音楽ナタリー Power Push - 堂島孝平
やたらと楽しい会心作!20周年のミュージシャンズ・ハイ
1995年2月、シングル「俺はどこへ行く」でのデビューから20年。堂島孝平は今年、東京・中野サンプラザホールでの記念公演「堂島孝平 活動20周年記念公演 オールスター大感謝祭!」を皮切りに全国でライブを行い、各地のファンに歌声と感謝の思いを届けてきた。そんなアニバーサリーイヤーの最中に届けられた17枚目のアルバム「VERY YES」は、かつてないほど幸せな空気に満ちた楽曲が並んでいる。時には頑固なまでに自己流のポップを追究し続けてきた彼が、どのような思いを持ってこのハッピーな作品を作り上げたのか、じっくりと話を聞いた。
取材・文・撮影 / 臼杵成晃
デビュー20周年を迎えて
──今年はまず2月に中野サンプラザホールでデビュー20周年記念ライブがあって(参照:堂島孝平、20周年記念公演は計5時間!憧れの佐野元春も祝福)。堂島さんはこのステージ上で「サンプラザはアニバーサリーイヤーの幕開けだった」と宣言して、長期にわたるツアーや今作のレコーディングなど精力的に活動していましたが、ご自身で振り返るとこの1年はいかがでしたか?
20周年にあわせた活動で、今までになくリターンを感じることが多かったんですよ。今まで作ってきたいろんな曲をいろんな街に行って歌っていると、すごく喜んでくれる人が多くて。こういうふうに言うとドライだなって自分でも思いますけど、僕はずっとそのときどきで自分にとってのロマンを落とし込むようにアルバムを作っていて、それが他人にとってどうなのかはあまり気にせずやってきたんです。
──自分に正直な作品を届けることを優先していたというか。
はい。それがこう、20周年のタイミングでツアーを回ってお客さんの顔を見ていると、変な言い方ですけど「ちゃんと聴かれてたんだなあ」って(笑)。情熱のみでやってきたようなものなので、改めて自分が作った音楽で楽しんでもらえてるんだと実感したら、なんかうれしかったですね。そうやってお客さんの気持ちを感じながらライブをやってると、やっぱり身の引き締まる思いがあって。次の1曲を、その日のライブをよくすることだけしか考えてなかったから20年続いたってことだと思うんですよ。今後も堂島孝平の音楽を楽しんでもらうためには、「みんなの分までがんばるぞ」「期待に応えるぞ」と考えるよりも、自分を常にアップデートさせていかなきゃなって。
──それって20周年のタイミングでお客さんの反応が変わったわけではなく、堂島さん自身の心境に変化があったからそう感じられたということですよね、きっと。
そうかもしれないですね。ライブは音楽をやっているというよりも、人間として楽しく生きたいみたいな。そういう感覚でパフォーマンスをして、お客さんにもそういう思いで楽しんでもらえたらなと思うんですよね。30歳を超えたあたりからその気持ちが強くなって、それが20周年のタイミングで爆発してるんじゃないかな。どういう気持ちの変化なのか、うまく自己分析はできないですけど。
──年齢的な変化もあるでしょうし、「20周年」という重みのある数字が無意識にも作用しているんじゃないでしょうか。
自分ではそんなに20周年を大きなものとは捉えてなかったんですけど、お客さんとか周りの方とか、あまりにも「おめでとう」って言ってもらえるものだから、自分もそれに呼応して「ああ、やっててよかったなあ」って実感するみたいな。そんなふうに思うなんて20周年を迎えるまでは想像もしてなかったです。特に節目感もなく普通のモードでやっていくつもりだったので。
ついにハッピーなアルバムを作るときが来た
──堂島さんの作品はすごく洗練されたポップスだけど、自分にとってのロマンを遵守するためのトゲというか、意固地にポップな作品を作り続ける姿勢に攻撃的なものを感じてたんですね。ここ数年の作品は特に。ところが今作ではそういう種類のトゲが見当たらなくて。
そうなっちゃいましたね。この何年かはソリッドなものをいかに自分なりのポップミュージックとして提示できるかを第一に考えていて。「A.C.E.」(2012年3月発売)と「A.C.E.2」(2013年1月発売)はまさにそういう作品で、「フィクション」(2014年3月発売)からちょっと様子が変わってきたと思うんですけど、この3枚は楽器編成もシンプルなエッジの効いたサウンドで、瑞々しくあることをポップとする、という姿勢でやってきたんです。
──そうですね。
それで、きっとその方向はやりきったんじゃないかなと。今回は「さあどんなアルバムを作ろうか」と考えたときに、なんというか……楽しいことしか思いつかなかったんですよ。前までだったら、やっぱりどこかにシャープなもの、エッジの効いたものを入れたいと考えてたと思うんですが、最初からいびつなものを狙って作るような攻撃的な精神はなくて。そういう作品が面白いとは今でも思ってるんですけど、今回はなんか病気みたいに楽しいことしか思いつかなくて(笑)。
──確かに病的に楽しいアルバムですよね(笑)。
堂島孝平の印象って、きっとニコニコしてたり明るかったり、陰と陽で言うと完全に“陽”の印象を持たれてると思うんですけど、よく考えたら俺、陽なアルバムをほとんど作ったことがないんですよ。でもライブではシリアスな曲をやっても、結局は気持ちがアガる陽な後味が残るんですよね。そこに気が付いたらちょっと面白くなってきて(笑)。「俺、ついにハッピーなアルバムを作るときが来たぞ」っていう(笑)。そこに燃えたっつうのはありますね。
──完全に陽側の人だし曲自体は極めてポップなんだけど、アルバムごとの印象を考えるとなぜかどれもヒリヒリしているというか。
そうなんですよね。そうは言っても「A.C.E.」あたりからいろんな遊び方ができるようになって。例えば「あのコ猫かいな」だと、女の子とHできるかもと話に付き合ってたけど家まで送って帰される夜中3時の歌みたいな、人間味だけを歌にしたり。かと思えば「センタッキ!」みたいなただ洗濯機を回すだけの歌とか、そのへんから自分の中で何かが始まってるんですよね。ユーモアをちゃんと曲に落とし込めるようになった。20周年のタイミングで改めて「堂島孝平とはなんぞや」と考えたとき、ライブで感じられる多幸感や能天気な感じが作品に結びついたんですよね。恐らく。
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- ニューアルバム「VERY YES」 / 2015年12月16日発売 / IMPERIAL RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / TECI-1473
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / TECI-1473
- 通常盤 [CD] 3240円 / TECI-1474
CD収録曲
- PERFECT LOVE
- わがみ
- ワンダーサレンダー
- 免許を取ったら
- アルコール&レスポンス
- H.A.P.P.Y
- MR. RAINY MAN
- きみのため
初回限定盤DVD収録内容
「堂島孝平 活動20周年記念公演 オールスター大感謝祭!」ダイジェスト
- いとしの第三惑星
- 葛飾ラプソディー
- 6AM
- Remember
- メロディアス
- Selfish Girl
- 25の瞳
- スマイリー、月へ行く
- SHORT CUTTER!
- So She, So I
- 妹子なぅ
- スマイリンブギ
- 旅人のうた
- き、ぜ、つ、し、ちゃ、う
- サンキューミュージック
- LUCKY SAD
- 俺は、ゆく
- DJKH×A.C.E. TOUR 2016「君が、来る」
- 2016年1月9日(土)大阪府 Music Club JANUS
- 2016年1月15日(金)北海道 札幌KRAPS HALL
- 2016年1月23日(土)愛知県 ell.FITS ALL
- 2016年2月7日(日)宮城県 HooK SENDAI
- 2016年2月10日(水)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
- 2016年2月12日(金)福岡県 DRUM SON
- 2016年2月21日(日)東京都 LIQUIDROOM
堂島孝平(ドウジマコウヘイ)
1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。デビュー20周年を迎えた2015年2月には、東京・中野サンプラザホールにて記念公演「堂島孝平 活動20周年記念公演 オールスター大感謝祭!」を開催。ゆかりのゲストを多数招いて華々しく行われた。同年12月には通算17枚目となるオリジナルアルバム「VERY YES」をリリース。