DEZERTがニューアルバム「black hole」をリリースした。
2019年は両A面シングル「血液がない! / Call of Rescue」のリリースや初のホールツアーの開催に加え、多くの対バンイベントやライブサーキットに出演するなど、充実した活動を展開してきた彼ら。新作「black hole」はサウンド、歌詞の両面で現在のバンドのモードがリアルに表現された生々しい作品となった。
音楽ナタリーでは、千秋(Vo)に単独インタビューを実施。アルバム「black hole」の制作プロセスを中心に、「メンバー全員のフォーカスが合ってきた」というバンドの現状について話を聞いた。
取材・文 / 森朋之
4人でやってるんだから、それでよくない?
──まず、2019年はバンドとして初めてこの両A面シングル「血液がない! / Call of Rescue」をリリースしたり、初のホールツアーを開催したりと動きのある1年だったと思いますが、千秋さんはどう捉えていますか?
外からはどう見えるかわからないですけど、俺的にはそこまで動いてないんですよ。これまでのバンド人生の中でライブは一番少なかったし。リリースに関してもCDはグッズみたいなものだと思っていて。普段からサブスクやYouTubeで音楽を聴くし、CDをリリースすることにそこまで重みを感じてないんですよね。それよりも「なんのために生きてるか?」という謎の哲学があるじゃないですか。
──ええ。
今年はそういう迷いが吹っ切れたし、「なんでバンドをやってるか」「なんで化粧しているか」「なんで音源を出すのか」……そういった疑問に決着が付いた感じがあるんですよ。
──バンド活動に対する迷いがなくなった?
そうですね。俺の場合は歌の捉え方なんですけど、小さい頃から歌がうまかったわけでも特に好きだったわけでもないから、「なんで自分がボーカルをやってるんだろう?」と思ってた時期もあったんです。でも始めちゃったんだから行けるところまで行くしかないなと。死ぬまで正解はわからないと思うけど。あとはリスナーに共感を求めなくなったことが大きいかな。
──共感を求めない、というと?
以前は共感が欲しかったんです。自分の言うことや考え方に賛同してほしいと思っていたし、それをいろんな言い回しで歌っていて。でも、あるときから「果たして共感って必要なのか?」と思うようになったんですよね。ライブはいいんですよ。自然に共感しちゃうものだから。でも、音源に関しては「わかってほしい」みたいな気持ちはいらないなと。そういう考えは前回のアルバム(「TODAY」)からありましたね。共感から解き放たれた、と言うとカッコよすぎるかもしれないけど。
──そのテーマはニューアルバム「black hole」にもつながってる?
そうですね。自分の中では「TODAY」と「black hole」は2部作だと思ってるので。それと「千秋が歌ってること、よくわかる」という人はそれでいいし、ありがたいんだけど、それが一番大事なことではないんですよね。ライブに来てくれる人だけじゃなくて、全然顔を知らない不特定多数の人に伝えるのが音楽であって、共感してもらえるかはどちらでもいいというか。まずはパッと聴いて、なんとなく「いいね」と思ってもらえればいい。
──まずは伝えることが大事だと。
はい。なので「TODAY」のときから、何事も丁寧にやろうと思って。例えば文字にしても、殴り書きだったら何を書いているかわかってもらえないかもしれない。かと言って自分はキレイな字を書くのも無理だから、まずは丁寧に書こうと。ボーカルのことでいうと、日本語が伝わるように歌うということですね。
──なるほど。「black hole」を聴いて最初に感じたのは、「メンバーの息遣いが感じられる音だな」ということだったんです。ギター、ドラム、ベース、歌がしっかり聞こえてきて、生々しい臨場感もある。
本来、バンドってそういうものですからね。今、打ち込みのサウンドが流行ってますけど、俺らがグッとくるのはバンドのグルーヴだったりするんです。「俺らは俺らなりのグルーヴを探そう」という話もしてたし、ドラムもほぼエディットなしで生音に近いんです。「人前で叩いてるときはリズムがヨレるんだから、そのままでいこう」と。そっちのほうがカッコいいと思うので。
──それが4人でバンドをやって、音を出している意味ですからね。
まあ、4人でやってる意味とかどうでもいいんですけどね。「4人でやってるんだから、それでよくない?」という感じです。
思いは全部歌詞にして言えばいい
──アルバム「black hole」の起点になった曲はどれですか?
最後の曲(「I'm sorry」)ですね。自分の日記みたいな感じの曲で、「こういう感情になることもある」ということをそのまま歌っているというか。
──“望んだ何か”を頼りに生きていても、虚しさに耐えられない夜もあるということが歌われています。
「俺はこんなに弱いんだよ」と言いたいわけではないんですけどね(笑)。ただ、曲ができたときに自分で「いい曲じゃね?」と思ったんです。何かいいことを歌ったり、曲に自分のエゴを詰め込むことも大事かもしれないけど、「I‘m sorry」に関しては、このままでいいんじゃないかなと。あと、「I'm sorry」と「True Man」の歌詞の内容は、前回のツアーのMCで言っていたことでもあるんです。
──「True Man」には「愛して 醜さを / 愛して 自分自身を」というフレーズがありますね。
「そんなのキレイごとでしょ」と思われるかもしれないけど、俺としては「本気で思っていることを言って何が悪い」という感じなんですよね。アルバムの最後の2曲(「True Man」「I'm sorry」)が作れたことで、その後の制作にもまったく迷いがなかったし、「早く出したい」と言ってました。
──最後の2曲がアルバムの核になっているんですね。そのほかの曲についても聞きたいのですが、1曲目の「Dark In Black Hole」は「生まれてしまったことがもう間違いだ」で始まるという……。
「そんなこと言われても」って思いますよね(笑)。
──こういう自己否定の感覚も千秋さんの中にはあるんですよね?
ほとんどの人があるんじゃないですかね。自分は虐待を受けたわけでもないし、すごく貧乏だったわけでもないけど、自分を否定してしまう感覚はある。俺は毎日仕事をしているわけではないから、ライブがないときはずっと考えちゃうんですよ。そういう自分がめんどくさいって思うけど、それも全部歌詞にして言えばいいんじゃないかなと。その中には「True Man」で書いた「生きてる限り失敗じゃないから」という思いもあれば、一方で「生まれてきてしまったことがもう間違いだ」もあるんだけど。
──「歌ってる内容が全然違う!」と言われそうですね。
そんなのは関係ないです(笑)。別に聴いた人に「わかってもらいたい」と思ってるわけでもないし。なんて言うか、俺が歌詞で表現したいことは真実と本音の間にあるんですよね。真実でも本音でもないんだけど、嘘じゃない……だから面白いんですよ。真実なんて歌ったらそこで終わりですから。言っちゃえば、「どんなに悩んでてもみんな死ぬ」ということでしょ? 真実は。それは言っちゃダメなんです。
──千秋さんの歌詞、すごくいいと思いますけどね。偽悪でも偽善でもなくて、まさに嘘がない歌詞だなと。
これは俺の考えなんですけど、いいことはいろんな人が言ってるんです。いい歌詞はたくさんあるし、昔から大体同じことを歌ってる気がする。違うのは表現ですよね。誰が歌うか、どう歌うかというか。俺、BUMP OF CHICKENが昔から好きなんですけど、藤原基央さんがあの声で歌うから歌詞が伝わるんですよね。たぶん、本人は「伝えよう」なんて思ってない気がするけど。
──なるほど。
もっと言うと、感情を込めるかどうかも関係なくて。歌詞を書いて、曲が生まれた時点でその曲の中に感情は入ってるんだかから、歌うときは込めなくてもいいんですよ。それよりも込めているように見せることが大事というか……こんなこと言うとまた誤解を招きそうだけど(笑)。だから最近は歌詞を頭の中でローマ字に変換して歌ってるんです。そうしたほうが伝わると思うので。でも、まだまだ下手だし、成長過程ですけどね。
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もしかしたら天才なのかも(笑)