昨年末にバンドにとって1つの目標であった日本武道館単独公演を終え、“新章”へと突入したDEZERT。彼らの新作となるミニアルバム「yourself: ATTITUDE」が6月11日にリリースされた。
本作には、めまぐるしい展開で聴き手を翻弄するリード曲「『変身』」を筆頭に、1分以上におよぶ壮大なイントロが特徴のミディアムチューン「真宵のメロディー」、千秋(Vo)の心情を吐露した「明日暗い月が出たなら」などDEZERTのさまざまな側面が味わえる5曲を収録。どの曲も鮮烈な印象を残す、聴き応えのある1枚に仕上がった。
「yourself: ATTITUDE」リリース後には、結成14年目にして初の47都道府県ツアーへと乗り出すDEZERT。約1年半ぶりのメンバー全員そろっての取材となった今回のインタビューでは、武道館ライブというエポックメイキングなイベントを終えての感想、「yourself: ATTITUDE」を制作した意味、来る47都道府県ツアーに向けての思いを聞いた。
取材・文 / 森朋之
武道館を終え感じた焦り「次どうしようか」
──まずは昨年12月27日に行われた初の日本武道館ワンマンライブ(「DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN『君の心臓を触る』」)について聞かせてください。約半年が過ぎましたが、皆さんにとってはどんなライブでしたか?
千秋(Vo) (メンバーに向かって)言葉にするのは難しいよね? いろんな側面がありすぎたし、バンドにとっての武道館、個人にとっての武道館も違うだろうなと。ただ、武道館ライブはリスタートだったんですよ。リスタートって僕はすごく嫌いな言葉で、絶対言いたくないんですけど、それ以外の言葉が見当たらない(笑)。そこはたぶんメンバー全員同じ気持ちじゃないかな。「やった!」みたいな達成感はなくて、ホッとした部分はありつつも、次への焦りがある。O-EASTでも渋公(LINE CUBE SHIBUYA)でも、初めてワンマンをやったときもそうだったんだけど、武道館が終わったあとも「次どうしようか」と。
──武道館を成功させたからこそ、次が大事だと。
千秋 そういうことが感じられた意味でもいい経験でしたね。やってよかったし、そのおかげで「よーし」って肩をブンブン回すような感じになれたので。
Miyako(G) 武道館公演が決まったのはけっこう前で、そのときは不安もあったし、「ここから武道館を目指してやっていこう」という前向きな気持ちもあって。終わったときにまず思ったのは「やってよかった」ということ。自分の足りない部分も見えたし、バンドとしても「ここから進んでいけるんじゃないか」と思えたので。千秋くんはリスタートという言葉を使ったけど、「自分もバンドも見直して進んでいきたい」というポジティブな気持ちになれましたね。
SORA(Dr) 自分もいろんな思いがありますけど、まずは「ありがとう」という気持ちになりました。個人的にはすごくいいドラムを叩けたし、ライブもよかったと思っていて。武道館でライブをすることは中学生の頃からの夢だったし、ライブが終わったときに誇らしい気分で楽屋に戻りました。でも、全然燃え尽きてなかったし、千秋もすぐに「あそこがこうだった」とか反省会みたいなことを始めて(笑)。その時点で「大成功だな」と思ったんですよね。あと、武道館に向かうまでのストーリーもあるじゃないですか。「V系って知ってる?」(参照:2022年12月27日に日本武道館で行われたイベント「V系って知ってる? powered by MAVERICK DC GROUP」)から始まって、メンバー、スタッフと一緒に「どうやって武道館に向かうか?」をずっと考えてたんですよ。いいライブをやらないとファンにも先輩たちにも申し訳ないと思っていたし、「いいライブになるのは確実だ」という気持ちもあった。実際その通りになったんですけど、本当にたくさんの人たちのおかげだし、まずは「ありがとう」だなと。武道館で二度と会えないかもと思ってた人たちにも会えたんですよ。10代の頃にやってたバンドのメンバーとか。
──人生の大きなポイントですよね、それは。
SORA ライブが終わって、来てくれた人たちに挨拶して、「今日は飲むぞ」ってなったんだけど、全然酔わないんですよ。
千秋 次の日の夕方まで飲んでたけどね(笑)。
SORA (笑)。アドレナリンが出てたのか、酔わないし、だんだん自分の人生を改めて考え直して、めっちゃ焦ってきたんです。3年くらいかけて準備してきて、結成13年目で武道館をやって、次を見ようとしてるけど「具体的に次ってなんだろう?」と。このあと47都道府県ツアーに行くけど、これからもファンがワクワクできるようなアイデアを考え続けなきゃいけないのか……と。それをできる人たちだけがさらに上の階段を登れるんだろうけど、焦りますね。
まだ夢と目標がある
──大きなライブをやり遂げたあとに焦りを感じるって、バンドとしてはいいことじゃないですか? まったく満足してないということだから。
SORA そこで満足したら幸せだったのかもしれないですけどね。俺は今幸せですけど、「武道館までいきました。このあとは俺らなりにやっていきます」というアーティストがいてもいいんじゃないかなと思う。ただ、俺らは先に進みたいし、カッコよく言うと、まだ見ぬ景色を見たい。「ONE PIECE」みたいな感じです(笑)。
Sacchan(B) 僕はまだ考えがまとまってないところがあって。断片的に言っていくと、まず、達成感はまったくないに等しいです。「やってよかった」というのは絶対そうなんだけど、どんな変化があったのかはまだわかってないですね。もしかしたら、お客さんのほうが達成感を感じてる人が多いかも。
千秋 そうね。
Sacchan 武道館まで見届けたけど、この先どうするかはこれから決めよう、とか。そういう人もいるだろうなというのは、ライブの前から思ってましたね。あと、千秋くんが言ってたリスタートというのはその通りです。みんなも言ってるように長い時間をかけて準備をしてきたし、セトリも演出もかなりこだわって向き合ってきて、やる前から「いいライブになるのは決まってる」と思えるところまでやったんですけど、終わったらすぐに「次は?」という感じになったので。もう1つ個人的なことを言うと、例えば大勢で飲んでるときに「この人、武道館でライブやったんだよ」って紹介されたりするんですよ。そこで謙虚にしてないと、イヤな感じじゃないですか。
千秋 わかる(笑)。
Sacchan 自分が尊敬してるミュージシャンはそういうときに謙虚だろうから、僕もそうしようと。結果多少生きづらくなりました(笑)。
──(笑)。でも、メンバー全員のモードはそろってますよね。武道館でいいライブをやったけど、達成感はなくて、意識は次に向かってるという。
千秋 この3年間もそうですけど、お互いのマインドを共有してきたんです。俺が「武道館やろう」と言った2019年の渋谷CLUB QUATTROワンマンに始まり、さっきSORAくんが言ってた「V系って知ってる?」から武道館まで進んできて。とにかく4人のマインドがそろっていることが大事だなと思ってたんですよね、その間。それぞれ担当楽器が違うし、考え方も違うからもちろん揉めることもあるんだけど、大きな目標があることで「これを言うことによって武道館ライブがよくなるんだったら、言おう」みたいな。武道館が終わったあともそうで、目標を立てて、そこに向けてマインドセットすることで曲がりなりにも進んでいけるんじゃないかなと。どうなるかわからないし、この先「DEZERT、落ちたよね」みたいに言われる怖さもあるけど、そういうこととも戦っていくしかないので。ぶっちゃけ武道館で解散すれば有終の美だったんでしょうけど(笑)。俺らはそうはならなかったし、まだ夢と目標があるので、今はそこに向かって進んでいる感じです。
初の投票制で決めた収録曲、その結果は
──リスタート後、最初のアクションがミニアルバム「yourself: ATTITUDE」のリリースです。どんなテーマで制作されたんですか?
千秋 フルアルバムを作るという案もあったし、シングルがいいんじゃないかという意見もあったけど、僕としては形態は決めずにとりあえずいっぱい曲を提出しようと思って。数があったらどうするか選べるじゃないですか。制作自体は武道館前の去年の秋くらいに始まりました。
──5曲とも本当にクオリティが高いですけど、ストックしてた曲もあるんですか?
千秋 ストックというか、ずっと選ばれなかった曲も入ってますね。今回、全体的なテーマを決めるのをあきらめたんですよ。普段はそれを大事にしていて、例えば前のアルバム(2024年1月発売の「The Heart Tree」)だったら“木”とか。そこから自分の想像を膨らませて作っていくのが好きなんですが、今回はちょっと考え方を変えて、みんなで決めていこうと。収録曲もこれまでは僕が決めてたけど、今回はメンバー、スタッフの多数決で決めていった。それぞれ好きな曲に投票したら、いい感じで票が割れて。「これがラジオで流れたら検索すると思います」とか「リリックビデオが合いそう」みたいな意見もあって、「そういう観点もあるのか」と。すごくいい経験になりましたね。僕が「これだけは入れたい」と言ったのは1曲だけなんで。
──その千秋さんの推し曲は?
千秋 どれだと思います?
──え? 5曲目の「アダム・ペインを探して」ですか? 「歩き出す未来」という歌詞が今のDEZERTを表していると思うので。
千秋 違います(笑)。3曲目の「明日暗い月が出たなら」ですね。これは2016年くらいにデモを作ったんですけど、なぜか今まで選ばれなかったんです。
Miyako でもライブで2、3回はやりましたね。
千秋 うん。これは僕の趣味みたいな曲なんですけど、このタイミングで出さないともうリリースできない気がして。みんなも「全然いいよ」という感じだったので、「明日暗い月が出たなら」をミニアルバムの真ん中に置いて、前後を考えていく流れになりました。
──「明日暗い月が出たなら」は叙情性とヘヴィネスが共存したすごくいい曲だと思います。
千秋 ありがとうございます。