ナタリー PowerPush - Dragon Ash
純度100%ミクスチャーロック! ニューアルバムが浮き彫りにするバンドの核心
Dragon Ashにとって、1年9カ月ぶり9枚目となるニューアルバム「MIXTURE」が完成した。そのタイトルが雄弁に物語っているように、サウンドも、メロディも、メッセージも「Dragon Ash流ミクスチャーロックとは何か?」という問いに決定的な答えを打ち出すものとなっている。
前作「FREEDOM」までの3枚でラテンミュージックに接近、体得し、昇華してみせた彼ら。そんな近作を経て、バンドは今なぜこのタイミングで再びゴリゴリでラウドなロックサウンドに向かい、シーンをアジテートするのか。メンバー全員へのインタビューで「Dragon AshがDragon Ashたりえる理由」に迫った。
取材・文/三宅正一
今の7人だからこそ表現できた音
──「MIXTURE」=Dragon Ashというバンドそのものがコンセプトになったようなアルバムだと思います。「ミクスチャーロックとは何か?」という問いへの答えとして、Dragon Ashにしか表現できないサウンド、メロディ、メッセージが鳴らされていて。まずはみなさんの率直な実感から聞かせてください。
桜井誠(Dr) 現段階では、一昨日録りが終わったばかりで(取材は10月中旬に実施)、まだトラックダウンもマスタリングも終わっていない状態ではあるんですけど。録りが終わったあとにメンバー、スタッフみんなで初めて「INTRO」から最後の「ROCK BAND」まで聴きまして。だいたい制作には2年弱くらいかけてきて、1曲単位ではしっかりみんなで消化してきているんですけど、「MIXTURE」という1枚のアルバムになったという実感はそのときに覚えましたね。いい作品ができたという感触はバッチリありますけど、それをさらに自分らのものにして、表現するライブの場が待っているので。ライブを経験して初めて本質的な実感が得られるんじゃないかと思います。
BOTS(DJ) 今までリリースしてきたアルバム以上に、これまで培ってきた音や経験が身になっていると思うし、今のDragon Ashだからこそ作れたアルバムだと思いますね。
DRI-V(Dancer) ドストレートにカッコいいと思えるアルバムができましたね。今の7人だからこそ表現できた音だと思います。
IKUZONE(B) 10何年前は、それが誰に何と言われようと、あれもやりたい、これもやりたい、こういうアレンジも取り入れたいって曲を作っていて。それが、今になってあの頃のようにもう1回自分たちの音楽を突き詰めていったら「MIXTURE」だった、そういうアルバムですね。
Kj(Vo,G) まず、貪欲になんでも食べて、吐き出してという季節があったよね。それから、ある程度ミクスチャーという音楽がレールに乗って、ジャンル化したときからは、ほかのバンドと同じフォーマットになるのは嫌だから、いかにそれを崩して、かつ遊びを入れられるかという作業をやってきて。前作を含めて過去3枚はそうやって作ってきたんだけど。
──その結果として、ラテンの要素が強く押し出された。
Kj そう。その遊びがあったからこそ、今また直球を投げる気になったんだよね。
──ラテンのアプローチは、改めてここにたどり着くために必要だった?
Kj うん。あの3枚で培ったものもこのアルバムに十二分に落とし込めているしね。今までの経験が全部あって初めて成立しているアルバムだと思うから。遊びを通して、こうしてまたかなりピュアなラウドロックを鳴らすのはすごく意味のあることだと思っていて。時代性を踏まえても、こういう作品は少ないと思うし。これを聴いて、男子はやっぱりラウドなものがいいなと思ってもらえれば最高だしね。まぁ、そういうこと以前に、純粋に今俺たちがホントにカッコいいと思ってる音を高らかに鳴らしているアルバムですね。
ATSUSHI(Dancer) 確かにアグレッシブでメッセージ性の強いアルバムだなと思います。取材を重ねて、ライターさんやそのほかのみなさんのいろんな意見を聞いたりしている中で、改めて手応えを感じています。このアルバムをライブでどう表現していくか、今からすごく楽しみです。
HIROKI(G) こんな歳になってもこういう音楽を鳴らすと俺は震えてしまうんだなって思いました。それが良いっすね。
「SLASH」誕生がアルバムの方向性を決めた
──前作「FREEDOM」は、1カ月に1曲レコーディングするという制作方法で作られた作品でしたが、それは今作も貫かれたんですか?
Kj そうですね。去年の3月に「FREEDOM」をリリースして、このアルバムに向かうレコーディングを4月から始めたという感じです。
──このラウドなロックの方向性を牽引するような1曲はあったんですか?
Kj それはね、「SLASH」かな。
──この曲は、まさにDragon Ashのスタンダードなミクスチャーロックという感じですよね。どんな流れで生まれた曲なんですか?
桜井 できたのは去年の6月だったかな?
Kj ああ。それくらいの時期にひさびさに、いわゆるラップメタルというか、一種のミクスチャーの原型をバンドに持っていったら、反応が良かったんだよね。演奏もしっくりきて。そこから立て続けにラウドな曲を何曲か持っていって、だんだん方向性が定まっていって。で、それから「INTRO」のトラックを俺が作って、BOTSくんに「このトラックにはスキットみたいな声は入れないから、スクラッチだけでストーリーを作ってくれ」ってお願いして。そしたらBOTSくんがミクスチャーロックのライブに対する讃歌のような仕上がりにしてくれたので。それを聴いて、みんなで「タイトルも『MIXTURE』でいいんじゃない?」って潔く決まったんだよね。
──「SLASH」を持っていったときには、そこまでの流れを予見できていたわけではないんですよね?
Kj うん。ラウドなアルバムにしようという意識もなかった。
──では、ほかの皆さんに訊いていきたいんですけど、桜井さんはKjが「SLASH」を持ってきたときにどんなことを感じましたか?
桜井 すごくストレートなラウドロックで、「ああ、ひさびさにこういう曲も良いな」と思いましたね。特にここ数年でラテンの要素のような、メンバー各々のプレイにおける武器も増えていると思うし。ここで改めてスタンダードなミクスチャーロックというものと向き合ったらどうなるのかというワクワク感がありましたね。
──スタンダードなミクスチャーロックと向き合うとしても、例えばティンバレスの音を何の違和感もなく存在させるのが今のDragon Ashなんですよね。
桜井 うん、そうなんですよ。普通だったら、絶対ああいう音は入らないのに、Dragon Ashならごく自然に混ぜられるというか。このポイントだったら、ティンバレスを入れても浮かないだろう、むしろサウンドのハードな色を強めてくれるだろうと確信を持って鳴らすことができる。それができるのは、今までの経験があったからで。
今回はあえてバランスを取ろうとしなかった
──IKUZONEさんは「SLASH」以降、ラウドな方向に流れていったことをどう思いましたか?
IKUZONE 正直、ちょっと意外だったかな(笑)。いつもは、なんとなくある程度までできた曲を並べて、曲順を考えるのね。それで「ここにこういう曲を入れようか」って穴埋めをしていくんだけど。
Kj バランスを取る作業をするよね。
IKUZONE そう。でも、今回はそれがなくて。気付いたら全体的にゴリってんじゃん!? っていう(一同笑)。
Kj そう、だったら押し切ろうってなったんだよね。
IKUZONE 初めてだったかも。あとから気付いて「ん?」ってなったのは(笑)。
──プレイヤーとしてはどうでしたか?
IKUZONE 楽しかったですよ。この歳でこんな速いリフ弾くとは思わなかったというのはあるけど(笑)。「なかなか手強いっすね、先輩」みたいな。
──HIROKIさんはどうですか?
HIROKI 単純に楽しいというのと、今回はライブで再現するときにKjと2人で成立するようにしようという話をずっとしていて。
──シーケンサーあえて使わず人力でっていう。
HIROKI そうですね。その上で結構俺が苦手なことがKjは得意なんだってわかって(笑)。「これ弾いて」って言われると、弾けそうで弾けなかったフレーズがあったりとか。そういうことも勉強になったし、楽しかったですね。
Dragon Ash(どらごんあっしゅ)
Kj、桜井誠、IKUZONEの3人で結成されたミクスチャーロックバンド。現在はBOTS、HIROKI、DRI-V、ATSUSHIを含む7人編成。1997年2月にミニアルバム「The day dragged on」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表したシングル「Let yourself go, Let myself go」が大ヒットを記録し、一躍有名に。2002年にはシングル「Fantasista」がサッカーワールドカップのFIFA公式テーマソングのひとつに抜擢された。その後もオルタナティブロックやヒップホップ、ラテンなどさまざまなジャンルを取り入れたミクスチャーサウンドで、独自の活動を続けている。 2007年にはデビュー10周年を記念するベストアルバム「The Best of Dragon Ash with Changes Vol.1」「同 Vol.2」を2枚同時リリース。現在も常に新しい音楽を追求し続ける姿勢が、多くのリスナーに支持されている。またKjをはじめとするメンバーは、それぞれソロやユニットとして多方面で活動中。