちになりますから。
- ヒャダイン
- 1980年、大阪生まれの音楽クリエイター。本名は前山田健一。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身に付ける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへヒャダイン名義でアップした楽曲が話題になる。一方、本名での作家活動で提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得するなどの実績を残し、2010年にヒャダイン=前山田健一であることを公表。アイドルソングやJ-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動する。2021年9月には、サウナへの熱い思いを綴った「ヒャダインによるサウナの記録2018-2021—良い施設に白髪は宿る—」を発売した。