音楽ナタリー Power Push - 堂島孝平

やたらと楽しい会心作!20周年のミュージシャンズ・ハイ

自分が長く音楽をやるために必要な作品を

──シンガーソングライターとしてのエゴというか、俺の歌を聴いてくれ的な部分が、今作からは極端に抜け落ちていると感じたんですよね。それは今の話を聞いてなんとなくわかった気がします。

エゴがないというよりも、たぶん「これについて歌う」というアイデアを思いついた時点で最高というのがあるんですよ。例えば「PERFECT LOVE」だと「老後、記憶が薄れていく人のラブソング」はまだ誰も歌ってないんじゃないか?って思いついて、その時点でギンギンになってるんですよ(笑)。そのあとは「こんな歌があったんだ!」と発見した人はめちゃめちゃ喜ぶぞ、という気持ちが最も強いから、アイデアを一番いい形で歌にすることしか考えてないというか。

──客観的な表現というわけではないんですよね。

堂島孝平

自分のことを表現するのって、昔は探すことだと思ってたんですよ。「自分探し」をして自己対峙することだと思ってたんですけど、いつの頃かそうじゃないなと気が付いて。自分が何かに対してどう反応するか、その反応こそが自分なんだと。でも今はまた少し違っていて。自分の証明の仕方として「これがなくなったら困る」という、それだけを書いてるんです。「これがなくなっちゃったら俺じゃないんですよ」ということだけ歌ってるから、自然と愛や幸せについての歌になるけど、もしかしたらそれは人とあまり変わりないありきたりな題材かもしれない。でもそれをどう表現するかは自分なりの角度、自分なりのアイデアでやっているつもりなので、細かいことはどうでもよくなってるし……たぶんこのアルバムは1曲目から9曲目まで、ほとんど同じことを歌ってるんですよ。エゴが薄まっていると感じるとしたら、そういうことだと思いますね。

──なるほど。そのアイデアを1つひとつ形にしていく作業は、これまでの作品と比べてスムーズでしたか? それとも難航した?

時間的な部分で大変なところはあったけど、煮詰まったりすることはなかったです。産みの苦しみはもちろんあるとして……漠然としたイメージを形にするときに、やっぱり自分自身で納得いかないとモチベーションが続かないという難しさがありますけど、そういう意味では今回は賭けに勝ったという感じがしますね。1曲ずつ完成させながら「ハイきた!」という実感が積み重なって。一番苦労したのは「PERFECT LOVE」ですね。アイデアはハッキリとあるのに、自分が思い描いているロマンを表現するにはメロの文字数が足りなくて。

──具体的にはどのように?

この曲は「年老いて記憶があやふやになったとき、自分や君のことがわからなくなったら、そのときはもう一度別人になって君を愛したいんだ、って先に言っておくね」という歌なんですけど、いきなりそれを言われても、初めて耳にする人には伝わりにくいんですよ。徐々に老後感を出してうまく着地させる。それをこのサイズに収めるのにずいぶん苦労しました。聴き手の時間軸と歌いたいことの深みのバランス、説得力というか。

──単に長くして説明を加えるという問題ではないんですね。

言葉の切れ味の鋭いものは、なぜその歌を作っているのかというバックボーンがしっかりしてないと、すごく薄っぺらい歌になっちゃうと思うんですよ。1つでもわかりづらいところがあるといけないんじゃないか、逆にわかりやすすぎると1回パッと聴いて「なんだこんな歌か」とせっかくの爆発力を失うんじゃないかっていう。

──その精度にこだわるのはなぜですか?

自分が長く音楽をやるために必要な作品を作っているんだと思う。無意識的な意識で。それは今回のアルバムに限らず……15周年のときに作った「VIVAP」(2010年7月発売の12thアルバム)あたりからかな、自分がおっさんになっても歌っていける歌を作ろうという意識に変わってきたんですよね。シンガーソングライターである以上、自分の生き方が歌にともなって見られるだろうと。自分がそういう意図で書いた歌ではなくてもそう見られるから、自分がどういう人間か、人として何を思うかみたいなところで胸を張れる作品じゃないと、そのズレにゆくゆく苦しむことになるだろうなって。「VERY YES」はその延長で作り上げたアルバムの最高傑作になったかなと思います。

「VERY YES」は言うなれば自分のモットー

──こうして1枚のアルバムとして完成させた今、手応えはどうですか? 先ほど「最高傑作になった」という言葉もありましたが。

いやあ、なんか楽しいアルバムになったなあって(笑)。限られた時間の中でできる最高のものができたと思います。「堂島って今もうミュージシャンズ・ハイだよね」って言葉をもらって、それをキャッチコピーにもしたんですけど。「俺、今これしかないな」と思うもの、売れようが売れまいが自分自身を更新できるものを作り続けてきた中で、いろいろなことがあって。20年作り続けてたどり着いたアルバムで、めっちゃ楽しいことしか思いつかなかったってことが、なんか最高だなって。

──20周年を迎えたところでの結論が「VERY YES」っていう。これ、すごいタイトルですよね。

キてますよね(笑)。

──奇をてらった感じのキてる感じゃないのがまたすごいんですよね(笑)。

堂島孝平

アホだなあって自分でも思ってるし、でも真剣に「やっぱVERY YESだよなあ」とも思ってるんですよ。最初は「DJKH」ってタイトルにしようという案があって、そのあと「DJKH SHOW」に変わったりしてる中で「VERY YESってめっちゃヤバくないか?」って話になったんです。ポジティブに行きたいと歌っているアルバムでもないんだけど、「とりあえず受け入れるしかないっしょ」みたいな。最近「それな」って言うじゃない? そういう感覚。それを「VERY YES」と言い切るのと、仕事でも基本的にノーから入ることって全然ないんですよね。イエスから入って楽しくやろうってやってきてるから、言うなれば自分のモットーがこれなのかなあって。

──なるほど。

パーンと突き抜けた言い方にはなってますけど、「ハードコアポップ」(2012年発売のベストアルバム「BEST OF HARD CORE POP!」のキャッチフレーズ)や「A Crazy Ensemble」(アルバムおよびバンド名「A.C.E.」の正式表記)も、意味合いは同じものなんですよ。

柄オン柄からワントーンへ?

──突き抜けた方向に向かっていたここ最近のムードが、今作でさらに明快になった感じはありますね。すっかり定着した柄オン柄の衣装にも同じ突き抜けっぷりを感じますけど。

柄オン柄ね(笑)。これはね、周りの西寺郷太(NONA REEVES)くんとか池ちゃん(池田貴文 / レキシ)みたいな、一度見たら忘れないぐらいの個性を持っている人に比べたら自分は薄いなあと思って着始めたんですよ。「A.C.E.」あたりから自分のことをキャラクターとして見ているというか、クリエイターとしての顔と演者としての顔を切り離して考える分裂症気味なことをやり始めたあたりからですね。大人っぽくなりたいと思ってこうなったんですよ、最初は。大人のおしゃれとして総柄を着こなすようにしてたんですけど……最近気付いたんですよ。子供ってけっこう総柄着てんなって(笑)。

──あはははは(笑)。確かに。

なんなんだろうな、だんだん子供みたいになってるところはあるかもしれないですね。ディレクターにもたまに言われるんですよ。「堂島さん、どんどん子供みたいになってますよ」って。こないだ北欧行って、やっぱ大人はワントーンだなって思い始めていて(笑)。

──めちゃめちゃ今さらなこと言いますね(笑)。今後急にワントーンになる可能性も?

あるある。たぶん人として考えていることやアイデアに爆発力があれば、結局はなんでもいいんだと思うんですよ。俺という人間自身が総柄みたいなことになってくれば(笑)、服がワントーンになっていく可能性はあります。

ニューアルバム「VERY YES」 / 2015年12月16日発売 / IMPERIAL RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / TECI-1473
初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / TECI-1473
通常盤 [CD] 3240円 / TECI-1474
CD収録曲
  1. PERFECT LOVE
  2. わがみ
  3. ワンダーサレンダー
  4. 免許を取ったら
  5. アルコール&レスポンス
  6. H.A.P.P.Y
  7. MR. RAINY MAN
  8. きみのため
初回限定盤DVD収録内容

「堂島孝平 活動20周年記念公演 オールスター大感謝祭!」ダイジェスト

  1. いとしの第三惑星
  2. 葛飾ラプソディー
  3. 6AM
  4. Remember
  5. メロディアス
  6. Selfish Girl
  7. 25の瞳
  8. スマイリー、月へ行く
  9. SHORT CUTTER!
  10. So She, So I
  11. 妹子なぅ
  12. スマイリンブギ
  13. 旅人のうた
  14. き、ぜ、つ、し、ちゃ、う
  15. サンキューミュージック
  16. LUCKY SAD
  17. 俺は、ゆく
DJKH×A.C.E. TOUR 2016「君が、来る」
2016年1月9日(土)大阪府 Music Club JANUS
2016年1月15日(金)北海道 札幌KRAPS HALL
2016年1月23日(土)愛知県 ell.FITS ALL
2016年2月7日(日)宮城県 HooK SENDAI
2016年2月10日(水)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
2016年2月12日(金)福岡県 DRUM SON
2016年2月21日(日)東京都 LIQUIDROOM
堂島孝平(ドウジマコウヘイ)

堂島孝平

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。デビュー20周年を迎えた2015年2月には、東京・中野サンプラザホールにて記念公演「堂島孝平 活動20周年記念公演 オールスター大感謝祭!」を開催。ゆかりのゲストを多数招いて華々しく行われた。同年12月には通算17枚目となるオリジナルアルバム「VERY YES」をリリース。